厚生労働省厚生科学研究補助費

分担研究報告書
厚生労働省厚生科学研究補助費(子ども家庭総合研究事業)
「周産期医療水準の評価と向上のための環境整備に関する研究」
分担研究報告書
指定統計患者調査の分析による長期入院の実態
分担研究者
山縣然太朗(山梨大学医学部保健学H講座)
研究協力者
水谷隆史 武田康久 近藤尚己 薬袋淳子
中村和美
(山梨大学医学部保健学II講座)
NICU(病的新生児病床(広義のNICUを指す。以下単にNICUと略す))長期入院患児の後方
病床についての一次資料を得るために、指定統計である患者調査を用いて、60目以上の長期入
院患児の特性、現状、年次推移を解析した。資料は平成5年度、平成8年度および平成11年度の
患者調査(指定統計)における19歳未満の患児の入院票、退院票から得た。このうち60日以上
の長期入院患児は平成5年度、平成8年度、平成11年度でそれぞれ25,500名、21,900名、19,000名
と推定された。6歳以上の児が全体の70%から80%を占めていた。6歳以上の長期入院児の減少
が、年次による長期入院児の減少に影響を与えていた。長期入院している患児は小児科に一番
多く9,200人が入院していた。その他、整形外科4,10{)人、精神科2,10〔)人、内科1,700人と他科に
も多く入院していた。年齢により、疾病割合が大きく異なり、0歳児において、周産期の疾患及
び先天性疾患が多く認められた。学童期から精神系、神経系や傷害等による疾患の割合の増加
が認められた。1年以上の長期入院患児の概数は平成5年度、平成8年度、平成11年度でそれぞれ
9,300名、8,000名、6,300名と推定され、全体の約66%が11歳以上の児であり、約半数が小児科に
入院しており、神経系疾患が約56%を占めていた。
おいて、入院期間が60目以上で退院した児を、
1.研究の目的
本研究は前年度研究までの、病的新生児病床
(広義のNICUを指す。以下単にNICUと略す)長
期入院患児の実態把握により抽出された後方病床
のあり方をを検討するために、後方病床の実態を
共に長期入院患児と定義して、解析を行う。・
(2)解析方法
指定統計である患者調査を用いることにより、検
討することを目的とする。
入院票及び退院票は調査方法も調査期間も
異なり、対象者も別々の特性を持つため、
別々に評価されている。本研究において長期
入院患児数に関して構築した方法を用いるこ
とにより2つの調査票から概数を推計する1,
2,研究の方法
またその患児集団においての年齢分布、入院
期間別患者数、地域別患者数、疾患別患者数
(1)対象
厚生労働省管轄の指定統計で、平成5年度、
を算出する。さらに年次推移についても解析
平成8年度及び平成11年度に実施された患者
を行う。
調査の入院票(病院(奇数)票、一般診療所票の
(ア)長期入院患児数の推計
ことを指す。以下単に入院票と略す)、退院
票(病院退院票、一般診療所退院票のことを
指す。以下単に入院票と略す)において、調
患者調査には入院票および退院票があるが、
調査の特性上、前者はある目付における入院
目数で在院期間を規定している為、実際に長
査時に20歳未満であった者を対象とする。
期の入院が必要とされるが、指定期日に60日
対象者のうち、入院票調査目において在院
期間が6〔)目以上の児、及び退院票調査期問に
未満の在院日数の患児は長期入院の患者と認
一304一
められず、実際の長期入院患者を過小評価し
てしまう。また後者では、1年以上の特に長
期間の入院患児の退院がもともと少ないため、 3, 結果及び考察
長期入院患者の実態を把握できない。このた
め両者の長所を踏まえて以下の推定患者を算
(ア)長期入院患児数の推計
出する式を考案した。
11年8月31日現在入院患者のうち、60日以上
2,による方法で平成5年、平成8年、平成
(調査年度8月31日現在に入院していて、60
の長期入院患者数は、それぞれ25500人、
日以上の長期入院となった推定患者数)ニ
21900人、19000人と概算された。年次を追う
(退院票による推定患者数*×K**)+(入
ごとに長期入院患者数の減少が認められた。
院票による推定患者数*紳)… (1)
年次別推定長期入院
*退院票の推定患者数は、患者調査による推
千人
30.0
定患者数を用いた。
25.0
**定数Kは、調査期間において退院率が等し
20.0
一一一’
15.0
いと仮定した場合に算出した定数(下記図1
麟:ili
10.0
参照)
5.0
0.O
***入院票の推定患者数は、患者調査による
189
日
推定患者数を用いた。
16.4
1
q
■’
口
図11推定長期入院患者算定について
1.9
19,0
(イ)性別、年齢別、地域別、診療科別、診断
名別長期入院者推定数の推定
日付
1
2
3
11
14,3
A
①性別
30日闇(退院票) 20日間 r入院纂、
平成11年度、男児10,600人、女児8,400
人が、平成8年度では男児12,700人、女
児9,200人が、そして平成5年度では男児
15,01)0人、女児10,50〔)人が長期入院をし
上図の時点Aにおける長期入院者について考察する。
ていた。男児の割合は55.6%∼58.7%と
時点Aにおいて長期入院となる患児は1,2,3で考えら
女児より多かった。
れる。1については入院票で患児数を調査可能、3
年次別男女比率
にっいては退院票で調査可能である。2にっいては、
卿 》 _、
調査期間において退院者数が等しいと仮定する場合、
3の人数の2/3で代用可能と考えられる。よって退院
者推定値の5/3という定数を導いた。
20%
O%
(イ)性別、年齢別、地域別、診療科別、診断
40%
る 80% 1009も
60%
名別長期入院者推定数の推定
(ア)による推定長期入院患者における上記
特性別患者数を算出することにより行う.
(ウ)平均入院期間等の算出
② 年齢別
入院票患児における、平均入院期間、中央
6歳以上の児が全体の70%から80%を
値、75パーセンタイル値、90%パーセンタイ
占めていた。5歳未満の長期入院患者は
ル値を算出する、、
年度を通して変化はほとんど認められず、
(エ)1年以上の長期入院患児における性別、
6歳以上の長期入院児の減少が、年次に
年齢別、地域別、診療科別、診断名別長
よる長期入院児の減少に影響を与えてい
期入院者推定数の推定
た。
後方病床の支援が必要と考えられる1年以
上の入院患児の特性を解析する。
一305一
年次別年齢別長期患者推計数
H5
地域別推定長期入院患者数
H8
H11
5
o
25
20
、5
曳Q
30
田0 巴1,口2 ロ3 ■4 ロ5 ■6・10 ロ11・15 ■16・19
北 東 関 北
海 北 東 陸
遭 甲
単位千人
H5
H8
H11
0歳
2.8
2.9
2.9
0.8
0.7
0.8
1歳
2歳
0.6
0.5
3歳
0.5
4歳
0.4
0.6
5歳
0.5
0.7
6−10歳
0.5
5.2
11−15歳
3.8
6.9
16−19歳
6.0
7.6
合計
6.3
25.5
21.9
信
越
単位千人
海
ロH11 8H8 ロH5阜
H11推計
H8推計
H5推計
関東
4.6
5.1
6.3
関西
2.6
2.9
3.3
九州
2.5
3.1
3.7
中都東海
2.4
2.6
2.8
東北
2.1
2.5
2.8
北陸甲信越
1.5
1.7
1.9
中国
1.3
0.5
0.4
0.4
0.5
3.4
関 中 四 九 沖
西 国 国 州 縄
中
郵
粟
4.9
5.1
1.7
1.9
北海道
0.9
1.0
1.3
四国
0.7
0.9
1.3
沖縄
0.3
0.3
19.0
0.6
③ 地域別
長期入院者は関東のみで20%以上を占
め、関西、九州、中部を加えると60%以
④診療科別
上を占めた。関東地方、九州地方におい
長期入院している患児は小児科に
て、長期入院患児数の年次による減少が
一番多くg,200人が入院していたが、
やや大きかった。
整形外科4,100人、精神科2,1〔)0人、
内科1,700人と他科にも特徴的に多
年次別地域別長期入院患児の割合
く入院している科を認めた。
H5推計
診療科別推計患者数 1999推計
10
H8推計
9
8
7
6
H11推計
5
o%
20% 40% 60% 80% 100%
圃関東 ■関西
ロ九州
O中部東海 ロ東北
薗 昌戊四 玉
日
■ 玉 圃3
4
3
2
0
1
内 外 小 産
マ
科 科 児 婦
イ
科 人
ナ
科
一306一
精 整
神 形
科 外
科
脳 歯 不
外 科 明
科
②年齢別入院日数
90ノ・㌧センタィル値は1歳と11−15歳の2峰
性のピークを示した。また75ハ㌧センタ
⑤診断名別
イノレ値、中央値は5歳までそれぞれ10
年齢別で疾病割合が大きく異なり、
0歳児において、周産期の疾患及び
目前後と5日前後であったが、6歳以
上で増加傾向を認め、11−15歳にお
先天性疾患が多く認められた。学童
いてそれぞれ233目、36日とピーク
期から精神系、神経系や傷害等によ
を示した。この年代において、長期
入院児のピーク年齢が推察された。
る疾患の割合の増加が認められた。
年齢別疾患頻度 1999推計
之
年齢別入院日数
,燃1=1・. 縣 ・繍
16・19歳
400
..1轍灘;i書i:i:ii蝋iiiiii3薫i
11・15蔵
300
聾●,●
6・10殻
5歳
4殻
3殻
2歳
1歳
0震
,,ρ\
=i:慧i
200
/7 / \
,ノ 1、
/ノゆ
/\
100
、,/
.ぜ 9・議・・…の一▲ 1
。噛・の曜−_”.
0
5歳 6・1011−1516・19
0歳 1艘 2艘 3歳 4蔵
歳 歳 歳
o
2
1
3
4
5
団感染症9新生物O血液 O内分泌9精神
目神経系匿鰻 @耳
塵循環 ■呼吸 ロ哨化器団皮膚 ロ筋骨
o尿路 日妊娠 .周産
6
・・’■』’・●’75ハ。一セ
・一・・◆一・・ ハ㌧●
一セ’ l g●▲畠●6
一
③地域別入院目数
ロ ロ o o
関東、関西、中部において、入院日
数の90ハ㌧センタイノレが少なく、長期入院
児が少ない傾向が認められた。転院
(ウ)平均入院期間等の算出
全体的に男児が女児より若干入院期
可能な施設が他の地域と比べて多い
ことが考えられる。逆に中国、九州、
間が長期であった。平均入院日数は
沖縄において90ハ㌧センタイル値が1〔)0〔)日
3回の調査において100日程度短縮さ
を超え、特に沖縄において75ハ㌧センタ
れたが、90ハ㌧センタィル値の顕著な減少
イ1レ値が他の地域より高く、長期入院
の影響が大きく、75ノ・㌧センクイルは30目
患児の割合が多いことが考えられる。
程度の減少であり、突出した長期入
地域別入院日数ii
① 経年的変化、性別
院患児の減少が、平均入院日数の減
少に絵今日を与えていた。このため、
1000 ……
800
平均日数よりむしろ、90、75ノ・㌧センタ
600
イノレ値や中央値を指標とする方が全体
400
200
を反映していると考えられた。
0
入院日数の経年的変化
1200
1000
児
、\、 800
、
、
\6k
、 、、
600
400
200
\ \
、米 \電
\
、
、ζ篭隈之=・略
、o
鞍篭_.. 激
0
1993
1996 1999
北 東 関 北 中 関 中 四 九 沖
海 北 東 陸 部 西 国 国 州 縄
ロ90’、㌧セン9’1
1”“●“平均入院日数男
◎¥
三ll ii;
道 甲 東
→一平均入院日数女
\、
iii
ilo.
児
・”175’・㌧センタィ1レ値女
・75バ≡亟亜:互亟詞
④診療科別入院日数
児
’野・H臼75ハ㌧セン卸レ値男
推計患者数の診療科別順序と異な
児
り、90ハ㌧センタイル値では整形外科、内
児
一‘・’90ハ㌧センタィル値男
科、精神科、小児科の順に入院目数
1
が長く、75ハ㌧センタィル値では、精神科、
+90ハ㌔セン9イ1レ値女
一307一
整形外科、内科、小児科の順序とな
の解析では入院票のみで解析を行っ
った。整形外科、内科の入院患児に
た。
おいては、一部に突出して長期入院
②年齢別分布
している集団が認められるが、精神
11歳以上で約4,20〔)人と、全体の
科においては、全体的に長期入院傾
約3分の2を占めていた。
向にあった。
平成11
年
li
診療科別入院日数
男
…萎…
1000
1歳
800
600
400
200
簗
0
女
内科外科小児産婦 マイ精神整形脳外歯科不明
0.1
0.1
2歳
0.1
0.0
3歳
0.1
0.0
4歳
0.1
0.0
5歳
0.1
0.1
6・10歳
0.8
0.6
11・15歳
1.4
0.8
16−19歳
1.1
0.9
回90ハ。一 ・ ■75ハ.一 ・ ロ
⑤ 疾患別入院期間
③地域別分布
神経系疾患による入院患児では、中
央値が566日と他疾患より突出して
関東地方と九州地方で1000人以上
の入院患児を認めた。
平成5 平成8
長期入院になる傾向が認められた。
天性疾患の患児において、90ノ・㌧センタ
イル値が700日以上と一部に長期入院
が認められた。
疾患別入院期間
1000
甲 o
800
600
400
200
O
年
年
内分泌、精神疾患、循環器疾患、先
平成11
年
北海道
0.5
0.4
0.3
東北
1.2
1.1
0.8
1.2
関東
1.9
1.4
北陸甲信越
0.9
0.8
0.6
中部東海
0.8
0.8
0.6
関西
0.8
0.8
0.5
中国
0.8
0.8
0.6
四国
0.6
0.4
0.3
九州
1.7
1.3
1.1
沖縄
0.3
0.1
0.2
…
蓼
④診療科別分布
感新血内精神恨耳循呼消皮筋尿妊周先他傷健
膏康
染生液分神経
環暖化膚骨賂娠蔵天
物
団90ハ。。・
小児科に約半数が入院している現
状が認められた。
■75バー・ O
(エ)1年以上の長期入院患児における性別、
年齢別、地域別、診療科別、診断名別長
期入院者推定数の推定
平成5 平成8
平成11
年
年
年
内科
1.1
1.0
0.7
外科
0.1
0.1
0.1
小児科
4.4
3.5
3.1
① 1年以上の長期入院患者推定概数
入院票による、長期入院患者推定
産婦人科
0.0
0.0
0.0
マイナー
0.0
0.0
0.0
概数は平成5年、平成8年、平成11年
精神科
0.9
0.6
0.5
それぞれ、9,300人、8,000人、6,300
整形外科
2.9
2.5
1.8
人であり、年々減少する傾向が認め
脳外科
1.0
0.1
0.1
られた。退院票においてはそれぞれ
歯科
0.0
0.0
0.0
400人、3{)0人、21)0人であり、以下
不明
0.0
0.0
0.0
一308一
⑤ 診断名別分布
約56%が神経系の疾患で1年以上
の長期入院となっていた。他に先天
性疾患、精神系疾患においてそれぞ
れ600人、700人程入院していた。
平成5
平成8
平成11
年
年
年
感染症
新生物
0.1
0.1
0.1
0.2
0.2
0.1
血液
0.0
0.0
0.0
内分泌
精神
0.1
0.1
0.1
1.1
0.9
0.6
神経系
5.4
4.2
3.5
眼
0.0
0.0
0.0
耳
0.0
0.0
0.0
循環
0.1
0.1
0.1
呼吸
0.5
0.3
0.3
消化器
0.1
0.1
0.1
皮膚
0.0
0.0
0.0
筋骨
0.4
0.3
0.2
尿路
0.1
0.1
0.1
妊娠
0.0
0.0
0.0
周産
0.0
0.0
0.0
先天
0.9
0.8
0.7
他
0.1
0.2
0.1
損傷
0.4
0.3
0.2
健康
0.0
0.0
0.0
4,まとめ
指定統計患者調査から長期入院にっいて実態,
を把握したが、後方病床に関する情報としてはさ
らに、ここの患者の状況が重要であり、21)00年お
よび2〔)〔)1年に実施した研究班での全国調査と統合
して解析する必要があり、次年度の課題とする。
5.資料
厚生労働省管轄の指定統計である患者調査の目
的外使用申請により得られたデータをもとに本解
析を実施した。
一309一