脳卒中片麻痺患者に対する 標準理学療法

神経系疾患における標準理学療法
脳卒中片麻痺患者に対する
標準理学療法
八尾総合病院
理学療法士 武田好史
脳卒中の病型分類
脳卒中の病型分類
脳卒中
アテローム性
脳血栓症
脳梗塞
脳出血
心原性
脳塞栓症
ラクナ梗塞
くも膜下出血
一過性
脳虚血発作
脳梗塞の病型別頻度
原寛美・吉尾雅春:脳卒中理学療法の理論と技術:P105より
脳梗塞
• 脳梗塞とは虚血により脳実質が壊死の状態
に陥ったものをいう。
アテローム血栓性梗塞:脳主幹動脈のアテロー
ム硬化による狭窄、閉塞が原因となる脳梗塞。
心原性脳塞栓症:心臓内にできた血栓が動脈内
に流出し、脳血管を閉塞することによって生じて
いる。
ラクナ梗塞:脳穿通動脈の細動脈硬化による閉
塞が原因となる脳深部の小梗塞。
臨床病型分類
アテローム
血栓性梗塞
心原性脳塞
栓症
ラクナ梗塞
基礎疾患
高血圧、DM、高
脂血症
心疾患(心房細動、 高血圧、DM
心筋梗塞、心筋症)
TIAの前駆
多い(約50%)
少ない(約10%)、
多血管領域のTIA
20~30%
意識障害
軽度~中等度
軽度~高度
ほとんどなし
高次脳機能
中~高頻度
高頻度
ほとんどなし
経過
症状の動揺、階段 急性期死亡ありえ
状の進行ありえる る、急性期に劇的
改善することあり
比較的予後良好
rt‐PA療法
• 2005年10月から日本国内でも保険適応となった。
脳卒中治療ガイドラインではグレードAと推奨されて
いる。適応基準は非常に厳しいが、投与した場合に
は劇的な改善を認める。
• しかし、出血性梗塞、脳内出血、脳浮腫、脳浮腫によ
る脳梗塞などを発症し増悪傾向となり、死亡する場合
もある。
• 以前の3時間以内という基準では実際の治療例が脳
梗塞患者の5%以下とも言われ、2012年に適応が変
更され、発症4.5時間以内への延長や適応年齢の
見直しなどがされている。
出血性梗塞
出血性梗塞
y 病理的には虚血性病変を受けた血管壁より梗塞巣
中に漏出性出血が生じたもの。
y ①塞栓子により血管が閉塞して貧血性梗塞が起こる。
y ②塞栓子が末梢へ流れ、一部はより細い血管を閉塞
して、末梢部が貧血性梗塞になる。
y ③一方、血行が再開された領域の血管は虚血性変
化を受けているため、血液が血管外へ漏出して、出
血性梗塞へ移行する。
出血性梗塞の予後
出血性梗塞
貧血性梗塞
出血性梗塞になると予後不良となる!
脳出血と脳梗塞の相違
脳出血
TIA
既往なし
脳梗塞
しばしば前駆
発症時期 活動時
しばしば休息時
頭痛
ごく軽度の不快感、また
はなし
あり、ときに激痛
神経症状 意識障害を含む急 意識障害を伴わない局所
速な変化、昏睡と 神経症状。しばしば精神
活動は正常。
なることが多い
血圧
中等度~高度の高 中等度の高血圧(ときに
血圧
正常)
脳出血の病態
• ①出血による脳組織の破壊
血腫を除去しても機能予後は変わらない。
• ②血腫による脳組織への圧迫
特に血腫による脳幹への圧迫は生命を脅か
す。手術により血腫を除去する効果は脳幹へ
の圧迫が著明な際にきわめて有効。
• ③血腫周囲の浮腫および循環障害(虚血)
くも膜下出血
• 原因として脳動脈瘤が約80~90%を占める
• 40~50歳代に好発し、女性に多い。
• 突発する非常に激しい頭痛、意識障害、髄膜
刺激症状などの症状を示す。
• 脳卒中ガイドラインでは、破裂動脈瘤に対し、再出
血予防のため外科的手術か血管内手術を行うこと
が推奨されている。(グレードA)
• クモ膜下出血後慢性期には10~37%の頻度で歩
行障害・認知障害・尿失禁などの神経症状を有する
水頭症が発生する。
脳卒中の画像診断
なぜ脳画像の理解が必要なのか?
• 発症直後の急性期脳卒中を診断する医師には、
CTやMRIの脳画像の検査は欠かせず、その画
像所見によって手術療法を優先するのか、内科
的療法を優先するのか、など治療法を決断する
根拠の一つとなっている。
• 一方、各療法士にとっては、中枢神経疾患を適
切に評価し、効果的な治療アプローチを臨床推
論するうえで重要な医学情報となる。
CTとMRI、どちらを選ぶ?
• CTは一般に緊急スクリーニング的に用いら
れることが多い。
• 出血性病変の抽出にはCTが優れているため
脳卒中が疑われる症例が搬送された場合に
まずはCT撮影され出血性病変を確認した後、
出血がなければMRI撮影で虚血性病変を確
認するのが通常である。
CT・MRIの比較
CT
MRI
急性期出血性病変 高感度・高特異性
低感度・低特異性
禁忌(検査制限)
なし
体内金属・ペースメーカー
骨病変・石灰化
高感度・高特異性
低感度・低特異性
放射線被曝
あり
急性期虚血性病変
空間分解能
撮影方向
血流の評価
低感度
低い
水平断のみ
造影剤が必要
なし
高感度(拡散強調画像)
高い
水平・冠状・矢状
単独で可能(造影剤不要)
嶋田智明・大峯三郎:これだけは知っておきたい脳卒中の障害・病態とその理学療法アプローチ,p3
CTの吸収域とMRIの信号域
• CT画像では病変のCT値が正常組織のCT値に
比較して、病変が正常組織より高い場合、白い
高吸収域(high density area)といい、逆に低い
場合は黒い低吸収域(low density are)という。
• MRI画像の濃淡は、組織から出る電磁波の強
度、すなわち信号強度を表しており、信号強度
が大きいほど白く表示されている。白ければ高
信号(high intensity area)、黒ければ低信号
(low intensity area)という。
CTの特徴
• CTはX線吸収値をコンピューターで映像化したもの
である。胸部エックス線撮像と同様、骨等の構造物
は白く見え、他の部位は黒く映し出される。
• CTで撮影できるのは水平断像が主で、矢状断像は
撮れない。
• CT像を読影する際には、異常吸収域、占拠効果、
組織欠損、造影剤による造影効果に着目する。
MRIの特徴
• MRIは体内の水素原子を対象に核磁気共鳴信号を
コンピューターで画像化したもの。
• T1強調画像は、脳の解剖に知るのに優れている。
• T2強調画像は、脳の病変の抽出に優れている。
• フレア画像は、脳の病変と髄液の鑑別に役立つ。
• DWIはT2、CTで異常が認められない超早期から
脳梗塞を明瞭な高信号で抽出。
• MRIでは矢状断像、冠状断像が得られる。
DWIとFLAIR画像の比較
DWI
FLAIR画像
発症4時間
発症3日後
潮見泰藏:脳卒中に対する標準的理学療法介入:P15より
錐体路(皮質脊髄路)の走行
プロメテウス解剖学アトラスより
脳卒中の予後予測
脳卒中の帰結に影響を与える予測因子
y 疾患の重症度
脳卒中の病型、損傷部位、脳卒中に伴う合併症、
その他発症時の状況(意識障害の程度、持続期間など)
y 予備能力
年齢、併存疾患、機能障害、能力障害、日常生活状況
y その他:
回復過程(早期から随意運動の回復はあったか、
痙性亢進はいつからか)
急性期リハの状況
リハに対する意欲、協力
道免和久:脳卒中機能評価・予後予測マニュアル,p94
上肢機能のプラトー
上肢BRSのプラトー
3ヶ月:92.5%
手の回復は2~3週までが最大。
6~12週間が限度。
上肢・手指は下肢より遅れて回復してくる症例もある!
急性期から利き手交換のみをするリハビリは
患者の機能回復を妨げているかも・・・!?
急性期リハでこそ麻痺手の機能的アプローチが重要!
上肢機能の予後予測
三好正堂:臨床リハ10,2001
• 手の回復は数週で決まり、実用手になる条件
と以下が挙げられる。
①発症時に完全麻痺ではない
②数日以内に随意運動の回復が始まる
③1ヵ月以内に準実用手に達すること
下肢機能のプラトー
下肢BRSのプラトー
1ヵ月:72.6%
3ヶ月:94.1%
4ヶ月:97.1%
発症後、約3ヶ月でほとんどの患者は下肢機能がプラトー!
その頃からリハビリは歩行練習やADL練習中心?
歩行障害の予後予測
• 基礎的ADL(食事・尿意の訴え・寝返り)の自立度と
BRSからの予測(二木立:1982)
• 座位保持能力を診る予測(石神重信:1996)
• 初診時座位バランス機能が良好であれば約3週間、
座位保持可能であれば6週間で歩行可能となり、坐
位不能でも3週間以内に可能となれば2ヶ月で歩行
レベルで自宅復帰となる(中島:1999)
• 発症4週までに座位が自立した症例の93.5%は歩行
自立となる。(藤本:1995)
急性期で座位保持が獲得できるか否か?が重要
病巣部位と運動予後
1.小さい病巣でも運動予後の不良な部位
・放線冠(中大脳動脈穿通枝領域)の梗塞
・内包後脚
・脳幹(中脳、橋、延髄前方病巣)
・視床(後外側の病巣で深部感覚脱失のもの)
2.病巣の大きさと比例して運動予後がおおよそ決まるもの
・被殼出血
・視床出血
・前頭葉皮質下出血
・中大脳動脈前方枝を含む梗塞
・前大脳動脈領域の梗塞
3.大きい病巣でも運動予後が良好なもの
・前頭葉前方の梗塞・皮質下出血
・中大脳動脈後方の梗塞
・後大脳動脈領域の梗塞
・頭頂葉後方~後頭葉、側頭葉の皮質下出血
・小脳半球に限局した片側性の梗塞・出血
前田真治:我々が用いている脳卒中予後予測Ⅳ.臨床リハ10,2001より
脳卒中理学療法の実践
推奨グレード
•
•
•
•
•
グレードA:科学的根拠があり、
行うように強く勧められる。
グレードB:科学的根拠があり、
行うように勧められる。
グレードC1:科学的根拠はないが、
行っても良い。
グレードC2:科学的根拠がなく、
行わないほうが良い。
グレードD:科学的根拠があり、行
ってはならない。
理学療法診療ガイドライン第1版(2011)
脳卒中
1. 早期理学療法:推奨グレードA
2. 姿勢・歩行に関するPT(早期歩行ex、回復期の姿
勢・歩行ex、装具療法):推奨グレードA
3. 電気刺激療法および物理療法:推奨グレードB
4. 持続的筋伸張運動:推奨グレードA
5. 運動障害に対するPT:グレードA~なし
6. 半側空間無視・注意障害・遂行機能障害に対する
PT:推奨グレードB
7. 肩関節障害に対するPT:推奨グレードB
8. 体力低下に対するPT:推奨グレードA
9. 在宅理学療法:推奨グレードB
片麻痺の治療法とその理論
1.促通手技(川平法、PNF、ボバース法など)
2.非麻痺側拘束療法(CI療法)
3.TES,FES(機能的電気刺激療法)
4.ニューロリハ(rTMS、ミラーセラピーなど)
5.課題指向型アプローチ
6.ロボットセラピー(HAL、歩行アシストなど)
7.体重免荷式歩行練習(BWSTT)
川平和美:片麻痺回復のための運動療法より改訂
運動麻痺回復のステージ理論
原寛美・吉尾雅春:脳卒中理学療法の理論と技術:P166参照
1st stage recovery
• 残存している皮質脊髄路の興奮性を向上させる時期
• 残存皮質脊髄路の興奮性は急性期から急速に衰退
して3ヶ月で消失する
• この残存皮質脊髄路の興奮性の衰退には、ワーラー
変性が関係する。
電気刺激
ミラーセラピー
ロボティックトレーニング
BWSTT
徒手的なファシリテーション
2nd stage recovery
• 皮質間の新しいネットワークの興奮性に依存する。
• 3ヶ月間をピークにこのメカニズムの再構築が起こる。
• 皮質間の抑制が解除(脱抑制)されることによって、
代わりの皮質ネットワークの再組織化が構築され、残
存皮質脊髄路の機能効率を最大限に引き出すよう
機能する。
• この脱抑制メカニズムは6ヶ月までに消失。
イメージングの活用(運動イメージや運動観察など)
イメージと感覚情報の統合
学習によりシナプス結合を強化する
3rd stage recovery
• リハビリテーションによって引き起こされたシナプス伝達
の効率化
• 2nd stageで再構築された代替ネットワークのシナプス
が強化される段階
• 運動出力ネットワークを効率的に使用できるようにする。
CI療法におけるTransfer Package
①麻痺手を使う約束
②麻痺手に対するセルフモニタリングの促進
③問題解決技法
脳卒中における神経組織の可塑性
y ①損傷を免れた神経細胞が損傷された神経細胞の
機能を代行する可塑性があること。
y ②成人脳には神経細胞の起源である神経幹細胞・
神経前駆細胞が存在し、脳卒中後は神経新生が亢
進していること。
y 上記のように、生体内では機能回復に向かう反応が
起こっていることが明らかになった。
片麻痺回復促通のポイント
• 麻痺の回復を促進できるか否かは、目的の随意運動
に関与している神経路に興奮を起こせるか、それを
随意運動として誘発できるかにかかっている。
• 筋への電気刺激も患者の随意的な筋収縮に重ねる
形で行うと有効である。
• 一次感覚野と一次運動野に強い結合があるため、他
動運動によっても、その運動に関連した神経路の興
奮水準は変化することから知られつつあるが、運動
野の興奮水準が最も高まるのは随意運動として実現
出来たときである。
川平和美:片麻痺回復のための運動療法より改訂
脳卒中後の機能回復機序
y 受動的回復
数日後、浮腫の消退や血流の改善
数週間後、Diaschisis(病巣と線維連絡を有する遠隔
部位が血流低下・代謝低下を呈する現象)の改善
y 可塑性による回復
数週間後、残存シナプスの再構築
側副発芽
神経回路網の再構築
川平和美:片麻痺回復のための運動療法より改訂
可塑性(かそせい)とは?
• 神経系は外界に適応する過程において、常
に機能的あるいは構造的な変化を起こすこと
がわかっており、この変化の性質を可塑性と
よぶ。
• 一般に脳卒中後の機能回復過程において、
回復しながら変化することと、脳の可塑性と
いう用語が同義に扱われている。
麻痺肢の強制的使用による
1次運動野の変化
川平和美:片麻痺回復のための運動療法より
半球間抑制
• 通常両側の大脳半球は脳梁を介し、相互に抑制し
合い、均等に働けるように調整し合っている。脳卒中
などにより、大脳半球に損傷を受けると、損傷を受け
ていない半球からの抑制が強まり、損傷を受けた半
球の機能が低下する。
• さらに、動かない麻痺側を代償するように非麻痺側
のみで動こうとすると、損傷半球への抑制がより強く
なり活動性が低下する。
• これにより、一次運動野の活動性も低下するため、皮
質脊髄路の興奮性向上が阻害される。
半球間抑制を考慮した歩行練習場面
半球間抑制を考慮した介入
• 運動により抑制だけでなく、感覚入力によっても半球間
抑制は起こるとされている。つまり、脳卒中片麻痺となり、
随意運動が困難な状態であっても感覚刺激を入れること
で、損傷を受けた大脳半球の活動性を高めることが可能
である。
• 適切な感覚刺激を入れることで一次運動野の活動性を
高めることができると予測される。
歩行障害に対する理学療法1
y 吉尾は、多くの脳卒中は大脳の障害であり、随意運動の
障害が運動障害の本質である脳卒中患者に、随意運動
によってなされる姿勢を正しい座位の練習から求めること
は、簡単なことから難しいことへという運動療法の原則に
反すると述べている。
y なぜならば、多くの脳卒中患者は随意運動の責任をもつ
皮質脊髄路を含む大脳の障害であり、自動的に姿勢調
節に関わる網様体脊髄路や前庭脊髄路などは大きな損
傷を受けていないことを根拠にあげている。
吉尾雅春・森岡周:標準理学療法学 神経理学療法学:p238参照
歩行障害に対する理学療法2
y さらに脊髄小脳神経回路や前庭小脳神経回路が大きく
障害されることは少なく、それらに付随する脊髄路が作用
でことから、荷重により抗重力筋の活動を期待することが
できることも根拠としている。
y したがって、循環動態が不安定な場合の座位耐性練習
と動作としての座位の安定性を獲得する練習とは区別す
べきであり、可能な限り、大腰筋が自動的に活動し、抗重
力筋として機能するようなアライメントである股関節が伸
展位を保障できる立位での動的アライメントを学習する方
策を実施すべきである、と述べている
吉尾雅春・森岡周:標準理学療法学 神経理学療法学:p238参照
歩行制御
普段は歩行には関与しない
視床下部歩行誘発野
複雑な歩行に関係
外部情報
中脳歩行誘発野
皮質脊髄系
遊脚期の屈曲
赤核脊髄系
体幹・中枢の安定
各システムをコントロール
CPGの駆動
小脳
網様体脊髄系
立脚期の伸展
前庭脊髄系
室頂核脊髄路
適応的制御
脊髄 (CPG)
運動指令信号
前肢運動分節
求心性信号
体幹運動分節
後肢運動分節
全体姿勢
吉尾雅春・森岡周:標準理学療法学 神経理学療法学:p230参照
身体の神経生理
y 身体は、腹内側系と背外側系とに支配されて
いる。
y 腹内側系・背外側系という分類は、オランダの
Leiden大学のHenricus Kuypersによる。
y 脊髄横断面でこれらの脊髄路が腹内側または、
背外側に位置するためである。
腹内側系と背外側系
y 腹内側系:脊髄横断面で脊髄路が腹内側に位置す
るため腹内側系と呼ぶ。体幹筋や四肢近位筋の姿
勢コントロールを行う。
y 背外側系:外側皮質脊髄路、赤核脊髄路、外側皮質
網様体脊髄路、は背外側に位置し、主に四肢や遠
位の随意的な巧緻運動コントロールを行う。
インナーユニットの解剖図
平沼憲治・岩崎由純 他:コアコンディショングとコアセラピー,講談社,2008
腹横筋
腹横筋
河上敬介・小林邦彦(編):骨格筋の形と触察法,大峰閣,1998
腹横筋と横隔膜のフィードフォワード
Carolynらは腹横筋の研究として体幹負荷を加えたとき
の脊柱起立筋群が活動する前の活動や、一側の肩関節
運動時のフィードバックの反応としての活動、下肢の運動
の主動作筋の前の活動を発見した。多裂筋、横隔膜でも
同時に収縮が確認。
Hodgesらは、一般的に腹斜筋や腹直筋などの体幹筋は
上肢や下肢の挙上運動とほぼ同時に収縮を始めるが、
腹横筋は動作よりも30~100ms前に収縮を始める、と述
べている。
横隔膜も腹横筋同様に上下肢の挙上運動の直前から収
縮を開始する。
腹横筋と横隔膜の筋連結
腹横筋
腹横筋
横隔膜
横隔膜
河上敬介他:体幹筋の解剖学的理解のポイント.理学療法23(10).2006
Trunk control test
脊髄central pattern generator
• 1966年Shikが除脳ネコのトレッドミル歩行にて後肢
に律動的な交互運動が起こり、歩行様の活動を認
めたことを報告。
• この実験により、歩行様の筋活動が上位中枢コント
ロールを受けることなく発生すると考えられるように
なり、研究が進められた。
• 1994年Calancieら、1995年Dobkinら、1998年
Dimitrijevicら、などによる研究・報告によりヒトにお
ける脊髄CPGの存在が一定の合意を得た。
y Body Weight Supported Treadmill Training
BWSTT
y=
姿勢保持能力
ステッピング能力
ハーネスと懸垂により
姿勢が補助されるため
歩行動作の遂行
体重支持能力
ハーネスによって体重を免荷するため
体重支持能力を補助することで
他の2要素を選択的にトレーニングする
姿勢制御に対するトレーニング
効果は期待できない可能性が高い
上出直人;重力とトレッドミル歩行トレーニング.理学療法26
体重免荷式歩行器POPO
脊髄CPGの運動療法への応用
• CPGを駆動・維持する末梢からの感覚フィー
ドバックを得るためには、非麻痺側下肢を一
歩踏み出すことを可能にする強い麻痺側下
枝が必要である。
• そのためには、二足直立で立たせることが求
められ、その上で、体幹直立を保ったまま重
心を動かせるための姿勢制御が必要となり、
これには両上肢(肩甲帯)の参加も不可欠。
目標とする歩行
•
•
•
•
高い安定性
実用的スピード
歩容の異常が少ない
片麻痺の悪化や関節の変形を起こさない
いずれに対しても下肢装具と杖の使用が最も有効
異常歩行における下肢装具の適応
片麻痺に対する下肢装具の目的として大川は、
①立脚期の安定を得るため
②つま先が床から離れやすくするため
③正常歩行パターンへ近づけるため
④変形の予防
を挙げているように、下肢装具の目的の主たるもの
は歩行能力の獲得・向上である。
そのために異常歩行をいかに矯正するかが重要となる。
装具装着時の歩行評価
・患者本人の主観的情報(歩き易さ、つまずき、疲労感)
・歩行スピードや効率性
・異常な体幹や上下肢の動き
・頭部や頚部の筋緊張
・肩甲帯や上肢の筋緊張
・分廻し歩行や跛行
・膝折れや反張膝などの膝関節
・下垂足や尖足、内反などの足関節の筋緊張
・アーチの変化など足部の状態
・クロウトゥーなどの足趾
長下肢装具の使用
• 装具の使用は、急性期における下肢の支持性を補
い、荷重の情報を伝える。
• 近年、底屈制動付き長下肢装具の有効性が報告さ
れている。しかし、装着すれば良いというのではなく、
セラピストのスキルも重要となる。特に体幹の直立、
股関節の伸展を促すように介入することが重要であ
る。
• 臨床の中では、装具の中で下肢のアライメントが保
たれているか、目的の筋活動は促されているか、患
者に触れて検証していくことが必要。
重心移動課題
長下肢装具でのステップ練習
長下肢装具の介助歩行
歩行介助のためのカフベルト
ダイヤルロック式膝継手
長下肢装具の介助歩行
ポイント
①足継ぎ手の設定は、背屈フリー、底屈制動油圧2.5~3程度。
重度麻痺者は油圧4。
②大腿や下腿カフ部に隙間が大きい場合は必ずタオルなどで
フィッティングを高める。装具内で下肢のブレが大きくなると
異常筋緊張になる。
③必ず踵接地を行う。尖足でGSで制動困難であればクレンザ
ック継ぎ手を調整し、底屈制限をする。
④歩行速度は健常者の快適歩行速度4km/時程度。
⑤体幹の伸展・頸部伸展を促す。
⑥麻痺側下肢の脚長差がある場合は非麻痺側に補高を行い、
トゥークリアランスの確保。
⑦麻痺側下肢の振り出しは外転・外旋を伴わないようにアシ
ストの介助。
⑧立脚中期以降で股関節伸展し、骨盤の後方回旋が出ない
ようにアシスト。
短下肢装具
立脚期におけるロッカー機能
Kirsten Gotz-Neumann著,月城慶一ら訳:観察による歩行分析より改訂
下肢装具の適応
• 短下肢装具は下腿三頭筋の痙縮を抑制して、つま先と
足底接地以降の重心移動を容易にする。足継ぎ手が必
要か否かの判断は、実際の歩行で立脚中期以降に足継
ぎ手が背屈しているか?端座位からの立ち上がり時に足
関節が背屈しているかを見て決める。
• 麻痺側下肢のヒールオフ前に生じる反張膝には足関節
の背屈角度の不足を補うため、踵に補高を試みる。
杖の選択と使用法
• 健側の立脚が安定している例には、T字杖、健側立
位が不安定な例には4点杖やロフストランド杖、歩行
自体が著しく不安点な例にはウオーカーケインを用
いる。
• 失調症状や筋力低下などで健側立脚バランスが悪
い例は、これより外側前方につくが、杖を少し長めに
して、肘はできるだけ体から離さない形にして支持力
を高める。
健側下肢への補高
• 下肢装具を使用するときには、装具によって麻痺側
下肢が長くなった分は脚長差を補正する。健側下肢
への補高は少なくとも下肢装具の足底部分の厚さだ
けでなく、麻痺側下肢のクリアランスを容易にするた
めも含めて1~2cmの補高を行う。
• ただ健側の股関節外転筋や体幹筋が弱い例は、健
側に補高した分だけ麻痺側骨盤が落ちるため爪先
のクリアは楽にならない。
課題指向型アプローチ
• 課題指向型アプローチとは、種々の運動学習・制御
理論を背景とし、課題目的を達成するための能力を
高める介入理論である。
• 特徴として、自己と環境との係わり合いを重要視し
ている点があげられる。
• 患者の状態を評価・把握したうえで、患者の状態に
最適な課題をセラピストが設定し、その課題解決を
はかることがパフォーマンスの向上につながるとい
うものである。
課題指向型アプローチ
• 現実的な環境条件を前提として、具体的な課題に
対する処理能力を高めるものである。
• 患者は正常な運動パターンを反復して学習すること
よりも、1つの日常的な機能的課題に特有の問題の
解決を試みて、課題の遂行を学習することが必要で
ある。
• 具体的な環境場面の中で現有する機能(パフォーマ
ンス)の最適化を図ることが目的。
運動課題の難易度の調整
• 動作を試みても、運動出力系の障害によって
制御できない場合は、代償手段を併用した課
題や難易度を調整した類似課題を設定する。
• それを集中的に繰り返す一定練習を実施す
る。
• 動作分析に基づき拙劣な運動スキルを抽出
して、課題を反復する部分練習法を検討。
運動学習の過程
認知段階:学習するべき課題を認知する段階
連合段階:運動スキルを磨く段階
自動化段階:意識することなく運動スキルを再現する段階
誤った学習効果をもたらす練習
感覚脱失した片麻痺患者
麻痺側下肢に荷重するたびに転倒の恐怖を感じるような課題
それを回避するための運動スキル構築
安全を確保するために運動の速度下げる。四肢体幹の筋緊張を
高めて安定を確保するための運動戦略を学習。
難易度の設定
• 座位バランス:座面の高さ・前後左右の傾き・リーチ
などの動作の有無
• 起立:座面の高さ、上肢の支持
• 立位バランス:上肢の支持、リーチの有無、リーチの
距離や方向
• 歩行:歩行補助具の使用、装具の使用、速度
• 階段昇降:段差の高さ、手すり、杖
運動学習に沿ったリハビリでは
難易度
やる気
動作しやすい環境の中で
装具の使用、電
気刺激、ミラー、
促通反復療法、
rTMS、など
フィードバ
ック
転移
達成したい内容に近い
動作を自分で
繰り返し
頻度
行う