問題解決のプロセス(Ⅱ)

保健医療統計学 安細
平成 27 年 10 月 6 日(火)
【問題解決のプロセスⅡ】
国の施策『健康日本21』を用いて PDCA サイクルを考えてみる。
健康日本21は平成 12 年度(2000 年)に始まった『21 世紀における国民健康づくり
運動』のことで、①健康寿命の延伸、②生活の質(QOL)の向上を基本理念とした。
10 年一区切りの施策で、第 1 次は平成 22 年度に終了し、評価・報告書作成のあと、平
成 25 年度から第 2 次がスタートしている。
【健康日本21の特徴】
①1 次予防重視
②ハイリスク戦略からポピュレーション戦力への転換
③個人の健康づくりを支援する社会環境整備の重視(ヘルスプロモーションの概念に基
づく)
④健康課題ごとの客観的な現状評価、根拠に基づいた目標設定と評価の重視
⑤地方の実情に合わせた地方計画策定と評価の重視
9つの項目について各目標値の設定が行われた。
→栄養・食生活、身体活動・運動、こころの健康づくり、タバコ、アルコール、歯の健
康、糖尿病、循環器病、がん(p. 104-106)
【ハイリスク戦略とポピュレーション戦略】(p. 68-69)(p. 98-99)
予防医学のストラテジー(戦略)には、病んだ個人に対するハイリスク戦略と、病んだ
集団へのアプローチであるポピュレーション戦略がある。
関連要因の曝露と疾病リスクの関係は p. 76 の図に示されているように、徐々に変化し
ていくものである。
3-9 ポピュレーション戦略の効果(p. 78-79)
p. 78 の図にあるようにポピュレーション戦略では、分布全体に働きかけて適切な方向
に少しずつシフトすることを目指す。その結果、集団全体のリスク減少が見込める。
一方、p. 98 の図にあるように、右端に位置するリスクが高い小集団に対して、その人
数を減らすようなアプローチをハイリスク戦略という。
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【予防医学のストラテジーの対比】(p. 80-81)
ハイリスク戦略
ポピュレーション戦略
<利点>
<利点>
①個人に対して適切
①革新的、抜本的
②個人に対して強い動機づけ
②全集団に対して大きな恩恵
③医療者にも強い動機づけ
③生活習慣の変容が適切
④(費用対効果分析による)リスク便益比
が高い
<欠点>
<欠点>
①ハイリスク者の把握が困難
①個人には小さな恩恵
②効果は一時的
②個人にとって弱い動機づけ
③効果には限界がある
③医療者にも弱い動機づけ
④生活習慣の変容が困難
④リスク便益比が低い
【環境づくり型アプローチ】(p. 82-83)
ハイリスク戦略の効果をあげるには、そもそもハイリスク者全員を把握することが前提
となるが、実際には、たまたま健診に来た参加者の中にハイリスク者の一部がいた、と
いうケースが多い。
一方、ポピュレーション戦略を有効に進めるには、全数に近い対象者の把握が必要だ
が、地域保健の現場で参加率が問題となる。
【ポピュレーション戦略のすすめ方】(p. 84-85)
①参加率の高い既存の事業を活用して、広く介入
②義務教育と連携
③環境整備
④税・経済的誘導/ インセンティブ・企業の取り組み
⑤法令による社会通念の形成
【健康日本21における PDCA】(p. 100-103)
1.目標設定と評価の枠組み
①どの健康課題が重要であるかを評価し、優先順位を決定する。
②選択した健康課題を解決するために活用しうる健康サービスを把握する。
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③それぞれについて利益と危険の根拠を総合的に評価し、最大の健康改善が得られる健
康サービスを選択する。
④そのサービスにより達成可能な健康改善の目標を設定する。
⑤選択した健康サービスを実行するとともに、どのようにサービスが実施されているか
を管理する。
⑥目標がどの程度達成されたかを評価して、問題点を検討し、今後の管理方法へとつな
げていく。
2.健康課題の選定へのアプローチ:優先順位(priority)を決めるポイント
①疾病負荷
→指標としては、疾病の罹患率、有病率、死亡率、QOL の低下、など。
②健康改善の可能性
③経済的効率
→健康サービスによるプラスの面と、それに要する社会的資源のコストを総合的に評価
することも重要。ただし、特定の人が不利にならないような観点も必要。
3.目標の設定
①対象集団の健康状態の現状把握
→対象集団の特性ごとに客観的な指標(罹患率、有病率等)を用いて記述疫学的手法に
よりモニターする。
②健康改善の可能性の評価
1)働きかけの内容
2)根拠の質
3)効果の予測
4)費用対効果
③目標値の設定
→以上の情報をもとに実現可能な目標値を設定する。
4.目標達成の評価
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ストラクチャー(構造)、プロセス(経過)、アウトカム(結果)の各段階の評価を行う
(メタボリックシンドロームの例、p. 93 参照)。
1-9 保健医療サービスの経済的評価(p. 31-33)
医療の評価・責任の指標の一つに経済的評価もしくは臨床経済学的評価がある。投入さ
れた費用(コスト)と結果として産出(改善、獲得)された健康結果(効果、効用、便
益)との検討すること。
① 効果(effect)
→身体的、社会的な直接の機能の変化のこと。
(例)
死亡率、救命率、生存期間、平均寿命、再入院率、要介護割合、等。
→費用効果分析
② 効用(efficacy)
→効果を患者や家族の価値観によって評価しなおしたもの。
生活の質(QOL)、QALY(quality adjusted life years、健康や質を調整した生存年)、
DALY(disability adjusted life years、障害調整生存年)、等。
→費用効用分析
③ 便益(benefit)
→効果を経済的に貨幣価値によって評価しなおしたもの。このような分析のことを費用
便益分析という。
【表 虚血性心疾患に対するリスク因子の費用便益】
(Manson & Spelsberg, 1995; Powell, 1997 より)
リスク因子
有病率 (%)
費用便益
身体活動度低下
58.0
11,313 ドル/QALY
高血圧症
18.0
25,000 ドル/QALY
高コレステロール血症
37.0
28,000 ドル/QALY
肥満
23.0
不明
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このように根拠に基づく検討や意思決定を通じて、ムリ、ムダ、ムラのない保健医療サ
ービスシステムの構築が求められる。
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