垂直な総需要曲線の可能性

6-3 垂直の総需要曲線の可能性
図 6-21 を用いて説明してきたように,
名目金利がゼロ近傍に低下し流動性の罠に陥ると,
LM 曲線が水平となる。図 6-21 や図 6-23 が示すように,流動性の罠のケースでは,名目貨
幣供給量を拡大させて LM 曲線を右方にシフトさせても,総所得は,いぜんとして A にと
どまる。
図 6-23
名目金利(i)
= 実質金利(r)
「流動性の罠」の場合の政策可能性
IS 曲線のシフト
LM 曲線のシフト
(貨幣供給量の拡大)
A
B
総所得
LM 曲線のシフト
(マイナスの名目金利)
C
したがって,いかなる名目貨幣供給量の下で物価水準が変動して実質貨幣供給量が変化
しても,総所得(正確には,実質総所得)は,点 A の水準にとどまる。その結果,縦軸に物
価水準,横軸に総所得をとった図 6-24 では,総需要曲線は,総所得が点 A の水準で垂直と
なる。
この垂直の総需要曲線を完全雇用水準(点 B)のところまでシフトさせるためには,名目
貨幣供給量を拡大させるという金融政策以外のマクロ経済政策を展開する必要がある。第 1
に,拡張的な財政政策で IS 曲線をシフトさせると,垂直の総需要曲線を完全雇用水準まで
シフトさせることができる。
第 2 に,変則的な金融政策であるが,中央銀行が名目貨幣供給量を拡大させるのではな
く,名目金利をマイナス水準に誘導させると,水平の LM 曲線が下方にシフトする。そのよ
うな金融政策が実行可能な場合には,垂直の総需要曲線を完全雇用水準までシフトさせる
ことができる。
第 7 章で詳しく議論するが,垂直の総需要曲線の可能性は,アカデミックなマクロ経済
学や実際のマクロ経済政策に対して重要なインプリケーションをもたらした。
図 6-24
垂直な総需要曲線
物価水準
政策変更後
A
総所得
完全雇用水準(B)