2 乳腺画像診断における マルチモダリティ活用法

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乳腺画像診断における
マルチモダリティ活用法
植松 孝悦
本講演では,乳腺画像診断の目的につい
静岡県立静岡がんセンター生理検査科・乳腺画像診断科
てどのようなモダリティを用いるべきかが,
認められないが,US では境界明瞭粗造
て再確認した上で,乳がん診断の感度向上
いま非常に注目されている。追加モダリ
で前方境界線断裂が疑われる腫瘤が認め
をめざしたマルチモダリティの活用法につ
ティとしては,トモシンセシス,U S,
られてカテゴリー 4 となり,要精検とな
MRI が最も現実的と思われる。
る(図 2)。また,症例 2 は,MMG にて
いて,また,造影超音波検査に期待される
役割について述べる。
1.MMG +トモシンセシス
FAD が認められたが,US にて正常乳腺
トモシンセシス(3 D)は,特に構築の
と判定できる(図 3)。
乱れや腫瘤辺縁の評価に優れており,欧
東野らが,上記の方法にて検診を行い,
乳腺画像診断においてマンモグラフィ
米ではトモシンセシスを用いた MMG 検
レトロスペクティブに解析したところ 1),
(MMG)は最も基本となるモダリティで
診が試験的に行われ,従来の 2 D MMG
US併用検診ではMMGのみの要精検率が
乳腺画像診断の目的
あり,石灰化病変に対する感度は全モ
に比して乳がん発見率の向上や,偽陽
低減し,陽性適中率は MMG のみ,およ
ダリティの中で最も高く,唯一,死亡率
性の減少効果が報告されている。一方,
び MMG + US のいずれも向上しており,
減少効果のエビデンスを有する。一方,
課題として,読影時間の延長とコストの
総合判定を行うことで,感度を下げること
課題として,被ばくや,質的診断(特に
増加,ボリュームデータの保管,2 D +
なく特異度を向上できることが期待される。
囊胞の確定診断)が困難,偽陽性(乳
3 D の撮影による二重被ばくが挙げられ
腺の重なりによる )
,偽 陰 性(d e n s e
るが, ホロジック 社 製 の「S e l e n i a
MRI は乳腺画像診断に必須のモダリ
breast における非石灰化病変の評価が
Dimensions」では,トモシンセシス画像
ティであり,特に造影 MRI は乳腺濃度
から擬似的な 2 D 画像を作製する技術
に依存しないため感度が非常に高く,浸
“C-View”
(オプション)により二重被ば
潤癌であればほぼ 100%検出可能である。
困難)
,過剰診断(淡い石灰化の生検に
由来する low grade DCIS)がある。
こうした課題を補うモダリティとして,
くの課題を解決している。
3.MMG + MRI
一方,課題として,高コストであること
2.MMG + US
や長い検査時間,日本では MRI ガイド
エラストグラフィ,トモシンセシス,造影
MMG に US を追加することで dense
下バイオプシーが保険適用されておらず
US,US 画像と他モダリティ画像の同期
breast における感度向上を図り,囊胞
普及していないことなどが挙げられる。
システム〔日立アロカメディカル社の
と局所的非対称性陰影(FAD)の鑑別
これらのうち,検査時間については
“Real-time Virtual Sonography
(RVS)
”
〕
も可能なため,要精検率も低減すると考
Kuhl らが,ハイリスク群以外の乳がん
えられる。日本では現在,最初に MMG
検診に乳房 MRI を用いる可能性につい
で検査を行い,診断困難な高濃度領域
て,非常に省略したプロトコールでの結
の病変を US で拾い上げるという総合判
果を示し,世界に衝撃を与えている 2)。
超音波(US)
,MRI,CT,FDG-PET,
などが用いられている。
乳がん診断の感度向上をめざした
マルチモダリティの活用法
定により,感度と特異度の向上を図ろう
具体的には,単純と造影早期相のみを
MMG の感度は乳腺濃度に大きく左
としている(図 1)。例えば,症例 1 は,
3 分で撮像し,作成した MIP 画像のみを
右されることから,dense breast に対し
dense breastのためMMGで悪性所見は
見て病変を拾い上げるというもので,読
マンモグラフィ所見
超音波の位置づけ
感度上昇
カテゴリー1-2 乳腺実質部分 超音波優先
超音波で
脂肪濃度部分
拾いすぎない
境界明瞭平滑 超音波優先
特異度上昇
腫瘤
浸潤を示唆
マンモグラフィ優先
超音波優先だが,
部位が特定できな 特異度上昇
局所的非対称性乳房組織 ければ
マンモグラフィ優先
石灰化
マンモグラフィ優先
構築の乱れ
マンモグラフィ優先
総合判定基準の考え方は“Mammography first”
図 1 ‌MMG と US による総合判定における‌
考え方
92 INNERVISION (30・9) 2015
図 2 ‌症例 1:MMG で悪性所見がなく,‌
US 単独の所見が認められた症例
図 3 ‌症例 2:MMG で FAD が認められたが,
US にて正常乳腺と判定された症例
〈0913 - 8919 / 15 /¥300 / 論文 /JCOPY〉
Ultrasonic Week 2015 ランチョンセミナー 10
US
Report
a:造影 MRI
b:RVS ガイド下 U S
b
a
Blood Flow-Metabolism Mismatch?
Ki- 67
78 %
d:病理像
c:RVS ガイド下 U S
Ki- 67
50 %
針生検結果:
23 × 20 × 20 mm の不整形腫瘤,
前方境界線断裂(+)
,ハローなし
図 4 ‌症例 3:MR 画像を用いた RVS ガイド
下 US にて DCIS を認めた症例
充実腺管癌
ER:0 %,PgR:0 %,
HER 2:0 %
図 5 ‌症例 4:ソナゾイド造影 US により腫瘍 図 6 ‌症例 4:ソナゾイド造影 US による‌
内部に不均一な血流情報を認めた症例
US ガイド下 VAB 施行部位の血流情報
影時間は 3 秒,なおかつ病変を認め,元
ド下 VAB のみで病理診断された。RVS
見が生まれてくると思われる。また,US
画像を見直しても 30 秒以内で診断可能
ガイド下 VAB の手技時間は平均 25 分
ガイド下 VAB の施行部位の血流情報を
なことに加え,1000 人あたり約 18 人の
であり,合併症も認めなかった。これら
見ると,Ki- 67 は血流の少ないところで
MMG と US で発見できなかった乳がん
より,RVS は MRI-detected lesion の
50%,多いところで 78%と blood flow-
を検出できており,通常行われる MRI
US による描出能(感度)を向上できる
metabolism mismatch を呈していない
のプロトコールと遜色のない結果が得ら
重要なモダリティと言える 。
ことが判明した(図 6)。
れたとしている。米国では本法による大
現在,MRI-detected lesion の検出に
規模スタディが始まろうとしており,こ
おける RVS などの有用性を確認する多
れが実現可能となれば,コスト面での課
施設共同前向きコホート研究が進められ
乳腺画像診断は,マルチモダリティを
題は残るものの,最強の乳がん検診モダ
ており ,その結果が期待される。
用いて総合的かつ横断的におのおののモ
リティになると思われる。
ただし,乳房MRIは特異度が低いため,
3)
4)
造影 US に期待される役割
まとめ
ダリティを補完して診断することが重要
である。しかし,医療コストや検査(予約)
MRIでしか検出できない病変(suspicious
ソナゾイドを用いた造影 US に期待さ
時間も考慮して,真に必要な検査を追
lesions identified on MRI alone)への対
れる役割として,1 つ目に US ガイド下
加することが大切である。
応が問題となる。そこで,MRI-detected
VAB の施行部位の血流情報の獲得があ
また,近年,乳がん画像診断の新モダ
lesionに対してsecond look USを施行す
る。血 流の多い組 織は, がん細 胞の
リティが短期間に次々と臨床現場に登場
るが,それでも描出できない病変に RVS
Ki- 67 の値が低いというデータがあり,
してきているが,それらを系統立てて効
を用いることでMRI-detected lesionの多
blood flow-metabolism mismatch と言
率良く使いこなしていくことが求められる。
くが描出可能となることが,近年,複数
われているが,これは化学療法前にコア
報告されている。
ニードル生検を行った場所が悪いことが
4.R
VS ガイド下吸引式乳房組織生検
(VAB)の有用性
原因である可能性が考えられる。造影
症例 3(図 4)は,B モードのみでは検
に確認できるため,当院では現在検討を
出できない病変であるが,RVS にて MR
行っている。
画像と同期させることで描出可能である。
2 つ目に,術前化学療法の早期効果
US ではその部位の血流をリアルタイム
RVS ガイド下 VAB を行い,病理の結果
判定・効果予測がある。ソナゾイドは血
は low grade DCIS であった。
管外の間質に漏出することのない真の血
当院の MRI でしか検出できない病変
流イメージが得られ,特に血管新生阻害
を持つ 24 症例に対して日立アロカメディ
剤などの薬物効果判定に非常に有用で
カル社製の「HI VISION Ascendus」
ある。そのため,n e w b i o m a r k e r
「ARIETTA 70」を用いて RVS ガイド
modality として用いるべきと考えている。
下 VAB を施行した結果,7 症例(29%)
症例 4 は,トリプルネガティブの充実
でがんが検出された。これは,これまで
腺管癌であるが,造影 MRI では組織お
報告されている MRI ガイド下生検の成
よび血流情報は不均一であるが(図 5 a),
績と同 等である。また,当 院の M R I
ソナゾイド造影 US では約 2 cm の不整形
detected lesions 74 症例(50 症例は
腫瘤と前方境界線断裂が認められ,一
second look US で描出可能,24 症例は
部に強い染まりが見られた(図 5 b)。こ
RVS ガイド下 VAB 施行)は,MRI ガイ
のような情報を基にもっと科学的に生
ド下 VAB を使用することなく,US ガイ
検を行えば,治療効果における新しい知
●参考文献
1)Tohno, E., et al. : Effect of adding screening
ultrasonography to screening mammography
on patient recall and cancer detection rates ;
A retrospective study in Japan. Eur. J. Radiol .,
82・8, 1227 〜 1230, 2013.
2)Kuhl, C. K., et al. : Abbreviated breast magnetic resonance imaging(MRI); First postcontrast subtracted images and maximumintensity projection-a novel approach to breast
cancer screening with MRI. J. Clin. Oncol .,
32・22, 2304 〜 2310, 2014.
3)Uematsu, T., et al. : Real-time virtual sonography examination and biopsy for suspicious
breast lesions identified on MRI alone. Eur.
Radiol., 2015(Epub ahead of print).
4) 乳 房 MRI-detected lesion(MRI 偶 発 造 影 病
変)検出における超音波 fusion 技術(Real-time
virtual sonography / Volume navigation)の有
用性の確認(多施設共同前向きコホート研究).
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.
cgi?function=brows&action=brows&type=sum
mary&language=J&recptno=R000017394
植松 孝悦 (Uematsu Takayoshi)
1992 年 新潟大学医学部医学科卒業。同医学部附属病院放
射線科,新潟県立がんセンタ-新潟病院放射線科,静岡県
立静岡がんセンター生理検査科を経て,2013 年〜同科部長。
2014 年〜乳腺画像診断科部長併任。日本乳癌学会理事。日
本医学放射線学会教育委員会委員。
INNERVISION (30・9) 2015 93