[研究推進セッション] 意図しない画像不正を防ぐために

2015 ADOBE EDUCATION FORUM イベントレポート Part 1
[ 研 究 推 進セッション]
意 図しな い 画 像 不 正を
防ぐために
2015年 6月3日(水) 東 京・JPタワー ホール&カンファレンス
社会の急速なグローバル化とIT化の流れは、人々のライフスタイルや働き方に大きな影響を与えました。
これからの社会を担う
学生には、日々変動する環境の中で生き抜く力が要求され、教育機関には学生が社会変化に対応できる力をつけさせる教育が
求められています。
6月3日(水)東京・JPタワー ホール&カンファレンスにて開催された「2015 ADOBE EDUCATION FORUM」では、昨今教育界
で注目されている“グローバル教育”“ICT活用スキル”をキーワードに、教育・産業界の第一線で活躍する有識者の方々によるス
ピーチやパネルディスカッションが行われました。
午前中に行われた、研究・教育推進のためにスキルや知識の共有を図るブレイクアウトセッションでは、会場を分けて研究推進と
情報推進の2セッションが開催されました。
ここでは「研究推進セッション」の模様をリポートします。
研究推進のための画像処理スキル教育
「画像不正を防ぎ、研究を推進する画像処理スキル教育」と題し開催され
た研究推進セッション。開催に先立ち、
アドビ システムズ 株式会社 マー
ケティング本部教育市場部担当部長の増渕賢一郎が登壇。生命科学分
野において、研究で得られた画像を客観的かつ定量的に評価するため
には、画像処理のスキルが必須。しかし一方で、一連の画像不正事件の
影響により、学生が「画像処理をしてはいけない」
「画像処理は控えるべ
き」といった誤解をしているケースも多い。意図的な不正を防ぐために
はモラル教育に加え、意図しない不正を防ぐための研究機関の課題とし
て、不正を事前検知し事後的にトラッキングできるようにする体制、そし
氏は説明します。
「 昨今の不正画像使用などの問題は、
きちんとした画像
処理スキル教育が行われていないことも原因のひとつ」と指摘する島原
氏。
また、文部科学省が「研究活動における不正行為への対応等に関する
ガイドライン」を定めたことにも触れ、不正行為の事前防止策としても、画
像操作スキル教育が重要であると述べました。
最 後 に 氏 は 、自身 の 会 社で 開 発した 画 像 不 正 検 出ソフトウェア「 L P exam Cloud」を紹介。論文に使用された画像をアップロードするだけ
で、人工知能と専門家の解析によって画像の不正な加工を見つけ出すこ
とができると説明し、多くの研究機関でのサポートを行っていることを紹
介しました。
て画像処理に関するスキル教育の重要性が挙げられました。
続いて、エルピクセル株式会社 代表取締役(CEO)の島原佑基氏が登壇
し、研究者向け画像解析ソフトウェアやシステム開発、Webメディアの運
営などを手がける立場から、画像処理スキル教育について提言を行いま
した。
氏はまず、ビッグデータ化の波は研究分野にも訪れており、一般的な研
究では10年前に比べ、約30~40倍のデータ量を扱う必要が生じている
ことを説明しました。機器の進化により、今や試料の100万倍の拡大画
像や1秒間3000枚の連続画像も撮影可能となっており、
このように高精
細化した画像は当然研究活動のデータサイズを増大させます。また、現
在、著名な学術雑誌に掲載されている論文等の約90%に、1種類以上の
デジタル画像が用いられているといいます。つまり、今後研究を進めてい
く上で、画像の取り扱いスキルは必要不可欠なのです。
ところが、学生・院生を対象にしたアンケートによると、
『 研究における画
像の使用は必要であり重要』と答えた割合は89%だったにも関わらず、
そのうちの 8 4 % は 大 学での 画 像 処 理 教 育 が 不 十 分と回 答していると
午前中は、会場を分けて「研究推進セッション」と「情報推進セッション」の2つのセッ
ションが開催され、高等教育機関の研究推進担当者やIT管理者などが出席した
を必ず保持し、コピーした画像で処理を行う非破壊的な画像補正が重
要となります」と氏は強調します。Photoshopの調整レイヤーを使えば、
原画像を残したままでさまざまな補正が行えるだけでなく、施した加工
をやり直す操作が簡単にできることに触れ、色調補正やぼかし加工など
の具体的オペレーションが紹介されました。
「 視認性を向上させるため
にコントラスト強調はよく施されますが、
『レベル補正』を使用して輝度ヒ
ストグラムを指標としながら調整することを推奨する」といった実例を挙
げながらの説明に、来場者はメモを取りながら聞き入っていました。
最後に、Photoshopの『ヒストリーログ』を使えば、施した処理や解析の
手順をメタデータやテキストデータへ書き出すことができると説明。
これ
まで手作業で行っていた実験ノートへの記入を省けるだけでなく、改ざん
日本初となる人工知能を用いた研究画像不正検査サービス「LP-exam Cloud」を開発
などへの対応にもなると話しました。
した、エルピクセル株式会社 代表取締役(CEO)の島原佑基氏。統計データを用いな
がら、画像不正を防ぐ画像処理スキル教育の重要性について語った
PDF活用で研究データの保存と管理を徹底
見やすく理解しやすい画像を作るための処理
最後に、
アドビ システムズ 株式会社 デジタルメディア営業統括本部 島 原 氏 に続 いて登 壇した 、エルピクセル 株 式 会 社 技 術アドバイザー
れたAcrobat DCの機能説明およびPDFによる研究データの保存と管理に
(ECE)の湖城恵氏は、Adobe Photoshop CCを使用した研究者のため
の画像処理スキルの解説を行いました。
Document Cloud事業開発の今西祐之が登壇し、2015年4月にリリースさ
ついての解説が行われました。
PDFはセキュアな情報コンテナであり、Acrobat DCを使うことで「コメント
氏 の 説 明 はまず、デジタル画 像 は 画 素(ピクセル)の 集 合であり、各ピ
を書き込む」
「動画を加える」
「さまざまなファイルを圧縮して入れる」
「PDF
クセルの色はRGB(赤緑青)の3原色の掛け合わせで表現されていると
内の情報を検索できる」などの操作が可能であると紹介しました。
いった 、基 礎 的 なレクチャー からスタート。その 上で、撮 影した だ けの
デジタル画像には撮影時の照明による明るさのムラや光学的原因によ
るボケや散乱、デジタル化に伴うノイズなどが含まれており、それらを
軽減することで初めて科学的に価値のある、客観的かつ定量的なデータ
となることを説明しました。
「その際、より見やすく理解しやすい画像を
抽出するために、画像処理や画像解析が必要になるのです」と湖城氏。
また、たとえ故意でなくとも画像不正を疑われる処理として、
「 歪ませる」
「黒つぶれ・白飛び」
「比較対象の片方のみに処理を施す」
「異なる実験
区画の画像合成」
「画像の一部のみに処理を施す」
「画像の一部を隠す」
といった例を挙げ、注意を促しました。
PDFは画像ではないため、記載内容の抜き出しや再利用、情報の変更も
可能となっています。
そのため、文書を開示する際にはコピーや改ざんを
防止するためのセキュリティ設定が必須。Acrobat DCにはe-sign機能が
装備されており、文書を送信した相手がいつ開いたか、そしていつ署名
を行ったかの進捗が確認できるようになっています。今西はスクリーンを
使って具体的な操作を行いながら解説しました。さらにPDFでは非表示
情報を検出することができることを述べ、機密情報が含まれている文書で
は、個人情報を墨塗りするだけでなく、
しっかりと削除すべきだという話に
もおよび、PDFを活用することによる情報管理の提案が行われました。
次に具体例を挙げながら、Photoshopを使って、コントラストの調整や
強調、
ノイズの軽減などの処理の実演が行われました。
「こうした処理の
際、注意すべきなのは、再現性を確保することです。
そのためにも原画像
「研究推進セッション」の後半に登壇した湖城氏の解説では、会場に設けられた大スク
リーンを使用して、色調補正やぼかし加工といった画像処理の方法が順を追って説明
された
エルピクセル株式会社 技術アドバイザー(ECE)の湖城恵氏。
「 Adobe Photoshop CC
を使った研究者のための画像処理」というテーマで、画像の基礎的な解説から高度な
処理手法までを、実際の手順を追いながら説明した
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