脳ドックパンフレット - 国立病院機構鹿児島医療センター

脳ドックを受ける皆さんへ
脳ドックは、脳の病気を症状が出る前に見つけて、予防や進行を防ぐことが目的です。
■ MRI
強力な磁石でできた筒の中に入り、磁気の力を利用して体の臓器や血管を撮影する検査です。
縦横斜めなどあらゆる方向から自由に脳の断面画像を写し出すことができます。
無症候性(症状のでない)脳梗塞や脳の微小出血、脳萎縮の状態、白質病変などがわかります。
■ MRA脳血管撮影
造影剤を使うことなく、血管だけを鮮明な画像として映し出すことができます。
特にくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤の有無や血管の狭窄などの早期発見に有用な検査です。
■ 頸部血管エコー
簡便で視覚的に動脈硬化の診断ができる検査です。
頸部には心臓から脳へ栄養や酸素を送る太い血管(頸動脈)があります。
脳梗塞の原因となる、動脈硬化や狭窄の有無、程度を調べることができます。
■ 心電図
不整脈の有無、狭心症や心筋梗塞などの病気がわかります。
心房細動という不整脈が出現している場合は、血栓が作られやすくなり、血流に乗って脳に達すると、
脳梗塞の一種である心原性脳塞栓症を突然引き起こすことがあるので、この検査を行います。
■ 血液検査・尿検査
脳卒中の危険因子となる、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などを探るために行う検査です。
■ 認知機能スクリーニング検査
認知機能全般を評価するものとして、ミニメンタルステートテスト(MMSE)、長谷川式簡易知能評価
スケール(HDS-R)を行います。認知障害があるかどうか、ある場合には、どの程度の症状かを調
べるためにおこなう検査です。9 項目の設問で構成された簡易知能評価スケールで、30 点満点中、
20 点以下で認知症が疑われます。
1
国立病院機構
鹿児島医療センター
▶ 検査で分かる気になる病気
脳ドックの検査で見られる要注意の病気です。すぐに脳に障害が現れる訳ではありませんが、これら
の疾患が認められた場合は、今後の生活にこれらの結果を十分に生かしていく必要があります。
■ 微小出血痕(無症候性脳出血)
MRIで微小出血が見つかることがあります。脳の毛細血管にわずかな出血があり、高
齢になるにつれ検出率は増加します。高血圧や加齢により進行が進み、多くの場合無
症状でこれ自体に特に治療を施す必要はありませんが、微小出血がある方は、将来
脳出血を発症する可能性が高くなりますし、脳梗塞を発症する危険性も高くなります。
■ 無症候性脳梗塞
脳の細い血管の病変に基づくもので、多くの場合、小さな梗塞(ラクナ梗塞)病変ですが、将来的に症候性脳
梗塞の再発の危険性が高くなります。また血管性認知症の原因にもなります。高血圧等が原因となっている場
合が多いので、血圧管理が大切となります。
■ 大脳白質病変
これは更に小さな脳血管の虚血によって脳組織の
脱髄が生じた病変です。一応脳梗塞とは異なる病
変ですが、脳梗塞の危険性の高くなる病態です。原
因は、血管の老化及び慢性的な高血圧による血管
負荷等と言われています。この病変が多くなると、認
知症の原因にもなります。十分な血圧の管理が必要です。
▲白く見える部分が病変
■ 未破裂脳動脈瘤
脳動脈瘤とは、脳の動脈の壁が瘤のように膨らんでできる病変で、多くの場合動脈の
分岐部(分かれ道)にできます。この瘤は、ほとんどの場合症状を出しませんが、正常
の動脈に比べ破れやすく、破れるとくも膜下出血となります。くも膜下出血を発病した
患者さんの約3分の1は死亡あるいは寝たきりに、約3分の1は半身不随・言語障害な
どの重い後遺症が残り、回復して社会復帰できるのは残りの3分の1と言われていま
す。脳動脈瘤の多くのものは破れる危険性は低く、ほとんどの場合年間破裂率は1%
未満です。しかし、脳動脈瘤の大きさ、形、発生部位によっては破れる危険性が高いものがあり、破裂予防の
治療を含めた慎重な検討が必要となります。
■ 内頸動脈狭窄・閉塞症
脳に血液を送る内頸動脈が、無症状のうちに頸部で狭窄(細くなること)や閉塞(つま
ってしまうこと)してしまっていることがあります。狭窄度が50%以上あった場合、脳梗
塞を起こす危険性が高くなり、血栓予防剤やコレステロールを下げる薬を中心とする内
科的治療が必要とされています。また狭窄度が70%を超える高度狭窄の場合には、
外科的治療が推奨されます。
2
国立病院機構
鹿児島医療センター
▶ 動脈硬化とは?
体のすみずみまで酸素や栄養素を運ぶ重要な役割をしているのが動脈です。この動脈が年齢とともに老化し、
弾力性が失われて硬くなったり、動脈内にさまざまな物質が沈着して血管が狭くなり、血液の流れが滞る状態
を動脈硬化といいます。ちょうど古い水道管が汚れて詰まったり、さびてはがれるのと同じ状態です。
動脈硬化には、比較的太めの動脈に起こる「粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)」、細い動脈に起こる「細
動脈硬化」があります。粥状動脈硬化は、一般的に動脈硬化といわれているものです。
細動脈硬化は、高血圧が原因で生じる、脳や腎臓の細い動脈の病気です。
■動脈硬化が起こるメカニズム
1
動脈は、内側から内膜、中膜、外膜の3層でできていて、内膜は
内皮細胞という細胞におおわれています。
内皮細胞は血液が固まるのを防いだり、血管を拡げるなど、動脈
硬化を防ぐさまざまな働きを持っています。
2
内皮
高血圧や糖尿病などによって血管に負担がかかると、血管の内皮
細胞に傷がつき、内皮が持っている動脈硬化を防ぐ働きが失われ
ます。すると、血液中のLDL(コレステロール)が内膜に入り込み、
酸化を受けて酸化LDLに変化します。それを処理するために白血
球の一種である単球も内膜へと入り込み、マクロファージに変わり
ます。
3
マクロファージは酸化LDLを取り込んで、やがて死んでいきます。
その結果、内膜の中にコレステロールや脂肪がお粥のような柔らか
い沈着物となって蓄積し、内膜は次第に厚くなっていきます。
このようにしてできた血管のコブをプラーク(粥腫)と言い、プラーク
ができた状態を粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)と言います。
また、プラークが破れると、そこに血のかたまり(血栓)ができて血流
が完全に途絶え、心筋梗塞や脳梗塞が起こります。
動脈硬化が生じやすい部位はいくつかありますが、その代表的な部位が頸部頸動脈です。
脳ドックでは、頸動脈エコー検査によって動脈硬化を詳しく調べることによって、脳梗塞の危険性を評価するこ
とが出来ます。狭窄率の少ないものに関しては禁煙や生活習慣の改善が第一ですが、狭窄率が50%以上に
なると一定の割合で脳梗塞を生じるため内科的治療が必要となります。また、狭窄率が70%を超える高度狭
窄の場合には外科的治療が必要となり、2つの治療法があります。
一つは、頸部頸動脈狭窄に対して、頸動脈を切開して動脈硬化を取り除く内膜剥離術 (CEA)です。もう一つ
の方法は、血管内からカテーテルを用いて狭窄部にステントという金属のメッシュ状の器具を挿入した上で拡
張して留置するステント留置術(CAS)があります。
3
国立病院機構
鹿児島医療センター
▶ 脳卒中とは?
脳卒中とは病名ではなく、正式には脳血管障害といいます。
脳卒中
血管が破れるタイプ
血管が詰まるタイプ
一過性脳虚血発作
脳梗塞
ラクナ梗塞
アテローム
血栓性脳梗塞
心原性脳塞栓症
脳出血
くも膜下出血
ラクナ梗塞
脳出血
脳の細い血管が動脈硬化によりつまり発症します。
細い血管の異常なので、突然大きな症状が起こる
事はありませんが、言語障害や麻痺、認知症など
別の症状を進行させます。日本人に一番多いタイ
プです。
高血圧の状態が続くと、脳の細い血管内に強い圧
力がかかります。次第に血管がもろくなり、破れて出
血します。出血の際には吐き気や頭痛が起こり、出
血部位にもよりますが、片麻痺や言語障害、重症
の場合は意識障害の可能性があります。
アテローム血栓性脳梗塞
くも膜下出血
脳の太い血管が動脈硬化によりつまり発症します。
高血圧症や糖尿病などの生活習慣病が引き金に
なり、自覚症状がないまま動脈硬化が進行し、急に
症状が起こる大変危険な病気です。麻痺や言語障
害が後遺症として残る場合があります。
体に栄養や酸素を運ぶ動脈という血管内にある「こ
ぶ」のことを動脈瘤といいます。動脈瘤は高血圧に
よって拡大していきます。くも膜下出血は脳内のくも
膜下で起こる症状で、出血すると激しい嘔吐や頭
痛、失神、危篤状態の可能性もあります。また、家
族にくも膜下出血を起こしたことがある方は、日常
生活でも注意をする必要があります。
心原性脳塞栓症
通常、一定のリズムで動き血液を循環している心臓
ですが、心房細動という不整脈によって流れに滞り
があると、血液に一瞬よどみが生まれます。そのよ
どみが血液の固まり(血栓)となって脳の血管まで
運ばれ、つまる病気です。太い血管に起こる事が多
い為、症状が重く、命に関わる場合も多いです。
【一過性脳虚血発作】一時的に脳に血流が流
れなくなり、神経脱落症状が現れる発作をいいます。
症状は脳梗塞と同じです。手足や顔面の運動障害や
感覚障害、言葉がしゃべりにくいなどです。数分から
数十分ほどで改善されることが多いですが、脳梗塞
の前触れの可能性が高い症状です。
4
国立病院機構
鹿児島医療センター
▶ 脳卒中にならないために…
危険因子とは、病気の起こりやすさを高めてしまう悪い要因のことで、血管性危険因子とは動脈硬化による病
気を起こしやすくする悪い要因のことを意味します。具体的には以下のような病気・生活習慣が挙げられます
が、動脈硬化の進展予防のためにそれぞれの十分な治療や生活習慣の是正などが非常に重要です。
■ 高血圧症
高血圧は脳卒中の最大の危険因子です。従って血圧をコントロールすることが、脳卒中予防の第一歩となります。
血圧は140/90mmHg以下とされています。できれば家庭でも血圧を測ってください。病院では多少なりとも緊張し
ているため、普段より高い血圧を示すことが少なくありません。血圧は常に変動していますので、あまり神経質になる
必要はありませんが、普段生活しているときの血圧を知っていることは重要です。
■ 糖尿病
糖尿病は重要な脳卒中の危険因子であり、動脈硬化の原因となります。糖尿病の人は、そうでない人と比べて脳
卒中を起こす危険性は 2~3 倍になると報告されています。
■ 脂質異常症
脂質の取りすぎは血液中のLDLコレステロール(悪玉)や中性脂肪を増加させ、動脈硬化を促進させる原因となり
ます。しかし、コレステロールを制限しすぎると血管がもろくなり脳出血の原因となります。
■ 心房細動
脳梗塞の中でも重症な後遺症を残しやすい心原性脳塞栓症の原因の主たるものが、心房細動です。心房細動は、
心臓のポンプを動かす信号が不規則に発生し、正しい収縮と拡張ができなくなる不整脈で、心房内の血液がよどみ、
血栓ができやすくなります。これが脳に流れて主要な血管が閉塞されると脳梗塞を引き起こします。高齢者に多い
ですが、自覚症状があまりないので気づいていない方が多いです。薬を内服することで予防することができます。
■ 喫煙
喫煙は脳卒中に関する限り、よいことは全くありません。しかも喫煙量に比例して、脳卒中のリスクは高まりますし、喫
煙歴の長い人ほど、くも膜下出血の原因となる動脈瘤が発生しやすいです。喫煙開始年齢の低い人ほど、1 日の本
数が多い人ほど、リスクは高いと言えます。
■ 過度の飲酒
毎日 2 合以上の飲酒を続けると脳委縮が進行し、脳の高次機能が低下することが分かっています。晩酌は 1 日 1
合が適量といえます。
【脳卒中予防十か条】
日本脳卒中協会が作成した「脳卒中予防十か条」を参考に、生活習慣の修正と危険因子の管理をしっかりと
行い、脳卒中を予防しましょう。
❶ 手始めに 高血圧から 治しましょう
❻ 高すぎる コレステロールも 見逃すな
❷ 糖尿病 放っておいたら 悔い残る
❼ お食事の 塩分・脂肪 控えめに
❸ 不整脈 見つかり次第 すぐ受診
❽ 体力に あった運動 続けよう
❹ 予防には タバコを止める 意志を持て
❾ 万病の 引き金になる 太りすぎ
❺ アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒
❿ 脳卒中 起きたらすぐに 病院へ
5
国立病院機構
鹿児島医療センター