セッケン膜の干渉色模様

科学写真の範囲はとても広い.顕微鏡で撮影す
専用の筒を取りつける.これを,顕微鏡の接眼レ
るミクロの世界から,無限に広がる宇宙の星の撮
ンズ部に装着する.撮影用の筒がある顕微鏡(3
影,また,目に見えない赤外線や紫外線を使った
眼鏡筒)があれば,より使いやすい.
撮影や,数万分の 1 秒の一瞬の出来事を写す瞬間
干渉色模様を見るためには,セッケン膜が反射
写真など多岐にわたる.このような広い分野の中
した光を直接見る必要があるので,対物レンズを
でも,顕微鏡を使った撮影では,思いもかけない
通して照明できる落射照明装置を使用し,膜に対
現象にめぐり合うことも多い.そのうちの一つが
して垂直に光をあてている.小型の顕微鏡とコン
セッケン膜の干渉色模様だ.
パクトデジタルカメラ(コンパクトデジカメ)でも
撮影のきっかけは,シャボン玉研究の歴史を解
撮影ができる.膜を傾けてステージに置き,それ
説した本を読んだことだ.その中に,フランスの
に懐中電灯などで斜めから光を当てて,反射光が
物理学者ペラン(1926 年ノーベル賞受賞)が,分
ちょうど対物レンズに入るようにする.
子の大きさを推定するために顕微鏡でセッケン膜
身近なセッケン膜の色の変化は,多くの科学者
を観察したときのようすが紹介されていた.分子
が研究の対象にした興味深い現象だ.顕微鏡下に
の存在自体が議論されていた時代のことだ.顕微
見える鮮やかな干渉色は,今でも科学写真を撮影
鏡での観察というと,プランクトンや植物の切片
する大きな原動力となっている.
などを思い浮かべることが多いが,セッケン膜を
拡大するとどのように見えるのだろうか.
さっそく手元にあったフィルムの上下に並んで
いる穴にセッケン膜を張り,顕微鏡で観察すると,
そこには思いもかけない鮮やかな色彩と造形の世
界があった.試料をつくるたびに変わる干渉色の
模様は,撮影するたびに新鮮で,またその色彩が
もつ物理的な意味への興味深さも重なり,それ以
来,撮り続けるテーマとなった.
顕微鏡写真撮影に使うカメラは,一眼レフカメ
ラが応用も利き使いやすい.レンズをはずして,
セッケン膜 の干渉色模様
02
3眼鏡筒の顕微鏡に一
眼レフカメラを装着し
たところ.カメラから
のびているコードはレ
リーズ.コードの先の
スイッチで,シャッタ
ーを切る
◀セッケン膜を数ミリ四方の小さな穴に張り,顕微鏡で観察すると,光の干渉による鮮やかな色彩の模様が見える.干渉色
を細かく見ると,その色や明るさは不連続に変化している.この不連続性からペランはセッケン分子の大きさを推定した.
背景の黒い部分はセッケン分子数層からなる薄い膜である.左半分の部分は厚いセッケン膜で,その右を円盤状の厚い膜が
流れるように移動して行く.セッケン膜は身近にありながら奥が深く,科学への優れた入門素材でもある.[170 倍]
※一眼レフカメラボディー,顕微鏡:対物レンズ 10 倍・接眼レンズ 5 倍,シャッタースピード:1/8 秒,感度:ISO50
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