うちの巫女が一番かわいい!

特別試し読み版
うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
5
プロローグ 理想の巫女の純潔を奪ってしまう
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
しんどうあおと
挿画:庄名泉石
)
デザイン:木緒なち( KOMEWORKS
)
KOMEWORKS
高橋忠彦(
じめと蒸し暑い、七月の夕暮れ。
じけめ
が
「穢れがそっちにいったわーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
堂碧人は、校内を全力疾走していた。
俺、新
階段から転げ落ちた俺は、女子更衣室の鍵のかかった扉をぶち破った。
お花畑かと思うほどの、素敵に美しい、下着姿の女の子たち。
そう
―
の束を抱えていた俺は、階段でつまずいた。
山のような紙
かんざ す
座州学園中央校舎の二階から一階へと続く階段の下には、女子更衣室がある。
創立以来、神
賢明な読者諸兄ならば、続く展開は、みなまでいわずともわかってもらえようか。
追いかけてくるのは、鬼の形相をした巫女の少女たち。
きっかけは、日直として職員室に持っていく予定だった、
『神話史』の宿題のレポートである。
©2015 早矢塚かつや/庄名泉石/一迅社 無断複製・転載禁止
お試し版はダウンロードしやすいように容量を小さくするためイラストの画質を下げていますが、
実際の文庫は高画質です。
6
「は、はろー……今日も、パステルカラーがきれいですね……」
俺が愛想笑いを浮かべるのもほどほどに、絹を裂いたような悲鳴が、学園中に連鎖した。
おんてきちゆうさ つ
」
場を逃げだし、彼女たちは追いかけはじめる。
俺はそけの
が
「また穢れが女子更衣室の扉を破ったわ!」
「怨敵誅殺!」
きゆうきゆうによ り つ り よ う
「悪霊退散!」
「 急 々 如 律 令 !」
「最後のちょっと違くないですか
―
飛んでくる弓矢や呪符、式神をギリギリのところでかわして、廊下を駆けぬける。
前方。
すると
曲がり角から、一人の女子生徒が姿を現す。
軽くウェーブのかかった金髪に、透き通ったアメジストの瞳。
寸分の隙も見出せない、光り輝く美貌。
けにする目測Gカップの巨乳。
そして、男の視線を確実に釘か付
ねが さきあけの
ケ崎明乃である。
ヴィーナスのデミゴッド、金
―
」
俺が女の子の集団に追いかけられていると、なぜかいっつも無防備に前を通りかかる、巨乳
の女の子だ。
しんどうあおと
「わ、どけどけどけどけっ!」
「へ? ひゃあ、新堂碧人! またあなたですの
むにゅうん。
金ケ崎明乃の巨乳に顔を埋め、俺はそのまま彼女を押し倒してしまう。
ああ、すげーやわらかい……じゃなくてっ! 逃げなきゃ。
俺は立ちあがり「ごめんっ」と謝って走りだした。
「な、なんなんですのーっ」
かんざ す
の声が聞こえる。
明乃と、俺を追いかける巫女
は れんち
「おのれ新堂碧人、なんたる破廉恥!」
「我らが神座州学園のアイドルである、明乃さまの胸に顔を埋めるとは!」
「千回殺しても飽き足らぬ!」
「明乃さまは、あなたのような雑種のデミゴッドが触れて許されるような方ではないのよ!」
「事故だーーーーーーーーーーっ!」
ここまでテンプレ。
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!?
あー……死ぬかと思った。
なんとか巫女と金ケ崎明乃の追跡をまいて、学園の外に出られた。
―
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8
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9
まんしんそうい
身創痍で、海岸線沿いの桜並木の一つに腰を下ろす。
身体は満
ふいに視界を、桜の花びらが横切った。
「ん……?」
―
たしかにこれは桜の木だけど……今は七月だ。花が咲いているはずは
仰ぎ見ると、桜は満開だった。
その見事な桜の咲き具合に、思わず息を呑む。
しかも太い枝には、とてもかわいい女の子が、すわっていた。
長い黒髪に、切れ長の瞳。
艶やかな
び りよう
梁。
整った鼻
薄桃色の頬。
にかと勘違いしたかもしれない。
これだけなら、桜の精かまな
と
こ そで
うのは、白い小袖と緋色の袴。
けれど彼女がその身に纏
。
いわゆる巫女装束だ。
かんざ す
座州学園の生徒ということに
ここで巫女装束を着ているということは、彼女は俺と同じ、神
なるだろう。
神座州学園は、ここ神座州市に建てられた、デミゴッドと巫女のための学校だ。
『デミゴッド』っていうは神と人間のハーフをさす言葉なんだけど……そんなことよりも、今
は木の上にたたずむ巫女がかわいいってことのほうが重要である。
腰にぶら下げた赤銅色の懐中時計を握りしめて、どこか悲しげな顔をしていた。
み と
惚れていると、彼女は俺に気づく。
見
い ぬ
貫かれて、身体は硬直してしまう。
よく よう
真剣のごとく研ぎ澄まされた瞳に射
「なにか、ご用ですか?」
きよ
抑揚のない口調だが、声もかわいかった。
「特には。七月に咲いてる桜の花と君が……すごくキレイだったから」
く ど
巫女の女の子は、虚をつかれたように目を見開いた後、かすかに頬を赤らめながら、唇をと
がらせた。
すね」
「会っていきなりに口説きはじめるとは……ずいぶんと巫女の勧誘に熱心なデミゴッドさまで
み あ
神座州学園に通う巫女は、卒業するまでのあいだに、自分が仕えるデミゴッドを決めるのが
習いだ。
デミゴッドたちも、自分が目にかけている巫女を勧誘するために、必死になる。
「違う、本気だ。君は本当にかわいい」
れ ぎ
「か、かわいいとか、何度も連呼しないでください……おあいにく、わたしが仕える先は御阿
礼木の家によってすでに決められていますので、口説いても無駄です」
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く ど
「だから口説いてるとか、そんなんじゃないって」
その時、強い風が吹いた。
桜の花びらが一斉に舞い散る。
―
西の空では、太陽が水平線に沈もうとしていた。
」
「あ
あいしゆう
に舞う花びらを眺めて、巫女の女の子は寂しげな瞳をする。
風
なぎ
「凪の時間も、終わりですね……」
愁ただよう彼女の横顔に、胸を締めつけられた。
俺は、哀
なんであんなにキレイなのに、そんな顔をするんだろう。
「驚かせて、すみませんでした」
少女は、軽やかな身のこなしで木じのぎ枝から飛び降り、俺の前で頭を下げた。
儀。
ピシッとした、機械のようなお辞
ことわり
張りつめる。
彼女が側にいるだけで、周囲の空気がピふンりと
よく
「ここの夕陽がキレイだったもので……巫力で、咲かせてしまったんです」
に干渉する力のことである。
巫力とは、巫女が持つ現実世界の理
対してデミゴッドは、神力を持つ。
二つの力は、巫女とデミゴッドの相性によって、引き合ったり反発したりするらしい。
「季節が過ぎた花をあそこまで見事に咲かせるとは、すごいな……」
こ
し
巫力で無理やり花を咲かせた場合、もっといびつな花の付け方をしたり、すぐに枯れてし
まったりするのが常識だ。自然に咲いたような花を再現するのは難しく、最悪、干渉した植物
が枯死してしまう。
かなりの才能の持ち主らしい。
そこで俺は、先ほどの彼女の言葉を思い出した。
み あ れ ぎ
阿礼木の家……そういっていた。
御
阿礼木神社は、この国の五大社のうちの一つだ。
御
もつか ど ごんすい
つかさど
木火土金水の『木』を司る、序列第一位。
―
たのを耳にしたおぼえがある。
そういえば、学校で、誰かが噂してかい
んざ す
今度、御阿礼木神社のご令嬢が、神座州学園に、転校してくると。
。
たしか、名前は
さくや
「もしかして、君が御阿礼木咲夜……?」
「はい。それはわたしの名前ですが」
うわ。
い ず
住まいを正した。
俺は一歩後退して、あわてて居
彼女は、我が国で有数の姫巫女ということだ。
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み あ れ ぎ さくや
かんざ す
「すみません、自己紹介が遅れました。わたしは、御阿礼木咲夜と申します。来週から神座州
学園の二回生として通わせていただきます」
能面のような表情で告げる。
声には起伏がなく、しかし視線は鋭いから、怒られているような気分になってきた。
しく」
かわいいのにな……。
笑えばし、
ん どう あお と
「 俺 は 新 堂 碧 人。 同 じ く 二 回 生 で …… ど こ に で も い る 雑 種 の デ ミ ゴ ッ ド だ …… え っ と、 よ ろ
りしぼり、握手を求めてみた。
勇気をふ
と まど
いちべつ
惑いの表情で俺を一瞥して、軽く触れるていどに握りかえしてきた。
咲夜は戸 せんさい
細で、すべすべとした手触り。
冷たくも、繊
離したくないと思うものの、彼女はさっと手を引いてしまった。
……残念。
俺がガックリとうなだれると同時に、また強い風が吹いた。
桜の花びらが強風に巻かれて、海のほうへと流されていく。
咲夜の瞳から、またふっと力が抜けた。
まるで、そこに自分の魂をおき忘れたかのごとく、花びらの行く末を見つめる。
「なんか、悲しいことがあったのか?」
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「え?」
「桜の枝にすわってた時から……そういう顔、してるからさ」
伸ばし、彼女の薄桃色の頬に、触れていた。
手さを
くや
夜はハッと我に返って、一歩下がる。
咲
「さ、さわらないでください……そんな風に、巫女にさわっては……ダメです」
「すまん……」
くらいは……できるかもしれないぜ」
咲夜は警戒するように、後ずさった。
かんざ す
「力になれるかはわかんないけど……まぁ、なんだ……神座州に通う先輩として、相談を聞く
すると彼女は、少し考えるように視線を下げたのち、ぷっくりとした魅力的な唇を開いた。
「巫女となるからには、本物の神にお仕えしたいんです。一年後に行われる東京ディバイン
ピックはご存じですよね……勝利したデミゴッドは、本当の神になれる」
―
俺はうなずいた。
ディバインピック。
四年ごとにやってくる、デミゴッド同士の争い
デミゴッドと巫女はチームを組んで、それに参加する。
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勝てば巫女にもデミゴッドにも、ものすごい名誉となる。
やつき
起になっていると
一年後の大会は東京で開催されることが決まっており、日本中の神社が躍
聞く。
俺みたいな、木っ端デミゴッドには、関係のない話だけど……。 はげ
「わたしなりに、自分の中にある力と可能性を信じて、巫女の修行に励んできたつもりです。
その力を試す、絶好の機会がやってきたというのに……」
彼女はそこで、口をつぐんだ。
?
咲夜の悩みはどこにあるのだろう
いた
て、俺は思い至る。
少し思考を巡らせ
み あ れ ぎ
仕える先は、御阿礼木の家によって、すでに決められている。
神座州海岸は、すでに海開きがはじまっており、砂浜には海の家が軒を連ねている。
俺はカバンをその場において、海岸線沿いの道から急斜面になってる堤防を駆けおり、白い
砂浜に出た。
いまだ舞い散る桜の花びらが、彼女の瞳から流れる涙のように見え、胸が締めつけられた。
「ちょっと待ってて」
それが答えだろう。
咲夜は答えなかった。
彼女はさっき、そういっていた。
「不本意な奉職先なのか?」
―
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さくや
駆けこんで、すぐに咲夜の前に戻った。
俺はそのうちの一つかに
んざ す
「これ、アメリカン神座州ドッグ! この神座州海岸の名物だ。来たばっかりなら、まだ食っ
てないだろ!」
「え……?」
咲夜は、俺が差しだすアメリカンドッグに困惑している。
多少強引でもかまわない。俺は無理やり彼女の手にアメリカンドッグを握らせた。
「いりません。こんなものをいただいても、困ります」
三十秒ぐらいにらめっこをして、咲夜が先に折れた。
ムッとにらまれるも、俺も引き下がらない。
「それをいわれて、食べたくなると思うんですか?」
なにがやりたかったって、たんなる神座州市とアメリカ合衆国のカンザスシティをかけた、
親父ギャグだろう。
ちょっと大きいってくらい」
返そうとする咲夜に対し、俺は手を引っこめて拒否をする。
「いいから食ってみろって。ちなみに味はなんの創意工夫もない、普通のアメリカンドッグだ。
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はむっと、アメリカンドッグをかじる。
「はぁ……少々、大きくて、食べづらいです……」
不満をこぼしながらも、美少女が太い棒状のものと格闘する姿は、見ていて心が洗われた。
これはエロい……うれしい誤算だ。
「ほっぺたにケチャップがついてる」
「み、見ないでくださいっ」
」
「なめとってあげようか」
「通報しますよ
かわいい女の子を見ると、男の子は元気になります。異論は認めない。
「いや……俺もへこんでて、君を見て、元気もらったから……」
非難がましげな目をむけたあとで、彼女の無表情の仮面にもほころびが生じた。
こらえきれないように、クスッと笑う。
やった、かわいい。
「ありがとうございました……元気づけようとしてくれたんですね」
「普通のアメリカンドッグです。でも……」
咲夜は、胸をなでおろし、ひと息ついた。
「どうだった、味は?」
ちなみにデミゴッドも、罪を犯せば例外なくブタ箱いきになります。
「ふぅ……ようやく食べ終えました」
!?
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あおと
「ああ……どうも俺、神脈に変なもんを抱えこんじまってるらしくてさ」
「碧人さんも……落ちこんでいたんですか?」
譜にいるかを示す言葉だ。
けいふ
神脈……そのデミゴッドが、世界中のどの神の系
デミゴッドが使う神力の、源である。
「俺、ラッキースケベ体質なんだ」
「らき……?」
かんざ
す
けが
言葉の意味がわからないと、首をかしげる。
「女の子と一緒にいると、不可抗力でスカートの中に顔を突っこんだり、胸をもんだりしちま
うんだ……神座州学園の女子にはそのものずばり、『穢れ』って呼ばれてる……」
「それは、また……」
デミゴッドとはいえ、健全な十七歳の男子である。女の子の身体や下着には関心があった。
だけど、この体質のおかげでまともに女の子に近づけなくなってしまった……。
巫女なんて、どこにもいない。
もちろん、俺に仕えてくれる
さくや
夜は背伸びをして、俺の頭をなでてくれた。
ガックリと肩を落とすと、咲
「落ちこまないでください。神脈とデミゴッドの人柄は、あまり関係はないと聞きます」
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声は相変わらず一本調子のままだが、彼女が俺を、元気づけようとしてくれているのは、
はっきりとわかる。
「咲夜……俺のこと、怖くないのか?」
「碧人さんがどのような方であろうと、先ほどわたしを元気づけようとしてくれたのは、真心
によるものと理解しております。であればわたしも、受けた情けに対し、礼を失するようなこ
とはしたくありません」
なでなでなで。
じぃんと、胸のうちに広がる温かい気持ち。
道ばたで女の子になでられるなんて、本来なら気恥ずかしいでは済まないのに、この子にさ
れると、うれしくて動けなくなってしまう。
うあ……頭なでてもらうの……気持ちいい。
心地よさに膝に力が入らなくなりかけていた俺は、そのタイミングで吹いた強い風に、バラ
ンスを崩してしまった。
「おあっ」
つるりと足裏がすべって、身体が宙を浮く。
反射的に伸ばした手が、なにかをつかむ。
しゅるり。
ゴチン、と顔から地面に落ちた俺は、鼻の頭をさすりながら顔をあげた。
白。
―
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ひ
ばかま
袴から伸びる、赤い腰紐。
俺が手に握りしめるのは、彼女の足下までずり落ちた緋
さくや
どうやら俺ってヤツは、転んだ拍子に彼女の袴をつかんで、脱がせてしまったらしい。
「ひゃぁあっ!」
夜が、顔を真っ赤にして動転した。
それまで無表情を守っていた咲
しかし、それも一瞬のこと。
しゆうち
恥の色が消えた。
腰紐に伸びる赤銅色の懐中時計が宙を舞うのを見て、彼女の顔から羞
け が
ずり落ちた緋袴に足をとられ、転びそうになるのもかまわずに懐中時計をキャッチする。
「あぶないっ」
我をしてしまうかも。
このままでは彼女が転んで怪
そう考えた俺は、彼女をかばうべくに、下へと滑りこんだ。
むぎゅっとやわらかな感触が顔面に落ちてくる。
―
後頭部を強かに地面に打ちつけ、星が飛んだ。
視界は暗闇におおわれて、なにがどうなったのか、よくわからない。
この正体は、わかった。
しかし俺の顔面に乗ったもの
尻だ。
」
げ ざ
©2015 早矢塚かつや/庄名泉石/一迅社 無断複製・転載禁止
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パンツに包まれただけの、巫女の、咲夜の尻が、俺の顔の上に乗っかっている。
息ができない……っ!
もがきながらなんとか口を開くと、「ひゃん」とかん高くもあまい声が聞こえた。
なんとか、俺の上からどいてもらわねばと、再び腕を伸ばす。
むにっ。
布越しに謎のやわらかい、二つのものをつかむ。
「や、やぁ……っ」
咲夜の短い悲鳴。
ああ、これは……。
じゆばん
巫女服の下に着る、襦袢越しのおっぱい。
―
「ご、ごめん
とんでもないことをしてしまった……。
あわてて目をそらした。
―
下座をする。
とにかく全力で謝罪の意を表明するために、その場で土
「すまん、事故だっ。わざとじゃないんだっ!」
ど
乱れまくった巫女装束の、しどけない姿を目に焼きつける。
「み、見ないでくださいっ」
咲夜が四つんばいになりながら、俺の上から逃れた。
「いやぁっ!」
―
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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―
殴られるか、蹴られるか、あるいは交番に駆けこまれてブタ箱に連れていかれるか
ああ、なんでこんなことになっちまったんだろう。
一目見て好きになって、せっかく、ちょっとだけ仲良くなれた気がしたのに……。
。
地面に頭をこすりつけながら、俺は自らの運命を呪った。
さくや
夜が走り去ってく
しかし、いつまで経っても殴られることも蹴られることもなく、また、咲
気配もなかった。
おそるおそる、顔をあげる。
咲夜の手は、服の乱れをなおす途中で、とまっていた。
―
を見張る。
俺は、目
じゆばん
袢からのぞける形のよい双丘の谷間が、水色の輝きを放っていた。
乱れた襦
」
「え
呼応するように、俺の胸がジンと熱くなる。
こっちは、緑色の光が、ワイシャツ越しにきらめきだした。
「これ……嘘、そんな」
ばたたかせ、俺をにらんだ。
切れ長の瞳ふをりし
よく
「わたしの巫力とあなたの神力が……引き合ってる……?」
」
えいしよう
©2015 早矢塚かつや/庄名泉石/一迅社 無断複製・転載禁止
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実際の文庫は高画質です。
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「ど、どういうことだ……?」
せりふ
「それはわたしの台詞ですっ! あなた、一体なにをしたんですか
けんまく
幕で詰めよられる。
ものすごい剣
てい
ほうのう
り、口づけだったり……それらによって、巫女はデミゴッドの色に染まり、その身を奉ずるこ
物を捧げることだったり、神楽を奉納することであったり、ともに呪文を詠唱することだった
かぐら
咲夜は、わなわなと震える声で、解説をしてくれた。
「巫女がデミゴッドに仕える際の儀式はデミゴッドによってさまざまです……ちょっとした供
「はい?」
「さっき、あなたにされた、セクハラのせいだと思います」
然自失の体で、咲夜はつぶやいた。
茫
「やっぱり、そういうことなんだよな……どうして、いきなりこんな……」
ぼうぜんじ しつ
「大変です……わたし、碧人さんの巫女に、なってしまいました……」
あおと
身体が一回り大きくなったかのごとく、全身には、力がみなぎる。
「これって……」
次の瞬間、俺と咲夜、二つの胸の輝きが、共鳴するようにひときわ強く光った。
突如目の前の少女と、見えない糸のようなものでつながったことを俺は悟る。
ふ か し
可視の糸を伝って、俺の神力が咲夜の中へと流れていく。
不
ほんりゆう
流となって俺の中に流れこんできた。
反対に、咲夜の膨大な巫力もまた、奔
!?
とになります」
「
『穢れ』させる……?」
涙をためた瞳で、キッとにらむ。
俺のワイシャツにつかみかかりあ、
おと
けが
「つながってわかりました……碧人さんの儀式は、巫女を、『穢れ』させることです……」
「穢れとは……神道においては、死や疫病、出産、月経などによって生じると考えられる不浄
ですが……この場合は、相手が大事だと思うもの奪ったり、決定的なダメージを与えたりする
さくや
ことです」
「つまり咲夜は、今の俺の行為で……」
ふ
りよく
こ
こ
じん
自分の大事なものを傷つけられたと、思ったのだ……。
「でも俺……今までも、限りなく似たようなことを、学園の女子にしてしまったことが……」
「巫力がなければ、巫女にはなれません。それに、個々人によって、『穢れ』を感じさせる尺
度というものは異なりますから」
咲夜は、首が絞まるほどワイシャツを引き寄せていった。
「と、とにかくっ……責任をとってくださいっ!」
第一話 理想の巫女に背中を流してもらう
「責任て……どうすればいいんだ? その……俺にできる限りのことは、するけど」
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―
はつかみかかったまま、まるまる十分くらい、微動だにしなかった。
俺がそう尋ねると、咲か夜
つとう
なにか、ものすごい葛藤に揺れているようで、うかつに声をかけることもできない。
。
しかし、やがて
「決めました」
咲夜は頭を起こし、俺の服から手を放した。
―
その顔にはもはや動揺の色はなく、能面のような表情に戻っている。
いえ、碧人さまの巫女として、お仕えします」
「わたしはこれから、碧人さん
「はい?」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
その場で三つ指をついて頭を下げる咲夜。
「はいぃっ 」
あまりに唐突な事態に、心臓が口から飛びだしそうになった。
みさお
「碧人さまは『責任をとる』といってくださいました。わたしに、巫女としての操を立たせて
!?
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
27
ください」
むらさきめのう
に、それでいいのか?」
瑪瑙のごとき瞳で、こちらを見つめる。
顔をあげ、大きな紫さくや
「お、俺としては、咲夜みたいな娘が巫女になってくれるのは、すげーうれしいけど……本当
家の事情とかなんとか、いっていた気がするけど。
しかし咲夜は、はっきり「はい」と即答した。
俺は自分の頬を引っぱる。
やしろ
つきましては、これから碧人さまのお社でお世話させていただこ
あおと
こんなにかわいい女の子が、俺の巫女になってくれるだなんて、夢でも見ているんじゃない
だろうか。
―
「わかった……えっと、よろしく……」
「よろしくお願いします
うと存じますが、どちらか案内していただけますか?」
「お社って……俺が住んでいる家のことだよな?」
「はい。デミゴッドと一つ屋根の下で暮らし、そのお世話をするのが巫女の習いです」
「そっか……そういやそうだったな。じゃあひとまず、俺んちにいくか」
俺は立ちあがって、家の方向へと歩きだした。
咲夜は、桜の木に立てかけてあったピンク色のトランクを引いて、後ろについてくる。
かんざ す
「神座州学園の学生寮に住んではいないのですか?」
ゴッドは、入寮できないことになったんだ」
学園とは反対方向に海岸線沿いの道を歩いていくと、咲夜が尋ねてきた。ちんじゆ
「俺の年はデミゴッドの人数が多くてさ……神座州学園から二十分圏内に鎮守の地があるデミ
デミゴッドはそれぞれ、鎮守の地と呼ばれる、霊的な縄張りを持っている。
「学園からこんなに近くに、鎮守の地があるのですか」
土地の所有者と話がつけばそこに住むことも可能であり、基本的にみんな無意味にありがた
がったりして許可してくれるため、そういうデミゴッドも多い。
、俺は足をとめた。
五分ほど歩いて
やしろ
「ここが、我が社です」
「こ、これは……!」
咲夜は絶句する。
しおさい
騒の音。
ざぶーんと、背後から聞こえてくるのは、潮
海水浴場の果ての果て。
砂浜の上に建てられたあばら家……それが、俺の現在の寝床だった。
「一応、電気だけは通ってるから」
「電気だけはって……え、水道もないんですか?」
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お試し版はダウンロードしやすいように容量を小さくするためイラストの画質を下げていますが、
実際の文庫は高画質です。
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
29
く
ま みず
んだけ蓄えておく。俺の神脈の属性は、『水』だから……」
たくわ
おおがめ
「水の確保は毎朝海水を汲み上げてきて、俺の神力で真水に変えて、裏の大甕にその日使うぶ
とにした。
他にもいろいろあるのだが、説明はさあ
くや
夜を家にあげる。
からからからと引き戸を開けて、咲
、四畳半の部屋が照らしだされた。
電気を点けると
ちんざ
せんべいぶ とん
座するちゃぶ台と座布団、折りたたまれた煎餅布団、部屋の隅におかれたミ
部屋の中央に鎮
ニ冷蔵庫、一人用の炊飯器と湯沸かしポット、洗濯籠に突っこんだ明日着るぶんだけの服。
り
つくだに
「ここが鎮守の地だってわかった時に、近所の漁師のおっちゃんたちが、なんかありがたがっ
ちんじゆ
……生まれてはじめて見ました」
くらいの庭に招待する。
裏戸を開け、テニスコート半お分
お がめ
「これが、さっきいっていた大甕ですか……とても立派なものですね。それにドラム缶風呂
「お庭があるんですね」
ノリがいいな……海苔だけに。
「風呂は、庭にドラム缶風呂がある。洗い場もあるから、洗濯もそこで」
ひと口味見をした咲夜は、近所のおばちゃんたちの料理の腕前に、感嘆の声をあげる。
「本当です、これはご飯がほしくなります……!」
「この海苔の佃煮は、絶品だ」
の
ちなみに冷蔵庫の脇には、近所のおばちゃんたちに返しそこねている密閉容器がうずたかく
積まれていた。
菜の入った密閉容器が詰まっている。
俺は冷蔵庫の中を見せた。最低限の調味料と、お総
そうざい
ちゃんが不憫に思って、つくりすぎた煮物とかをよく持ってきてくれる」
ふ びん
気を取り直して、咲夜は俺に訊いてきた。
「料理は、バイト先がファミレスだから、そこでまかないをもらっている。あと、近所のおば
は、貫徹させていただきます。食事や洗濯、入浴などはどうしているのですか?」
わない。
べつにデミゴッドと巫女が別居したところで、誰も文句はあい
おと
「いえ……こんなところであきらめたりはしません。一度碧人さまにお仕えすると決めた以上
咲夜は黙りこむと同時に頭を抱えた。
「どうする? その……やめるか」
「してるんだが、実家への仕送りに消えている」
「ば、バイトをするとか……」
「親父が事業失敗して……デミゴッドの奨学金がなけりゃ、高校にも通えなかったくらいだ」
しようがくきん
ものらしいみもあのれはぎ、それくらい……というか、それでもう四畳半の空間はぎゅうぎゅうである。
阿礼木咲夜も、真っ青になっていた。
さすがの御
「寮は無理でも、どこか部屋を借りるとかはできなかったんですか……?」
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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おおがめ
て、この家と一緒につくってくれたんだ。その大甕も、もらいものだな」
あの日ほど、人の温かさに泣いた日はない。
「それと、せっかくだから紹介させてくれ。ここに植えてあるサボテンたちは、俺の大事な家
族だ。右からジョゼフ、アレクサンドラ、エリザベスだ」
し ゆう
「当たり前のように家族としてサボテンを紹介されても困ります……ていうか、ジョゼフだけ
男性名ですが、雌雄があるんですか」
さくや
「もちろんフィーリングだ……だって、はじめての独り暮らしで寂しかったから……」
夜はそれ以上、突っこむことはなかった。
咲
きゆうす
俺たちはい部屋に戻り、ちゃぶ台をはさんですわった。
「お茶を淹れますね」
須でお茶を淹れはじめた。
淡々とポットでお湯を沸かし、持ってきた茶葉と急
「急須で淹れたお茶とか、何年ぶりかなぁ」
ベ……なんか急に、目頭が熱く……。
ヤ
あおと
「碧人さま、どうしてそんなに力一杯、ほっぺたを引っぱってるんですか」
「俺に巫女が仕えてくれるなんて、夢じゃないかと思って……」
俺は、一年前のことを思い出した。
高校受験をあきらめて働く決意をした中三の冬、いきなり俺は、俺がデミゴッドであること
に気がついた。
そのことを親や学校の先生に話したら、いきなり東京の研究所に連れこまれ、いろんな検査
かんざ す
を受けさせられて、神座州学園の入学証を渡された。
その時に聞かされたことだが、たいていのデミゴッドは十六歳を前後にして突然、自分がデ
ミゴッドであることに気づくという。
最初は、なにがなんだかわからなかった。
俺は神になど会ったことがない。
親は幼いころに死んでしまったお袋と、現在求職活動中の冴えない親父で、どっちもごく普
通の人間である。
混乱する俺に、係の人は、時間をかけてゆっくりと教えてくれた。
デミゴッドっていう言葉は、本来、神と人間のハーフ、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスなん
かをさすものである。
りではない。
しかし、俺たちのいる社会では、そのけ限
いふ
たど
俺をふくめた現代に生きる人々は、系譜を辿っていけばどこかで神の血が混じっている、
神々の子孫なんだという。
く受け継いだ子孫、それがデミゴッド。
その神脈を色濃
かくせいい でん
世遺伝ってヤツだ。
まぁつまり、隔
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かくせ い
じん だい
代の神様たちは、所かまわずに自分たちの子孫をつ
明確な記録が残っていないだけで、神
くってしまった。神脈の研究者によると、今やこの世に生まれるすべての人間が、デミゴッド
として覚醒する可能性を秘めているのだとか。
かんざ
す
宝くじにあたったと思って、楽しんでおいで。
現在、この国にいるデミゴッドの数は一万人ほど。
成人くらいになると、ほとんどのデミゴッドは神力を失い、普通の人間に戻るのだという。
―
座州学園にやってきて、一年が経過した。
そういわれて神
巫女さんがデミゴッドに仕える習慣というのには心を躍らせたもんだが、すぐにそれは、一
部の血統書つきのデミゴッドに限られることだと思いしらされる。
ま
じ
め
み
あ れ ぎ
咲夜の実家である御阿礼木神社は、我が国の神社の序列第一位だ。
返す言葉もない。
あおと
りました。そんな時わたしを元気づけようとしてくれたり、ご家族の借金返済に協力している
俺の下品なデミゴッドとしての性質が、彼女を無理やり巫女にしてしまったのは事実だ。
「早とちりをしないでください。わたしは家に決められたデミゴッドに仕えることに疑問があ
「す、すみません……」
かされましたが、わたしは、碧人さまの巫女になってしまったのですから」
「過ぎたことをいっても仕方ありません。たしかに碧人さまの神脈や、この暮らしぶりには驚
「納得って……」
にもかかわらず、その信奉の相手が俺なんかでいいのだろうか……?
「すでに納得しました」
いうなれば、巫女の中の巫女、巫女オブ巫女である。
彼女を巫女にしたいデミゴッドなど、いくらでもいるに違いない。
真面目に、淡々と告げた。
咲夜は生
と まど
惑いをおぼえ、不安になる。
そのあまりにあっさりとした口調に、俺は戸
「も、もう一回同じことを聞くけど……この状況、咲夜にとっては、よかったんだよな?」
き
「夢ではありません。現実です」
って今、世界で一番の果報者かもしれない。
俺
さくや
い
じ み
夜が淹れてくれたお茶は滋味に富み、俺の舌を優しく包みこんだ。
咲
そんな……そんな俺に、ついに……!
起伏のない学園生活を送り、成人になったらデミゴッドの資格を失って、それでもまぁ、な
にもないよりはマシだったなと、そんな風に考えながら社会に出ていくんだと考えていた。
さらにあわせて、彼女らでいうところの『穢
夢は、とっくに覚めたつもりだった。
ッドは、不人気なのだ。
俺みたいに、何者だかわからない神脈のデミけゴ
が
れ』つきで、ホームレス寸前のあばら家暮らし。
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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あおと
という碧人さまのお人柄を見まして、むしろあなたでよかったと、今は思っています」
さくや
す
落ち着いた平坦な口調は、感情がこもっていない棒読みにも聞こえるが、それはうがちすぎ
だろう。
夜の素なのだ。
たぶんこれが、咲
それを証拠に彼女は、かすかに頬を赤らめながら、つけ足した。
「わたしは今、望んでここにいますので、どうか気負うことなどなきようお願いします」
俺は感動のあまり、ちゃぶ台に身を乗りだしてお願いしていた。
「咲夜、抱きしめていいか?」
「イヤです。ダメではなくて、イヤです」
「のーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
と
ぎに庭の洗い場へ出ていった。
「とりあえず、ご飯にしましょうか。準備をしてきますので、碧人さまはそちらでくつろいで
いてください」
咲夜は立ちあがり、巫女服の袖をまくって、お米を研
そうざい
炊飯器で炊いたお米を、冷蔵庫の中に入っていたお総菜で食べるだけの簡素な食事だった。
しかし、目の前に一緒にご飯を食べてくれる人がいる。
はし
は進んだ。
なんとなく、家族と一緒に暮らしていた頃を思い出し、それだけで俺の箸
飯を、三杯もおかわりしてしまう。
普段は茶碗一杯しか食わないご
か い が い
明らかに食い過ぎだったが、甲斐甲斐しくも「おかわり」というごとにご飯をよそってくれ
る巫女がいたら、誰だってこうなる。なるよね?
いた
つ
「今日はご近所の方々のお総菜に頼ることになりましたが、明日の夜はわたしが料理をしま
す」
「なんか至れり尽くせりだな」
「そんなことはありません。碧人さまは一年後の東京ディバインピックで勝ち進み、真なる神
となるお方なのですから」
「え……!」
予想してなかった返しに顔をあげると、咲夜は使命感の炎を静かに燃やしていた。
「がんばりましょう、そして、本物の神になるのです」
うまや
「いやいや、ちょっと待ってくれ。こんなあばら家暮らしで神力も大して持ってないデミゴッ
ドがそんなのに勝ち残れるわけ……」
ぶです」
「暮らしむきはわたしが立てなおします。キリストだって厩で生まれたんですよ、だいじょう
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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「あなた神道でしょう」
じんだい
デミゴッドなんて存在が出てきたせいもあって、宗教とか信仰とか教義とか、ずいぶんとゆ
るくなった時代ではあるけどさ。
代の神の出入りが激しかったようで、デミゴッドの数が他国にくらべて
特にこの日本は、神
異様に多い。
しかも平然とギリシャ・ローマ神話のヴィーナスやら、北欧の主神オーディーンのデミゴッ
ドなんかが現れたりするんだから、神代の日本は俺たちの想像を絶するカオスっぷりだったん
0
0
だろう……黄金の国ジパング伝説は、あながち嘘ではなかったかもしれない。
「洗い物ついでに、お風呂の準備をしてきます」
「はじめて見たドラム缶風呂でもだいじょうぶなのか?」
さくや
「構造はわかります。水を入れて火をおこして、適温になったら、底板を沈めて入浴するんで
すね」
「よく一目でそこまでわかるな……」
夜は戻ってきた。
感心していると、さりとて苦労した様子もなく、咲
「お湯加減、ちょうどいい具合になったので、入ってください」
「咲夜が先に入れよ。長旅で疲れてるだろ?」
「なにバカなことをいってるですか」
ゆ
ぶね
く
咲夜は有無もいわさず、俺の背中を押して、庭へと出る。
服を脱がされ、タオル一枚を腰に巻いた状態で、洗い場のすのこの上にすわらせられた。
「頭と背中だけ洗いますので、目をつぶってください」
船からお湯を汲んで俺の頭にかけた。
巫女服が濡れることもかまわず、湯
水に濡れて、もしかして巫女服が透けてしまうんじゃないだろうか?
心配になってふり返ろうとすると、グギッと頭を押さえつけられた。
「アギャアッ!」
「前をむいててください」
シャンプーを泡立てて、シャコシャコと頭を洗われる。
シャンプーは、咲夜の私物だろう。あまい花の香りが鼻こうをくすぐった。
「潮風のせいでしょうか、髪が傷んでますね」
「いや、もともとクセ毛だから……」
ごしごしと指の腹の部分で、頭皮をマッサージされる。
噂に聞くヘッドスパというのは、こういうものなんだろうか?
なんにせよ、他人に頭を洗われる経験なんてガキの頃以来だ。
むにむにと頭をもまれる感覚が、くすぐったくも気持ちいい。
「どこか、かゆい場所はありますか」
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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「ん……つむじの左後ろのところ」
「ここですか」
かゆい場所をコリコリと優しく刺激され「ふおぉ」ととろける声がこぼれる。
「次はツボ押しです」
「ツボ?」
「デトックスだそうです。えいっ」
は
れんち
ぼんのう
けが
「アーーーーーーーーーーーーーーーッ」
「破廉恥な煩悩を呼びこむ穢れを、ぜんぶ出してしまいましょう」
ぐりぐりぐりぐり。
「け、毛穴っ! 毛穴から出る、でちゃう、でてりゅうううううううううううううううう」
「百会!」
ぎゅるぎゅるぎゅる。
「らめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
脳汁が、脳汁がぁッ!
「以上です。シャンプーを流しますので、目をつぶってください」
ざぱーん。
その後、続けて背中を流してもらい、試しに前もお願いできないかと頼んでみたところ、
きっぱりと断られた。
先ほどと同じく「ダメ」ではなく「イヤ」なのだそうだ。
非常に残念ではあったが、頭皮マッサージにより身も心もスッキリさせられた俺は、邪欲も
ゆ ぶね
すっかりキレイにされたようで、素直に湯船につかっていた。
ああ……初夏の夜空がキレイだ。
夏の大三角……アレガデネブアルタイルベガ……。
「お湯加減はどうですか?」
「うん……最高」
さくや
「着替えとタオルはあちらに用意しておきますので、なにかありましたら、お呼びください」
「あいー」
裏戸の奥に消える咲夜を見送り、俺は全身にいきわたるこの充足感をかみしめた。
りようさいけんぼ
うむ……良妻賢母、ここに極まれり。
夜も更けてきた。
るくらいしかすることがない。
あとはもう、寝
ちんざ
せんべいぶ とん
座するちゃぶ台をどかして煎餅布団を敷く。
部屋の中央に鎮
寝間着姿の咲夜を前にして、俺は宣言する。
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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そ
ね
「ありえません」
」
「俺は添い寝でも、一向にかまわんっっ
さくや
「可能性ゼロですかっ
じ ひ
むしろして」
実家もまた貧乏で、自分の部屋っていうものがなかったのだ。
「妹さんが、いらっしゃるんですか」
も……家だとずっと、妹と同じ部屋で寝てたからさ」
「いや、近くで誰かが寝てるのって実家にいた頃を思い出すから、一人よりも逆に落ち着くか
「碧人さまの御慈悲に感謝します。明日にはどうかしますので」
ご
「寝返りはギリギリ打てるかな」
「問題は、ありませんか?」
正方形の部屋に対角線を引くように張られたハンモックに彼女が寝ると、中央に眠る俺の十
センチ上くらいまでせまる。
十秒の黙考の後、咲夜はハンモックを部屋の中に持ちこんだ。
もつこう
「咲夜だけを外に寝かせてるってことのほうが落ち着かねーよ」
「というよりも、せまいので、碧人さまの安眠を妨害してしまう可能性があります」
あおと
ジ……と横目で見られる。
「エッチなことはしないから!」
「そういう問題じゃなく。部屋の中に張れよ。そりゃ、多少せまいかもしれないけど」
「今の時期ならば、風邪は引きません。多少、身体は鍛えていますから」
きた
同じように種からハンモックを吊すための柱まで巫力で育て上げて、俺の家の前に広げる。
「外で寝るつもりなのか?」
て斜めか垂直に寝るのがポイントです」
「構造がしっかりとしていれば、布団と同様に身体を休めることは可能です。張る方向に対し
「ハンモックなんかで、ちゃんと寝られるのか?」
さらにその蔓は絡み合って、目の細かい網をなしていった。その頃になって俺は彼女がハン
モックをつくろうとしているのだと悟る。
だ。
あれは、ふ呪り文
よく
はつが
力がこめられた種は、緑色の輝きを放って発芽し、急成長。
咲夜の巫
つる
を伸ばしていく。
にゅるにゅると、蔓
戸口から見守っていると、咲夜はぶつぶつとなにかを唱えながら、種をまいた。
月の輝く夜の砂浜。
「おきつかがみ へつのかがみ たるたま」
夜はトランクから取りだしたなにかの種を手に、玄関から表の砂浜に出た。
咲
!!
「二つ年下で、今年受験生だ。さっき咲夜は俺が家族の借金返済に協力してるっていってくれ
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!?
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謝に消えてる」
―
あまね
たけど、それはちょっと違くて、俺の仕送りはほとんど天音
―
あ、妹の名前な
俺と違ってやればできるやつだから、希望する高校に進学させてやりたかった。
「どちらにせよ、ご立派だと思います」
の塾の月
「そういわれると照れるけど……親父は、自分がつくった借金を息子に払わせるわけにはいか
ないって……困ってる時はお互い様だろうにな」
ってもしょうがねぇと思うのだ。
んなことで強が
あおと
だいべん
「わたしには、碧人さまのお父さまの気持ちを代弁することはできませんが……あなたのおう
ちは、とても温かいのですね」
「いや、冬とかすき間風吹きまくって、むちゃくちゃ寒いぞ」
「そういう意味ではなく……いえ、いいです。もう寝ましょう」
「ああ、おやすみ」
こうして、唐突にはじまった俺とかわいい巫女との共同生活の一日目は、幕を閉じた。
第二話 理想の巫女に「あーん」をしてもらう
さくや
翌朝。
「碧人さま、起きてください。学校にいく時間です」
「碧人さまは、将来本物の神となられるお方です。そんなことを気になさる必要はありませ
俺はスマートフォンを取りだし、咲夜と携帯の番号とメールアドレスを交換した。
「けど、わざわざ弁当なんて、悪いな」
「ああ、そういえばまだしてなかったな」
ていきますので、携帯電話の番号を交換していただいてもよろしいでしょうか?」
玄関で尋ねた。ちなみに、今日は金曜日である。
「はい。ですが、編入手続きのために、あとで学園にいく予定です。お昼休みにお弁当を持っ
「咲夜は、来週から学園にいくんだっけか」
すでにハンモックはかたづけられ、朝食の準備もできあがっていた。 みが
昨日の夕飯と同じようなメニューの朝食をとった後、顔を洗い、歯を磨き、制服に着替えて、
登校の準備が整う。
夜に、揺り起こされた。
俺は、赤銅色の時計を握りしめる咲
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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ん」
「それ……本気でいってるのか?」
「本気です。今日は一日、その方法について考えてみたいと思います」
「……まぁ、がんばってくれや」
ディバインピックで勝ち抜けるデミゴッドが何人いるのかも、俺は知らない。
さくや
かんざ す
無理だろうと思って、投げやりにそういった。
「はい。それでは、いってらっしゃいませ」
夜に見送られ、俺は神座州学園にむかった。
咲
南は海に囲まれた地方都市である。
神座州市は、北は山、
か む ら がわ
ましま
―
真ん中を一級河川の神無良川が南北に縦断しており、神座州学園はその河口にある、バカで
かい中州に建てられている。
す州
で、神座州。特徴的でおぼえやすい、いい名前である。
神が坐
か
けられており、多くの生徒はこ
学園からは、神無良川の両岸へと東西に一本ずつ長い橋が架
の橋を利用して学園に通う。
神座州学園は、国際色豊かな学園だ。
日本でさまざまな神話のデミゴッドが出現したのに応えて、やはりさまざまな地域の巫女が
やってきたからである。
ケルトのドルイドやギリシャ・ローマのシビュラ、北欧のヴォルヴァ、インドのデーヴァ、
ふ
エジプトのシャマエイトなどなど……それって本当に巫女か? 的なものもあるけれど、巫
りよく
力を持ち、入学試験を突破したならば、それ以上はなにも問われないらしい。
まぁ、普通の神社も巫女さんをアルバイトで募集してたりするしね……。
学園に通うにあたっては、指定された制服はあるけれど、それぞれの宗派の巫女服で通うこ
とも許可されている。
デミゴッドよりも巫女のほうが人数が多く、制服と巫女服の比率は半々くらいだが、こうし
て橋をぞろぞろと歩いている姿は、あやしい仮装行列と表現せざるを得ない。
東京とは無縁の場所で暮らしていた俺だが、一年に二度、お台場のビッグサイトでは、こん
な呪術的なイベントが行われているとワイドショーで見たことがある。
たしか、東京ディバインピックの開催にあたって、今年と来年は場所を変えるという話だ。
しかし楽しみにしている外国人も多いので、一部大手サークルの『薄い本』は、お台場の公営
カジノで、百万ドルチップの代わりとして利用されるらしい。
つまり、百万ドルを手にしなければ読めない同人誌……。
『コールだ。これが俺の全力全開、完売なの○』
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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『レイズ。東方、ま○マギだ』
『倍プッシュよ。とうらぶとうらぶ黒バ○』
『ドロップ。我輩提督、目当ての艦○れ本を手に入れたから、ここで下りさせてもらう』
……今、考えることじゃないな。
うるわ
かねが さき
口から校舎に入り、教室へむかう廊下を歩いていると、正面に人だかりができていた。
昇あ降
けの
「明乃さま、今月の『ゴディモ』拝見させていただきましたわ」
「どのグラビアも麗しくて……」
「私などは三冊、三冊も購入しましてよ!」
ケ崎明乃だった。
十人くらいの巫女の女の子に囲まれているのは、クラスメイトの金
昨日、放課後に思いっきりおっぱいに顔を埋めてしまったデミゴッドの女の子である。
「オーーーホッホッホッホッ! 当然でしてよ当然でしてよ。なんといってもあたくし金ケ崎
び
しやもんてん
お だ のぶなが
―
杉謙信は毘沙門天のデミゴッドで、織田信長は第六天魔王
たとえば上
魔マーラのデミゴッドといわれている。
た
け じ ざいてん
他化自在天こと天
どうして女子って連れションしたがるんだろ……。
そ ん な こ と を ぼ ん や り 考 え て い て、 自 分 が 彼 女 た ち の 進 路 上 に い る こ と を、 俺 は 失 念 し て
明乃がそう告げると「おともしますわ」「おともしますわ」「おともしますわ」と取り巻きの
巫女もハーメルンの笛吹きよろしくついていく。
どっちもまんまだが……。
「あたくし、ちょっとお花摘みに」
うえすぎけんしん
デミゴッドは人の歴史にちょくちょく介入しており、歴史の教科書に登場する偉人たちは、
俺たちのようなデミゴッドだったという話だ。
取り巻きの巫女たちが、さらに明乃を褒めそやす。
クレオパトラや楊貴妃がデミゴッドだったというのは衝撃の事実と思われるかもしれないが、
マジである。
「かの楊貴妃やクレオパトラもヴィーナスのデミゴッドだったと語られていますものね」
ようき ひ
あー、今日も頭悪そうだな……。
「うぅ、おいたわしいです明乃さま」
求める運命は、愛の鎖であたくしを地上に縛りつけるの……」
しば
美しさが過去に王を惑わし、国をかたむけ、多くの命を奪った……しかしなおもこの美しさを
自信満々に胸を張ると、目測Gカップの巨乳がたゆんと揺れた。
「美しきことは罪なりやと神が仰せならば、あたくしは生まれながらのト、ガ、ビ、ト。この
明乃は、ヴィーナスのデミゴッド! 美の一番星! 美の化身! 美の魔王!」
す
いたようなプラチナブロンドの髪をかきあげる。
かん高い声を廊下に響かせながら、陽光を梳
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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いた。
「道を空けてくださる?」
あけの
い
たけだか
乃は、居丈高にいい放った。
俺の正面で立ち止まった明
仕えている巫女に自分の格付けを見せつけるためというのはわかるが、そんだけ集団引き連
れて、通行の邪魔になってるのはどっちだよ……。
とはいえ、ここで逆らえるほど、俺のデミゴッドとしての地位は高くない。
有 名 な 神 さ ま の 神 脈 を 受 け 継 い だ デ ミ ゴ ッ ド は ち ょ っ と し た ア イ ド ル 扱 い で、 さ っ き 取 り
巻 き の 子 が い っ て い た『 ゴ デ ィ モ 』 の よ う な、 デ ミ ゴ ッ ド 専 門 の グ ラ ビ ア 雑 誌 な ん て も の ま
である。
たぐいまれなる容姿の明乃は、そこで毎月のように特集ページが組まれている。
俺は素直に道を空けて、告げた。
「昨日は、悪かった」
そこではじめて、明乃は俺の顔を認めたようだった。
ヴィーナスのデミゴッドの頬に、赤みが差す。
しかし、それも一瞬のことだった。
「ふんっ」
けが
明乃は鼻息を荒くして通り過ぎていき、あとに巫女たちが続く。
げ
せん
「イヤですわ……朝から『穢れ』と出くわしてしまうなんて、縁起の悪い」
「それにしても、下賤のものは一切相手にしないという明乃さまの超然とした態度……素晴ら
しいですわ」
「たとえば、イヌに裸を見られても、恥ずかしいとは思わないでしょう?」
よしみつ
明乃の得意げな言葉に、取り巻きの少女たちがわいた。
あー、朝っぱらから気分がワリィ……。
まつえ
「マジレスすると、海外の神さまのほうが人気だよね。華やかだし。日本で暮らしてると、
「あはは」と、善光は女の子みたいな笑顔を浮かべる。
「身も蓋もねぇな」
「美人だからじゃないかな」
をかけてきたのは、俺のすぐ前の席の松江善光だった。
声
すがわらのみち ざ ね
原道真のデミゴッドで、くりっとした子犬っぽい瞳が特徴的な、童顔の少年である。
菅
気が優しいやつで、一年の頃から同じクラスだったりしたこともあって、よくつるんでいた。
ちなみに、一つ年上の美人巫女とすでに契約済みである。
かね が さき
「金ケ崎明乃……なんであんなのに大量の取り巻きがついてるんだろうな」
俺は教室に入り、自分の席にすわった。
「おはよう、朝から災難だったね」
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やっぱり珍しいんじゃないかな」
すがわらのみち ざ ね
「華やかかねぇ?」
ひ げ
「菅原道真よりは」
下するわりには、笑顔を絶やさない。
自分を卑
よしみつ
光の強みだろう。
それでも決して軽薄には見えないのが、善
美形ってズルい。
おんりよう
さ せん
「ボクもクラスで指折りの太い神脈だけど、最初は怨霊だしね……その前は政争に敗れて左遷
された役人……それを小学校の教科書で習うんだから、
神秘もロマンもあったもんじゃないよ」
「なんにもわかってないよりはましだよ」
昼休みになった。
―
なんだかイヤな予感がしたが、それ以上は考えないことにした。
……問題を先延ばしにしているだけかもしれないが。
て……ん?
待ってた人が、こなくて……?
「完全に八つ当たりじゃねーか」
悪かったみたいだし」
「まぁ、とりあえず元気だしなよ。金ケ崎明乃さんも、昨日待ってた人が来なくて虫の居所が
かねが さきあけの
北欧神話研究会に所属している晴海さんの熱い視線を感じるんだ。トーロとかオーロとかロ
フレとか、よくわかんない呪文を唱えているのを耳にする。
んでくれないか?」
平然と、屈託のない笑みで告げる。
「おまえのその気持ちはとてもうれしいが、誤解されるかもしれないから、もう少し言葉を選
くつたく
「そうかな、ボクは碧人のこと好きだけど。さっぱりしてて、一緒にいて楽しいよ」
「これのせいで、女子に限らず、男にもいやがられるからな」
た時、泣きそうな顔をするのは勘弁してほしい……。
信奉する対象なのだから、そりゃ当然だろう。
いやまぁ……もうこの際、モテるモテないとかは求めないからさ……一緒の掃除当番になっ
れ』を持ったデミゴッドなどと、周囲に認知されてしまっているのだ。
そのせいで『穢
基本的に巫女は、仕えるデミゴッドに高貴なもの、神聖なもの、美しいものを求める。
けが
「本気でいってるんなら殴るぞ」
デミゴッドの大半は俺のような雑種であり、正体不明のまま年を重ねて神脈を枯らしていく。
そんなヤキモキ感だ。
のわからぬ宝箱を渡されたが、開ける鍵がない
中あ身
おと
「碧人にしかないものだってあるじゃん。ほら、ラッキースケベ体質」
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さくや
夜からのメールの着信を知らせる。
俺の携帯電話が振動し、咲
あおと
『こちらの用事は済みました。つきましては、碧人さまにお弁当をお届けしたいのですが、教
室に伺えばよろしいでしょうか』
『教室には来ないでくれ。中庭があるから、そこで落ち合おう』
そう返信して、五分後。
弁当の包みを手に提げた咲夜と合流した。
緑豊かな中庭で、地面は芝生が張ってあり、生け垣や庭木が陽光を受けて輝いている。
中央には噴水まであった。
「悪いな、わざわざ弁当を持ってきてもらっちゃって」
「いえ、これぐらいは巫女として当然の役目です」
二人でならんで手近にあったベンチにすわり、包みを解く。弁当箱は二つあった。
って、咲夜もここで食べるのか?」
「お邪魔でしたら、帰りますが」
―
「
「んなことはない」
腰を上げそうになった咲夜を、引き止めた。
「一人よりも、二人で食ったほうがうまいもんな」
黒髪の巫女は、きょとんとした表情でこっちを見る。
「あれ? 咲夜って、メシは一人で食いたい派か?」
「いえ、よくわかりません……家では、ずっと一人で食べることばかりでしたので」
いいところのお嬢さまによくある、親は忙しくて家にはいないってヤツだろうか。
「俺に咲夜みたいなかわいい娘がいたら、三食すべてにおいて一緒に『いただきます』と『ご
ちそうさま』をいうのに血道をあげるのにな」
むちゃくちゃ気になる。
しかしそれよりも食欲のほうが勝って、俺は「いただきます」と手を合わせ、ほかほかの炊
き込みご飯を食べた。
一拍の間。
「帰ってからのお楽しみです」
くったんだ?」
「すげぇうまそう。つか、これ手作りだよな……あのガスも通っていない家で、どうやってつ
弁当箱からは炊きたてご飯とおかずの温もりが伝わってきて、思わず「おお!」と感動の声
が飛びだす。
そんな他愛ないやり取りをはさみつつ弁当箱を開けると、ホタテとアサリの炊き込み御飯、
ミニオムレツ、ポテトサラダ、きんぴらごぼうの肉巻きと彩り鮮やかな内容が目の前に広がった。
「お昼はお仕事にいってください」
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はし
魚介の旨味がしっかりとお米にしみこんでいて、一口でほっぺたが落ちそうになる。
「うめぇ」
がとまらず、そのままかきこんで、口いっぱいに味わう。
箸
愛妻弁当ならぬ愛巫女弁当……最高!
「うますぎて、涙が出てきた」
さくや
「さすがにそれはいい過ぎです……」
「そんなことねぇって、咲夜も食ってみろよ」
箱を開けて一口食べる。
いわれると、彼女も俺より一回り小さい弁は当
くちよう
鳥の羽のごとく上下して、キレイだと思った。
箸を使うだけの動作でも、巫女服の袖が白
「……おいしい」
炊き込みご飯を呑みこんでから、咲夜は不思議そうにつぶやいた。
「不思議です……味見をした時よりも、ずっとおいしい……」
「だからいったろ。一人で食うよりも二人で食ったほうがうまいって」
本当に理由がそこにあるのかは俺にもわからないが、咲夜は口もとをゆるめた。
「そういうこと、なのかもしれませんね……人と食べるなんて長らくしていなかったので、こ
そうごう
ういう感じを、忘れていたように思います」
好を崩して、咲夜もお弁当を食べはじめる。
心なしか相
なかなかいい雰囲気だ……もしかしたら、咲夜ともっと仲良くなるチャンスかもしれない。
すると、となりのベンチから声が聞こえてきた。
「シャーリー、あーんで食べさせてよ」
「むー……しょうがないのだ」
メイトのドルイド巫女、シャーリー=アスカ=ウェストさんと、彼女が
あれは、俺のクごラしス
らかわ
信奉する女神の後白河ほのかさんだ。ほのかさんの神脈は、俺と同じく不明である。
―
バカップルで有名な二人だが、そうか、「あーん」か。それは盲点だった。
」
「咲夜、あーんって
言葉の途中で、ばっさりと切り捨てられた。
「絶対にしません」
まぁ、昨日の感じからして、そうだろうとは思ったけどさ……。
しかし、こんなことでめげる俺ではない。
これならばどうだと、逆に俺が咲夜の口もとにきんぴらごぼうの肉巻きを差しだしてみた。
「あーん」
「邪魔です」
目を三角にしてにらまれるが、簡単には引き下がらない。
「あーん」
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さくや
夜は観念して肉巻きを食べた。
なおもその体勢をキープしていると、やがて咲
やったぜ。
「どうだ、普通に食うのとどっちがうまい?」
「……変わりません」
少しに伏し目がちに答える。
「あー、俺のぶんの肉巻きなくなっちゃったなー」
わざとらしくつぶやくと、再びにらまれた。
はし
なんとでも思うがいい。俺はデミゴッドとして、巫女にあーんを要求する!
「はぁ……しようのない方ですね」
でつかみ、俺のほうへとむけた。
咲夜が肉巻きを箸
やった、くるか!
口を大きく開けて俺は待ち構える。
しかし肉巻きは、俺の口をスルーして、弁当箱に入れられた。
しん
そぅ、くそぅ。
く
あおと
「碧人さまは、デミゴッドというよりはダメゴッドですね」
らつな言葉を投げかけられる。
淡々とした口調で、辛
デミゴッドとダメゴッドって、かかってるようでかかってないしな。
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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さくや
夜の表情がどこかうれしそうに見える。
しかし、目の錯覚だろうか? 咲
「ほめ言葉として受け取っておこう」
けが
不敬罪で死刑になるべきだわ」
中庭のベンチはみんなのもんだろと思うが……俺も、少々うかつだった。
自身の格付けに敏感な上位のデミゴッドたちは、縄張り意識も強いのだ。
なんだそれ。
かしら?」
面倒なことになりそうな予感がして、俺は自分の陰に咲夜を隠した。
豊満な胸をぷるんとゆらして、明乃が俺たちの前に立つ。
「そこはいつも、あたくしたちが使っているベンチですのよ。誰の断りを得てすわっているの
不機嫌な表情で明乃たちをにらみつける。
「さっき名乗ってたろ。ヴィーナスのデミゴッド、金ケ崎明乃って……」
「何者ですか、あの失礼な一団は」
見事なプラチナブロンドの髪をなびかせる金ケ崎明乃と、彼女の取り巻きの巫女たちがぞろ
ぞろとこっちへやってくる。
「げ」
「明乃さまに対する不敬よ!
「いいえっ、たしかにそのような妄言を発していましたわ」
たような気がするのですが、あたくしの空耳かしら?」
明乃をさしおいて、そこの穢れたクズデミゴッドがディバインピックに勝ち残るなどと聞こえ
あけの
するとふいに、横からやかましい声が聞こえてきた。
かねが さき
「みなさんも聞きまして? この愛と美の権化であるヴィーーーーナスのデミゴッド、金ケ崎
しれっとした表情で、それが当然のことのように咲夜は告げる。
「オーホッホッホッ! 七月になると、おもしろい声でさえずる鳥が渡ってくるのですね!」
「碧人さまが神となられる、その日まで」
「それ、いつまでいい続けるんだ?」
れでもうちょっと愛想がよければなぁ……。
こ
あおと
「碧人さまは来年のディバインピックに勝ち残り、本物の神となられるお方ですから」
咲夜の頭をなでようと手を伸ばして、しかし、さっと避けられる。
「その修練の成果を浴することができるだけで、身にあまる光栄だ」
けです」
「たかがポテトサラダで大げさな……炊事、洗濯、料理などは巫女として修練を積んでいただ
完璧巫女だ!」
俺は、再び自分の弁当を食べはじめた。
「このポテトサラダもイモがクリームみたいにまったりとしてて、絶品だ……咲夜は完璧だな。
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さくや
かんざ す
座州学園らしい揉め事である。
いかにも、神
「悪い、今すぐどく」
夜の袖をつかみ、立とうとする。
咲
が、しかし。
あおと
「待ってください、碧人さま。ここで引き下がってはいけません」
あけの
咲夜は逆に俺の腕をつかんでベンチにすわらせた。
ぶ じよく
「あなたがご自分の神脈に自信があるのは結構ですけど、碧人さまのことをクズと侮辱したそ
の暴言を聞き逃すわけにはいきません」
乃のあいだに立ち、普段よりも一オクターブ低
膝に乗せていた弁当箱を閉じ、咲夜は俺と明
い声で詰めよった。
「謝罪してください、碧人さまに」
ふ りよく
刃のごとき鋭い眼光で威圧され、明乃は一歩だけ後ずさる。
「あたくしに刃向かうとは……見かけない顔ですわね。加えて、その身からにじみでる膨大な
つ
巫力……あなた、名前は?」
……ふぅん、そう……そういう態度でくるの」
「無礼なデミゴッドに尽くす礼儀も、名乗る名もありません」
―
「なっ
明乃は、唇の端をつり上げて笑った。
「おとなしく頭を下げて謝れば、あたくしの巫女にしてさしあげようと思いましたのに」
「謝るのはあなたのほうです。勘違いしないで」
咲夜と明乃は、にらみ合い、バチバチと火花を散らす。
「ちょ、咲夜さん……?」
「それがなにか?」
とりなすように俺が彼女の手を引く。
その名を聞いて、明乃が目を見開いた。
み あ れ ぎ
「咲夜ですって……? もしかして、あなたが御阿礼木咲夜ですの?」
あっさりした肯定に、ヴィーナスのデミゴッドは、口もとをひきつらせる。
かねが さき
「それがなにかではありませんわ! 金ケ崎明乃、あなたはこの名前に聞きおぼえがあるはず
でしてよっ!」
「さぁ……そんな気もしますけれど、はてさて」
咲夜はわざとらしく首をかしげる。
じ だんだ
団太を踏んだ。
明乃はこんな屈辱はないと顔を真っ赤にして、その場で地
「むきーーーーーーーーーーーーーっ! 御阿礼木家の姫巫女、咲夜! あなたは昨日づけで
あたくしに仕えると家同士の約束で決まっていたはずでしょうっ! 御阿礼木の巫女だから礼
つ
儀を尽くしてさしあげようと待っていましたのに、まさかの待ちぼうけ!」
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あけの
「ああ、おいたわしいですわ明乃さま……」
み
あ れ ぎ
「とんがり帽子をかぶり、手作りスフレとビンゴゲームで歓迎会の準備をしていましたのに」
さくや
「いくら御阿礼木の巫女とはいえ、調子に乗りすぎですわっ」
夜にむける。
明乃の取り巻きの巫女たちも、一斉に敵意の視線を咲
うわ、どうしようこれ……。
なんとかこの場を丸くおさめる方法はないかと頭を悩ませるものの、咲夜はそんなのどこ吹
く風と、涼しげな顔をしている。
―
もごっ!」
「しかもそれだけならばまだしも、あたくしの巫女なるはずのあなたが、こんなクズデミゴッ
ドの巫女になっただなんて
あおと
咲夜の手が伸び、明乃の口を無理やりにふさほいごだ。
「二度もいいましたね……あなたとの約束を反故にしたことは、わたしの責任です。謝れとい
われれば、謝りましょう。ですが、碧人さまをクズ呼ばわりするいわれはありません」
咲夜の指先が明乃の頬に食いこむ。
「いひひ、いひゃい、いひゃいでふわ!」
きた
明乃の手が咲夜の腕をつかむも、放す気配はない。
「見かけによらず、すごい力あるんだな……」
「巫女たるもの、毎朝の境内掃除で鍛えてますから」
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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あけの
さくや
乃を解放するべく動こうとするも、咲夜はそれらをひとにらみで封
取り巻きの巫女たちが明
じてしまった。
「お、おこですの……?」
「あの瞳、人のそれではありませんわ……鬼か修羅のものですわ……」
さすがにこれはマズいと、俺は立ちあがった。
「咲夜、手を離せ」
「ですが」
「手を離せ。俺の巫女なら、いうこと聞いてくれるだろ」
渋々と、咲夜は明乃を解放し、手を下ろす。
「野蛮人ッ」
―
」
赤な跡を残された明乃は、瞳に涙を浮かべ、咲夜から距離をとった。
頬に真っ
えいしよう
唱すると、彼女の右手に集まった神力が、銀色の剣を形成する。
呪文を詠 ぶ じよく
「このような侮辱を受けて、黙っているわけにはいきませんわ。少し、痛い目を見てもらいま
すわよっ」
咲夜に斬りかからんとする明乃。
「ま、まてっ! こっちにそこまでする意思は
俺は二人のあいだに割って入る。
あおと
「碧人さま、邪魔です」
ろに下がらせられた。
すると咲夜に服の袖を引っぱられ、すぐに彼女のほ後
こさきすず
しゃらんと音をたてて、咲夜の巫女服の袖から鉾先鈴が抜き放たれる。
―
鉾先鈴とは巫女が祈祷や舞いの時に使う採り物の一つだ。
短剣の鍔にあたる部分に、鈴が取りつけられている。
きようじや
たい
やつかのつるぎ」
「凶邪を罰し、平らげませ
ぐ ろう
応し、再び鈴の音が響いた。
呪文に呼
ふ りよく
咲夜の巫力が鉾先鈴の鍔より放出されて、刃渡り十五センチほどの刃がたちまち七十センチ
の直刀となる。
キィンッ!
明乃の斬撃を、咲夜は難なく受けとめた。
交差する光の刃をはさんで、二人はにらみ合う。
「巫女の分際で、あたくしに逆らうなんて……!」
「わたしが仕えるべき人はただ一人です。それを先に愚弄したのは、あなた」
咲夜は力をこめて、明乃を押し返した。
「おきつかがみ へつかがみ」
ふ りよく
力で、地面の芝が輝く。
呪文を唱えると、その身体から発せられる巫
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あけの
乃の手足に絡みついた。
緑色の草がすばやく伸びて、明
「くっ」
み あ れ ぎ
靱で、
きようじん
ヴィーナスのデミゴッドは千切ろうと引っぱるが、たかが草の葉一枚が縄のごとく強
その細腕に食いこむばかりである。
あおと
「神の助力もなしに、巫女一人でこれほどの巫力とは……さすが御阿礼木の姫巫女といったと
ころですわね」
ど げ ざ
「余計なことはいわなくていいです。黙って、碧人さまの前にひざまづいてください」
下座させるかのように引っぱる。
草がぎゅっと明乃の四肢をしめ上げて、土
「おもしろい……怒りをとおり越して、おもしろくなってきましたわ」
ばって、くつくつと笑いだした。
明乃は踏ん
さくや
「御阿礼木咲夜……今謝るのなら、特別に許してさしあげてもよくってよ。あたくしの巫女と
して、仕えることを許してあげる」
「たとえ家がどのような約束を交わしていようと、わたしはもう碧人さまにこの身を捧げると
決めました。許しなんていりません。求めているのはあなたの謝罪です」
巫力をこめられた草は、さらに強い力で土下座を強要する。
しんふ いつたい
神巫一体して、一気にけちょんけちょんにしてやりますわよ」
咲夜はあせった様子もなく、先ほどと同じ呪文を唱えた。
つる
が伸びる。
今度は地面の芝だけでなく、近くの生け垣や庭木からも葉や蔓
「ちょこざいですわっ!」
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しかし、明乃は屈することなく、踏みとどまった。
「ふ、フフフ……アハハハハハハハハッ! あなたたち聞きまして! これほどの屈辱、もう
許しませんわ!
「
「
「イエス! オーマイ、ゴッデス!」」」
せいかん
静観していた明乃の巫女たちの巫力が、彼女らの主人のもとへと流れこんでいく。
とたん、明乃の神力が爆発的に膨れあがった。
いや、それだけではない。
―
られている。
五人の巫女の巫力も増大し、彼女らの手には明乃と同じ銀色の剣が握りしひめ
ようい
契約した巫女とデミゴッドのあいだにのみ許される、相互憑 依状態だ。
神巫一体
明乃は銀色の剣を地面に突き立てる。
―
感覚を共有することでデミゴッドの神力と巫女の巫力とはかけあわさり、それまでの数十倍
いわば、デミゴッドと巫女の戦闘モードだった。
の力を発揮できるようになる
次の瞬間、何十本もの刃が、地面から生えでた。
明乃は黄金のオーラを立ちのぼらせて、四肢を捕らえていた草を引きちぎった。
膨大な神力で、身体能力も強化されている。
「おきつかがみ へつかがみ」
うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
69
さくや
を、天へと伸びる刃が、ことごとく切断していく。
むち
彼女と彼女の巫女を襲おうとした植物の鞭
「うわっ!」
夜がいきなり、俺を胸に抱いて飛び、背後のベンチに乗った。
咲
けんざん
っていた場所が剣山のごとく刃におおわれるのを見て、助けられたのだと悟る。
俺たちがあ立
けの
乃の……ヴィーナスのデミゴッドの力。
これが明
がくぜん
然とした。
目の当たりにして、俺は愕
海岸であばら家暮らしをしていた俺とは、住む世界が違う。
「オーッホッホッホ! 格の違いを見せつけられて驚いているようですわね! さぁて咲夜さ
ん、最悪の相性のあたくしにどうやって刃向かうつもりなのかしら!」
明乃が、かん高い笑い声を響かせる。
「最悪の相性って、どういうことだ?」
がつぶやくと、咲夜は深いため息をつく。
俺
あおと
そうしよう そうこく
「碧人さまはまだ、五行の相生・相剋についてご存じないのですか」
「スマン……」
「嘘よ、ちゃんと知ってるはずですわ! 一回生の必須科目なんだから、やってないはずがな
いでしょうっ!」
明乃からの鋭い突っこみ。
咲夜は、再び俺を腕に抱いて空中に身を躍らせた。
刃の動きに同調して地面から突き出た刃が、ベンチを両断する。
「うぉっ」
明乃は得意げな表情でその手の剣を振るった。
『木』のあなたでは勝ち目がありませんわ」
強な俺を脇において、話は先に進められる。
しかし、不き勉
んこくもく
「そして、金剋木。鉄の刃は木を傷つけて切り倒す。強力な『金』の属性であるあたくしには、
咲夜は肩をすくめた。
あれ? 完璧なたとえだと思ったんだけど、まだなにか足りないのだろうか?
「……今はそれでいいです」
「なるほど、
『こうかはばつぐんだ』とか『こうかはいまひとつのようだ』ってヤツだな?」
とになります」
に、水剋火といえば、水は火を消し止める。水の属性は火の属性を弱める相剋の関係というこ
すいこくか
木は燃えることによって火を生ずる。木の属性は火の属性を強める相生の関係となります。逆
と、授業中眠いんだよぅ……。
すみません……遅くまでバイトとかやっふてりる
よく
もくせいか
「五行の相生・相剋というのは、神力と巫力の属性の関係性を表した図です。木生火といえば、
咲夜がウジ虫を見るような視線を俺にむける。
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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ドを守護する理由が」
か い が い
ふ
りよく
げんすい
「理解できませんわね。あなたほどの巫女が、甲斐甲斐しくもそんな出がらし神脈のデミゴッ
「あなたにわかってもらう必要はありません」
「
『金』属性のあたくしに仕えることで、あなたの巫力が減衰するのをイヤがったのかしら?
そうしよう そうこく
た し か に そ の 男 は『 水 』 の 属 性 で も あ る と い う か ら、『 木 』 の あ な た と は 相 性 が い い の で
しょうけれど」
さくや
「属性の相生・相剋で仕える神を決めるほど落ちてもいなければ、下衆でもありません」
夜は俺を地面に下ろし、輝く巫力の直刀をかまえなおした。
咲
「ああそう、まぁなんでもよろしいですわ。それよりもあなた方が、この包囲をどうやって突
あけの
破するのかが気になりましてよ」
乃の巫女に囲まれていた。
いつの間にか、俺たちは明
みな、その手に銀色の剣を装備し、切っ先を俺たちにむけている。
だこれ。
完全に袋だたきの構図
あおと
「どうしましょうか、碧人さま」
かたわらの咲夜が、訊いてくる。
は裏腹に、あまり「どうしよう?」とは思ってなさそうだった。
言葉と
いんと う
「あの淫蕩デミゴッドがいったように、今のわたしではこの場を制圧することは難しいと思わ
れます」
「あれほどやめろっていったのに、咲夜からケンカを吹っ掛けたんじゃないか……」
「申し訳ございません。ですが、碧人さまをバカにされて、黙っていられませんでした」
「う、ぬ……」
そうこられると弱い。
俺も、クズだのゴミだのといわれて喜ぶマゾではないしな。
ていうか、かわいい。
そこまで俺のことを想ってくれていたなんて、なでなでしたくなる。
「巫女の頭をこっそりなでようとしてる場合ではありません」
ぐ ろう
「いでででで、わかったから、つねらないで」
ごう
「どこまであたくしたちを愚弄すれば気が済みますの……!」
俺たちのやり取りに、明乃は業を煮やしている様子だった。
いかん、このままだと本当に八つ裂きにされそうだ。
ど げ ざ
ここで土下座をして見逃してもらうという選択肢は、俺のためにあそこまで怒ってくれた咲
夜の想いを踏みにじるようで、気が進まない。
あおと
しんふ いつたい
「なんとか切り抜ける方法は……」
「碧人さま、我々も神巫一体をやりましょう」
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お試し版はダウンロードしやすいように容量を小さくするためイラストの画質を下げていますが、
実際の文庫は高画質です。
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72
うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
73
「え、できるのか?」
「わたしはあなたの巫女です。どうしてできないと思うのですか。集中して、わたしとあなた
さくや
」
が最初につながった時のことを思い出してください」
夜がはじめてつながった時……?
俺と咲
おしりと……おっぱい……?
「いてぇっ!」
脇腹をつねられた。
「そこは思い出さなくていいんです」
「なんで考えてることわかったんですかっ
「鼻の下が伸びきってました」
そいつはさーせん。
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ま みず
せいぜいが、海水を真水に変えられるくらいの、ちっぽけな神力。
それが次の刹那、咲夜から流れこんでくる巫力によって、グンと膨れあがった。
昨日の夕方と同じだ。
身体がグンと拡大したような錯覚。
がみなぎる。
力
しんふ いつたい
《神巫一体となったデミゴッドと巫女は、互いの神力と巫力、五感を共有し、テレパシーで通
じ合えるようになります》
咲夜の口が動いていないのに、彼女の声が頭に響いてきた。
なるほど、これがテレパシーということか。
《ちなみに、しっかりと気を引き締めておかないと相手に考えていることが筒抜けになってし
まいますので、気をつけてください》
マジ?
《はい。へぇ、ふぅん、目測Gカップですか。そんなにあの淫乱デミゴッドの巨乳が好きなん
ですか? 死んでください。死んで詫びてください》
「いや、ちが、違うんだっ!」
《人の胸を、あんな風にさわっておいて……》
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して身体の外側へと放った。
俺は咲夜にいわれたとおりに、自分の神力をオーラあと
けの
乃のように剣を召喚することもできない。
咲夜のように草木に干渉することもできなければ、明
「こうか?」
わたしのことを受け入れてください」
しかしですね……俺も健全な男子なのですよ。
ふ りよく
「難しいことではありません。契約者同士の神力と巫力は引き合います。神力を放出しながら、
!?
74
うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
75
》
それまでのテレパシーと異なり、その一言はヤケに小さく、チューニングの合っていないラ
ジオ音声みたいにノイズ混じりで聞こえた。
「え、今のって……」
さくや
《な、なにか聞こえましたかっ
げき
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と の
かみ
く ず りゆう
「
「
「イエス! マイゴッデス!」
」
」
明乃は笑っていた。
「このくらいはしてもらわないと、張り合いがありませんわ。みなさん、いきますわよっ」
ころかしらね」
俺らのまわりを、分厚い水の壁がおおう。
え とく
「十人力の咲夜さんの力を借りて、ようやくまともなデミゴッドの神力を会得したといったと
咲夜が詳しい解説をしてくれるが、ややこしいので水竜でいきます。
水竜は、巫女の一人を背後から突き飛ばして、俺と咲夜を守るようにとぐろを巻いた。
に帰依した竜神の概念が流入してきた背景があるので、だいたい同じものなんですけどね》
《夜刀ノ神や九頭竜など、我が国においては信仰の体系化により零落した土着の蛇神に、仏教
や
蛇ってしちゃうと、悪ものっぽさが増しちゃうもんな……ただでさえ、まわりの巫女たちに、
怖がられて引かれてるのに……。
《水竜と名づけよう》
それはまるで巨大な蛇か、東洋の四神の一つとしてあげられる青龍とでも形容したくなる姿
をしていた。
十メートル以上離れたところにある水が、まるで自分の身体の一部のように、意のままに動く。
噴水の水が、渦を巻きながら猛烈な勢いで俺のもとにむかってきた。
中庭の中央にある、噴水だ。
こい、と念じた。
なんとかしなきゃ。
そう考えたとたんに、俺は水の気配を察知した。
「
「
「イエス! マイゴッデス!」
」
」
白銀の刃を閃かせて、巫女の少女たちが殺到する。
乃が、舌なめずりをして、巫女たちに檄を飛ばす。
俺たちの臨戦態勢が整うのを待っていた明
「あなたたち、かかりなさい!」
あけの
かけている、余裕はない。
だが、そのことを気しに
んふ いつたい
「ふふん、ようやく神巫一体をしましたわね。そうこなくっちゃですわ」
夜の、珍しく取り乱した声。
咲
彼女の頬は、かすかに赤くなっていた。
!?
76
うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
77
―
「
くっ」
俺は水竜を操り、その尻尾や頭の部分を振るって、巫女たちを近づけまいとした。
しかし、五感を共有し、テレパシーでつながり合っている巫女たちの動きは一糸乱れぬ統率
で水竜の攻撃を回避し、ここぞというところですばやく斬りこんでくる。
水竜は実体を持たない水の身体だが、彼女らの刃はその身体をつなぎ止める神力を切り裂い
ていった。
刃を振るわれるたびに肉塊や血飛沫の代わりに水が飛び散って、水竜の身体はみるみるうち
に削り取られ、小さくなっていく。
加えて、こちらの大振りな攻撃は相手にかすりもしなかった。
りゃ、戦法を変えなきゃジリ貧だ。
こ
あおと
「碧人さま……」
夜がしなだれかかってきた。
さくや
俺があせっているところに、咲
顔色はすぐれず、額に大粒の汗がにじんでいる。
「咲夜 」
「も、申し訳ございません……わたしもはじめてのことでして……」
「どういうことだ?」
「碧人さまから流れこんでくる神力を制御できません。どころか、
内側からわたしを……んんっ」
しんどう
けが
苦しそうに表情をゆがめた。
そうしよう
「んふふ、どうやら相性が悪かったようですわね。『木』と『水』は相生の関係だけど、なん
あけの
せ新堂碧人は『穢れ』た神脈ですものねぇ……」
すだけの明乃が、声をあげて笑った。
巫女たちに指示を飛ごば
う
の深い神脈なんだ俺は。
くそっ、どんだけ業
―
とにかくも、今すぐ咲夜は動けそうにはない。
ここは、俺一人の力で切り抜けるしかなさそうだ。
。
なんとかしなきゃ、なんとか、方法は
俺と咲夜を守るべくまるまった水竜の身体は、すでに半分以下の体積になっていた。
尻尾や長い胴体を振るえば、敵の攻撃の手をゆるめることはできるが、明乃に仕える巫女の
数は五人。一人を足止めするうちに四人に攻撃されては、時間稼ぎもたかがしれる。
もっと全方位に攻撃できるようなイメージへと水竜の形態を変化させるべきかとも思うが、
おそらく間に合わないだろう。
えは浮かばない。
自問しても、いまいみ答
ず
今まで海水を真水に変えるぐらいのことしかしてこなかったクセに、いきなり実戦だなんて、
俺と咲夜の守りが手薄になったところを、攻められて終わりだ。
どうする?
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!?
無理があったんだ。
あけの
海水を、真水に変えることができるなら……。
ん……いや、待てよ…ら…
ち
「守ってばかりでは、埒があきませんわよ!」
乃が自らも銀色の剣を振りかざして、巫女たちの戦線に加わる。
明
った。
彼女の一刀は、他の巫女よりも明らかに強烈えだ
ぐ
りとられて、水はたんなる水へと戻り、地面に
さくや
水竜の身体を走る神力の回路がごっそりと抉
散る。
夜を囲うだけの水の壁となり果てていた。
もはや水竜は、俺と咲
文字通り手も足も出ないところへ、敵の斬撃が降り注ぐ。
数秒と保たず、水の壁は弾けるように決壊した。
飛び散る水が、巫女たちの巫女服にふりかかる。
しかし彼女たちも、濡れたくらいでひるんだりはしない。
剣を頭上にふりあげて詰めより、とうとう俺と咲夜を刃に捕らえた。
その時。
バサバサバサッ。
―
うるせぇ、なんとでもいえ!
「咲夜は俺の巫女だ! 家同士の約束がなんだろうが、絶対に渡さんッ!」
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突然、五人の少女たちの巫女服が地面に落ちた。
その柔肌が、白日の下にさらされる。
「いやああッ!」
」
なにが起こったのかわからず、彼女たちは剣を捨てて、胸と股間を隠してその場にしゃがみ
こんだ。
「な……なにをしましたのっ
正面の明乃が問う。
じゆばん
」
!?
「やろうと思えばできた! たぶん、咲夜の『木』の巫力のおかげだろうけどな」
は れんち
「この、女の敵! 破廉恥デミゴッド!」
ふ りよく
「植物繊維だけを溶かす溶解液など、そんな都合のいいもの……
綿生地の巫女服や下の襦袢はひとたまりもなく、観察してみれば、彼女たちの足
基本的に木
下の着物は強酸を浴びたかのごとく、ところどころ穴があいて、ボロボロになっていた。
もめん
どうやら、ギリギリのところで水をかわしたようだ。
せんい
「俺たちを守っていた水の成分を、植物繊維だけを溶かす溶解液に変えさせてもらった」
他の巫女の女の子たちがすっかり下着姿になったのに対し、彼女だけはなんともなっていな
かった。
!?
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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しんふ
いつたい
「くぅ~~~っ! 致し方ありませんわ、いったん引きますわよ」
あけの
乃は屈辱に唇をゆがめ、五人の巫女の少女たちを逃がし、自身も退散していった。
明
「なんとか、難を逃れたか……」
がひと息つくと、神巫一体も解けた。
俺
さくや
夜とのつながりが途切れると、増幅していた俺の神力も、一気にしぼんでいく。
咲
「平気か、咲夜」
彼女の顔色は、すでに元通りになっていた。
俺に上半身をあずけていあた
おと
「はい。お見事でした、碧人さま」
問題はないようだ。
首を縦に振って、俺から離れるは。足取りにきも、
ちく
しよ ぎよう
「あの場で、婦女子の服だけを剥ぐという鬼畜な所業を思いつく機転、それを実行する心胆
……お見それいたしました」
「ほめられているんだか貶されているんだかわからんな……」
「一体、神脈にどれほどの闇を抱えていれば、こんな破廉恥な方法が思い浮かぶのか……それ
けな
ともその破廉恥な品性がたたって神脈が曇ったのか……」
「うん、やっぱり貶してるよな」
咲夜はペコりを頭を下げた。
「調子に乗りました。申し訳ございません。ただわたしも、神巫一体の際に動けなくなるなど
というのは、あまりにも意外でしたので……神力でつながった瞬間に、イメージを見ました」
「イメージ?」
「広い大海原を、葉でできた船でただよっているのです……とても心細く、強い孤独を感じて
いました」
「それは、あまり愉快なイメージじゃないな……」
それが、俺の神脈となにか関係があるというんだろうか。
「何度か試していれば、神巫一体は慣れると思います。碧人さまの神脈を探る手がかりになる
かもしれませんし、後日、特訓することにいたしましょう」
「特訓ねぇ……」
「はい。ローマは一日にして成らず、千里の道も一歩から。今日ここから神としての、碧人さ
まの第一歩がはじまるのです」
正直いって、ピンとこないし、巫女としてそのたとえはどうなんですか……。
「それはそれとして、騒ぎを聞きつけた教職員の方々に説明をするのも面倒です。ここは退散
をいたしましょう」
「それもそうだな……」
周囲を見まわすと、まばらではあるが、俺たちに視線が集まっていた。
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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いさか
いは珍しくはない。
この学園で、デミゴッド同士の諍
」
あ
れ ぎ
全員に、親の仇を見るような視線をむけられたことは、いうまでもない。
儀な性格なのかもしれないな……。
なんにせよ、早く咲夜に会いたい。
「ルンタッタ、ルンタッタ~……あ?」
どんな感じかな。 あおと
人さま、ご飯にしますかお風呂にしますかそれともわ、た、し……的な
お帰りなさいませ碧
展開を期待したいところだが……まぁ、それはないか。
俺は面倒ごとに捕まる前に、さっさと家路についた。
あんなあばら家だが、咲夜が待っていてくれる。
そう思うと、足取りはいつもよりも軽くなった。
あれで律
りちぎ
しかし咲夜がいないところで俺を倒してもしょうがないとでも思っているのか、にらむばか
りで放課後になっても突っかかってくることはなかった。
その後、俺は校門のところまで咲夜を見送り、教室に戻ってから、食べかけの弁当をつついた。
あけの
乃たちが教室に戻ってきたのは五時限目も目前にせまった頃で、取り巻きの巫女たちは新
明
品の巫女服にその身に包んでいた。
俺は咲夜の手を引いて、中庭を抜けだした。
「しないよ。それよりも早くいこう」
みてはいかがでしょうか」
ばい……これは、噂になっちゃうかもしれないな。
や
あおと
「碧人さま、ここで一言『ディバインピックで勝って、俺は本物の神になるのだ』と宣言して
「御阿礼木って、あの御阿礼木神社の姫巫女
たか……?」
「それよりもあの巫女の子、むちゃくちゃかわいいんですけど……御阿礼木とかいってなかっ
み
「あの男のほう、誰だ? ヴィーナスのデミゴッドに勝っちまったんだけど……」
けが
「よく女子更衣室の扉をぶち破る『穢れ』だろ?」
中庭を出ようとすると、俺たちの騒動を遠巻きに見ていた生徒たちの声が聞こえてきた。
はいえ、現行犯となれば時間を取られることは間違いないだろう。
と
さくや
夜との貴重な時間を、そんなことに浪費するわけにはいかない。
咲
みな、巫女の目を気にして格付けを気にするのでしょっちゅうケンカをするのだ。
そこらへんのところ、教師陣も理解しているので、よほどのことがなければ見逃してもらえる。
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!?
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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かんざ す
座州海岸の果ての果て。
神
俺が住んでいたあばら家が、なくなっていた。
代わりに、木造二階建ての一軒家がある。
表には『海の家 ウォーターツリー』の看板。
周囲をほどよく彩る観葉植物の数々。
がくぜん
さくや
軒先には丸テーブルとイスがならべられており、喫茶スペースができていた。
「なんじゃあぁこりゃあっ!」
然としていると、裏手から咲夜が顔を出した。
愕
いつもどおり、ツンとした無表情である。
「お帰りなさいませ、碧人さま」
ものすごくナチュラルにむかえられて、俺は、ほっぺたを引っぱっていた。
夢でも見てるんじゃないだろうか。
目を覚ましたら、まだ六時間目の授業中で……。
「どうしましたか碧人さま。そんな寄生獣にパラサイトでもされたみたいにほっぺたを伸ばさ
れまして」
「なんか、俺の家がたった半日のうちに海の家になっているように見えるんだが……」
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「見えますか。ご安心ください、その目は正常です」
「なんでだよっ!」
「ひとまず家の中にお入りください。話はそれからです」
咲夜は俺のカバンを手に持って、家の奥へとうながした。
い
畳張り六畳の居間にとおされた。
風呂があり、トイレがあり、水道を引いた台所がある。
「人間の生活空間だ 」
「そのとおりです」
せりふ
もはや、カボチャを馬車に変えるレベルの魔法だ。
「神座州山から木を切り出して、森に住む精霊たちにも協力してもらいました」
詞を平然と口にする。
メタっぽい台
そういうことは、思ってもいわなくていい……。
「リフォームっていうか、完全に建て替えだよなこれ……一体どうやったんだ?」
だきました」
は、読者に対しての申し訳も立たない気がしたので、誠に勝手ながら、リフォームさせていた
台所で沸かしたお湯で、お茶を淹れてちゃぶ台の上におく。
「さすがに、トイレにいきたくなったら徒歩十五分のコンビニにいくという生活のヒロインで
!?
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うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
87
かんざ す
「フットワーク軽いな、森の精霊……」
座州市は霊場なので、そういうのがいることは知っている。
神
し えき
ただ、雀の涙ほどしかない俺の神力では、そうした存在をこれまではっきりと感じ取ること
はなかった。
「木や植物に関する精霊でしたら、手順を踏めば使役できるよう訓練を積んでおります。下は
あおと
ちんじゆ
木霊から、上はダイダラボッチまで……人海戦術でとりかかれば、三時間ほどでどうにかなり
ました。さすがに、神座州の地の精霊は優秀です」
「いや、おまえほどじゃあるまい……」
「それほどでもありません」
ほめると、かすかに彼女の顔が明るくなったように見えた。
「けど、勝手に木を切ったり、家を増築したりしてよかったのか?」
「それは、関係各所に許可をとってきましたので、ご心配なく。家の増築も、碧人さまの鎮守
の地の範囲内です。わたしという巫女を手に入れて、領地が拡大したようですね」
「そういうもんなのか……ということは、水道の工事なんかも……?」
「田舎の人たちは、頼みにいったらすぐに来てくれて助かります。都会だったらこうはいきま
せんでした」
「その金は?」
家を建てるのは、森の精霊たちのおかげで、かかってないのはわかったが……。
「わたしの貯金を切り崩させていただきました」
当然のことのように告げる。
「それは……受け取っちまっていいのか?」
「デミゴッドと巫女は運命共同体です。気になさることはないかと」
「んー……」
「気になるようでしたら、碧人さまが土地を出し、わたしが家を出したという認識でいかがで
しょうか?」
なるほど、それならまぁいいか。
アップさせるための最大の近道は、信仰者を増やすことだと判断しました」
咲夜はいつもどおりの平坦な口調で説明してくれた。
「碧人さまが東京ディバインピックを勝ち抜いていくには、今の神力では不可能です。それを
さくや
「神と海の家……まるでつながらないんだが」
住居を改善したいだけならば、表の『海の家 ウォーターツリー』の看板の意味がわからない。
「碧人さまを、神にするために」
しかし、これではまだ半分だ。
「どうして、海の家なんだ?」
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「信仰者を、増やす……?」
うしちち
「神の力は信者の力です。それはデミゴッドにも当てはまります。なぜあのヴィーナスの牛乳
写真集などで全国に彼女のファンを持っていることが関係しています」
かねが さきあけの
「そ、そうだったのか……でも俺、あいつに勝っちゃったよね?」
夕飯にはまだ早いが、ちょうど小腹のすいてる放課後の時間帯。
かくせい
熱々の湯気を顔面に浴びたとたん、全身がラーメンの塩っ気と脂っ気を求めて覚醒しはじめた。
「いただきます」
おまけに美少女巫女がつくってくれた一品。
爪に火を灯すような貧乏暮らしでは、月に一度の楽しみとして滅多に食べることのできな
かったラーメン。
咲夜は立ちあがって台所に下がり、ラーメンの載ったおぼんを手に戻ってきた。
「おー、ラーメン!」
てみたので、味見をしていただきたいのですが」
こうと思います。そうでした、先ほど、メニューとして出そうと考えているラーメンをつくっ
無表情ではあるが、彼女の決意の固さを感じる。
「料理はわたしがふるまうことにして、碧人さまには神力をこめた御守りづくりをしていただ
咲夜はずいと顔を近づけて、宣言した。
さくや
「いかせるのです」
「それ……うまくいくかなぁ?」
に、海難防止の御守りなどを販売します」
人さまの存在を知ってもらうのが手っ取り早いと考えました。海の家でお食事を出すのと一緒
まだいまいちつながらない。
「単純な理由です。昼間、海水浴に多くの人が来ているのを見まして、そこのみなさまに、碧
「そこで……海の家か」
たはずですし、ここは一刻も早く、碧人さまに力をつけていただく必要があります」
俺は内心で明乃を見直した。
「次やって純粋な力比べとなった場合、我々に勝利はありません。今日のことで目をつけられ
なんだかんだで、あの取り巻きたちを大事にしてるんだな……。
は、自分の巫女を気遣ってのことでしょう」
破廉恥水って……もしかしてそれ、俺の技名になっちゃいますか?
「あのまま碧人さまとの一騎打ちになれば、敗北していたのはこちらです。そうしなかったの
水をかわして、まだ戦える状態にあったのですから」
すい
「勝ったというよりは、見逃してもらったというべきでしょう。金ケ崎明乃自身はあの破廉恥
は れんち
デミゴッドがあそこまで大量の神力を抱えているかといいますと、囲っている巫女の数の他に、
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はし
を手に持ち、まず麺を一口食べる。
箸
ってマズッ 」
―
「
さくや
夜って料理が下手なのか?
咲
細な味わいで、美味しかった。
!?
その肩をつかんだ。
俺は咲夜の正面にすわって、
ぶ じよく
「咲夜、それは食材に対する侮辱だ。二度とこんなものはつくってはいけない」
「ですが、海の家のラーメンはあの絶妙なマズさがいいと、どこかで聞きかじりましたので」
「いや、普通にうまいラーメンをつくろうぜ」
した」
ちょっと、お料理スキル高すぎるのも問題ですねっ
「 普 通 の 食 材 を 用 い て、 普 通 に つ く る の に 不 味 い 食 事 を つ く る と い う の は な か な か の 手 間 で
「わざとかよっ!」
あの弁当がつくれて、ラーメンだけが鬼のように不味いというのもおかしい。
「いかがでしょうか。
海の家のなぜか異様に不味いラーメンというのを再現してみたのですが」
いや、昼につくってきてくれた弁当は、とても繊
せんさい
謎の粉っぽさが胸をムカムカさせ、俺はこみ上げてくる嘔吐感を必死にこらえた。
「な、なんだこれ……!」
口の中に広がる、デロデロのブヨブヨにふやけた麺の食感。
!?
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92
うちの巫女が一番かわいい! 試し読み版
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「わたしは、なにかを間違えてしまいましたか……」
こえた。
無表情ながら、声のトーンはやや下がったようにけ聞
わ
「なかなか、海の家のラーメン道というものは、険しいのですね」
さくや
「そこに『海の家』はつけなくていいから。ラーメン道をいってくれればそれでいいから」
夜は少し残念そうに、不味いラーメンをかたづけようとする。
咲
俺は、それをとめた。
「待て。それ、食う」
「え?」
「せっかく、咲夜がつくってくれたんだ。それに、食い物を粗末にするのはよくない」
俺はどんぶりを引き寄せて、再びラーメンを食いはじめた。
…まぁ、騒ぐほどではない。
不味いじがす…
い
炊して、失敗した時の三割増しぐらいのひどさだ。
俺が自
食べていると、急にそのどんぶりを、咲夜が自分のほうへと寄せた。
ラーメンをズルズルはと
し
をすっと奪い取って、もう片方の手にはレンゲをかまえる。
さらに俺の手から箸
なにをする気なのかまったくわからなかった。
「咲夜も、腹がすいていたのか?」
「違います」
彼女は、麺を箸ですくうとレンゲの上に載せて、俺のほうに差しだした。
その意図が読めず、俺は硬直する。
「……あーん」
咲夜は頬を赤らめ、今にも消え入りそうな声で、いった。
聞き間違えではないかと思い、なおも動けないでいると、彼女はレンゲをさらに俺の口もと
まで近づけて、今度ははっきりと告げた。
「あーん……してください」
俺は、レンゲをくわえるようにして、ラーメンを、食った。
麺は、相変わらず不味い。
しかし咲夜は、俺の口の中が空っぽになったのを見計って、次なる一口を持ってくる。
どんぶりの中がスープだけになるまで、それはくり返された。
「昼はいやがっていたのに、なんで急に……」
俺は、どんぶりをかたづけようとする咲夜に尋ねた。
彼女は、むこうをむいたまま、つぶやく
「……お礼です」
「お礼? 俺、なんかしたっけ?」
©2015 早矢塚かつや/庄名泉石/一迅社 無断複製・転載禁止
お試し版はダウンロードしやすいように容量を小さくするためイラストの画質を下げていますが、
実際の文庫は高画質です。
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色んな意味でのライバルたちが増えて、
咲夜の心配ごとは増えていき……
山での課外授業、碧人と咲夜は二人の共
通の友人たちの意外な光景を目にしてし
まい、碧人は大興奮、咲夜は自失。
半神と巫女の関係を意識した二人は……
奇妙な縁で出会った碧人と咲夜。
二人の仲の行き着く先は!?
結婚してないけど咲夜はうちの嫁!
どの女神よりうちの巫女が一番可愛い!
早矢塚かつやが贈る、ベタ甘バカップル・
ラブコメディ、5/20 発売予定!
「うれし、かったので……俺の巫女だと、いってくれたこと……」
新たな美少女(デミゴッド)たち。
のほうへと消えていく背中。
台さ所
くや
せりふ
夜がどんな表情で今の台詞をいったのか……確認できなかったことを悔やんで、俺はその
咲
日、なんにも手がつかなかった。
このあとも碧人の前にゾクゾクと現れる
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