森林簿を利用した淀川流域圏のバイオマス量算定

森林簿を利用した淀川流域圏のバイオマス量算定
○河嶋
峻寛
(大阪大学)
近藤
明
(大阪大学)
加賀
昭和
(大阪大学)
井上
義雄
(大阪大学)
戸部
達也
(大阪大学)
多田
将晴
(大阪大学)
町村
尚
(大阪大学)
1. は じ め に
2. 森 林 簿 の GIS化
わ が 国 の 国 土 面 積 の お よ そ 3分 の 2は ,
2-1 森 林 簿 の 整 備
多 様 な 樹 種・林 種・林 相 か ら な る 森 林 が さ
森林簿は各都道府県が管理しているも
ま ざ ま な 自 然 的 条 件 ,社 会 的 条 件 の 異 な る
の で ,そ の 記 載 項 目 や 方 法 は 統 一 さ れ て い
地 域 に 分 布 し て い る .こ れ ら の 森 林 は 木 材
な い .し た が っ て 流 域 圏 で 共 通 の 形 式 に す
資 源 の 供 給 源 の み な ら ず ,生 態 系 の 中 心 を
る と と も に , 1林 班 (1ポ リ ゴ ン )の 情 報 を
なすとともに様々な公益的な機能を持っ
1行 に 整 理 し た . こ れ に よ り GIS上 で の デ
て い る .し た が っ て ,森 林 の 適 切 な 保 全 ・
ータの表示,比較が容易になった.
管理による森林資源の持続的利用が重要
2-2 ベ ク タ ー デ ー タ ベ ー ス の 構 築
課題となっている.
① 図 面 (空 間 )デ ー タ の 入 力
近 年 ,森 林 の 状 況 や そ れ を と り ま く 環 境
実世界の要素である林小班や河川をコ
に つ い て リ ア ル タ イ ム に 把 握 し ,社 会 に わ
ンピュータの情報として表現したもの
かりやすく公開することが求められてい
が フ ィ ー チ ャ で あ る .一 部 の 地 域 で 林 班
る .そ こ で 地 理 情 報 シ ス テ ム (GIS)は 各 都
のフィーチャが作成されていなかった
道府県が所有している森林簿のデータベ
為,入手した紙地図から作成した.
ー ス と し て ,適 正 な 管 理 施 策 を 行 う 為 の 空
②属性データの入力
間 解 析 ツ ー ル と し て ,そ し て 森 林 情 報 の 共
森 林 簿 の 情 報 が 属 性 デ ー タ で あ る .各 林
有化の手段として大変有用であると認識
班のデータを樹種や材積といったフィ
されるようになってきた.
ールドにまとめた.
本 報 で は ,淀 川 流 域 圏 に お け る 森 林 簿 の
③図面データと属性データの結合
GIS化 を 行 い , 整 備 さ れ た デ ー タ か ら 流 域
図面データと属性データを固有の識別
内の森林バイオマス量を算定した結果を
子 (林 班 コ ー ド )に よ っ て 結 合 し た .
報告する.
表 1 整理した森林簿例
FI D
S h ape *
林班コ ード
面積
材積
平均樹齢
代表林種
人工林 天然林
その他
代表樹種
スギ
ヒノキ
アカ マツ
2952 Polygon
82424イ
36
4824
50 天然林
20
80
0 その他広葉樹
11
10
5
2953 Polygon
82424ウ
12
2941
43 人工林
80
15
5 ヒノキ
32
44
13
2954 Polygon
82424エ
24
4518
47 天然林
27
73
0 アカマツ
47
2955 Polygon
82424オ
6
1199
51 天然林
44
56
0 その他広葉樹
2956 Polygon
82424カ
1
291
49 人工林
53
47
2957 Polygon
82425ア
8
1931
49 人工林
55
2958 Polygon
82425イ
24
7585
65 人工林
78
2959 Polygon
82425ウ
27
3463
47 天然林
18
2960 Polygon
82425エ
32
3791
54 天然林
13
6
19
17
27
20
0 ヒノキ
1
52
30
45
0 ヒノキ
18
37
27
19
3 スギ
60
19
15
82
0 その他広葉樹
14
4
0
87
0 その他広葉樹
7
6
0
図 1 淀川流域圏周辺の樹種分布
図2 淀川流域圏周辺の樹齢分布
2-3 GISで の 森 林 デ ー タ 解 析
600
上 述 し た よ う に 入 力・保 存 さ れ た 森 林 情
は 空 間 的 な 検 索 が 可 能 で ,必 要 な 情 報 の み
を 選 択 し て 地 図 に 表 せ る .例 え ば 滋 賀 県 内
材積(㎥/ha)
報 を 解 析 し ,主 題 図 を 出 力 し た . GIS上 で
500
400
300
200
100
に 成 り 立 つ 60 年 生 以 上 の ス ギ 人 工 林 の 主
0
0
題図といったものが可能となる.
50
100
150
林齢(年)
3.
図3 ヒノキの材積と林齢の関係
樹種別バイオマス量の算定
3-1 幹 現 存 量 の 算 定
樹 木 の バ イ オ マ ス 量 は 幹 現 存 量 (バ イ オ
治体の定める立木材積表に基づいており,
マ ス 量 )に 葉 , 枝 , 根 の 現 存 量 を 足 し た 値
土 壌 や 傾 斜 に 応 じ て 3段 階 に 区 分 さ れ て い
と な る .こ の う ち 幹 現 存 量 ( t / h a ) に つ い て ,
る為とわかった.
森 林 簿 に 記 載 さ れ て い る 材 積 (m3/ha) か ら
求めた.
次に材積に密度をかけて幹現存量を算
出 し た が , こ こ で 式 (1)1)を 用 い た .
まず林班ごとに樹種別の材積を面積で
BD =
ρ o × 100
ド を 追 加 し た . こ の 材 積 と 林 齢 (year)か ら
(100 + 28 × ρ o )× 10 3
林 齢 に よ る 材 積 の 関 係 (図 3)が 得 ら れ た .
BD(kg/m3):基 礎 密 度 (basic density)
あ る 林 齢 に 対 し て 3段 階 の 材 積 の ば ら つ き
ρo(g/m3):全 乾 密 度 *(oven-dry density)
が 見 ら れ る が ,こ れ は 森 林 簿 の 材 積 が 各 自
*
割 り ,単 位 土 地 面 積 あ た り の 材 積 フ ィ ー ル
(1)
約 103℃で 恒 温 に 達 し た 全 乾 材 の 密 度
表2 樹種の基礎密度
3
ρo(g/m )
スギ
ヒノキ
マツ
他針葉樹
広葉樹
0.350
0.400
0.470
0.470
0.600
500
BD(kg/m3)
319
360
415
415
514
400
全現存量(t/ha)
樹種
300
200
100
0
表 2は 求 め た BD 値 で あ る が , 広 葉 樹 は 共
0
50
通の値を使用した.
100
150
林齢(年)
3-2 全 体 現 存 量 の 算 定
図5 スギの林齢による全現存量
先 に 求 め た 幹 現 存 量 の 値 を 用 い て 葉 ,枝 ,
500
根 の 各 部 分 の 現 存 量 を 算 出 し た .算 出 に あ
400
分比を林齢別に表した曲線や表を参考に
し た .し か し ,木 材 の 指 標 と な る 幹 現 存 量
に比べ他の部分についての資料は少なく,
幾つかの文献から最適な値を用いた
1)-4)
全現存量(t/ha)
あ た っ て は ,樹 木 の 現 存 量 の 各 部 分 へ の 配
300
200
100
.
0
0
100%
50
100
150
林齢(年)
80%
60%
葉
枝
40%
400
幹
全現存量(t/ha)
全現存量に対する割合
図6 ヒノキの林齢による全現存量
500
根
20%
300
200
0%
0
10
20
30
40
50
60
70
100
林齢(年)
0
0
図4 スギの現存量配分比
図7 マツの林齢による全現存量
現 存 量 の グ ラ フ と し て プ ロ ッ ト し た (図 5
5)
と呼ば
れ 、 式 (2)で 表 さ れ る .
(2)
200
全現存量(t/ha)
∼図 8).次 に グ ラ フ に 近 似 曲 線 を 追 加 し た .
WV = 全 現 存 量 ( t / h a ) , x = 林 齢 ( a g e )
150
250
これまでの算定結果を林齢に対する全
WV = m1 {1 − m2 exp(− m3 x )}
100
林齢(年)
3-3 バ イ オ マ ス 曲 線 の 作 成
この曲線はミッシャーリッチ関数
50
150
100
50
0
0
50
100
150
林齢(年)
図8 広葉樹の林齢による全現存量
(2)式 のm1,m2,m3 が 樹 種 に よ り 定 ま る 変 数
で ,樹 種 と 林 齢 か ら 全 現 存 量 が 推 定 さ れ る .
表 3 各 樹 種 の m 1 , m 2 ,m 3 値
樹種
スギ
ヒノキ
マツ
他広葉樹
クヌギ
m1
m2
m3
135.306
95.970
89.547
76.475
41.205
1.498
1.680
1.733
1.380
1.303
0.0448
0.0513
0.0467
0.0393
0.0565
図9 淀川流域圏周辺の樹種別および
4. 結 果 と 考 察
総 バ イ オ マ ス 量 (千 t)
本 研 究 で は ,ま ず G I S で の 森 林 簿 整 理 を
実測を行って求めた値であり実測に労
行 っ た が ,地 図 上 に 反 映 さ せ な が ら デ ー タ
を 要 す る .し か し 林 齢 を 回 帰 式 に 代 入 し 材
を 参 照 で き る 為 ,容 易 に 視 覚 的 な 状 況 把 握
積及び現存量が把握できると便利である.
が 可 能 で あ る と 実 感 し た .森 林 簿 の 整 理 が
今回求めた式では地質や疎密度による
うまく行われれば情報の更新も手間がか
成 長 の 違 い が 反 映 さ れ て お ら ず ,林 分 単 位
か ら な い 為 ,こ れ か ら の 森 林 管 理 に お い て
で み る と 実 際 と 離 れ た 値 と な る .一 つ の 樹
重要な役割を担うと思われる.
種にたいして複数の式が必要であろう.
今回バイオマス量を算定するにあたっ
て 基 に し た 森 林 簿 の 材 積 は ,各 林 分 に お い
参考文献
て い く つ か の 樹 を 選 び ,胸 高 直 径 や 樹 高 の
1) Miki Fukuda, Toshiro Iehara and Mitsuo
Matsumoto: Carbon stock estimates for sugi
and hinoki forests in Japan, Forest Ecology
a n d M a na g eme n t , 1 8 4 , 1 - 1 6 ( 2 0 0 3 )
2) 只 木 良 也 ・ 蜂 屋 欣 二 : 森 林 生 態 系 と そ
の 物 質 生 産 , 林 業 科 学 技 術 振 興 所 (1968)
3) 佐 藤 大 七 郎 : 陸 上 植 物 群 落 の 物 質 生 産
Ia-森 林 -, 共 立 出 版 48-67 (1970)
4) 吉 良 竜 夫 : 陸 上 生 態 系 −概 論 −, 共 立
出 版 88 (1975)
5 ) H . N a g u mo , M . M i n o w a : l e c t u r e o f M o d e r n
F o r e s t r y 1 0 - F o r e s t me a s u r e m e n t Tikuyu-sya 243 (1990)
図 10 淀 川 流 域 圏 に お け る 単 位 面 積
あ た り の バ イ オ マ ス 量 (t/ha)