2015 年度

2 年次演習 シラバス(15 回)
講
義
名
2 年次演習(加賀山)
テ
ー
マ
解釈方法論をマスターするための判例・事例演習
科
目
名
民法判例・事例演習
講
義
期
間
2 年次 春学期
担
当
者
名
加賀山 茂
校地・曜日・時限
横浜・火曜日・4 限(15:05~16:35)
法解釈方法論(拡大・縮小解釈,勿論解釈,反対解釈,類推解釈,
例文解釈をどのように使い分けるべきか)をマスターする。このた
め,事案に適用すべき法律,法原理について,グループ単位で判例・
授
業
概
要
事例等の検討結果を報告し,学生同士,講師との間で議論を行う。
毎回,予習で分からなかったこと,演習でそれが解決できたかど
うか等についてのリアクションペーパーを提出することを義務づ
けるほか,グループ(3 名以内)で判例・事例等を検討し,報告し,
その成果をまとめたレポートを最後に提出することを義務づける。
複雑な事案に適用すべき条文の発見,その妥当な解釈を通じて,
学
習
目
標
問題解決の方法を会得し,問題解決策をアイラック(IRAC(DVD
教科書 13-14 頁参照)
)で表現できるようになること。
授
業
計
画
以下の順序で授業を行う。
イントロダクション・法解釈の方法論
法解釈の必要性,重要性について,「車馬通行止め」というルー
第
1
回
(04/08)
ルを例にとって,文理解釈,拡大・縮小解釈,類推解釈,反対解釈,
例文解釈等の具体的な解釈方法の意味とそれぞれの解釈方法を分
かつ原因となる法政策的判断,体系的整合性の考慮について概観す
。
る(DVD 教科書 11-13 頁)
憲法 76 条 3 項(すべて裁判官は…この憲法及び法律にのみ拘束さ
れる)の意味を考える(DVD 教科書 11 頁)
。
家族法判例百選第 1 事件(最二判昭 44・10・31 民集 23 巻 10 号
第
2
(04/15)
回
1894 頁:子に嫡出性を付与するための婚姻の効力)を題材として,
この事件に適用されるべき憲法の条文と民法の条文とを探し出し,
婚姻の成立,婚姻の有効・無効について,どのような解釈をすべき
かを考える。
なお,判例研究の報告は,すべて,以下の順序で行う。その上で,
学生同士,講師との間で議論を行う。
1
1.事案の概要
2.判旨
3.関連判例および関連学説
4.グループの結論(IRAC による)
文理解釈,勿論解釈の例
陶久利彦『法的思考のすすめ』
〔第 2 版〕法律文化社(2011)で
一貫して取り上げられている最二判昭 38・12・20 民集 17 巻 12 号
1708 頁(家族法判例百選第 19 事件:若い男女の三角関係のもつれ
事件)をよく読んで,以下の問題点について考察する。
1.婚姻予約には,どの条文が適用されるのか。
2.判例は,婚姻予約についてどのような判例を積み重ねている
第
3
回
か(家族法判例百選第 20~23 事件を読んで検討すること)。
3.予約(民法 556 条)と本契約とはどのような関係にあるのか
(04/22)
(加賀山茂『契約法講義』日本評論社(2009)40-41 頁,423-426
頁参照)。
4.予約と契約交渉段階における過失の問題(民法判例百選Ⅱ第
)とはどのような関係にあるか。
3 事件(契約交渉破棄における責任)
5.A と B が婚約中に,B が C との間で不貞行為を行った場合,
A は C に対して,損害賠償請求ができるかどうかを考える(家族法
判例第 10 事件(夫と通じた者に対する妻の慰謝料請求権)参照)
。
原則と例外(1) 立法意思の探求
民法 93 条(心裡留保)は,以下のように規定している。
「意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたとき
であっても,そのためにその効力を妨げられない。
ただし,相手方が表意者の真意を知り,又は知ることができたと
きは,その意思表示は,無効とする。
」
第
4
(04/29)
回
この条文の立法趣旨は,本文が原則で,ただし書きが例外とされ
ていたのかどうか,以下の視点で考えてみよう(加賀山茂『現代民
法 学習法入門』信山社(2007)68-72 頁参照)。
1.意思表示の最初の箇所に規定されている心裡留保,虚偽表示,
錯誤に共通する点(共通の法概念)は何か。
2.心裡留保が有効となる場合,無効となる場合の要件は何か。
3.有効となる理由は何か。無効となる理由は何か。
4.民法の理論として,本文とただし書きのうち,原則はどちら
で,例外はどちらだろうか。
2
原則と例外(2) 列挙された中にある原則の発見
民法 770 条(裁判上の離婚)の規定と以下の事例を読んで,以下
の点を検討しなさい(DVD 教科書 24-27 頁)
。
「X は,夫 Y から度重なる暴力を受けており,離婚したい。しか
し,Y は,暴力をふるった後は,反省の意を表し,X からの離婚請
第
5
回
(06/06)
求には応じようとしない。X は,裁判上の離婚を請求しようとして
いるが,条文上の根拠は何であろうか。
」
1.民法 770 条 1 項 1 号~4 号の規定は,2 項において,効果が
生じない場合があることが規定されている。それに対して,第 5 号
は,常に効果が生じるとされている。このことの意味は何か?
2.民法 770 条 1 項の 1 号~4 号に挙げられている事項は,裁判
上の離婚の要件となっているか,要件でないとすれば,それはどう
いうものか。
原則と例外(3) 特別法は一般法を破る,一般法は特別法を補完する
次の事例について,民法の条文を適用して解決してみなさい
(DVD 教科書 21-24 頁)
。
「Y さんは,X から,通信販売で iPad を購入した。代金は,1
第
6
回
(05/13)
週間使ってみて,不具合がないかどうか確かめてから支払うことに
なっている。Y さんは,忙しい日が続いて,銀行に行く暇がないの
で,集金に来て欲しいと思っているが,集金に来るように請求でき
るか。代金の支払場所について規定している条文を見つけた上で,
Y さんは,どこで支払うべきかを明らかにしなさい。
」
ヒント:①売買代金の支払場所を規定する条文を見つける。
②「各論で駄目なら総論に戻る」を実行してみる。
反対解釈 (1) 典型例としての民法 96 条 3 項
「A さん宅に,『使わないでしまっているゲームソフトがあるな
ら高く購入する』という業者 B がやってきて,玄関に上がり込み,
断っても,いろいろな理由を付けていっこうに帰ってくれない。し
第
7
(05/20)
回
まいに,『ゲームを死蔵していると良くないことが起こる,命の保
障はない』などと脅されて,結局,人気ゲームソフトを 1 万円で売
却した。しかし,6 カ月後に思い直して,恐る恐る業者に契約の取
消しを伝えたところ,すでに,事情を知らない第三者 C さんに転売
してしまったという。このゲームソフトを取り返せないか。」これ
が,強迫による意思表示に該当する事例と考えた場合,
「A さんは C
さんに対して,ゲームソフトの返還を請求できるか。
」
3
この問題を,民法 96 条 3 項「前 2 項の規定による詐欺による意
思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができない」の解
釈によって解決するには,どのような解釈をすべきか。
反対解釈(2)安易な反対解釈は危険(抵当権の消滅時効)
民法 396 条(抵当権の消滅時効)第 1 項は,以下のように規定し
ている。「抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,その担
8
第
回
(05/27)
保する債権と同時でなければ,時効によって消滅しない。」この反
対解釈として,「抵当権は,債務者又は抵当権設定者でない者に対
しては,その担保する債権と同時でなくても,時効によって消滅す
る」とする理解がある。しかし,このような反対解釈は危険である。
その理由を述べなさい(DVD 教科書 59 頁参照)。
類推解釈 (1) ポピュラーな類推解釈(民法 94 条 2 項)と問題点
不動産の転々売買の場合に,判例によって民法 94 条 2 項の類推
解釈が盛んに行われ,善意の不動産購入者が登記を経ていないにも
かかわらず保護されている。しかし,民法 94 条 2 項の類推解釈を
9
第
回
(06/03)
推し進めると,総則の規定が,物権法の根本法理に優先するという
倒錯した現象が生じてしまう(加賀山茂『契約法講義』日本評論社
(2009)113-117 頁参照)
。
このような現象はなぜ生じているのか。権利外観法理を具現化し
た民法 94 条 2 項と不動産物権変動の対抗要件を定めた民法 177 条
とは,どのような関係にあるのか。
類推解釈(2)危険な類推解釈(民法 478 条の類推解釈)
民法判例百選Ⅱ第 37 事件(最一判昭 59・2・23 民集 38 巻 3 号
445 頁
(預金担保貸付けに対する民法 478 条の類推適用:銀行勝訴)
)
を読んで,預金担保貸付は,本来,表見代理に関する民法 110 条が
適用されるべきである(銀行に善意・無過失の立証責任がある)。
それにもかかわらず,現代語化前の民法 478 条の類推適用を行うこ
第
1
0
(06/10)
回
と(消費者が銀行の悪意又は有過失を立証しなければならない)は,
消費者保護の観点からは,非常に危険であること,なぜ,銀行をそ
こまで保護しなければならないのかについて,立証責任の考え方を
含めて,議論を行う。
その後,民法の現代語化によって,民法 478 条が改正され,民法
478 条を適用しても,民法 110 条の場合と同様,銀行が自らの善意・
無過失を立証しなければならないことになった(加賀山茂『現代民
法 学習法入門』信山社(2007)161-163 頁参照)
。
4
このため,あえて,民法 478 条を類推適用することが無意味にな
ったことを,民法判例百選Ⅱ第 38 事件(最三判平 15・4・8 民集
57 巻 4 号 337 頁(ATM による預金の払戻しと民法 478 条:銀行敗
訴)
)を読んで確認する。
例文解釈 (1) 民法 612 条の制限的解釈
民法 612 条 2 項は,賃借人が無断譲渡・転貸をした場合には,賃
貸人は賃貸借契約を解除できる旨定めている。それにもかかわら
ず,以下の 2 つの判例を代表として,判例は,一貫して,背信行為
と認めるに足りない特段の事由がある場合には,賃貸人は賃貸借契
約を解除できないという,条文の明文の規定に反する判決を下して
いる(DVD 教科書 27-30 頁)
。
・最二判昭 28・9・25 民集 7 巻 9 号 979 頁
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益をな
第
1
1
回
(06/17)
さしめた場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信
的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは,本条に基づく
解除権は発生しない。
・最一判昭 41・1・27 民集 20 巻 1 号 136 頁
土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に
転貸した場合においても,賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行
為と認めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は民法 612
条 2 項による解除権を行使し得ない。しかしながら,かかる特段の
事情の存在は土地の賃借人において主張,立証すべきものと解す
る。
)
法律の条文と全く逆の解釈はいかにして可能なのだろうか。
例文解釈 (2) 民法 613 条の前払の反対解釈の制限的解釈
民法 613 条 1 項は,以下のように規定している。
「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は,賃貸人に
対して直接に義務を負う。この場合においては,賃料の前払をもっ
第
1
2
(06/24)
回
て賃貸人に対抗することができない。
」
1 項 2 文について,学説・判例は,反対解釈によって,賃料の後
払いについては,賃貸人に対抗できると解している。
しかし,賃貸人が直接請求しているにもかかわらず,転借人がこ
れを無視して,転借料を賃借人に支払っても賃貸人に対抗できると
いうことになれば,賃貸人の直接請求権を認めた意味がなくなって
しまう。
5
それでは,この場合に,反対解釈は許されないのか,どのような
解釈をするのが適切なのだろうか(加賀山茂『契約法講義』日本評
論社(2009)332-336 頁参照)
。
総合問題 (1) 反対解釈とその制限(民法 511 条)
民法 511 条(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の
禁止)は,以下のように規定している。
「支払の差止めを受けた第三債務者は,その後に取得した債権に
よる相殺をもって差押債権者に対抗することができない。」これを
反対解釈すると,「差押えを受けた第三債務者〔債権者であり,か
つ,第三債務者である銀行〕は,その後に取得した債権でなければ,
第
1
3
回
(07/01)
それまでに取得している貸金債権(自働債権)と預金債権(受働債
権)による相殺をもって,差押え債権者(例えば租税債権者である
国)に対抗できるということになる。
民法判例百選Ⅱ第 42 事件(最大判昭 45・6・24 民集 24 巻 6 号
587 頁(差押えと相殺))は,反対解釈を採用したのであるが,学
説の多くは,この判例を行き過ぎであると批判している。それはな
ぜなのか。相殺適状説,修正相殺適状説,制限説(最大判昭 39・
12・23 民集 18 巻 10 号 2217 頁)と対比しながら,判例と学説の
解釈方法の変遷を辿ってみる(加賀山茂『契約法講義』日本評論社
(2009)234-240 頁参照)
。
総合問題 (2) 大胆な類推解釈としての売買代金の増額請求
民法 565 条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売り主
の担保責任)は,売買目的物の数量不足等の売り主の不完全履行に
対して,買主による代金減額請求を認めている。
それでは,目的物に数量超過があって,買主がこれを受け取った
場合,
売主は代金増額請求をすることができるのだろうか。民法 565
第
1
4
(07/08)
回
条を反対解釈すれば,代金増額請求はできないようにも思えるが,
類推解釈すれば,代金増額請求も可能のように思われる。そこで,
以下のような実際に裁判で争われた事例を検討し,代金の増額請求
が解釈によって可能かどうかを検討する(DVD 教科書 15-20 頁)
。
最三判平 13・11・27 民集 55 巻 6 号 1380 頁(土地の売買の値段
の根拠となる地積測量のミス事件)
売主が依頼した測量会社が行った測量にミス(厳密には,測量後
の求面計算のミス)があり,売買目的とされた土地の面積が 59.86
㎡少なく見積もられた。
6
その結果,売買代金が 5,345 万 800 円となり,実測よりも 941
万 5,738 円(15 万 7,296 円/㎡×59.86 ㎡ )も安く算定されてしま
った(数量指示売買において,値段以上のものが引き渡された)
。
売主は,買主が支払った金額は,本来の売買代金額よりも不足し
ていたとして,上記金額の追加支払いを請求した。しかし,買主は,
契約書通りの金額を支払済みであり,ミスは売主側にあったとし
て,支払を拒絶した。売り主の代金増額請求は認められるだろうか。
第
1
5
回
DVD 教科書 3 頁にしたがって,学習の成果をチェックする。
(07/15)
成 績 評 価 の
基
法解釈方法論のまとめ
準
演習における質疑応答,リアクションペーパーの提出による平常
点(30%)
,報告内容を改訂して学期末に提出するレポート(70%)
を総合的に判断して評価する。
・加賀山茂『ビジュアル民法講義シリーズ 1 民法入門・担保法革
命』信山社(2013)
(
「DVD 教科書」と省略する)
・中田裕康=潮見佳男=道垣内弘人編『民法判例百選Ⅰ,Ⅱ』有斐
教
科
書
閣(2009)
・水野紀子=大村敦志=窪田充見編『家族法判例百選』有斐閣(2008)
・『ポケット六法』有斐閣,『デイリー六法』三省堂,『標準六法』
信山社などの六法
・加賀山茂『現代民法 学習法入門』信山社(2007)
・木村草太『キヨミズ准教授の法学入門』星海社(2012)
・陶久利彦『法的思考のすすめ』〔第 2 版〕法律文化社(2011)
参
考
書
・我妻栄=有泉亨『コンメンタール民法』
〔第 3 版〕日本評論社(2013)
・加賀山茂『契約法講義』日本評論社(2009)
・加賀山茂『現代民法 担保法』信山社(2009)
・加賀山茂『債権担保法講義』日本評論社(2011)
関 連
U R L
http://lawschool.jp/kagayama/
この演習では,最新の教育方法として注目を集めている「反転授
業」の考え方を一部取り入れている。
シラバスに DVD 教科書の頁が記載されている場合には,DVD を
授業に向けての
準備・アドバイス
見ながら,DVD 教科書の該当箇所を読んで予習をしておくこと。
また,予習に際しては,分からなかった点をノートにメモしてお
き,授業時に配布されるリアクションペーパーに,分からなかった
点が,演習の議論を通じて解決されたかどうかを書く習慣をつける
こと。
7
リアクションペーパーの提出が 7 割に満たない場合には,たとえ
備
考
演習で報告をし,レポートを提出しても単位を取得できないので注
意すること。
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