[MJKK]将来債権ABS の格付分析手法

ASSET-BACKED SECURITIES
JULY 2, 2015
RATING METHODOLOGY
1. 要旨
目次:
1.要旨
1
2.概要
2
3.将来債権証券化商品
3
4.重要な格付上の考慮事項
5
5.モニタリング
10
付録 I:国際クレジットカード・
デビットカード・マーチャント・
バウチャー将来債権
11
付録Ⅱ:様々な支払の受領権(DPR)
15
付録 III: 将来輸出債権
21
ムーディーズの関連リサーチ
24
コンタクト:
東京
将来債権 ABS の格付分析手法
Moody’s Approach to Rating Future
Receivables Transactions
03.5408.4100
本格付手法 1は、将来債権証券化商品に対するムーディーズの格付分析手法
を解説するものである。将来債権証券化商品に対するムーディーズのアプロー
チでは、今後における債権の生成、オリジネーターの基本的信用力、将来のキ
ャッシュフローの十分性、ソブリン・リスク、それにストラクチャーおよび法的側面
の分析を行なう。
本レポートの本文では将来債権証券化商品の格付分析手法を解説する。付録
ⅠからⅢでは、様々な支払の受領権(Diversified Payment Rights= DPR)案件、国
際クレジット・カード・バウチャー案件、将来輸出債権案件の分析手法について
敷衍する。
格付委員会は、必要に応じて、重要と考える追加の定性的要因および定量的
要因も検討する。
本格付手法は、モニタリングに関する新たなセクションが追加され 2015 年 7 月 2 日に更新された。ま
た、その他のセクションや脚注に文章変更がされた。格付手法の内容に変更はない。
This rating methodology is based on Moody’s Investors Service’s rating methodology titled “Moody's Approach to
Rating Future Receivables Transactions, (June 23, 2015).” The rating approach described in the Moody’s Investors
Service report was adopted on July 2, 2015.
1
本格付手法は、適用前に特定の規制要件が充足される必要がある一部の法管轄域を除き、グローバ
ルに適用される。
ムーディーズ・ジャパン株式会社
ASSET-BACKED SECURITIES
2. 概要
将来債権を裏付けとする証券化取引では、オリジネーターは今後生成される債権(将来債権)
を信託または他の特別目的事業体(SPE)に譲渡し、当該 SPE はこの将来債権から発生する
キャッシュフローで返済を行なう証券を発行する 2。証券が発行される時点で債権が存在する
事例はほとんどない。投資家への返済は、オリジネーターが将来債権を受領する権利を SPE
に譲渡した後もオリジネーターの継続的な債権生成能力に依拠する。そのため投資家は、依
然オリジネーターの信用リスクおよび事業リスクにさらされる。従って、将来債権証券化商品に
付与される格付は、オリジネーターの自国通貨建て格付またはオリジネーターが銀行グルー
プに属する場合にはカウンターパーティー・リスク評価(CR 評価) 3のいずれかにリンクし、通
常、それが案件の格付の上限になる。
国境をまたがる将来債権案件への投資家は、ソブリンが取引のキャッシュフローと海外投資家
への元利払いに干渉するリスクにもさらされる。ただし、一定のストラクチャー上の特徴を備え
ることで、クロスボーダー将来債権案件がオリジネーターの所在国の外貨建て債券のシーリン
グを越えることができる。
典型的な将来債権証券化取引には次のようなものがある。
» 銀行の将来の支払指図に裏付けられた様々な支払受領権(DPR)を裏付けとする案件
» 顧客のクレジット・カードを用いた将来の買い物を裏付けとするクレジット・カードおよびデ
ビットカードの加盟店のバウチャーを裏付けとする案件
» 輸出業者の将来の輸出債権(原油輸出など)を裏付けとする輸出債権を裏付けとする案
件
» 顧客の航空券購入により発生する、航空会社の将来の航空券販売代金を裏付けとする案
件
本格付手法は、将来債権を裏付けとする商品の格付にあたってムーディーズが検討する要
因について考察する。それらは次のようなものである。
» オリジネーターの基本的信用力および将来債権生成能力など、将来債権の生成について
の自国通貨建て格付に基づく、またはオリジネーターが金融機関グループに属する場合
はその CR 評価に基づく評価。
» キャッシュフローの頑健性と持続可能性。(ストレスを加えた様々なシナリオの下でも債務
返済に十分なキャッシュフローを生むか、という点も含む。)
» クロスボーダー案件については、ソブリンによる干渉のリスクを緩和しうる債権および/また
は案件ストラクチャーの特徴。
» 案件ストラクチャーおよび法的側面の特徴の頑健性と完全性。
本件は信用格付付与の公表で
はありません。文中にて言及され
ている信用格付については、
ムーディーズのウェブサイト
(www.moodys.com)の発行体の
ページの Ratings タブで、最新の
格付付与に関する情報および
格付推移をご参照ください。
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2
これに対し、伝統的なアセット・バック証券(消費者ローン債権や住宅ローンを裏付けとする証券など)は、既存債権、す
なわち、既に売却・引渡が完了した製品の代金、あるいは既に履行されたサービスの対価などを裏付けとする。既に債
権生成に必要な行動は全て取られているので、一旦債権が SPE に譲渡されれば、債権のオリジネーターの事業継続リ
スクや信用リスクにさらされる度合いは小さくなる。従って、SPE が発行する債権に裏付けられた証券の格付は、主に、当
該債権の信用の質と取引のストラクチャーに依拠することになり、オリジネーターの債務の格付を越えることが可能になる。
詳細は関連格付手法を参照されたい。
3
当該主体が CR 評価を持たない場合、ムーディーズは最適と考える代替指標を用いるが、それは例えば、当該主体のシ
ニア無担保債務格付(あるいはそれと同等のもの)、もしくはケースによっては当該主体の預金格付(あるいはそれと同等
のもの)より導き出される場合がある。
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
3. 将来債権証券化商品
3.1 典型的なストラクチャー
典型的な将来債権証券化商品では、オリジネーターが SPE を設立し、将来債権の受領権を
SPE に移転する 4。オリジネーターは 1)資産をオリジネーターの信用リスクと倒産リスクから隔
離することを目的とする独立した法的主体である SPE を設立し、2)オリジネーターが倒産、会
社更生、その他の破綻処理に巻き込まれることから、SPE が債権に対して有する権利が影響
を受けないように将来債権の SPE への譲渡を仕組む。
SPE は証券を発行し、証券発行の代わり金を将来債権のオリジネーターに引き渡す。証券の
元利払いは将来債権からなされる。通常、SPE への将来債権の譲渡には、回収金のために
分別された口座に直接売掛金を支払うよう債務者に指示する指図が織り込まれる。第三者で
ある受託者が SPE の投資家のために排他的に当該口座を管理する役割を担う。支払指図は
通常、投資家のために行動する受託者の書面による同意がある場合を除いて変更できない。
受託者は債権の回収金を投資家への支払と関連取引コストに充当し、余剰金を債権の売り
手であるオリジネーターに分配する。図 1 は案件の典型的なストラクチャーを示した図である。
図1
典型的なストラクチャー
オンショア
オフショア
超過回収金
将来の製品・
サービス
指定債務者(顧客)
オリジネーター
ノート
代わり金
製品・サービス
代金支払い
将来債権回
収権の売却
SPE
ノート
代わり金
ノート
元利金
投資家
出所:ムーディーズ・インベスターズ・サービス
クロスボーダー案件:クロスボーダー案件の多くでは、オリジネーターは、将来債権に裏付け
られた証券に、自身が所在する国の外貨建て債務のカントリー・シーリングを越える格付が付
与されるよう目指す 5。それらのケースでは、発行体が当該証券の目標格付と同等かそれ以
上の自国通貨建て債務のカントリー・シーリングが付与されたオフショアの司法管轄に SPE と
債権回収口座が設立されるのが普通である。また債権の債務者もオフショアに所在するケー
スが多い。債務者はオフショアの信託口座に直接支払を行なうため、当該回収期間の約定元
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オリジネーターは債権を売却せずに SPE を受益者として債権に担保権を設定するストラクチャーもある。
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そのようなケースでは、オリジネーターの自国通貨建て格付は、オリジネーターが所在する国の外貨建て債務のカントリ
ー・シーリングよりも高いものとなっている。
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
利払いと継続的取引コスト 6が完済されるまで、案件のキャッシュフローがオリジネーターの所
在国に入ることはない。
真正売買と有担保ローン:ムーディーズがこれまで格付を付与してきた将来債権証券化取引
のストラクチャーは大きく 2 つのカテゴリーに分類される。真正売買ストラクチャーと有担保ロ
ーン・ストラクチャーである。この分類は、債権フローの利益を得るために SPE が導入するメカ
ニズムによる区分である。
債権の SPE への売却は真正売買の取り決め方に依拠する。当該国の国内法に基づいて真
正売買とされるかどうかは通常、資産が SPE に売却されたことを確認し、国内準拠法の下で、
オリジネーターあるいは譲渡人は既存または将来の債権の所有権を失ったことを確認する法
律意見書によって裏付けられる 7。
しかし、一部の司法管轄では、国内法によって将来資産の真正売買が認められないことがあ
る。そのためオリジネーターが現在および将来の債権に有する権利および利益をローン債務
履行の担保として発行体に差し入れる有担保ローンの形で案件を仕組む場合がある。この場
合、投資家はオリジネーターが SPE に与えた担保権によってサポートされることになる。このよ
うな取り決めでは、SPE はクロージング時に、債権に対する担保権と、回収口座と準備金口座
を始めオリジネーターが当該将来債権証券化取引のために設定した全口座を(投資家のた
めに行動する)受託者に譲渡する。
3.2 取引に共通にみられる特徴
早期償還トリガー:将来債権証券化取引では通常、特定イベントが発生した場合に発動され、
投資家への債務償還を加速する早期償還トリガーが組み込まれる。
それらのトリガーのいくつかは、案件のキャッシュフローの悪化に関連するイベントに対応する
ものである。たとえば、キャッシュフローのデット・サービス・カバレッジ・レシオ(DSCR)が所定
の最低レベルを下回った場合に早期償還が適用される。これらのトリガーは、キャッシュフロー
が予想に反して急激に減少した場合に投資家を保護する。
早期償還トリガーには、オリジネーターおよび/または譲渡人の信用力の低下に対応するもの
もある。
他には、オリジネーターおよび/または譲渡人によるパフォーマンス不履行、債務不履行、債
務超過、あるいはソブリンの案件への干渉などに関連するトリガーも重要となる。これらのトリガ
ーは全て、上述の望ましくないシナリオで、最終的に投資家がオリジネーターに償還を請求
できるようにするために重要となる。
準備勘定:取引の特性によっては、一時的な支払停止、キャッシュフロー変動、その他予測不
能な状況から生じるリスクに対応する準備勘定(現金あるいは信用状のいずれかの形式によ
る)または流動性枠が設定される。
保証、保険契約、および引取契約: 高格付の事業体 8による保証など、ソブリン・リスクを緩和
し、あるいは投資家への元利払いを確実にするために、キャッシュフロー・カバレッジ以外の
信用補完が将来債権証券化取引に組み込まれることがある。一定の取り決めに基づき商品
の購入を保証する引取保証が組み込まれる取引もある。
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これらの費用には、受託者、支払代理人の手数料の他、一部の SPE の手数料および経費が含まれる。
7
後段のセクション 4 で触れるように、将来債権証券化取引では、債権の真正売買性はオリジネーターの格付に相応する
格付を達成するための重要なストラクチャー上の考慮事項となる。この点は、資産のオリジネーターおよびサービサーの
格付を上回る案件格付を得るためには、債権の真正売買性が重要となる伝統的なアセット・バック証券とは異なる。
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たとえば、国際金融公社 (IFC)、多国間投資保証機関(MIGA、世界銀行グループ)、海外民間投資公社(OPIC、米国政
府機関)など。
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
債権からの受取額が将来債権証券化取引の元利払いに不足を来した場合のオリジネータ
ーへの償還請求:クロスボーダー将来債権案件では、債権からのキャッシュフローが発行債
務の返済に不足した場合、投資家は通常、オリジネーターに償還請求権を行使できる 9。
4. 重要な分析上の考慮事項
4.1 将来債権の生成
将来債権証券化取引では投資家は例外なく、債権オリジネーションに関係する事業リスクと
信用リスクにさらされる。オリジネーターが案件の存続期間を通じて十分な債権を生成できな
かった場合、SPE は調達資金の返済に必要な原資が得られなくなる。
ムーディーズは、オリジネーターが元利払いに必要とされるカバレッジ水準で債権を必要な期
間内に生成できる可能性を分析、評価する。評価過程では、債権に関するデータ、オリジネ
ーターの財務力と事業能力、オリジネーターの経営陣の事業継続へのサポートの可能性とそ
のレベル、オリジネーターがこれまで当該債権事業に投入してきた資源、および当該事業の
オリジネーターの事業計画全般における位置付けなどを検討する。
また、債権生成を支えるオリジネーターの支店網の規模、当該商品あるいはサービスの市場
および当該市場におけるオリジネーターの地位、競争上の優位性、重要顧客および債務者
(国外輸入業者、中小企業、外国人労働者扶養家族など)との関係、オリジネーター、製品・
サービス、業界の国内経済および地場市場における重要性、債権のオリジネーションに影響
を与えるその他の要因を考慮に入れる。
オリジネーターの財務力:オリジネーターの将来債権生成能力は、オリジネーターが継続企
業として事業を維持する能力に依拠する。従って、将来債権を裏付けとする証券の格付はオ
リジネーターの財務状況にリンクする。
オリジネーターが存続し続け、倒産手続きの下で事業を継続できたとしても、準拠法によって
は、発行体が有する証券化対象債権に対する所有権(または担保権)が否定されることもあり
うる 10。
発行体のために(有効な真正売買または担保権譲渡のいずれかによって)債権の分離が有
効になされているのであれば、オリジネーターの格付よりも高格付を付与しうる伝統的なアセ
ット・バック証券とは異なり、将来債権証券化商品の格付はオリジネーターの格付または CR
評価(どちらか適用される方)を超えることはない。
クレジット・カードやデビットカードの加盟店バウチャー債権を裏付けとする案件では、オリジネ
ーターが経営破綻に陥った場合に、VISA や MasterCard などの債務者がオリジネーターと個
別に結んだ合意を自動的に停止する権利を保有している場合がある。
ムーディーズはオリジネーターの自国通貨建て格付が、そのオリジネーターが経営破綻に陥
る可能性を示す好適な指標になるとみている。
クレジット・カードやデビットカードの加盟店バウチャー事業及び送金事業がオリジネーターの
中核事業である場合は、信用分析にあたり CR 評価を参照基準とする場合もある。しかし、案
件を支える債権のフローをもたらすクレジット・カードやデビットカードの加盟店バウチャー事
業及び送金事業が銀行の中核事業でない場合、また、銀行の破綻により当該事業の存続に
懸念が生じた場合には、その銀行の自国通貨建てシニア無担保債務格付(あるいはそれと同
等のもの)を代わりの参照基準とみなし、通常その格付がノート格付の上限となる。
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9
オリジネーターに対する償還請求権がなく、案件に「売買取消(あるいは強制買戻し)事由」のセクションで述べる有効な
売買取消事由(SRE)が存在しない場合、案件の格付はオリジネーターの格付よりも低くなることもある。
10
詳細については、セクション 4.4 内「資産の分離」を参照されたい。
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
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オリジネーターの事業:将来債権の生成に関連する特有の事業リスク、そしてそれらのリスク
がオリジネーターの事業全般にどのように関わるかを理解することも重要となる。たとえば、案
件が当該企業の一事業からの将来債権の生成に裏付けられている場合は、当該事業の継続
能力と競争力がムーディーズの分析における重要な信用要因となる。
仮に当該企業が全体としては健全であっても、債権を生成する営業種目が、競争圧力と需要
減少のため業績が低下し、事業を継続できなくなることがある。たとえば、様々な鉱物資源を
採取し輸出する企業が特定の製品分野で競争力を失ったり、当該製品分野への注力を低下
させたりすることがある。その場合、オリジネーターの業績全般は順調であっても、専ら当該製
品の販売によって生成される債権を裏付けとする証券は損失を被る。
もう一つの考慮すべき重要事項は、オリジネーター破綻後の需要パターンの変化が案件に及
ぼす影響である。たとえば、破産状態にある銀行が事業を継続している場合、最終的な口座
所有者は他の地元銀行との取引に乗り換える可能性があり、当該証券化案件の債権フロー
は大幅に減少する恐れがある。このリスクが及ぼす影響が大きく、信用補完や超過担保では
十分にカバーされないとみなした場合、ムーディーズは当該銀行の自国通貨建てシニア無担
保債務格付(あるいはそれと同等のもの)を CR 評価の代わりに参照基準とみなし、シニア無
担保債務格付がノート格付の上限となる場合がある。
4.2 キャッシュフロー分析
過去のキャッシュフローとボラティリティ:キャッシュフローの評価では、様々なシナリオを想定
してキャッシュフローの感応性を分析し、案件の目標格付に整合する確率で、投資家への元
利払いに十分なキャッシュフローを確保できるかどうかを検証する。ムーディーズは、資金フロ
ーにみられる何らかの傾向を見定め、資金フローのボラティリティを判定するために過去の資
金フロー量を分析することで、キャッシュフローを予想する。ここでは、資金フローにみられる
傾向とボラティリティが何らかのイベント(経済危機、通貨切り下げ、自然災害、ストライキ等)に
関係するものか、それともオリジネーターの当該債権に関連する事業の強みあるいは弱点を
示唆するものかの判定が最重要となる。
債務者リスク:オリジネーターと主要顧客との関係によっては、格付対象債務を裏付ける資金
フローの分散が不十分で、債務者の集中が懸念されるケースがある。その場合、ムーディー
ズはそれらの主要債務者の信用力と支払実績の評価を行なう。また、ストラクチャーに織り込
まれたエクスポージャー関連の集中制限にも注目する。単独債務者が資金フローの相当部
分を占める場合は、当該債務者の資金フローを分析から除外するか、その資金フローに上限
を設けることで、主要債務者が喪失した場合の案件の耐性を評価する場合もある。
4.3 ソブリン・リスク
新興市場経済のクロスボーダー将来債権案件の格付は、オリジネーターが所在する国の外
貨建て債務のカントリー・シーリングを上回るのが常である。これは、国際収支危機や自国国
債のデフォルトの事態に、当該国政府がキャッシュフローに干渉する可能性があることを意味
している。ムーディーズはこのリスクを考慮してソブリン・リスクのレベルとその緩和要因を評価
する。
ムーディーズは、通常、案件のストラクチャーを分析することによって、法的構造の頑健性を
確認する。また当該司法管轄において、ソブリンが案件のキャッシュフローに干渉するのを制
限する経済的理由の存在、当該司法管轄における同種取引(あるいは類似取引)の支払実
績、ソブリンが案件のキャッシュフローに干渉するのを困難にする何らかのストラクチャー上の
特徴、などをチェックする。
以下に、政府が将来の資金フローに干渉したり、信託への支払を別の用途に仕向けたりする
可能性を低くすると考えられる状況をいくつか例示する。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
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» オリジネーターは大手企業で多額の外貨収入を生成し、その外貨収入は元利払いに充当
された後、自国に還流する。このようなオリジネーターの場合、政府がその資金フローへの
干渉を手控えるか、クロスボーダー・クレジット・カード債権のように政府が転用または管理
するのが困難な外貨獲得事業に従事していることが多い。
» 指定債務者は、当該国の国境の外で法制度面のリスクが高くない場所に所在する主体も
しくは口座にハードカレンシーを支払う。オリジネーターはさらに、国外の指定債務者に債
権売却の事実を通告し、国外に設定され受託者が管理する口座に宛て取消不能で支払
を行なうよう指図する。全ての支払を信託に行なう債務者の義務は、外国法を準拠法とし、
当該国の裁判所の執行に服する。
» 特定の期間の案件の元利払い額が当該期間のキャッシュフロー全体に比べて小さい。こ
のケースでは、キャッシュフローの大部分が定期的に当該国に回収されるので、政府が積
極的に干渉することはないと考えられる。クロスボーダー将来債権証券化取引では、キャッ
シュフローの一部を必要な元利払いに充当した後に残る相当額の超過キャッシュフローが
定期的にオリジネーターに送金されるように SPE と取り決めるのが普通である。キャッシュ
フローを別の用途に仕向けたり、それに干渉しようとしたりするソブリンの試みは、ノートの
早期償還を招く(延いては全ての既発債に関してクロス・アクセラレーション条項が発動さ
れる)原因となりかねない。そのような事態では、資金の全部あるいは相当部分が受託者
が管理する国外の口座に蓄積され、当該国への資金フローが減少する結果を招く。
» 当該国から発行された全ての将来債権証券化取引の元利払いが同国の外貨建て債務総
額の大きな部分を占めていない。
» 将来債権の生成に要する裏付け商品・サービスの供給中止あるいは仕向け先変更が困難
で費用と時間がかかる。
» 当該国政府にとって、案件に干渉することの政治的、財政的インセンティブが弱い。
» 適用可能な場合、ソブリンが明示的に主権特権を放棄する。
» 政府が外貨管理政策を導入した場合でも案件に付随するスワップ契約は終了しない。
» クロージング日現在、国内司法管轄と案件が準拠する司法管轄の両方において案件の法
的構造は強固で執行可能である。また真正売買性に関して、債権の SPE への譲渡が当
該国の国内法に照らして真正売買に当たること、当該ソブリンは当該資産がオリジネータ
ーあるいは譲渡人の資産の一部を構成することを法的に主張できないことを法律意見書
が確認している。
オフショア準備勘定や特殊決済メカニズム(現物払いなど)などのストラクチャー上の特徴は、
外貨移転・交換性リスクを削減する役割を果たし、案件にオリジネーターの所在国の外貨建
て債務のカントリー・シーリングを上回る格付を付与することが可能になる。
4.4 ストラクチャーおよび法律に関わる考慮事項
ムーディーズは、発行体によって提示されるストラクチャー上、法律上のプロテクションを検
証・分析する。以下で将来債権証券化取引にみられる主要なトリガーについて説明する。
償還事由:ムーディーズは通常、デット・サービス・カバレッジ・レシオ(DSCR)を用いて、オリ
ジネーターが生成する債権額に対して投資家が利用可能なクッションを評価する。DSCR は、
債権の資金フローを確定支払スケジュールに従った案件存続期間中の支払日におけるノート
元利金の最大予想支払額で除すことで得られる。
将来債権証券化取引の DSCR は通常、クロージング時点では健全な水準にある。しかし、投
資家は、取引存続期間を通じて、資金フローがノートの元利払い日に発行体が必要とする金
額を下回るリスクにさらされる。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
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このリスクと、ノートの格付に悪影響を与えるその他のリスクを緩和するため、標準的な将来債
権証券化取引にはイベントに基づくトリガーを用いたプロテクションが備わっている。それらの
トリガーは、抵触した場合、約定償還日の相当前にノート元本を償還させることを狙いとする。
それらのイベントが発生した場合は、投資家への元利払い金を一定額増加させるか(ソフト償
還事由)、ノートを即時償還するため資金フローの相当部分を SPE に振り向けるか(早期償還
事由)、いずれかの形で案件は有利に扱われる。
ムーディーズは通常、契約関係書類に記載されたオリジネーターの自国通貨建てシニア無担
保債務格付(またはそれと同等のもの)に基づく格付トリガーの価値と、オリジネーターの CR
評価を参照する格付トリガーの価値は同等とみる。
ソフト償還事由:一部のストラクチャーには、ノート格付にリンクするソフト償還トリガーも織り込
まれている。たとえば、ムーディーズがノートを一定レベル以下に格下げする場合、各利払い
日のノート債務返済額は当初の必要債務返済額に予め定められた倍数を掛けた金額だけ増
加する。そのため、ノートの元本償還は想定の償還スケジュールより速くなる。
ムーディーズはそのようなトリガーの存在を特に評価しない。その上、この種のトリガーは時に、
ノートに付与した格付に対して「循環」効果あるいはネガティブな効果を及ぼす。格下げをトリ
ガーとする早期償還は資産のオリジネーターの財務状態をさらに悪化させ、オリジネーターと
案件の格付に一層の下方圧力を加える結果をもたらしかねない。たとえば、(理由の如何を問
わず)ノートの格下げによってソフト償還トリガーが発動された場合、発行体はノートの償還を
速める。一方、その早期償還によってオリジネーターからの重要な流動性ソースが遮断され、
かつオリジネーターの財務の安定性が影響を受けた場合、オリジネーターと案件の格下げに
つながりうる。一定のシナリオ下では、早期償還事由がオリジネーターの他の債務のクロス・デ
フォルトにつながることもある。
早期償還事由:典型的な早期償還トリガーには、オリジネーターの資金フロー水準あるいは
格付に結び付けられたものがある。早期償還事由が発生した場合、ノートの元本残高(および
有担保ローン案件の場合、SPE がオリジネーターに提供した裏付けとなる有担保ローンの残
存元本)は、利用可能なキャッシュフローの額だけ、直ちに期限の利益を喪失する。
通常みられる早期償還事由は次の通りである。
» DSCR の低下: 取引の存続期間中にキャッシュフローが減少して DSCR が予め定められ
たレベル以下に低下した場合に早期償還事由が発生する。DSCR トリガーは国によって差
があり、また同一国内の発行体によっても差が生まれる。ムーディーズは過去のキャッシュ
フローのボラティリティを考慮してトリガー・レベルを評価する。
» オリジネーターの格付の変更:欧州の DPR 案件の一部など、オリジネーターの格付が特
定レベルを下回って低下した場合に早期償還事由が発生する案件がある。
その他の代表的な早期償還事由には、債務者によるオリジネーターへの相殺権の行使、債
務者のキャッシュフローの一定レベル以下への減少、DSCR のレベルがトリガー・レベルに抵
触しない状況であってもキャッシュフローが急激かつ持続的に減少する事態、ソブリンの干渉
などがある。早期償還事由が発生した場合、SPE は通常、回収キャッシュフローの一部(通常、
50%以上)をノート償還に充当する。SPE は残額をオリジネーターに返却しなければならない。
オリジネーターの信用格付の下方遷移がキャッシュフロー水準に打撃を与える場合がある。
全てのキャッシュフローを SPE の投資家向け償還に振り向けた場合、オリジネーターは重要
な流動性ソースが削減されることになり、状況悪化が一層深刻化する結果を招きかねない。
自動的あるいは偶発的早期償還事由: 早期償還事由が発生した場合に投資家の早期償還
額受領が遅れるストラクチャーになっている場合、投資家が元本を完全に回収できないリスク
が増大する。一部の案件では、早期償還事由が発生した場合、早期償還を受けるノート保有
者の権利が、投資家による早期償還の賛否投票、あるいはコントロール権を持つ者の意思な
ど、他の事由の影響を受ける。このような追加条件は、投資家ではなくオリジネーターに分配
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
される資金を増加させる結果、投資家への早期償還を遅らせ、早期償還事由の効果を損ね
る。その上、早期償還事由後、キャッシュフローが一層減少することによって、投資家向けの
支払が遅延するリスクがさらに高まる。偶発的早期償還事由が組み込まれた案件の中には、
投資家のためにキャッシュフローを直ちに留保することでこのリスクを軽減するものがある。そ
の場合 SPE は、偶発事象が充足され、投資家が投票した後、蓄積したキャッシュフローを投
資家向け支払いに充当する義務を負う。
売買取消(あるいは強制買戻し)事由-オリジネーターへの償還請求権:SPE は、真正売買
案件において、上述した償還事由に加えて売買取消事由(SRE)(あるいは強制買戻し事由)
の恩恵を受けることも多い。売買取消事由が発生すると、オリジネーターは将来債権を買戻し、
ノート残存元本に等しい金額の売買取消金を SPE に支払わなければならない。
将来債権証券化取引に通常みられる SRE には次の様なものがある。
» オリジネーターの表明・保証違反
» オリジネーターの当該債権に関連する事業に重大な悪影響を及ぼすイベント
» 指定債務者からの資金フローの急激な減少
» オリジネーターの任意あるいは強制倒産
» オリジネーターの他の債務のクロス・デフォルト
» SPE によるノートの期日支払の不履行と、それによるノートが定めるデフォルト事由の発動
SRE が効果的で執行可能な形で備わっていれば、ノート保有者はオリジネーターに無担保請
求権を行使でき、オリジネーターのキャッシュフロー不足、デフォルトまたは倒産手続き開始を
理由としてノート保有者が完全な弁済を受けていない場合にノート保有者がオリジネーターに
対して持つ権利が保全される 11。
案件が効果的な SRE トリガーを備えていない場合、投資家はオリジネーターに対する償還請
求権を行使できない。高い DSCR の設定や他のトリガーあるいは外部サポートなど、このリス
クを緩和する要因が存在しない場合、ノートの格付がオリジネーターの格付を下回ることがあ
る。
当該国の司法管轄の外貨建て債務のカントリー・シーリングがノート格付に比べて著しく低い
場合、ムーディーズはノート格付のサポート要因としての SRE に完全に依拠することができな
い。オリジネーターの売買取消金の支払能力は、当該国司法管轄が外貨支払停止を宣言す
る可能性によって制約を受ける。外貨支払停止の可能性は当該国司法管轄のカントリー・シ
ーリングにリンクする。ただし、そのような支払停止は一定期間で解消されるケースが多い。支
払停止期間が終わると、投資家はオリジネーターに無担保請求権を主張できるようになり、オ
リジネーターは償還のために外貨を国外に移転できるようになる。
資産の分離:銀行がオリジネートした案件では(この場合、オリジネーターの格付として CR 評
価が用いられる)、発行体のために(有効な真正売買または担保権譲渡のいずれかによって)
証券化対象債権が有効に分離されていない場合、クレジット・カード事業や送金事業の継続
に関わらず、オリジネーター銀行の破綻に伴って投資家が損失を被る可能性がある。従って、
この分離に関し重大な疑問がある場合、ムーディーズは当該銀行の自国通貨建てまたは外
貨建てシニア無担保債務格付(またはそれと同等のもの)を代わりの参照基準とみなし、通常
その格付がノート格付の上限となる。当該リスクの分析では次のような様々な要因を考慮する。
» 信託回収口座を保持しているオフショアの司法管轄に所在する裁判所が、真正売買・担
保権の準拠法としてオリジネーターの自国法を適用するかどうか(ムーディーズは、法律意
見書を始め発行体の所在地などあらゆる関連要因を考慮して、この点の評価を行なう)。
11
9
JULY 2, 2015
ムーディーズは、オリジネーターへの償還請求権がある場合、当該将来債権 ABS をオリジネーターの債務とみなし、そ
れがオリジネーターの格付に与える影響を評価する。
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
» オリジネーターの自国法や他の関連法に基づく真正売買・担保権に関する法律意見書の
強さ(前箇条参照)。
» 危機的シナリオ下での証券化案件のキャッシュフローに対し、オリジネーターが干渉するイ
ンセンティブ(他の標準的なデット・ファイナンスと比較した証券化ファイナンスの重要性、
デット・サービス・カバレッジ・レシオ、オリジネーターに還流する資金フローの割合など)。
» オリジネーターの自国法および他の関連法に基づき、オリジネーターの債権者が当該案
件の債権の真正売買に異議を唱える潜在的リスクを緩和する仕組みを持つ案件のストラク
チャー上の特徴。
» 自国企業に関連する海外キャッシュフローを自国に還流させるよう要求するなど、オリジネ
ーターの本拠地である国の政府が証券化案件のキャッシュフローに干渉する可能性。
5. モニタリング
案件のモニタリングでは、時間経過に伴い変化しない法的仕組みの見直しといった、時間経
過に伴い重要性が低下する要素を除き、一般に本稿で説明されるアプローチの主な評価項
目を適用する。ムーディーズは通常、案件ごとに異なるパフォーマンスデータを入手し、それ
を用いて案件をモニタリングする。
定期的なパフォーマンスレポートに、案件の DSCR やその他の関連するトリガーが記載される。
パフォーマンス指標に大きな変化あるいは重要な傾向がみられれば、ムーディーズは案件の
精査を行う。
スポンサー格付の参照基準(オリジネーターの自国通貨建て格付あるいは銀行グループに属
するオリジネーターの CR 評価)に変更があれば、精査が行われるため、このような変更はス
ポンサーの新たな債権を生成する能力に影響しうる。また、一般に案件格付はオリジネーター
の格付と関連する。
10
JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
付録 I:国際クレジットカード・デビットカード・マーチャント・バウチャー将来債権
国際クレジット・カードや国際デビットカードの加盟店バウチャーによる将来債権に裏付けられ
た案件の格付にあたって、ムーディーズは本レポートでこれまで解説した一般的な要因に加
えて以下の事項を検討する。
「国際クレジットカード・デビットカード・マーチャント・バウチャー将来債権」とは何か?
ある国の銀行などの金融機関が発行したクレジット・カードあるいはデビットカードを他の国で
使用した場合、国際クレジットカード・デビットカード・マーチャント・バウチャーが発生する。カ
ード保有者はカードを商品またはサービスの購入か、キャッシング・サービスによる借入のい
ずれかに使用する。加盟店バウチャー債権はクレジット・カード業者が取引を承認し、取引デ
ータを送信する度に発生する。プロセシング銀行の米ドル建て債権額は、1)自国通貨建てで
購入した商品またはサービスのコストあるいはキャッシング額に 2)取引日に適用される米ドル
為替レートを掛けた額である。
Visa、MasterCard および American Express の各アソシエーションは、加盟銀行の決済機関の
役割を果たし、それぞれのクレジット・カードに請求された債権の決済を行なう。Visa、
MasterCard および American Express は、クレジット・カード発行銀行からの支払いの有無に関
わらず、プロセシング銀行に支払いを行なう義務を負う。債権の売却は債権を購入するプロセ
シング銀行がこの支払いを受ける権利に何らの影響も及ぼさない。
また、決済機関は、債権をプロセシング銀行が(カード発行者として)負う債務で相殺すること
はしないし、特定の付随費用を除き債権とプロセシング銀行が決済機関に負う債務とを相殺
する権利を放棄しなければならない。Visa、MasterCard および American Express は契約関係
書類で、それぞれがプロセシング銀行に負う債務を、高格付の海外の司法管轄に債券保有
者のために専らその目的で設定された特別口座に宛てて送金することに同意する。クレジッ
ト・カード会社は同意文書に署名してその義務を明確にする。
典型的な案件ストラクチャー
これまで、クレジットカード・デビットカード・バウチャー将来債権の売却を伴う取引では、ほと
んどでマスター・トラストの仕組みが用いられている。その他に、オリジネーターが SPE を設立
し、共通の債権プールに裏付けられた複数のシリーズにまたがるノートを発行する仕組みもあ
る。図2は、国際クレジットカード・デビットカード・バウチャー将来債権案件の典型的なストラク
チャーを示したものである。債権は次のように生成される。
» カード保有者は、自分の出身地に所在する銀行などの金融機関が発行するクレジット・カ
ードあるいはデビットカードを使用して、外国(その国の司法管轄)で商品あるいはサービ
スを購入するかキャッシング・サービスを受ける。
» カード保有者が買い物をした加盟店はそのバウチャーを、通常は当該加盟店が所在する
国の通貨でバウチャーの額面から約定の割引分あるいは手数料を差し引いた金額の支払
いを受けて、その国の司法管轄のプロセシング銀行に売却する。
» 加盟店のバウチャーを取得したプロセシング銀行は、オフショアの事業体(SPE あるいはマ
スター・トラスト)に、保有する一つないし複数のカード会社が特定された国際クレジットカ
ード・デビットカード・マーチャント・バウチャー将来債権に関わる権利を譲渡する。
» マスター・トラストあるいは SPE は債券を発行し、その発行代わり金をプロセシング銀行から
購入した債権の代金に充てる。
» プロセシング銀行はクレジット・カード会社に対し、全ての債権の支払いを、独立の第三者
で、排他的管理権を持つ受託者の名義のオフショア口座宛てに行なうよう指示する。
11
JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
» 債権は日次ベースで当該オフショア信託口座に支払われる。
» 信託証書に基づく受託者は、約定元利払いに必要とされるキャッシュフローを確保した後、
特定のパフォーマンス基準が満たされていることを条件に、契約関係書類に従って超過金
額を債権取得銀行(債権オリジネーター)に支払う。
図2
典型的なストラクチャー
米ドル
投資家
マスター・トラスト
米国のカード保有者
クレジット
カード
請求書
超過額
米ドル
米ドル
米国のクレジットカード
発行銀行
プロセシング銀行
バウチャー
米ドル
クレジットカード会社
外貨/ 米ドル建て
バウチャー
オフショア
商品/
サービス
米国のカード保有者
バウチャー
国内通貨
プロセシング銀行
の提携加盟店
現地プロセシング銀行
バウチャー
出所: ムーディーズ・インベスターズ・サービス
クレジット・カード・バウチャー案件に特有の分析上の考慮事項
債権の生成
将来債権証券化取引に共通の問題として、クレジットカード・デビットカード・バウチャー債権
をオリジネートするプロセシング銀行が事業を停止したり支払不能に陥ったりした場合、投資
家が期待する債務返済の裏付けとなる債権が生成されなくなる可能性が高くなることがある。
債権は、直接的には、当該国のプロセシング銀行と提携する加盟店で他の金融機関が発行
したカードが使用されることによって生成される。さらに、債権を生成する加盟店のバウチャー
の支払いはオリジネーター銀行の事業継続能力に依存する。従って、プロセシング銀行の財
務力は、提携銀行を選択する加盟店の意思決定を左右する。
国際クレジットカード・デビットカード・バウチャー将来債権案件の債権生成リスクの評価では、
外国旅行者を顧客基盤とする施設から加盟店バウチャーを継続的に取得するプロセシング
銀行の能力に注目する。プロセシング銀行の加盟店バウチャー獲得能力に最も直接的に影
響を与える 3 つの要因は、1) 当該銀行の支店網および ATM 網の規模、2) 競争環境、3)当
該銀行とクレジット・カード会社の関係、である。
» 様々な理由から、プロセシング銀行の強力な支店網が、持続的なクレジットカード・デビット
カード・バウチャー獲得能力にとって重要となる。まず、販売・マーケティング部隊を抱えた
強力な支店網は、新規加盟店の獲得や既存顧客のフォローを可能にする。次に、プロセ
シング銀行の支店網が大規模な ATM 網などを備えていればキャッシングのシェアを拡大
するのも容易になり、デビット取引から獲得する債権の額を増加させる力となる。ムーディ
12
JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
ーズは営業店舗外に設置された ATM 網の評価も行なう。この評価では、それらの ATM
網の位置づけ、設置範囲、観光旅行者やビジネス旅行者を相手にする場所や外国人が
接近しやすい場所に戦略的に配置されているか、などの点に特に注目する。これらは、プ
ロセシング銀行がデビットカードやキャッシング関連のバウチャーの獲得競争で大きなシェ
アを確保するために重要な要因となる。
» 競争環境の評価も重要な考慮事項となる。加盟店バウチャーの獲得競争が激しい市場で
は、マージンが必然的に低くなるため、市場シェアの維持と拡大が銀行にとって困難でコ
ストが高くつくものになる。ムーディーズは、金融機関の競争環境の評価において、加盟店
バウチャー獲得競争に参加する金融機関の数、価格やサービスや技術革新など基本的
な競争条件、および競合各社がこれまで市場に占めてきた地位、などに特に注目する。
» もう一つの評価項目は、プロセシング銀行と現在および過去におけるクレジット・カード会
社との関係である。ここでは、両者の関係に問題が潜んでいても、それが突然の関係断絶
という形を採らずに解決できるかどうかの判断が重要になる。銀行が支払不能に陥って事
業を中断したり、特定の合意事項に違反したりした場合、直ちに当該銀行との取引を終了
する権利がクレジット・カード会社に留保されている。取引の終了は債券の元利払いを困
難にする。一方、案件の格付はオリジネーターの CR 評価の制約を受ける。オリジネータ
ーの倒産、契約義務の不履行、契約上の表示と保証への抵触の可能性は、オリジネータ
ーの CR 評価に通常反映されている。強固で有利な取引関係はクレジット・カード会社に、
プロセシング銀行を助け、共に困難な時期を乗り切るための解決策を見出そうとするイン
センティブを与える。
ムーディーズは、プロセシング銀行のクレジットカード・デビットカード・バウチャー債権の獲得
能力に影響を与えるその他の要因も考慮する。それらには、加盟店バウチャー獲得事業にお
けるプロセシング銀行の経験、銀行事業全体からみた同部門の収益性、経営陣の同事業へ
のコミットメント(同事業に投じる資金と経営資源)などがある。ムーディーズは、これらの要因
に注目して、その銀行が今後も当該事業にとどまる可能性を評価する。
キャッシュフロー分析
マクロおよびミクロの経済要因が変化して債権生成と関連バウチャーの獲得に影響が及び、
プロセシング銀行が生成する加盟店バウチャーの量が減少することがある。そのためムーディ
ーズは、競争環境に止まらず、旅行業界(ビジネス旅行と観光旅行)の当該国経済にとっての
重要性、景気後退、政治情勢、ハリケーンや地震など自然災害の可能性とその潜在的影響
など、旅行業界に負の影響を与える諸要因も評価する。
分析では、これまでの債権の主要な源泉(観光旅行者かビジネス旅行者か)、債権が生成さ
れる地域、取引が行なわれる施設のタイプ(ホテルか、店舗か、レストランか、航空会社か)、
過大な加盟店集中の有無などに特に着目する。これらの分析の目的は、過去のデータに現
れており、再発の可能性があり、契約関係書類に基づく元利払いを困難にする可能性がある
季節性、下落基調、ボラティリティを見極めることにある。
債務者リスク
本付録で扱う案件の債務者となるのは、Visa、MasterCard、American Express などの決済機関
である。これらの企業は自社のデビットカードやクレジット・カードにチャージされた債権の清
算を行なう。また決済機関として処理した債権の総額から付随費用を差し引いた額を、バウチ
ャーを獲得する銀行に支払う義務を負う。その意味で、取引における決済機関の役割は、案
件の健全なパフォーマンスに不可欠となる。決済機関の信用力は案件の将来のパフォーマン
スに大きく関わるため、ムーディーズは決済機関の信用力の評価を行なう。
ムーディーズが当該案件の債務者に格付を付与していない場合には、それらの信用力と債
務者リスクの推定を行う。推定では、案件の契約関係書類の規定に従った当該債務者の義務、
事業経験、市場シェア、バウチャーを獲得する銀行とのこれまでの関係、支払義務にみられる
何らかの特徴、加盟店バウチャーの清算のために発生するプロセシング銀行への支払義務
の履行能力を検討する。
13
JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
ムーディーズまた、債務者リスクを緩和するための案件のストラクチャー上の特徴も検討する。
案件の債権と、バウチャーを獲得する銀行が決済機関に負う他の支払義務とを相殺しないこ
とに対する決済機関の同意が、案件の契約関係書類に織り込まれているかどうかなどがそれ
に含まれる。また債務者は、国際クレジットカード・デビットカード・バウチャー債権の購入によ
って発生するプロセシング銀行に負う支払義務を、案件の投資家のために設定された特別口
座に送金するよう指示する、バウチャーを獲得する銀行の取消し不可の指示を受諾することも
できる。
ソブリン・リスク
政府が国際クレジットカード・デビットカード・バウチャー債権案件に干渉したり、資金を信託の
外に仕向けたりする企てが成功するリスクを低下させる要因には、次のようなものがある。
» デビット案件やクレジット案件の承認が電子的・自動的になされることで、ソブリンが債権生
成や条件に干渉する能力が制約を受ける。
» 支払義務がクレジット・カード会社所在地のオフショアで発生する。全ての支払いがオフシ
ョア口座を通じて記録・実行される。元利払い金を超過する資金を除き、あるいは債券保
有者のために行動する受託者が承認する場合を除き、キャッシュフローがバウチャーを獲
得する銀行の所在国に還流することがない。クレジット・カード会社はプロセシング銀行の
所在国の司法管轄に服さないことから、このような決済メカニズムの下では、プロセシング
銀行の所在国政府が加盟店バウチャーの代わり金を直接、本国に還流させようとしても、
厳しい制約を受ける。
» 全ての支払いを信託に行なうものとするクレジット・カード会社の義務は取消不能である。
当該債務が準拠するのは外国法であり、当該債務の裁判管轄はその外国の裁判所となる。
従って、クレジット・カード会社は、プロセシング銀行が所在する国の政府の司法管轄と支
配から免れる。ムーディーズは、これによってクレジット・カード会社の行動に影響を及ぼす
政府の能力が制約を受けると考えている。支払指図に従わなければ同意契約書の条件に
違反するため、クレジット・カード会社は債券保有者から法的措置をとられるリスクを負う。
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JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
付録Ⅱ:様々な支払の受領権(DPR)
様々な支払の受領権とは何か?
「様々な支払の受領権 (DPR)」とは、オフショアの司法管轄に所在する個人、会社あるいは機
関が、国内の司法管轄に所在する個人あるいは法人のために行う支払指図に基づいてオン
ショアの銀行がオフショアの銀行から支払いを受ける権利を指す。そのような支払指図は海外
労働者が出身国の扶養家族に送金するために、あるいはオフショアに所在する輸入業者が
オンショアに所在する輸出業者が提供する商品・サービスの代金を支払うために、発行される
ケースが多い。支払人および受取人が同国内に所在しているケースにおいて、受取人のため
に支払人が外貨建て支払指図を発行することもある。
支払指図とは、支払人から被仕向け銀行に電子的に、口頭で、あるいは書面で伝えられる、
一定金額あるいは確定可能な金額を受益者に支払うよう命じる、あるいは他の銀行に支払い
を行なわせる指示を意味する。図表3はこのプロセスを図示したものである。
図3
支払指図のプロセス
オフショア
1
支払人
2
オリジネーター
オンショア
3
コルレス銀行
4
オリジネーター
受益者
出所: ムーディーズ・インベスターズ・サービス
このケースでは、オリジネーターと受益者は国内司法管轄に所在し、支払人、支払人の銀行、
コルレス銀行はオフショアに所在する。コルレス銀行は通常、オリジネーターが外貨建て支払
指図を決済するために設けた外貨建て口座を維持するオフショアに所在する大手銀行となる。
支払人は自身の取引銀行(支払人の銀行)に支払指図を発行し、必要な支払を行なう。
支払指図発行後、次のプロセスが進行する。
» 支払人の銀行がコルレス銀行に指示を送る。
» コルレス銀行はオリジネーターに支払人が発行した支払指図に基づく資金の受領を伝え
るメッセージを送る。
» 所要額がコルレス銀行のオリジネーター口座に入金されたことを確認した後、オリジネータ
ーは対応金額をオリジネーターに設けられた受益者口座に入金する。
オリジネーターがコルレス銀行から支払いを受ける権利は、受益者からの要求に基づき、オリ
ジネーターに設けられた受益者口座に入金された金額を支払うオリジネーターの義務とは切
り離される。従って、支払指図に基づいてコルレス銀行がオリジネーターに支払うべき外貨建
て資金フローは、契約関係書類に基づく格付債務の返済に充当されるとはいえ、受益者は、
オリジネーターに請求さえすれば、支払指図金額の全額を受益者口座で受領することもでき
る。オリジネーターが何らかの理由で受益者への支払を怠った場合、受益者への支払義務不
履行となるだけではなく、地場での重要な市場参加者としての地位を失い、将来 DPR の生成
を継続できなくなる可能性がある。
支払指図は書面による支払指図か電子的な支払指図のいずれかの形式を採る。書面による
支払指図は決済のために国内に到着する必要があることが多く、そのためにソブリンの干渉
を受ける可能性がある。電子的な支払指図ではそのような懸念がない。
15
JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
典型的な案件ストラクチャー
図4
DPR の真正売買ストラクチャー
1
2
オリジネーター
発行体
3
ノート保有者
3
4
指定預託銀行
オンショア
オフショア
司法管轄
司法管轄
集中口座
4
出所: ムーディーズ・インベスターズ・サービス
» 典型的な真正売買案件では、オリジネーターは全ての既存および将来の DPR を当該案
件の発行体でもある新規に設立した SPE に売却する。書面送金の場合、発行体に移転さ
れる資産に送金書類(小切手、郵便為替、トラベラーズ・チェックなど)が含まれる。
» 発行体はノートを発行し、発行代わり金を DPR によるキャッシュフローの購入に充当する。
» 案件のコルレス銀行が指定される。通常、オリジネーターと取引関係にある銀行が指定さ
れる。オリジネーターはいくつかのコルレス銀行、すなわち指定預託銀行(DDB)を指名し、
それらの銀行がキャッシュフローの相当部分について処理を担当する。各 DDB は確認契
約書に署名し、それに従って DPR の資金フローを発行体名義の(受託者が管理する)集
中口座に預託する義務を負う。DPR 案件に果たす DDB の役割の重要性については後
段のソブリン・リスクのセクションで解説する。
図 5 は電子的支払指図の場合のキャッシュフローを説明するものである。図 5 のキャッシュフ
ロー図は次の想定に基づいている。
» 支払人は米国に所在し、国内(オンショア)司法管轄に所在する受益者への支払いを行な
うことを望み、オリジネーターとコルレス関係にある。
» 指定預託銀行(DDB)はオリジネーターのために口座を維持している。
図5
電子送金の処理
1
支払人
支払人の銀行
2
指定預託銀行にある
集中口座
3+ 4
オリジネーター
6
回収口座
5
8
受益者
7
ノート保有者
オフショア
オンショア
司法管轄
司法管轄
出所: ムーディーズ・インベスターズ・サービス
16
JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
» 新興国に所在する受取人に電子的に資金を送金したい個人、会社、機関は、米国銀行の
支店(支払人の銀行)に接触し、国内(オンショア)司法管轄に送金する金額と銀行取引費
用を支払う。
» 支払人の銀行は送金額を預託銀行に送る。支払人の銀行は資金を DDB にある口座(集
中口座など)に移転しなければならない。
» DDB は自行にあるオリジネーターの口座に入金する。各 DDB に設けられた集中口座の
名義はオリジネーターとなり、オリジネーターは発行体および受託者のためのサービサー
に指名される。DDB が受け取る DPR に無関係な支払いは全て、当該 DDB に設けられ
たオリジネーターの別の口座に入金する。集中口座は全て、受託者の完全な管理の下に
置かれる。
» DDB はオリジネーターに送金額を入金したことを確認する情報メッセージを送る。次にオ
リジネーターは支払指図に盛り込まれた情報と同口座に振り込まれた実際の金額を照合
する。
» この時点で国内に所在する受益者は、オリジネーターに設けられた自身の口座に入金す
るようオリジネーターに指示できる。オリジネーターに口座を設けていない受益者は、オリ
ジネーターの支店か、電信送金によって受益者が指定する他行で支払を受けることができ
る。
» DDB は各元利払い期間の始めに全資金を、当該支払日に必要とされる金額が回収口座
に蓄積されるまで、受託者がノート保有者と他の担保権者ために保有する回収口座に自
動的に移転する。
» 受託者は担保口座にある送金代わり金を、格付対象ノートの約定元利払いと一部の取引
関連費用の支払いに充当する。
» 続いて、ノートの元利払いと SPE の手数料・経費支払い後に残る送金代わり金がオリジネ
ーターに戻される。
図 6 は、書面による支払指図の DPR 案件のキャッシュフローを図示している。ほとんどの
DPR 案件では電子的支払指図が用いられるが、一定割合の書面送金が含まれる案件が一
部にある。本例では、送金人は米国に所在すると想定する。
図6
書面送金の処理
2
1
送金人
受益者
オリジネーター
3
指定預託銀行
4
送金回収センター
5
7
担保口座
6
ノート保有者
オフショア
オンショア
司法管轄
司法管轄
出所:ムーディーズ・インベスターズ・サービス
17
JULY 2, 2015
格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
» 米国に所在する個人、会社、機関が米ドル建ての送金書類(送金為替あるいは小切手)を
国内(オンショア)司法管轄に所在する家族、会社、その他の機関に送付する。
» 送金書類の受領者はそれをオリジネーターの国内支店に持ち込む。オリジネーターから
高い信用評価を受けている一部の受領者は、取引費用控除後、送金額相当の自国通貨
を受け取ることができる。しかし、ほとんどの受領者はコルレス関係にある発行機関で送金
書類が決済されるまで待たなければ資金にアクセスできない。
» 通常、オリジネーターの支店に預託された送金書類は当該銀行の回収センターが日次ベ
ースで回収する。
» 送金は、回収センターでの所定の管理・承認手続きを経て、DDB に送付される。当該指
定コルレス銀行は、様々な発行機関との間で送金の決済を行なう。
» 将来債権証券化取引に関連して発行された取消不能支払指図に従って行動する DDB
は、送金書類の代わり金を受託者がノート保有者のために管理する担保口座に預託する。
従って、ノート保有者への返済に充当された後でなければ、キャッシュフローが国内(オン
ショア)に還流することはない。
» 受託者は、担保口座に預託された送金代わり金をノートの約定元利払いと特定の取引関
連費用の支払に充当する。
» 続いて、ノートの元利払いおよび SPE の手数料・経費の支払後に残る送金代わり金がオリ
ジネーターに戻される。
様々な支払の受領権に特有の分析上の考慮事項
債権の生成
ノートの返済を裏付ける将来における DPR の生成は、主として、オリジネーターの当該事業
継続能力と送金業務における強みに依拠する。またオリジネーターの DPR の生成能力と送
金業務の維持能力は、オリジネーターが必要な事業運営能力と財務力を有しており、送金金
額を迅速に引き渡すことについて、オフショアの送金人と国内(オンショア)の受益者の両者が
信頼を置いているかどうかに相当程度、依存する。
ムーディーズは、オリジネーターの事業および送金事務の維持能力を評価するにあたって、
オリジネーターの CR 評価を考慮に入れる。また、案件の格付分析では当該銀行にとっての
送金事業の規模と重要性、そして DPR 処理システムも考慮に入れる。さらに、銀行支店網の
規模、国内市場に占める当該銀行の地位、市場でのレピュテーションなども検討する。
キャッシュフロー分析
ムーディーズは、可能な限り、オリジネーターの過去の DPR 案件取扱量を、同じ国の他の金
融機関および同国全体の取扱量と比較し、それによってオリジネーターの DPR 取扱量の動
向あるいは変化が経済全般の動向を反映するものか、オリジネーターの DPR 事業に特有の
強みあるいは弱みを示唆するものかを判定する。
また、オリジネーターの DPR 事業の発生源を検証し、この要因が DPR 事業の取扱量にどの
ように影響するかを考察する。たとえば、深刻な景気後退は、巨額の労働者送金を扱う機関よ
りも、顧客に中小企業を多く抱える機関の DPR 取扱量により深刻な悪影響を与える可能性が
高い。同じ景気後退が、小規模な輸出企業を廃業に至らしめ、その結果海外顧客からの送金
の受領が無くなる結果を生む要因になると同時に、海外労働者の家族への送金額を増加さ
せるインセンティブにもなりうる。
ムーディーズは、DSCR の計算のために債権の資金フローのレベルを考慮する際、しばしば
次の点を考慮する。
» DDB からのキャッシュフローのみを含める。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
» 緩和要因がないとすれば、ソブリンの干渉によりさらされやすいキャッシュフローがある。た
とえば、オリジネーターのオフショア支店あるいは関連行が処理するキャッシュフローの寄
与分は通常、計算から除外あるいは削減する。
ソブリン・リスク
キャッシュフローのオフショアへの移転:DPR 案件では、オフショアの預託銀行の支払いを直
接オフショアの SPE 口座に仕向けるように義務づけることで、DPR のキャッシュフローを国内
司法管轄からオフショアに移転できる。ムーディーズは、国内司法管轄の当局が DPR のキャ
ッシュフローへの支配能力を少しでも保持している可能性があるか、その可能性の大きさが希
望する(案件の)格付に見合うものかどうかを評価する。この分析では、案件当事者が案件の
契約関係書類の規定に違反してでも当該国の司法管轄の当局の命令に従う可能性などを考
慮する。外貨建てノートの元利払いを行なう能力がソブリンの干渉から保護されている場合、
ノートに付与される格付は当該国の外貨建て債務のカントリー・シーリングを超えて、他の分
析事項を考慮した上でオリジネーターの CR 評価に等しい水準を達成できる。
DDB の役割:通常 SPE は、DPR キャッシュフローを SPE 口座にスムーズに預託できるよう、
DDB との間で勘定協定を締結する。
DDB は勘定協定に署名して、SPE への将来債権の譲渡を確認し、DDB がオリジネーターに
代わって受け取る将来債権の支払いを直接、指定された SPE のオフショア口座に預託するこ
とを約する。DPR 案件の当事者となる DDB には一般的に、外貨建て支払指図処理市場で
大きなシェアを占める高格付の金融機関がなる。
DDB はまた、それらの資金フローとオリジネーターが別途 DDB に負う債務を相殺する権利
を放棄し、DPR の回収金の処分に関して受託者の指示にのみ従うことに同意する。DDB が
処理する資金フローの減少はノートの発行体である SPE に悪影響を与えるため、多くの場合、
DDB が処理する資金フローについて最低比率を定めたトリガーを設定する。DDB が処理す
る資金フローがこの最低比率を下回った場合、オリジネーターは他のコルレス銀行を探して当
該案件の DDB とする新たな確認契約を締結しなければならない。
SPE はオフショア口座に入金した回収金をノートの元利払いに充当する。剰余金がある場合
はオリジネーターに返却される。オリジネーターに返却される剰余金が多額に上る場合、国内
ソブリンがそれに干渉しようとするとオフショアに資金フローが蓄積され、当該国の司法管轄に
還流する資金フローの水準が低下するリスクが高まるので、当該国の当局が干渉しようとする
インセンティブが削減されると考えられる。
オンショアの資金フロー:支払人と受取人が同一司法管轄に所在する場合も、受取人を受益
者とした支払人による外貨建て支払指図が生成されうる。これらの支払指図は外貨建てで発
行されるので、オフショアの DDB は支払いを決済できる。キャッシュフローを当該国の司法管
轄から移転するメカニズムがストラクチャーに組み込まれていたとしても、オンショアでオリジネ
ートされたそれらの外貨建て支払指図(オンショア・フロー)にはソブリンが干渉するリスクが残
る。それらのキャッシュフローを完全に分析から除外することはできないが、ムーディーズは、
オリジネーターが生成する資金フローの推計と DSCR トリガーの判定に用いる資金フローの
計算においてオンショア・フローの寄与分にある程度の限度を課してきた。オンショア・キャッ
シュフローの寄与分の水準は、主としてその国の外貨建て債務のカントリー・シーリングによっ
て決まる。オリジネーターの所在国の外貨建て債務のカントリー・シーリングが低い場合(言い
換えると、ソブリンによる干渉のリスクが比較的高い場合)、ムーディーズが評価する DPR 案
件におけるオンショア・フローの寄与分は低くなる。反対に、外貨建て債務のカントリー・シーリ
ングがノートに付与した当初格付に等しいかそれよりも高い場合、オンショア・フローの寄与を
より高く評価する場合がある。
書面支払指図と電子的支払指図:書面による支払指図は、ソブリンが DPR のキャッシュフロ
ーに干渉するのを防止できる特徴を備えていない。書面による支払指図に用いられる証書類
はまず、国内司法管轄に所在する個人に送付されなければならない。次に、受取人は当該
証書に裏書きして自国の銀行または類似機関に預託する必要がある。それらの金融機関は
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
証書に裏書きを追加し、支払を受けるためオフショアのプロセシング銀行に送付する。国内銀
行は当該国政府の法律と管理に従わなければならないので、支払指図の証書類を政府に提
出するか、代わり金をオフショアの案件口座に預託することに同意していない銀行を通じて送
金処理せざるを得ない場合がある。
国内当局は書面による支払指図の証書類とその代わり金を転用することができるので、政府
にその能力があるにも関わらず干渉しないことが確実な理由がある場合を除いて、ムーディー
ズは書面による支払指図から生じる将来のキャッシュフローのみに支えられた証券に、オリジ
ネーターの居住国の外貨建て債務のカントリー・シーリングを上回る格付を付与することはな
い。(米国とメキシコなど)支払指図が送付される国とそれらを受領する国の関係によっては、
政府による干渉の可能性が大幅に低くなることがある。
電子的な支払指図は、支払指図の証書類が国内の司法管轄に回付される必要がないので、
書面による支払指図に比べ自国政府による転用が困難になる。従って、電子的支払指図を
裏付けとする債務の支払いを政府が停止させるのはそれだけ困難になる。
電子的支払指図によるキャッシュフローを案件ストラクチャーの外に転用するには、当該国政
府が、電子的支払指図の発信元であるオフショア・コルレス銀行を特定でき、かつ 1) それら
の銀行に対して SPE 口座に DPR のキャッシュフローを支払う契約義務を無視させることがで
きるか、2)代わり金を政府が管理する口座に送金することに異を唱えない他のコルレス銀行と
交代させることができるかのいずれかの能力を有していなければならない。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
付録 III: 将来輸出債権
将来輸出債権とは何か?
(通常、新興国に所在する)輸出業者が特定の製品や製品群を外国に販売する際に輸出債
権が生成される。債権は、輸出業者が支払条件など相互に合意した契約条件に従って製品
を顧客に販売する都度、生成される。将来輸出債権を裏付けとする案件の発行体は、それら
の債権から回収した資金を当該将来輸出債権に裏付けられたノートの元利払いに充当する。
輸出業者は債権を売却することもでき、当該債権に対する権利を譲渡することもできる。債権
はクロージング時に存在する場合もあり、今後ディールの存続期間を通じて生成される場合も
あるが、案件のクロージング時には輸出債権は存在しないのが普通である。
典型的なストラクチャー
将来輸出債権案件にはいくつかの共通の特徴(ストラクチャー上のメカニズム)がある。そのい
くつかを次に挙げる。
» 輸出業者は現在および将来の輸出債権を、直接あるいは貿易子会社を通じて、オリジネ
ーターがオフショアに設立した SPE または信託に売却する。SPE は輸出債権に裏付けら
れたノートを発行する。輸出業者が案件を有担保輸出ノートとして仕組むことを選んだ場
合は、自身でノートを発行し、債権に対する担保権を投資家を受益者とする受託者に譲渡
する。
» 輸出業者は商品購入者に、当該輸出債権が売却された旨の通知を与える。輸出業者は
同時に、商品購入者に対して、投資家のために受託者が管理する取消不能の回収口座
への支払いを指図する。通常、顧客は売却を確認し、場合により支払指図に署名して指
定口座に代金を支払うことに同意する。
» 回収口座に入金された資金は発行体による投資家への元利払いに充当される。
将来の輸出債権に裏付けられた案件に典型的なストラクチャーというものはない。ストラクチャ
ーは案件によって大幅に異なる。
» 資産の売買: 一部の案件は売買として仕組まれる。それらの案件では、オリジネーターは
輸出債権を発行ビークルに直接、売却する。
» 有担保輸出ノート:一部の案件は有担保輸出ノートとして仕組まれる。このタイプの案件で
は、発行体(通常は輸出業者)が債権に対する担保権を譲渡し、オリジネーターは債権の
所有権を留保する。
» 保証取引: 一部の案件には、キャッシュフローが約定の債務返済に不足する場合に製品
供給あるいは債務支払いを確保するために用いられる第三者保証が含められる。
» 先物売り: 一部の案件は、クロージング時にオリジネーターが価格と数量を定めて製品を
引き渡すことを約束する先物売りとして仕組まれる。これらのタイプの案件には、通常、オフ
テイカー(引き取り手)、すなわち案件存続期間を通じて一定の条件で製品購入を約束す
る事業者が介在する。
将来輸出債権に特有の分析上の考慮事項
債権の生成
オリジネーターの自国通貨建て格付は、販売目的の商品およびサービスの生産を継続し、債
権を生成し続けるオリジネーターの能力と意思を測るための重要な目安になる。自国通貨建
て格付は、業界動向、経営陣の質、リスク選好、当該企業の事業基盤と競争力、財務状況、
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
流動性ソース、ストラクチャー(構造的劣後や請求権順位など)、親会社との支援契約、特別
なイベント・リスクなど、輸出業者の事業の諸側面を捉える。
ムーディーズの分析では、販売する製品の特徴、輸出業者が事業を行なう業界、同業他社と
比較した当該企業の地位、コストを削減しながら収入を生み出す能力、財務状況、流動性ソ
ースなどもより詳細に把握するよう努める。特に、オリジネーターの生産能力、(該当する場合)
埋蔵量、市場シェア、および債権生成能力を損なう可能性があるその他の要因(過去のストラ
イキの実績など)に注目する。
キャッシュフロー分析
ムーディーズは、過去の資金フロー量を精査してキャッシュフローをモデリングし、オリジネー
ターの債権生成、延いては信託に移転されるキャッシュフローに悪影響を与えうる状況を判断
する。様々なシナリオを用い、必要に応じて生産、需要、価格、経済環境など種々の変数にス
トレスを加えた感応性分析を行い、デット・サービス・カバレッジが投資家への元利払いに十
分かどうかを確かめる。キャッシュフロー分析に用いる最も適格な予想値の決定にあたって、
当該法人を担当する企業アナリストと緊密に協議する。ムーディーズの予想値には、価格水
準と生産高の実際値と予想などが含まれる。
債務者: ムーディーズは案件の分析において、債務者の数と分散度、債務者の財務力、およ
び信用力(債務者の格付や、債務者の信用力に関するムーディーズの社内意見に反映され
ている)を考慮する。また、案件のストラクチャーに組み込まれた債務者分散やエクスポージャ
ー集中のリミットにも注目する。単独の債務者が案件の主要な資金フロー・ソースになってい
る場合、複数の債務者が存在する場合に比べ、案件の格付と当該債務者の財務・経営力と
の相関が強まる。さらに、高格付の債務者であっても常に期日通りに売上債権を支払う訳で
はないことを想定し、債務者の支払い履歴も精査する。最後に、既存契約あるいは事業協定
の性質、条件、期間など、債務者と輸出業者の取引関係を考慮する。長期に及ぶ関係は、案
件の堅牢性と安定性を強化する要因となる。
市場リスク:市場リスクとは、将来の債権を創出するために売られる商品の市場が縮小あるい
は消滅する可能性を指す。市場リスクの分析では、海外市場だけでなく国内市場での当該製
品に対する需要と当該輸出業者のそれらの需要への対応能力を検討する。何らかの理由
(規制による義務化など)によって輸出業者が製品を国内市場に振り向けざるを得なくなるリス
クを考慮して、国内市場の強さも評価する。製品需要の持続性と感知された業界動向につい
ても分析を行なう。
ムーディーズはまた、当該製品に強固なスポット市場があるかどうかを判断する。当該製品の
スポット市場が確立していれば、輸出業者は製品をスポット市場に振り向けた方が経済的に
有利であると判断する可能性がある。そのような場合、債権がスポット市場で売られるとしたら、
資金フローが海外で捕捉されずに国内に戻るため、キャッシュフローに干渉しようとするソブリ
ンのインセンティブが高まる。競争環境、とりわけ競合製品の存在が将来の売上を損ねるリス
クも評価する。
価格リスク:価格リスクとは、業界動向あるいは需給動向によって販売価格が変動するリスクを
指す。ムーディーズは、過去の製品価格、平常時の価格ボラティリティ、業界のサイクル性を
評価する。また、ストラクチャーにおけるヘッジの使用、当該製品の下限価格の有無など、
様々な価格リスク緩和要因も見極める。特に長期契約などで事前に価格を取り決める契約に
なっている場合は価格リスク軽減要因となり、クレジット・ポジティブな要因となりうる。
ソブリン・リスク
ムーディーズは、ソブリン・リスクを評価する際、通常、案件のストラクチャーを検証し、法的構
造の頑健性を確認する。またソブリンによる案件のキャッシュフローや製品仕向け先への干渉
の制約要因となりうる何らかの経済的要因の有無、当該司法管轄における同種案件や類似
案件の過去における支払い実績も検証する。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
ASSET-BACKED SECURITIES
以下に、政府が将来輸出債権案件に干渉したり、信託への支払いを他に転用させたりするリ
スクを低下させるいくつかの要因を挙げる。
» 政府が、当該輸出業者を同国および国内経済にとって戦略的に重要な存在と考えている。
ムーディーズは、当該企業を担当する企業アナリストやソブリン・アナリストと協議し、居住
国におけるオリジネーターの重要性を評価する。
» 輸出業者が顧客に宛てた債権の売却通知、および受託者が管理するオフショア口座への
取り消不能の支払指図。指定顧客が、売掛金の売却を認識し、受託者が管理する口座に
取り消し不能で支払うことに同意する承諾書に署名するケースもある。
» 輸出代金の支払いをノート保有者のために受託者が管理するオフショア口座に送金する
取り決め。
» 発行体がキャッシュフローの一部を元利払いに充当した後、キャッシュフローの相当部分
が超過キャッシュフローとして定期的に輸出業者に送金されるようにする取り決め。この規
定では、ソブリンによる資金の転用あるいは干渉の試みをノートの早期償還事由(および
発行残高全てに適用される将来の潜在的クロス・アクセラレーション事由)と定めることもで
きる。それらは、オフショアの受託者が管理する口座に入るキャッシュフローの全てあるい
は相当部分の拘束と当該国に流入する資金フローの減少を招く結果になりかねない。
» 受託者の回収口座への支払義務を負わない顧客向けの製品転売を不可能あるいは無意
味にする当該製品または当該市場のその他の何らかの特徴。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
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ムーディーズの関連リサーチ
他の補助的格付手法やクロス・セクター格付手法に記載されている、幅広い格付上の考慮事
項が、本クロス・セクター格付手法の適用において重要となることもある。関連しうる補助的格
付手法ならびにクロス・セクター格付手法については、ムーディーズのウェブサイトを参照され
たい。
本格付手法を用いて付与された信用格付のヒストリカルな信頼性と予測能力をまとめたデー
タは、ムーディーズのウェブサイトに掲載されている。
詳細については「格付記号と定義」を参照されたい。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法
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ムーディーズ・ジャパン株式会社
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クについての、ムーディーズの現時点での意見です。ムーディーズが発行する信用格付及び調査刊行物(以下「ムーディーズの刊行物」といいます)は、事業体、与信契約、債務又は債務
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きないリスク及びデフォルト事由が発生した場合に見込まれるあらゆる種類の財産的損失と定義しています。信用格付は、流動性リスク、市場価値リスク、価格変動性及びその他のリスク
について言及するものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物に含まれているムーディーズの意見は、現在又は過去の事実を示すものではありません。ムーディーズの刊行
物はまた、定量的モデルに基づく信用リスクの評価及び Moody’s Analytics, Inc.が公表する関連意見又は解説を含むことがあります。信用格付及びムーディーズの刊行物は、投資又は財
務に関する助言を構成又は提供するものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物は特定の証券の購入、売却又は保有を推奨するものではありません。信用格付及びムー
ディーズの刊行物はいずれも、特定の投資家にとっての投資の適切性について論評するものではありません。ムーディーズは、投資家が、相当の注意をもって、購入、保有又は売却を検
討する各証券について投資家自身で研究・評価するという期待及び理解の下で、信用格付を付与し、ムーディーズの刊行物を発行します。
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ーズの事前の書面による同意なく、複製その他の方法により再製、リパッケージ、転送、譲渡、頒布、配布又は転売することはできず、また、これらの目的で再使用するために保管すること
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ディーズはこれらの情報をいかなる種類の保証も付すことなく「現状有姿」で提供しています。ムーディーズは、信用格付を付与する際に用いる情報が十分な品質を有し、またその情報源が
ムーディーズにとって信頼できると考えられるものであること(独立した第三者がこの情報源に該当する場合もあります)を確保するため、すべての必要な措置を講じています。しかし、ムー
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他の種類の責任を除く)、あるいはそれらの者の支配力の範囲内外における偶発事象によるものである場合を含め、責任を負いません。
ここに記載される情報の一部を構成する格付、財務報告分析、予測及びその他の見解(もしあれば)は意見の表明であり、またそのようなものとしてのみ解釈されるべきものであり、これに
よって事実を表明し、又は証券の購入、売却若しくは保有を推奨するものではありません。ここに記載する情報の各利用者は、購入、保有又は売却を検討する各証券について、自ら研究・
評価しなければなりません。
ムーディーズは、いかなる形式又は方法によっても、これらの格付若しくはその他の意見又は情報の正確性、適時性、完全性、商品性及び特定の目的への適合性について、(明示的、黙
示的を問わず)いかなる保証も行っていません。
Moody's Corporation (以下「MCO」といいます)が全額出資する信用格付会社である Moody's Investors Service, Inc.は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を
含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、Moody's Investors Service, Inc.が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、1500 ドルから約 250 万ドルの手数料を Moody's
Investors Service, Inc.に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO 及び MIS は、MIS の格付及び格付過程の独立性を確保するための方針と手続を整備しています。MCO
の取締役と格付対象会社との間、及び、MIS から格付を付与され、かつ MCO の株式の 5%以上を保有していることを SEC に公式に報告している会社間に存在し得る特定の利害関係に関す
る情報は、ムーディーズのウェブサイト www.moodys.com 上に"Investor Relations-Corporate Governance-Director and Shareholder Affiliation Policy"という表題で毎年、掲載されます。
オーストラリアについてのみ:この文書のオーストラリアでの発行は、ムーディーズの関連会社である Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657(オーストラリア金融サービス認可
番号 336969)及び(又は)Moody's Analytics Australia Pty Ltd ABN 94 105 136 972(オーストラリア金融サービス認可番号 383569)(該当する者)のオーストラリア金融サービス認可に基づき行わ
れます。この文書は 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国内からこの文書に継続的にアクセスした場合、
貴殿は、ムーディーズに対して、貴殿が「ホールセール顧客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者としてこの文書にアクセスしていること、及び、貴殿又は貴殿が代表する法人が、直
接又は間接に、この文書又はその内容を 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。ムーディーズの信用格付は、発行者の
債務の信用力についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール顧客が取得可能なその他の形式の証券について意見を述べるものではありません。リテール顧客が、ムーディ
ーズの信用格付に基づいて投資判断をするのは危険です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談することを推奨します。
日本についてのみ:ムーディーズ・ジャパン株式会社(以下、「MJKK」といいます。)は、ムーディーズ・グループ・ジャパン合同会社(MCO の完全子会社である Moody’s Overseas Holdings Inc.の
完全子会社)の完全子会社である信用格付会社です。また、ムーディーズ SF ジャパン株式会社(以下、「MSFJ」といいます。)は、MJKK の完全子会社である信用格付会社です。MSFJ は、全
米で認知された統計的格付機関(以下、「NRSRO」といいます。)ではありません。したがって、MSFJ の信用格付は、NRSRO ではない者により付与された「NRSRO ではない信用格付」であり、
それゆえ、MSFJ の信用格付の対象となる債務は、米国法の下で一定の取扱を受けるための要件を満たしていません。MJKK 及び MSFJ は日本の金融庁に登録された信用格付業者であり、
登録番号はそれぞれ金融庁長官(格付)第 2 号及び第 3 号です。
MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を含みます。)及び優先株式の発行者の大部分が、MJKK 又は MSFJ(のうち該
当する方)が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、20 万円から約 3 億 5,000 万円の手数料を MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)に支払うことに同意していることを、ここ
に開示します。
MJKK 及び MSFJ は、日本の規制上の要請を満たすための方針と手続も整備しています。
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格付手法:将来債権 ABS の格付分析手法