11.3 バイアスモーメンタム衛星

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第 11 章
軌道上のデュアルスピン安定化
図 11.15 Anik C『ジャイロスタット』
節結合部分が何らかの目標を自動追尾する場合、その動作が衛星の方向安定化のためのマージンを
増加させるということを示している。このように関節結合を持った制御システムは、ペイロード部
分の方向を制御するという本来の機能に加え、衛星を安定化させるのを助けるという側面的な利益
を生み出す。[Slafer]は OSO-8 衛星に関してまさにこのような状況を示している。この OSO-8 衛
星の場合、ニューテーションの安定化を目指した制御システムの設計基準が一連の軌道上の実験に
よって実証された。
最後に、『ジャイロスタット』に作用する外部トルクに対しては単体のスピナの場合とちょう
ど同じように定期的に補正を行う必要がある。この外部トルクは角運動量ベクトル h の方向を変化
させる(ウォブル制御システムは、能動型であろうと受動型であろうと、この角運動量ベクトル h
の方向に衛星を向けようと努めるのであるが)
。
また軌道面の小さな変化も本質的に同じような指向
誤差を発生させる。これらの影響に対して再指向を行うための制御は、実際の場合能動的でも受動
的でもない制御手順すなわち地上からの制御指令で行われる。1 例として図 11.15 に示す Anik C 衛
星の場合を考えよう。1982 年に静止通信衛星として打ち上げられたこの衛星は能動型ウォブル制御
を持つ長球型の『ジャイロスタット』であった。図 11.16 は 1983 年の 5 ヵ月間の飛翔データを示し
たものである。この図における上の 2 つの図は地心赤道座標系に相対的に表された衛星の位置を示
したものである。
(図 11.16a においてわずかな軌道離心率によって経度が日々変化していることに
注意されたい。
)この例に関してさらに興味深いことは姿勢の余赤緯(図 10.32 で定義)の変化であ
る。スピンベクトルを地理学上の北に対して 0.15°以内に保つために、地上からの指令によるスラス
タの噴射が 10 日に 1 回程度必要とされている。
11.3 バイアスモーメンタム衛星
『ジャイロスタット』とバイアスモーメンタム衛星の違いに関してはすでに前節の最初に述べ
ておいた。
両者は力学的には多くの点で区別し難いが
(両者とも伝統的なジャイロスタットである)
、
実現する際の詳細はかなり異なっているので、両者はある程度 2 つの別々の範疇に属するものと考
えた方がよい。また両者は見たところも違っている。すなわち『ジャイロスタット』は大型の外部
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図 11.16 Anik C 衛星のスピンベクトルの動き
ロータを持っているのに対して、バイアスモーメンタム衛星は比較的小型の内部モーメンタムホイ
」
ールを持っている。それでも『ジャイロスタット』の角運動量が「バイアスされている(biased)
ということは疑いのないことであり、同様にバイアスモーメンタム衛星と呼んでいるものが、伝統
的なジャイロスタットと全く同じものであるということも疑いのないことである;しかしこのあと
用いる用語は航空宇宙分野の文献における現代的な用法に従う。
『ジャイロスタット』とバイアスモーメンタム衛星は、設計上の多くの分野で受動型-能動型
という物差しに関連して出てくるが、バイアスモーメンタム衛星の方が傾向的に設計上より多くの
能動型制御要素を持っている。両者ともロータ(もしくはホイール)のスピン維持のために測定結
果に基づきモータを能動的に制御しなければならない。さもなければ両者の場合ともベアリングの
摩擦によって直ぐに単 1 物体になってしまうからである。両者の差はロータ(もしくはホイール)
を除いた部分つまり衛星本体(
『ジャイロスタット』の場合「プラットフォーム」と呼ばれる部分)
の姿勢に関して現れ、その姿勢を特徴付ける 3 つの基本的な回転自由度の差として出てくる。
ある特定のミッションに関連して、『ジャイロスタット』がよいかバイアスモーメンタム方式
がよいかを決定する際に、力学や制御以外にも設計上考慮すべき重要なことが数多くある。例えば
温度制御は衛星の大部分がスピンしている方が容易になる。しかし大きな回転ジョイントを介して
多数の電気接続を行わなければならないため不必要に高価になる。このような熱的および電気的サ
ブシステムに関する議論は本書の範囲を超えるものであるが、これらの例は、何故『ジャイロスタ
ット』とバイアスモーメンタム方式という 2 つの代替案が、力学的には全く同じであるにもかかわ
らず実際問題として区別されているのかを説明するのに役立つと思われる。また興味あることであ
るが、両方式とも必須の技術がいまや相当高度になってきているため、多くのミッションにおいて