視覚短期記憶の忘却率に及ぼす 提示時間の効果 京都大学大学院 情報学研究科 ○酒井 浩二 乾 敏郎 実 験 1・2 目的 ① これまでの研究 視覚短期記憶の忘却要因 空間要因-図形の複雑さ 時間要因-保持時間 ・ 単純な図形でも忘却は生じる ・ 複雑さの増大-忘却率は上昇 ② 提示時間による学習レベルの操作 これまでの実験-288msの瞬間視 -図形の正確な獲得,記憶保持には より多くの提示時間が必要? ③ 本研究 提示時間の増大-忘却率は低下するか? →視覚短期記憶の忘却率に及ぼす 時空間要因を検討 方法 刺激 実験1 単純な図形(凹凸数7) D T T : ターゲット D : ディストラクタ 実験2 複雑な図形(凹凸数9) D T TとDの物理的差異-実験1・2で一定 手続き S1 提示時間 120, 288, 1200ms ・ 同じ・異なる試行数は半々 ・ S1とS2の複雑さは同じ -微妙な形状の保持 ・ リハーサルあり 360ms 保持時間 0, 2, 4, 8sec S2 持続提示 t S1とS2は 同じ or 異なる ? 実験計画 ① 提示時間 3種 ( 120, 288, 1200ms ) ② 保持時間 4種 ( 0, 2, 4, 8sec ) 分析 忘却率が提示時間に依存する・しないの分析方法 ① 課題成績の低下率の比較 提示時間×保持時間の交互作用の有無 ② 忘却の割合の低下率 回帰式における回帰係数の比較 結果・考察 実験2:凹凸数9 実験1:凹凸数7 12 0ms 28 8ms 120 0ms 2 2 1 .6 1 .6 1 .2 1 .2 0 .8 0 .8 0 .4 0 .4 0 2 4 6 保持 時 間(se c) 8 12 0ms 28 8ms 12 00ms 0 2 4 6 8 保 持 時 間( se c) 要点 (1) 再認率の分散分析-交互作用に有意差あり 提示時間の増大→忘却率は低下 (2) 獲得の正確さ-300ms程度で飽和 (3) 正確な記憶保持には1sec程度必要 (4) 1200msでも,忘却は入力後すぐに生じる 忘却曲線 y = (a − c ) e − bt +c (a:学習レベル,b:忘却係数,c:漸近値) 凹凸数7 120ms 288ms 1200ms 凹凸数9 120ms 288ms 1200ms a b c R2 2.06 2.00 2.07 0.351 0.167 0.073 0.79 0.79 0.79 0.972 0.929 0.833 a b c R2 1.67 1.91 1.99 0.419 0.211 0.071 0.39 0.39 0.39 0.999 0.962 0.977 7 9 7 9 忘却率 b 学習レベル a 2 0.4 1.6 0.3 1.2 漸近値 c 0.8 7 9 0.2 0.1 0.4 0.4 0.8 1.2 提示時間(sec) 0.4 0 .8 提 示 時 間( sec) 1.2 要点 ・ 提示時間の増大-学習レベル a はわずかに増大 忘却係数 b は大きく低下 ・ 漸近値 c -120ms条件=288ms,1200ms条件を仮定 実際に,c は提示時間に依存せず一定か? →実験3で検討 実験3 目的 実験1・2-4secから8secで漸近傾向 (a) あて推量以上の成績で8sec以降は漸近? (b) 8sec以降も忘却が続く? hyp. (b)どの提示時間も一定の漸近値 c まで低下 漸近に達する保持時間が提示時間により異なる 提示時間1200ms-8secから16secまで忘却が続くか? 結果・考察 提示時間:1200ms 7 (Exp 1) 7 (Exp 3) 9 (Exp 2) 9 (Exp 3) 2 1 .6 1 .2 0 4 8 12 16 保持 時 間( sec) 要点 (1) 提示時間1200ms-16secまで忘却が続く 忘却は緩やかに,比較的長いあいだ続く (2) 推測 : 漸近値 c -提示時間に関わらず一定 複雑な図形のほうが低い値 漸近値 c に達する保持時間 -提示時間の増大により長くなる (3) 忘却率は複雑な図形のほうが高い -これまで(288ms)の実験結果と一致 総合考察 (1) 記憶ノイズによる忘却 ① 提示時間の増大-忘却率は大きく低下 ② 1sec程度の提示時間-忘却は不可避 記憶ノイズ -N/secで発生 ・ 図形は凹部で分節されて視覚短期記憶で保持 ・ 各凸部が正規ランダム変数として表現 視覚短期記憶での期待値=外界の刺激値 記憶ノイズにより分散が増大 ・ 数秒から数十秒程度,記憶ノイズの発生は続く (2) 記憶ノイズの時空間要因 連続値 離散値 N/sec = ω2ρ /sec 凹凸数 → ω2に作用 提示時間 → ρに作用 ω2 /step (1ステップあたりの記憶ノイズ) ρ step/sec (1secあたりのステップ数) 提示時間→ ○ρの低下 → N/secの→ 忘却率 低下 低下 の増大 ×ω2の低下 記憶ノイズ-保持時間の線形関数 (酒井・乾,1999)
© Copyright 2024 ExpyDoc