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刑法予習編
第 9 回目
レジュメ
・過失犯
<過失とは>
過失とは、故意がなく、かつ犯罪事実の実現に関し注意を欠いて行為に出る時の心理状態
旧過失論:
「故意犯の実行行為」=「過失犯の実行行為」
犯罪の認識・予見がある → 故意犯
犯罪の予見可能性があるに留まる
→ 過失犯
新過失論:必ずしも「故意犯の実行行為」=「過失犯の実行行為」ではなく、
「故意犯の実行行為」≠「過失犯の実行行為」の場合もある
【具体例】Xが、ゴミ箱の中に、食中毒となりやすい腐った食物を捨てておいたところ、
Aがこれを食して食中毒で死亡するに至った場合
故意がない場合
・旧過失論⇒予見可能性が認められる場合には、過失犯が成立
・新過失論⇒予見可能性と結果回避義務違反を検討
過失行為=予見可能性を前提に行為者の立場に置かれた一般人が遵守すべ
き行動基準を想定して、それから逸脱した行動をとること
→「予見可能性を前提とした結果回避義務違反がある」場合に過失犯が
成立する
<過失の位置付け>
過失犯の構成要件
過失犯 ⇒ 過失結果犯 ←刑法典にある過失犯は全て過失結果犯
過失挙動犯
過失結果犯の構成要件該当性が認められるためには
① 結果の発生
② 当該行為と結果との間の因果関係
③ 結果の予見可能性
④ ③を前提とする結果回避義務違反
⑤ 結果回避措置を履行することにより結果発生を可否できたという意味での
結果回避可能性
<予見可能性>
予見の対象⇒「特定の構成要件的結果の発生とそれに至る因果経過の基本的部分ないし
本質的部分」を予見したことで足りる
予見の程度⇒結果回避義務との関係でその程度が変わってくる
<結果回避義務>
過失行為とは、故意行為と異なり、構成要件該当事実を実現する意図を有さずに
行われる行為
→故意行為を防止するのとは、異なる行動規範を要求する必要がある
例えば、故意犯を防止する場合 →「人を殺すな」
過失犯を防止する場合 →「人を殺さないように気をつけなさい」
過失犯では、
「人を殺す」という結果を発生させないように「注意しなさい」という
結果回避義務が行為規範の内容となっていて、過失犯特有の要件とされている
では、結果回避義務違反をどのように設定するのか?
結果回避義務は、行為者の置かれた具体的状況のもとで、思慮ある一般通常人が結果
の発生を予見でき、かつ、一定の回避措置をとればその結果を回避できるであろうと
考えるときに肯定される
つまり、
結果回避義務=結果回避のために行為者の立場に置かれた一般通常人に社会生活上遵
守が要求される行動基準ないし行動準則にかなった態度をとるべき義
務
自らは社会的行動準則を遵守した行動をしていたが、相手が行動準則を守らず不適切
な行動をしていた場合にどう判断するか?
【具体例】自分は車を法定速度内で走行させていて、青信号の交差点を走行していたけ
れども、横から法定速度を大幅に超える速度で車を走行させて、交差点に突
っ込んできたので、交差点で車が衝突し、相手が死亡してしまった場合
車の運転の際に遵守が要求される社会的行動準則は基本的には道路交通法に
定められていて、自分自身は、道路交通法を守って行動している
→行動準則を守っている以上は、例え「車を停止させる」という結果回避措
置を取らなくても、結果回避義務違反があるということはいえないだろう
⇒自分が遵守すべき社会的行動準則を守っていれば結果回避義務違反とはなら
ない
信頼の原則:複数の者がそれぞれ仕事を分担する共同作業においては、関与者は他の者
が適切な行動をとるであろうことを信頼してよく、他の者が不適切な行動
に出ることを想定した結果回避措置をとることまでは要求されないという
原則
<結果回避可能性>
【具体例】Aが交差点へ侵入する際の法定速度が 20 キロ以内のところ、50 キロで青信号
の交差点に車で進入したのに対し、Bが横から 60 キロで赤信号の交差点に車
で進入したため、車が衝突し、Bが死亡してしまった場合
Aは法定速度を超える速度で交差点に進入して、事故を発生させている以上、
社会的要求されている行動準則から逸脱しており、結果回避義務違反がある
では、Aが法定速度内の 20 キロで交差点に進入しても事故が発生した可能性
がある場合は?
→結果回避義務を尽くしても、結果が発生しているので、結果回避可能性が
なく過失犯は成立しない
⇒結果回避可能性は、結果回避義務を果たすことで結果を回避できる可能性のこ
とを言って、結果回避可能性がない場合には、過失犯が成立しない
因果関係との関係について
・
「結果回避義務を尽くさない行為」=「実行行為」
「20 キロ以内で交差点に進入すべきところ、50 キロで進入した行為」=実行行為
↓
20 キロで進入しても結果発生するのだから、実行行為と結果との間の因果関係が
否定される
・
「50 キロで交差点に進入した行為」=「実行行為」
「結果回避義務違反」は実行行為を限定する実行行為とは別の構成要件要素
「50 キロで交差点に進入しなければ、Bは死亡しなかった」と言えるので、
実行行為と結果との間の因果関係が認められる
ただ、
「20 キロ以内で交差点に進入する」という結果回避義務を尽くしても、
結果は発生しているので、結果回避可能性がない
(レジュメここまで)