要件緩和?! 短時間訪問介護 の事業展開とその課題

!どうする?
!介護報酬の引き下げ?
!
特集 どうなる?
こ
れからの訪問介護事業所に求めら
れる事業展開と環境変化
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要件緩和?!短時間訪問介護(20分未満身体介護)
の事業展開とその課題
株式会社新生メディカル 取締役部長/社会福祉士/介護支援専門員 今村あおい
1994年訪問介護を主に提供する同社に入社。介護保険開始前の1995年より厚生省モデル事業「24時間巡回型ホームヘルプサービス」
の実施に携わる。その後も県に提案し補助事業として「短時間巡回サービス」を,また厚労省モデル事業「24時間対応定期巡回・随時
対応サービス」の実施に携わり,スタッフと共に最期まで在宅で暮らし続けるための地域づくりと介護の専門性の追究に取り組む。
超高齢社会を迎える日本にあって今後もます
護の方が少ない人数で効率的にサービス提供が
ます増える高齢者を支えるために,そしてその
できます。
多くが「最期まで自宅で」と願いそれを叶える
現在の訪問介護は,60 ~90分の訪問を週に
ためには,訪問介護は必要不可欠です。しかし,
2~3回提供するのが中心です。そして,1日
急速に増える要介護高齢者を少ない人材で支え
の中で8時・12時・17時頃の時間帯にサービ
るためには,訪問介護も今までの提供方法から
ス提供が集中する傾向にあります。その時間帯
少し発想を変え,工夫する必要があるのではな
には大勢の人手が必要となりますが,そのほか
いでしょうか。
の時間帯は空き時間となります。このように,
2012年度の介護保険改正時に,定期巡回・
1日を通して稼働が平均化できないために常勤
随時対応型訪問介護看護(以下,定期随時訪問
雇用が難しく,多くの登録ホームヘルパーが必
介護看護)と20分未満身体介護(身体0コード)
要になります。
が新たに創設されました。これは,基本的に毎
しかし,短時間訪問介護は,今まで60 ~90
日複数回の短時間訪問介護の提供を可能にする
分で提供していたサービスを排泄や服薬介助と
サービスだと理解しています。
いった行為ごとに分けます(モジュール化)の
定期随時訪問介護看護と
20分未満身体介護
で,提供時間帯を平均化することができます。
集中する時間帯に多くの人手が必要だった提供
が,1日を通して1~2人で巡回して提供する
定期随時訪問介護看護は包括報酬です。つま
ことができるのです。そして,同じホームヘル
り,定額報酬の中で在宅生活を継続するために
パーの数でもより多くの利用者を訪問すること
必要なサービス提供を行うものです。1回の提
ができ,ホームヘルパーの稼働も確保すること
供時間や総時間に関しての設定はありません。
ができます(資料)
。そのため,常勤やパート
一方で,20分未満身体介護は,身体1や生活2
でも固定した時間帯で仕事ができるため,雇用
という従来の訪問介護と同じ出来高報酬で,1
の安定にもつながります。
回ずつの訪問に報酬が設定されています。
ここでは,あまり知られていない20分未満身
1日複数回の短時間訪問介護は
ホームヘルパーのシフト組みが煩雑?
!
体介護で毎日複数回の短時間訪問介護を実施し
サービス提供責任者は,サービス提供が集中
ている経験から,その利点を紹介します。
する時間帯と曜日ごとに異なる利用者の訪問を,
短時間訪問介護は効率が悪いか?!
ホームヘルパーの技量や相性を考慮してかなり
短時間訪問介護は移動時間ばかりかかり効率
複雑なシフトを組んでいます。また,新規の依
が悪いと思われがちですが,実は短時間訪問介
頼があると,再度組み直さなければならないこ
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訪問介護サービス 15
資料 シフト効率化のイメージ
滞在型は同じ時間帯に訪問が集中してしまう
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朝・昼・夕に訪問が集中。
何人ものホームヘルパー
が必要。
ホームヘルパーが活動できない時間がある。
事業所・ホームヘルパー双方が非効率。
サービスをモジュール化→適切な時間にサービスを提供,同じ時間帯に長時間のサービスの集中を回避
→平均的に活動→効率アップ
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サービスをモジュール化。必
要な時間に提供しサービスを
分散。平均的に活動できる。
【例】
下図の場合,3人の利用者に同時間に3人のホームヘルパーが必要になるが,サービスを細分化すると一
人のホームヘルパーで巡回訪問することが可能となる。効率化や就労時間(一人ひとりのホームヘルパー
がフルタイムで勤務することが可能になる)の確保が図れる。
12:00
ケース1:身体2 60分(排泄・食事)
排泄
配膳
寝室の掃除
下膳
ケース2:身体2 60分(排泄・食事)
排泄
配膳
トイレ掃除
下膳
ケース3:身体2 60分(排泄・食事)
排泄
配膳
簡単な洗濯
下膳
身体2×3ケース=180分(3時間)を
1人のホームヘルパーが巡回する
下膳までの時間つなぎのケア
12:00
排泄
排泄
排泄
配膳
配膳
配膳
下膳
下膳
下膳
例えば,移動含:75分程度 + 移動含:60分程度 + 移動含:60分程度=180分程度
混雑しない時間でもできる項目
寝室の掃除
トイレ掃除
簡単な洗濯
ケアの細分化により業務の効率化が可能
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ともあります。そのため,短時間のサービスご
その理由は大きく分けると,次の3つになり
とに細分化されて複数回になってはさらに複雑
ます。
で大変になると思われがちですが,実は短時間
●利用者との相性をあまり考慮する必要がない
訪問介護のコース組みは長時間訪問介護を組み
短時間訪問介護では,ケア技術が評価の基準
合わせるより楽になります。
になります。当然滞在時間は短く,1回の訪問
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訪問介護サービス で行うのは1つか2つの身体介護です。
なく,利用者も何時何分に訪問ということにあ
一方で,滞在が長くなるほど,利用者はサー
まりこだわらず許容されやすいというメリット
ビスの合間や余った時間など,ホームヘルパー
があります。
のコミュニケーションの裁量が気になる場面が
●ホームヘルパーは1件ごとではなく
多くなります。その上生活援助が含まれれば,
コースを担当
そのやり方などはなおさらですので,ホームヘ
短時間訪問介護は,基本的にそれ1件だけ訪
ルパーと利用者のマッチングは難易度が上がり
問するのではなく,何件かをつなげてコースに
ます。
します。ですから1件ごとの利用者とホームヘ
短時間訪問介護は,滞在時間が短いため,多
ルパーの組み合わせでなく,そのコースを一人
少相性が悪かったとしてもサービスさえきちん
のホームヘルパーが担当しますので,かえって
と行う技量があれば,利用者はさほど相性を気
シフトが組みやすくなるとも言えます。
にせずに済みます。長時間一緒だと細かい点ま
施設では,一人ひとりの利用者と職員の相性
で気になり我慢できないけれど,短時間だとあ
を考えてシフトは組みません。短時間訪問介護
まり気にならないものではないでしょうか。
のシフト組みは,3交代のそれぞれのシフトを
前述したように,サービスをきちんと行って
一人でできるように育て,そして皆でどのシフ
くれるかどうかが利用者の評価の基準となるた
トもこなせるようにするのに似ています。
め,相性の余地は少なくなり,そのサービスを
きちんと行える技量を持ったホームヘルパーな
毎日複数回の訪問は
ホームヘルパーを成長させる
ら誰でも担当することができます。
短時間訪問介護は行為で細分化されています
また,毎日の訪問は,日々の動きを利用者と
ので,1回の訪問で行うことが明確です。毎日
共有できますので,週に数回よりコミュニケー
の頻回な訪問において,短期間で繰り返し同じ
ションはとれるものです。
サービスを行う機会もあり,ホームヘルパーの
●短時間訪問介護だと
介護技術が向上します。また,新人ホームヘル
訪問時間が前後することを許容されやすい
パーでも短時間訪問介護のコースなら1カ月程
ホームヘルパーの60 ~90分の滞在は,利用
度でどこでも回れるようになります。
者にすると1日の大きな予定となります。利用
者にもそれなりの心づもりでホームヘルパーの
利用者の体調変化や不満などの
早期発見・早期対応が可能
訪問をお待ちいただいています。ですから,少
毎日定期的に訪問することで,利用者の体調
し遅れるだけでも「まだ来ない」と電話がか
変化やニーズを早期に発見でき,迅速な対応が
かってくることがあります。
できます。また,毎日複数回の訪問で,ホーム
短時間訪問介護では,何件も巡回していくた
ヘルパーは提供しているサービス以外の生活全
め交通事情や前の訪問先の利用者の体調などで
体を見る視点が生まれ,アセスメント力が向上
多少時間が前後することを事前に伝えておきま
します。
す。たとえ訪問時間が前後したとしても,短時
利用者は,サービスのちょっとした不満を
間の訪問ですので,滞在時間を含め1時間以内
ホームヘルパーに訴えます。頻回な訪問で,前
には来て帰るため1日の予定にそれほど影響も
回のホームヘルパーへの不満などを次のホーム
➡続きは本誌をご覧ください
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訪問介護サービス 17