耕畜連携の橋渡し 1 【提言】 耕畜連携の橋渡し 全国農地保有合理化協会副会長 森永正彬 食料・農業・農村基本計画が改定されて、新たな食料自給率向上の目標に向かって、いろいろな分野 で様々な取り組みが進められている。 具体的な食料自給率の向上のための運動や対策としては、基本計画においても、政府主導の自給率向 上協議会のテーマとしても、国民の食生活など需要面の見直しに力点が置かれているようである。供給 面すなわち自給率の低い農産物の国内生産の増大は、現実問題として極めて困難であまり期待し難いか らであろう。 そのなかで、ほとんど唯一生産増大が期待されている作物が、飼料作物である。 すなわち新基本計画では、飼料の自給率を24%から35%に引き上げることとし、粗飼料については 100%自給を目標としてかかげ、飼料作物の作付面積を、平成15年度の93万haから平成27年度には haと17万ha拡大することを目標にしている。 その達成のための対応方向としては、 ①耕畜連携の強化により、稲発酵粗飼料や水田裏作飼料の生産、国産稲わらの飼料利用、良質なた い肥の耕種農家への供給等の取組を推進 ②耕作放棄地、野草地、林地等の低・末利用地や水田を活用した放牧、畜産農家への農地利用の集 積・団地化 等が掲げられている。 しかし飼料作物については、改定前の基本計画においても大幅な生産拡大が見込まれていたが、現実 には生産量は減少を続けている。 その要因としては、「低・末利用地の活用の観点からも期待されていた耕畜連携による飼料作物生産が 進まなかったこと等により、効率的な農地利用が実現しておらず、逆に不作付地・耕作放棄地が増加し ていること」が指摘されている。 耕畜連携はなぜ進まないのか。私ごとき畜産の素人が、あまり実態も知らず、深く掘り下げた考察や 議論もしないで、勝手な感想を述べることをお許しいただきたい。 ここでいわれている耕畜連携とは、主として、 ①耕種農家による、又は耕種農家の保有する農地(特に水田)を利用した、稲発酵粗飼料などの飼 料作物の生産とその畜産農家への供給と、 ②畜産農家から排出される糞尿等のたい肥化とその耕種農家への供給 を目的とした、双方向・相互補完のものである。 これらのことは、食料自給率向上のためだけでなく、国土資源の有効利用や環境保全、ひいては持続 可能な循環型社会への移行のためにも、極めて重要な課題であることはいうまでもない。 わが国では近年、耕種農業と畜産は、経営的にも、地域的にも、どんどん分離してきている。北海道 の酪農など一部を除き、畜産経営における粗飼料自給生産もきわめて少ない。 耕畜連携は、同一地域内の経営体レベルの連携というよりも、相当広域なレベルで、遠隔地域間の連 携が必要となることが多いであろう。 ところで本来なら、あえて「連携」などと言わなくとも、飼料作物やたい肥が商品として流通に乗れ ばいいのである。 しかし現実にはほとんど流通に乗っていないのは、これらがまだ商品として成熟・確立していないこ 2 と、需要サイドと供給サイドのギャップやミスマッチが大きいこと、特に需要が十分には確立していな いことなどからであろう。 耕畜連携よりもまず、需要の喚起から始めなければならないのかもしれない。 需要が確立しないのは、商品の性能(品質)と価格の関係からみて、他の競合商品にくらべて優位で ない、または優位性が理解されていないためであろう。 購入する側の経営にとっては、食料自給率向上とか国土の有効利用とか環境問題とかの国家的・公益 的要請で商品を選択するわけではない。利用価値の高いものがリーズナブルな価格で提供できれば・商 品としての流通が確立するであろう。 稲発酵粗飼料については、性能(飼料としての利用価値)は、最近他の粗飼料と比べても優れている という評価は広まりつつあるが、現場で生産されたものにはまだ栄養価等の品質にバラツキが多いよう であり、特に価格(コスト)面ではまだまだ課題が多い。特に耕種サイドの大きな課題として、土地利 用の大規模な面的集積によるスケールメリットの発揮が必要であり、さらになおかつ、米生産調整の産 地作り交付金や耕畜連携助成金がなければ、輸入飼料との価格競争力は弱い。 畜産由来のたい肥についても、耕種の作目や土壌条件によって、また有機農業に取り組む地域や経営 にとっては有効性についての認識はあるだろうが、品質や扱いやすさや価格に難点がある場合も多く、 特に一般的な水田稲作にとって需要は弱い。 そしてどちらも商品としては、扱いにくくかさばること、すなわち輸送や保管のコストが大きいとい う問題がある。しかも前述のとおり広域遠隔流通となることが多いので、そのコスト負担をどう処理す るかが、商品流通にしろ耕畜連携にしろこの問題の重要なポイントであろう。 いずれにしろ現在のところ、粗飼料もたい肥も全面的に商業ベースの流通に依存できる段階ではない。 従って、公的支援のもとに「連携」を推進しようというわけだが、この連携のモチベーションもインセ ンティブもなかなか高まらないようである。また片方のモチベーションだけでも「連携」は成立しない。 現物だけでなく、行政等指導機関も含め耕畜双方の当事者の意識も情報もミスマッチが多いように思わ れる。従って、畜産サイドの啓蒙や指導や助成だけでなく、実際に現地で双方を調整する「橋渡し役」 ないし「司令塔」の役割が重要と思われる。 新しい酪肉近代化基本方針などによると、農水省はこの「橋渡し役」として、JAやコントラクター に期待しているようである。飼料作物やたい肥の生産や物流の担い手としてはふさわしいであろうが・ ミスマッチを調整する責任や権限は明確ではなくモチベーションも十分とは思えない。採算を旨とする 経済活動の主体に困難な調整役を委ねるには、別途相当のインセンティブ(助成)を要するであろう。 そこでその前にまず、国、都道府県、市町村などの行政主導で、各地域に耕畜双方の啓発と情報提供 と需給調整をする「場」(常設の機関なりシステム)を設けることが必要であろう。最近補助事業として 市町村が中心となって稲発酵粗飼料などの需給マップやネットワーク作りが始まっているようだが・さ らに進めて、公的制度として、責任と権限を持って「橋渡し」に取り組む主体とシステムの確立が望ま れる。 その橋渡し役としては、市町村、JA等と並んで、耕種農業の土地利用調整と畜産公共事業などの経 験・ノウハウすなわち耕畜双方の土地勘や人脈を有する農業公社もその有力な候補であり、すでに自主 的に、先駆的、モデル的取組を行っている公社もあり、その成功と広がりを期待したい。 なお最近、中山間地域の耕作放棄地などを活用した放牧が注目されているが、平坦地をふくむ水田地 帯でももっと有畜農業に着目し、「水田放牧」など同一経営や同一地域において耕畜を「統合」すること が、「連携」の橋渡し役も不要でその難しさや課題を克服できるより望ましい形態であると思われる。 現在推進されている集落営農の組織化・法人化は、耕種農業だけのいわば「平面的統合」がほとんど であるが、水田放牧など有畜農業を導入・組合せることにより、遊休地などの地域資源のより一層の活 用や高齢者、婦人、子供も参加できる、より活性化した有機的な「耕畜統合型集落営農」にも、もっと 積極的に取り組んでみたらどうだろうか。
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