審査講評

(1)審査の経緯
さる2015年3月7日(土)午後、竹田市久住公民館において第 3 回竹田市
文化会館(仮称)の設計者選定に係るプロポーザル審査委員会が開催された。
午後半日を費やした日程は、事前の審査委員打合せ会議を経て、午後1時より
午後5時に及ぶ公開プレゼンテーション・ヒヤリングを開催、その後、第2次
審査会を経て最優秀者1者ならびに次点者1者を決定した。とくに公開プレゼ
ンテーション・ヒヤリングでは、第一次選考を経た6応募者が、それぞれ30
分程度を用いプレゼンと審査委員会からのヒヤリングに対する受け答えを行っ
ており、第一次審査に加え評価を進める際の重要な鍵となった。
(2)審査講評
今回の公開プレゼンテーションならびにヒヤリングで審査委員会が最も重視
した観点は次の3点であった。あらかじめこうした観点が本審査委員会当初よ
り用意されていたわけではないが、審査が深化する中、各委員の専門分野から
の観点が相乗され、それらを代表するかたちで審査委員長の藤原が代表するか
たちで質問を展開した。
[1]東日本大震災復興事業や 2020 年東京オリンピック内需先導等の社会情勢
が影を落とし、昨今の建設事情はひときわ厳しい状況にある。北部九州大水害
時における玉来川の氾濫という忌まわしい記憶を乗り超え、竹田市民の念願と
も言える本事業を進める上で、総予算の枠内に納められるのか、という現実的
な建設総面積試算や予算計画・プロジェクトマネジメントの観点はどうか。
[2]竹田市民は音の響きに対し耳が肥えている。このことを前提に音響の優
れた音楽ホールを希求する一方で、多彩な生涯学習・社会教育等の拠点として
活用したい。そこで昨今の公共ホールが有する「鑑賞」
「創造」
「普及育成」
「交
流」の役割をさらに多面的に成就する仕組みや空間の提案はどうか。
[3]本事業の究極のミッション(社会的使命)は、芸術文化を能動的に享受
し、その魅力に浴しながら豊かな人生を組み上げていく竹田市民を育むことに
ある。したがって文化会館の包括的なデザインや建設事業に市民の声を反映し
市民が一緒に汗を流すプログラムが用意されていくべきであるが、これまでの
実績や竹田市での工夫はどうか?
以上を皮切りに各委員の観点からの質問も活発に行われた。6者のプレゼン
テーションの多くは現在の敷地を用いるというリスクの大きい条件を前に、当
該施設および玉来川周辺の環境へ深い洞察と安全安心への配慮を丁寧に与えた
設計デザイン提案が多かった。そこには実現へ向けた力強い意志と提案が個性
的に反映されていた。続けて行われたヒヤリングも提案書だけでは読み込めな
い思いや技術面からの工夫をあぶりだす上で有意義なひとときであった。プレ
ゼンテーションとヒヤリングはいたって長丁場となったが、審査委員会にとっ
ては各者の実績や経験知とあわせ、竹田市へ差し向ける「本気度」といったも
のを相互比較する重要な場面でもあった。
その結果、最優秀者に有限会社香山壽夫建築研究所を選考した。併せ次点者
には株式会社新居千秋都市建築設計を選考した。
さて有限会社香山壽夫建築研究所は、昨今の建設事情を巡る困難な条件を指
摘しながらも、全国的に優れた先導事例の経験知に立脚し、竹田市の地域特性
やまちづくり課題へ深い洞察も加えた構想を創出した。メインコンセプトには
「劇場と生涯学習の融合」を詠い、高性能機能を有し使いやすく低負荷の優れ
た音響と舞台機構からなる大ホール、併せて高い基本性能と使いやすい小ホー
ルをを提案した。これらは防音性能が高く遮音性に優れた RC(鉄筋コンクリー
ト)造による棟に分け、それらのマッス(塊)を対角線方向に繋ぎ、巧みな配
置で大広間や回廊をつくりだす。これらは地場産木造による低層の空間となし、
木柱回廊と木柱大広間と名付ける。既存の体育館の活用と併せ、自在連結的な
配置を活かし多目的、多用途、可変的で、市民の自由闊達な生涯学習や社会教
育活動のための場にしていく。なにより用途とコストを仕分けし、RC 造と木造
から織りなされる独特な建設プログラムが、デザインされる空間の用途や機能
性と齟齬無く対応しており、こうした独創性溢れたアイデアには現実的な空間
づくりを進めていきたいという応募者の力強い意志が込められており、以上よ
り審査委員全員による合議の上、総合的に最も高く評価されることとなった。
しかし課題も指摘された。実際の設計から建設に至る過程には、より多くの
竹田市民の声を吸い上げ反映する仕掛けをぜひ加えて戴きたい、との声があが
った。江戸以来の文化の叢であった竹田市は、さらに明治期における滝廉太郎
の存在がひときわ輝く。市民誰もが尊敬してやまない廉太郎の物語や、耳の肥
えた市民による多彩な活動を反映しながら、今後もよりいっそう芸術文化を楽
しみ、喜び溢れた豊かな人生を創造したいと希求する竹田市民を、時機を得た
竹田市文化会館建設プロジェクトが、よりいっそう育んでいくよう、審査委員
一同から切望するものである。
平成27年3月
竹田市文化会館(仮称)の設計者選定に係るプロポーザル審査委員会
委員長
藤原惠洋