継続か、撤退か…中国外資系企業の選択

201503 華鐘通信№241
241 号巻頭言
継続か、撤退か…中国外資系企業の選択
華鐘コンサルタントの中国での
所得税 15%の低税率優遇、技術先進型輸出企業
事業は既に 21 年目に入り、『月刊
の『減半』(企業所得税を 50%減税)優遇、再
華鐘通信』の発行も今回で№241
投資に対する税還付政策等はすでに存在しな
を迎えた。長らく古林総経理だけ
い。更に 2014 年 11 月、国務院は、『国務院の
が書いてきた巻頭言であるが、今月から常務副
税収等優遇政策の整理規範化に関する通達』を
総経理 2 名を含めて 3 名が順番に書くことにな
公布し、地方独自の優遇税率、土地使用権の優
ったので、どうぞよろしくお願い致したい。
遇譲渡、地方の税収部分による財政補助等を禁
最近、Microsoft、Panasonic、東芝等大企業
止する旨の整理整頓を明確に要求した。
の一部分の工場閉鎖のニュースが相継ぎ、日系
では様々な優遇が撤廃された後、外資系企業
企業の間のホットな話題も企業再編や撤退であ
は正真正銘の国民待遇を適用されたのかという
る。弊社への来社ご相談もここ数年は毎週 2~3
問題があり、実際には外資系企業は短期間内で
社は再編か撤退の内容であり、再編撤退の書面
国民待遇には到達することはないとも言える。
によるご質問は更に多い。2013 年~2014 年の 2
例えば、資源の獲得、政府との関係は国有企業
年間で弊社が受託した再編か撤退の支援案件は
と比べられず、融資面でのメリットも上場企業
29 件、HR 部が受託した労働契約解除に関する支
とは比べられず、営業 PR 能力も私営企業と比べ
援業務で解雇された従業員は延べ 1,400 人にも
られない。そして法律法規遵守面では外資系企
なる。上海市商務委員会が発表したデータによ
業への要求が最も厳しく、例えば弊社の年 1 回
れば、2013 年と 2014 年で上海市において経営
の社員旅行の費用は、税務局から個人収入と認
を終止した外資企業数は 1,041 社と 960 社、そ
定されて納税しており、この『月刊華鐘通信』
の内日系企業は 124 社と 131 社である。企業が
の印刷配布も過去において「非法出版物」と認
撤退する原因は多種多様であり、二国間関係の冷
定された。現在の関連規定によれば、国有大企
え込み、世界経済復調が遅い、中国経済の成長率
業のみが『月刊華鐘通信』のような出版物発行
鈍化、円安、中国労働コストの上昇、メインセッ
を申請できて、外資系企業には申請する術も無
トメーカーの撤退、外資系企業に対する優遇政策
く、合法的な発行は不可能というのが実態であ
減少等、実に多くの原因が存在している。
る。結果的に現在は日本のサーバーからのホー
ここでは先ず現在の中国外資系企業の生存
ムページ閲覧とメール配布でこの『月刊華鐘通
環境を分析してみると、中国は既に国外からの
信』を発行することで会員企業の皆さまへは多
資金調達が必要な段階を遥か前に卒業してお
大のご不便をおかけしている。今の外資系企業
り、外資系企業に対する大量の税収優遇=その
が置かれている状況を揶揄すれば、製品の価格
他企業に対する不公平も 2008 年の新『企業所
設定が高いと独占的経営だと指弾され、低けれ
得税法』施行開始によって、内国民待遇を推進
ば移転価格の指摘を受け、販促手段を使えば不
することで、改革開放初期の外資系企業に対す
当競争だと言われてしまう…、そんな状況とも
る税務優遇政策は全て撤廃された。具体的には
言える。以上やや極端に外資不利の例を上げた
生産型企業に対する『二免三減半』(利益計上
が、政府の政策としては決して外資の撤退を奨
年度より起算して 2 年間は企業所得税納付免除、
励している訳ではなく、むしろその反対である。
続く 3 年間は 50%に減税)、一部地域的な企業
実際、中国の現時点での実業を継続することの
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201503 華鐘通信№241
困難さは外資系企業だけでなく、内資企業の中
は再度中国に戻って企業を設立している。この様
小企業、一部の大型企業でさえもその存続はか
な重複費用の発生や大量の時間消費は所謂骨折
なり厳しい。中国国家統計局が発表した 2015
り損のくたびれもうけになるだけと言える。
年 1 月度経済データによれば、全国消費者物価
以上を踏まえ、外資系企業はやはり技術、サ
指数(CPI)は前月比で 0.3%上昇、前年同月比で
ービス、管理の優位な競争力に依存して存続す
0.8%上昇、工業出荷価格指数(PPI)は前月比で
るしかなく、先ず企業を内側から鍛える必要が
1.1%の下降、前年同月比で 4.3%下降している。
あろう。報道によれば、今年の春節休暇期間、
CPI が低すぎればデフレが心配され、PPI の連
日本の旅行に行った中国人は 45 万人に達し、そ
続的な下降は全ての製造業の収益空間がます
の主な目的は観光だけでなく消費も含まれ、統
ます狭くなっていることを示している。労働力
計データによれば、中国人観光客の日本での消
コストの高止まりも企業の収益に影響する一
費は60 億元に達し、
日本円に換算すれば約1,200
大要因であり、個人収入が毎年 6%以上の比率
億円であって、品質が良好でブランド効果があ
で上昇していることに伴い、中国の労働力雇用
り価格が適切である商品の場合は、中国国内に
コストは既にかなり高くなっており、特に給与
も大きな市場が存在するということを示してい
に連動した関連社会保険費用が高くなって、企
る。つまり外資系企業は、条件次第では巨大な
業の負担は日々増加している。
中国市場においてまだまだ非常に大きな進出可
継続か撤退か、ここで税務用語を引用して検
能な発展空間があることを証明している。
討してみると、合理的商業目的の条件があるか
商務部が発表した 2015 年の外資分野の作業に
どうかである。設立した収益モデルが完全に税
対する計画は、内資外資の法律法規を統一し、
収優遇と廉価な労働力コストに依存しているか、
『外商投資産業指導目録』を修正して公布し、
又は既に元の商業目的が消滅している場合はそ
外国企業投資参入制限を大幅に縮小削減し、外
の企業の存続条件が無く、早めに撤退の決定を
商投資企業に対する同等保護、公平な法執行を
下すべきと言える。これと逆の場合であれば、
推進するとしている。この一連の対策は外国企
撤退は慎重になるべきであり、撤退する周辺企
業の投資環境優位化に有利となるはずである。
業に追従する必要はない。先ず中国の巨大な市
今回の私の巻頭言は商務部報道責任者の沈丹
場と消費能力が存在する。
消費市場に近いことは
陽氏が述べた以下の話で締めくくることにする。
生産にとって最も効率的であり、経済的でもある。
ここ数年、中国の労働力、土地等のコストの上
次に中国経済の成長は減速しているが、それでも
昇によって、経済発展速度は鈍化し、一部外商
7%以上の成長率であり、他の国ではこれほどの
投資企業の経営不善等の影響を受けて、数社の
成長は難しい。そして成熟した企業を創建するこ
多国籍企業がその中国における業務に対する見
とは容易ではなく、建設準備から始まり、固定資
直しを実施し、これには個別工場の操業停止な
産投資をして、良好な生産状態に到達し、従業員
どが含まれるが、全体的に見た場合その数は限
部隊を構築して、経営管理システムを確立し、顧
られている。日系企業については、2014 年の終
客関係を作り上げる等、これらは全てその企業の
止撤退及び減資状況は実際には比較的平穏に推
無形資産とのれん代であり、蓄積にはそれなりの
移し、終止企業数は基本的に 2013 年と同水準で
時間が必要である。最後に撤退の為のコストも非
あり、減資した企業数は 3.2%の減少であった。
常に高く、従業員に対する補償、清算資産の廉価
つまり、日本企業の対中投資は進出もあれば撤
処理損失及びその他の違約コスト等が発生する。
退もあり、日系企業が全面的に撤退していると
過去の事例から見た場合、大きな出来事が発生す
いう状況は存在していないと言える・・・。
る都度、企業撤退現象が発生するが、一部の企業
(常務副総経理 顧中鈺 2015/2/28 記)
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