「危険物船舶運送安全データブック」凡例と参考文献

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「危険物船舶運送安全データブック」凡例と参考文献
(2015 年改訂版)
「危険物船舶運送安全データブック 2015 年版」に収録したデータは,危険物船舶運送及び貯蔵
規則(2014 年 12 月改正),IMDG-CODE(37-14)
,CFR(2015 年 3 月改正)及び海防法(2014 年 5 月
改正)の改正を取り入れて改訂したものです。
※ 以下,それぞれの番号に従って説明が記載してあります。
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1
5.1
5
5.2
3
4
6
7
8
9.1
9.2
9
9.3
1 品名
品名は原則として IUPAC(International Union of Pure and App1ied Chemistry:国際純正及び応
用化学連合)制定の命名法による名称を記載しました。ただし,複雑な化合物(農薬など)について
2
は通称・慣用名などを用いたものもあります。見出し品名の配列順序は五十音順としました。配列の
条件は以下の通りです。異性体を表すノルマル,セカンダリー,ターシャリー,オルト,メタ,パラ,
シス,トランス,結合位置を示す 1-,2-,3-,N-,O-,S-などの接辞語は後に移動させて配列の二次
指標としました。また,第一,第二も配列の二次指標とし,配列の上では長音(-)は無視しました。
イソ,シクロは品名の一部として切り離さずに扱っています。英字の略語で表示した場合はアルファ
ベットの日本語読みとして配列しました。たとえば,EDDPはイデイデイピと読むこととし,
“イ”
の場所に配列しています。
英語の品名は原則として,IUPAC(International Union of Pure and App1ied Chemistry:国際純
正及び応用化学連合)制定の命名法による名称を記載しました。ただし,複雑な化合物(農薬など)
については通称・慣用名などを用いたものもあります。品名の中の n-,sec-,tert-,o-,m-,p- は
それぞれ norma1-,secondary-,tertiary-,ortho-,meta-,para-の略字です。
SULPHUR,-SULPHATE,-SULPHIDE などは,SULFUR,-SULFATE,-SULFIDE とも記されるので,
(
)内
に SULFUR,-SULFATE,-SULFIDE を含む品名を記載した場合もあります。原則として,IMDG-CODE の記
載に従い SULPHUR,-SULPHATE,-SULPHIDE を用いています。
2 国連番号
当該物質の国連番号を記載しています。※印がついているものは,IMDG-CODE および危-規則に品
名が示されていないが,当委員会がその物質の性状から判断して適用すべき国連番号を示したもので
す。したがって,実際に運送する場合は申請して認可を受ける必要があります。
3 CAS 番号
アメリカ化学会の Chemical Abstracts Service(CAS)が化学物質に付けた番号(Registry Number:
登録番号)で,検索および物質同定に有用です。
4 化学式・分子式
有機化合物では C,H の次に元素をアルファベット順に配列し,また,多くの場合示性式も記しまし
た。
5 構造式
5.1 構造式を針金モデルで表示しています。複雑な分子では,炭素および水素の原子記号を省略してあ
ります。
5.2 立体構造を描けるものについては球棒モデルで示しています。また,無機化合物では結晶構造を示
したものもあります。
6 別名
別名,一般名,通称,商品名などを記載しました。商品名には(
)を付けました。異性体のある
ものは末尾にその旨を記しました。
7 化学的分類
併有する危険性を考えて,二種類の分類を記したものもあります。
8 規則名
規則名を記載しました。英語名は,IMDG-CODE の見出し品名(大文字)と INDEX に挙げられている
品名をゴシック体で記載しました。日本語名は,危-規則別表第1に掲げられている品名をゴシック
体で記載しました。
※印を付けたものは,国連番号に※印を付けたもので,法規に品名が明示されていないものについ
ての当委員会の見解であることを示します。
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9 法規上の分類・容器等級等/副次危険性等級/積載場所/その他
危険物の船積輸送に関する規定及び関連事項などを記載してあります。
9.1 危-規則の欄は「危険物船舶運送及び貯蔵規則」
(以下危-規則と略記。
)(平成 26 年 12 月改正)
の規定する分類,容器等級,副次危険性等級及び積載場所(旅客船以外の船舶についての)を記載
しました。容器等級は I,Ⅱ,Ⅲで記しました。
コンテナ収納検査及び積付検査の項には,危-規則によるコンテナ収納検査及び積付検査の要・否
を記しました。
9.2 IMDG-CODE の 欄 は Internationa1 Maritime Organization (IMO) が International Maritime
Dangerous Goods Code(以下 IMDG-CODE と略記。
)(Amendment 37-14 による)に規定していることを
記載しました。
9.3 CFR の欄は米国規則 Code of Federa1 Regu1ations,Title 49 (2015)
,§172-101 による規定を
記しました。 (
) 内の RQ は,Reportable quantity で,1 日にこの量(最初の数字は pounds でそ
の次の数字は kg を示します。)を超えて海中に漏洩したときは,速やかに最寄りの Coast guard に
届け出る義務があります。
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12
13
15
14
16
17
18
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20
4
10 港則法
港則法施行規則第 12 条に基づく告示に掲げられている危険物についてその分類を示しています。
11 荷役許容量
港則法に基づく A,B,C1 及び C2 岸壁の接岸荷役許容量をトン数で示しています。
12 規則等の注
各規則において分類・副次的危険性・積載場所などに(注)が付けられている場合にその注を記し
ています。[なお,この物質については(注)がないので,
(注)は書かれていません。]
また,容器等級が指定されていなく,Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ,Ⅰ/Ⅱ又はⅡ/Ⅲなどとなっている場合にはそれら
に対応する荷役許容量を記載しています。
13 海防法
「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(以下海防法と略記する。)の適用される物質に対
する分類を示しています。
14 海防法の注
海防法に注が付けられている場合にその注を記載しています。
15 消防法
消防法第 2 条第 7 項で定められたその物質の類別を示しました。第 4 類の第 1 石油類,第 2 石油類
及び第 3 石油類については,指定数量の算出に必要であるので,(
)内に「水溶性」(1 気圧において,
温度 20 度で同容量の純水と均一な混合液を作る液体)であるか「非水溶性」であるかを記入してあり
ます。また,第 9 条の 3 で指定されている物質に対しては,
「9 条の 3 貯蔵等の届出を要する物質」と
記しました。
16 消防法の注
必要な場合に(注)を付してあります。
[なお,この物質については(注)がないので記載されてい
ません。
]
17 船積上の注意事項
危-規則の「積載方法」・「隔離」の欄に記載してある記号に対応する文章を記載しました。また,
船積みに当たっての一般的注意事項を記しました。さらに,備考欄に記載されている SP(特別要件)
についても,必要と思われるものについてその記号に対応する意味を記載しています。文章の末尾に
(危)と記してある条項は危-規則に規定されていることを表しています。何も付記されていないも
のは,当委員会が必要として記載したものです。
18 性状:外観等・臭・比重又は嵩比重・蒸気比重・融点・沸点・溶解性など
純粋な物質の常温における物理的性状を示しました。主として,日本化学会編「化学便覧」記載の
数値を採用していますが,当委員会の判断により他の資料によった場合もあります。工業品などは純
度及び含有する不純物により,融点,腐食性,引火点などが純品と異なる場合があり,注意する必要
があります。
「蒸気比重」は通常,蒸気密度(Vapour density)と呼ばれていますが,実際は密度(1cm3 の質量
グラム数)ではなく,蒸気の等温等圧の空気に対する比重を示す数値ですから,密度ではないことを
明らかにするために,蒸気比重という語を用いています。数値は,その物質の分子量を空気の相等分
子量 28.8 で割った値です。この数値を求めても無意味なものについては空欄としてあります。この数
値が大きいものほどその蒸気は低所に滞留しやすく,引火性の物質であれば引火爆発の危険があり,
密閉された場所では酸素欠乏などを起こしやすいことを示しています。
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溶解性は,原則として,水,アルコール及びエーテルに対する溶解性を示し,溶解度の小さいもの
から,不,難,微,可,易とし,下記の表に示した溶解量を目安としています。水に対する溶解性が
「易」であって,(注)に溶解度のデータが記入していない場合は,溶解度のデータがない場合か水と
任意の割合で混和する場合かのどちらかです。
分類
不
難
微
可
易
100g の水に対する溶解量(g)
0.01g 未満
0.01g~0.1g
0.1g~1g
1g~10g
10g 以上
19 物理/化学的の性質の注
結晶形の違いや濃度によってデータが異なる場合に記載しました。また,水に対する溶解度のデー
タがあれば記載してあります。この物質には(注)がないので記載してありません。
20 用途
主要な用途を示します。
21 化学的危険性
・腐食性
人体,金属及び木材に対し腐食性のあるものには “あり” と記し,特に強いものには(強)と付
記してあります。
・酸化性
他の物質を酸化する性質の有無を記し,特に強いものには(強)と付記してあります。
・水,空気又は熱の作用
水,湿気および空気と接触混合したとき,発熱したり,可燃性ガスあるいは有毒ガスなどを発生し
たり,変質したりしやすい物質について,その危険性を記載しました。また,火災などにより熱分解
されたとき有毒ガスや有害な煙霧を発生する場合はその旨を記してあります。
・可燃性
可燃性の「あり」,
「なし」を記しました。
「なし」と記載した場合でも,強い酸化剤の場合には「(他
の可燃物の燃焼を助長する。)
」と付記してあります。
イ.引火点(F1ashpoint)
可燃性ガス又は蒸気が空気と混ざって,電気火花,火炎などの着火源によって着火することを引火
といい,その物質が空気中で引火する最低濃度の蒸気を発生する温度をその物質の引火点と言います。
下図に,蒸気圧と爆発限界・引火点との関係をトルエンを例として示します。
8
蒸気圧 (kPa)
(≒容量%)
7
6
uel 7.1%
5
4
トルエンの蒸気圧曲線と
爆発限界
爆発限界・引火点との関係
3
2
lel 1.2%
引火点
4℃
1
0
-30 -20 -10 0 10 20 30 40
温度 (℃)
6
21
22
23
24
25
26
27.1
27.2
27
27.3
引火点は,可燃性物質の飽和蒸気圧が,その物質の爆発限界の下限の濃度(101.3kPa×下限濃度%×1/100)
kPa に達する温度です。(蒸気圧をkPa 単位で表示すると,その値がその物質の蒸気が占める容量%濃度の
近似値を示すことになります。)
測定は引火点測定器によって行い,密閉式(c1osed cup method; c.c.)と開放式(open cup method; o.c.)
があります。一般に開放式は密閉式よりも数度高い引火点を示します。密閉式による引火点を記載するこ
とを原則とし,引火点の数値のみが書かれている場合は密閉式による引火点を意味し,開放式による引火
点のデータには(o.c.)を付記しました。引火点の低いものは,それだけ引火爆発又は火災の危険性が大き
いことを意味しています。
ロ.発火点(自然発火温度:Spontaneous ignition temperature; Autoignition temperature
又は最低発火温度:Lowest ignition temperature)
7
空気中で可燃性物質を加熱した場合,外からの着火源なしに自ら燃焼しはじめることを発火といい,
その最低温度を自然発火温度あるいは最低発火温度,簡単には発火点(Ignition point:IP)と言っ
ています。この温度の低いほど発火の危険性が高いことになります。
ハ.爆発限界 Explosion limit(爆発範囲又は燃焼限界)
可燃性蒸気,あるいはガスが空気(又は酸素)と混合している場合,一定の濃度範囲にあるときの
み引火爆発の危険があります。この濃度範囲を爆発限界,低い方の限界を爆発下限(Lower exp1osion
1imit: 1e1)
,高い方の限界を爆発上限(Upper exp1osion 1imit: uel)といい,それぞれ蒸気あるい
はガスの容量%で示されています。したがって,爆発限界が広いものほど火災の危険性が大きいと考
えられます。荷役作業に当たっては,ガス検知を行ってその濃度を測定し,爆発限界外であることを
確認して作業を開始しなければならなりません。また,ガス濃度の測定は作業開始時のみでなく,作
業中にも随時,かつ,なるべく多くの場所で繰り返し行い,常にガス濃度が爆発限界外にあることを
確かめることが極めて大切であり,これを怠って大事故を起こした例は非常に多くあります。
(タンク
作業などのときは特にこの点に注意が必要であります。
)濃度が爆発限界内にある場合に,ガス濃度を
稀釈するために機械送風すると,ファンモーターのスイッチのスパークで引火爆発するおそれがある
ので注意を要します。実際に不用意にスイッチを操作したため爆発事故を起こした例があります。な
お,爆発限界は温度が高まると多少上下にその範囲が拡がる傾向があります。
22 特記事項
吸湿性,潮解性,反応性,重合性などその物質を取り扱う場合に参考となるような事項を記載しまし
た。
23 化学的危険性の注
IMDG-CODE において異なった値が示されている場合にはその値を記載してあります。また,その他参
考になることを記載しました。
24 EmS
IMDG-CODE の EmS 記号(Emergency Schedule)を記載してあります。F は火災に対する処置で,S は
漏洩に対する処置を記載しています。下線が付いているものは(たとえば,F-E),当該物質が特殊な
場合として EmS の欄に表示されていることを表しています。
25 消火剤
燃えるためには,可燃性のものがあること,燃焼に必要な酸素が供給されること,燃焼が持続する
ために必要な温度に保たれることの3条件が不可欠ですから,消火にはこのいずれかの条件を取り除
くことが原則となります。したがって,消火の方法には,空気遮断により消火する方法,水などによ
り冷却して消火する方法などがありますが,物質の性質によっては注水することがかえって危険な場
合があります。当委員会では,船舶内の火災では防火設備が限定されていることを考慮し,最も適当
と思われる消火法を記載してあります。水噴霧とは,水を噴霧状で放射し,その蒸発潜熱と空気遮断
の効果により消火する方法であり,棒状注水よりも有効と考えられる場合が多いく,ほとんどの火災
で有効であると考えられます。水無効とは,通常の棒状注水は効果がなく,かえって危険なことを示
しています。
(しかし,火災の状況によっては,一挙に大量の噴霧注水を行うことにより消火可能な場
合もあります。
)
化学品が入っている容器が火炎につつまれたり,火炎にさらされているときには,容器の外側に大
量の水をかけて冷却することは有効でかつ大切なことであります。
粉末とは,リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4) の粉末をボンベ内に装填し,その中に内蔵され
8
た炭酸ガスの圧力でこの粉末を火炎に放射するものです。分解によって生じるアンモニアとリン酸粉
末の窒息効果及び冷却作用によって消火します。火災の初期,小火災,電気スパークによる火災の消
火には極めて有効であると言われています。
泡とは,耐アルコール性の空気泡(アルコホーム)による消火法をいいます。一般には泡沫消火器
のことです。
「水消火による溢出注意」とは,引火点が水の沸点 100℃よりも高い物質は,火災の際液温が水の
沸点よりも高くなって,水又は消火用泡に接すると,水が急激に沸騰して可燃性液体を溢出,飛散さ
せ,火炎を拡大して消火困難となるおそれのあることを示しています。
なお,それ自体可燃性のない物質に消火法を記載した場合がありますが,その物質(特に強い酸化
性物質)が他の可燃性物質の燃焼を助長することがあるときに記載してあります。
26 検知法
物質によっては,極めて微量でも臭いなどによってその漏洩や存在を感知できるものもありますが,
慣れがあるので,ときには臭いによる感知は極めて危険です。空気中の正確なガス又は蒸気の濃度の
測定は化学分析によるべきで,適当な検知方法,あるいは検知管のあるものはそれを記載しています。
また,他の検知管を用いて近似的な測定ができるもの,あるいは定性的に存否を試験できる場合など
は「………よる」と記してあります。なお,pH 試験紙その他試験紙を用いるときには,必ずあらかじ
め水で湿らせてから用います。
27 人体への影響
27.1 作業環境の許容濃度(Thresho1d Limit Va1ue,TLV)
作業者の健康確保のため,ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)
が作業環境雰囲気の有毒ガス濃度の限度について勧告している Thresho1d Limit Va1ues に基づいて,
日本作業環境測定協会が勧告(2005 年版)している数値を記載しました。
(a)TWA(Time-weighted average)時間加重平均濃度
成人の健康な作業者が 1 日 8 時間ずつ週 5 日間連続して作業しても,その健康に影響を与えないと
認められる雰囲気中の有毒ガス濃度です。作業を終えた後は清浄な空気中で生活することが原則で,
特異体質の人あるいは過敏症の人などは,この濃度以下でも影響を受けるおそれがないとは言えませ
ん。数値はガス,蒸気の場合は ml/m3(すなわち ppm)で,粉塵の場合は mg/m3 で示されています。
(b)STEL(Short-term exposure limit)短時間ばく露限度
たとえ 8 時間の 1 労働日中の時間加重平均濃度が TWA を超えない場合であっても,その中のどの 15
分間についても超えてはならない 15 分間の時間加重平均濃度です。
(c)C(Cei1ing Va1ue)
(天井値又は最高許容濃度)
たとえ瞬時であっても超えてはならない暴露限界を示します。
(d)経皮吸収
勧告の付記の欄に「皮」と記されている物質についてのみ「あり」と記しました。皮膚を通じての
体内への吸収によって中毒を起こすおそれのあるもので,吸入あるいは飲み込みよりも激しく中毒す
る場合があり注意が必要です。
(e)発がん性
勧告に,その物質の発がん性について Al~A5 の記号で示されている場合,その記号を記載していま
す。それぞれは下記の意味を示しています。
A1:ヒトに対する発がん性が確認された物質又はプロセス
9
A2:ヒトに対する発がん性が疑わしい物質又はプロセス
A3:動物実験では発がん性が認められたがヒトの発がんとの関連が未知の物質又はプロセス
A4:ヒトに対する発がん性と分類しかねる物質又はプロセス
A5:ヒトに対する発がん性の疑いのない物質又はプロセス
2種類以上の有毒ガスの混在するときには,それぞれの許容濃度を T1,T2,……とし,各成分濃度
を C1,C2,……として下記の式で計算した値が 1 を超えるときは許容濃度を超えたものとします。
C1/T1 + C2/T2 + …… + Cn/Tn
例えば,400ppm のアセトンと 100ppm のエチルメチルケトンの混在する空気は
400/500 + 100/200 = 1.3
で許容濃度以上であると考えるべきです。
物 質 名
アセトン
エチルメチルケトン
TLV
500ppm
200ppm
濃 度
400ppm
100ppm
27.2 毒 性
「毒物及び劇物取締法」によって毒物,あるいは劇物に指定されているものについては,(毒物),
(劇物)と記しました。しかし,毒性が強くても毒物又は劇物として指定されていないものもありま
すから,毒物あるいは劇物と記してないものは総じて安全であると考えてはいけません。また,動物
実験により致死量(Letha1 Dose,LD)(LD50,LDL0 など)の報告されているものについては,供試動
物名,投与方法とともにその数値を体重 1kg 当たりに換算した mg 数(mg/kg)で記載しました。
・ LD50:半数致死量(50% lethal dose)
吸入以外の投与で,実験動物の群の半数を一定期間に死亡させた物質の最低量を,体重 1kg 当たり
の mg 数(mg/kg)で表しています。
国連の Transport of Dangerous Goods の規定によれば,LD50(経口毒性: ORAL TOXICITY)は,十
分な数(CFR では 10 匹以上)の成熟した若いオスおよびメスのシロネズミ(a1bino rat)の群に毒物
を 1 回強制投与して,14 日以内(CFR では 48 時間以内)にその群の 50 パーセントが死亡したとき,
その群の摂取量を体重 1kg 当たりの物質の量に換算して mg/kg で表した数値で示すことになっていま
す。
通常 LD50 の値が 30mg/kg 以下の物質を毒物に,30~300mg/kg の物質を劇物に指定する目安とされて
います。
・ LDL0:最少致死量(Lowest pub1ished lethal dose)
吸入以外の薬物摂取で 1 匹(1 人)でも死亡したことがあると報告された最少量(mg)を体重 1kg
当たりの mg 数で表しています。
・ LC50:半数致死濃度(50% letha1 concentration)
その濃度の空気を 1 時間吸入させたとき実験動物群の半数を一定期間(14 日間)に死亡させた空気
中のガス又は蒸気の濃度を ml/m3 すなわち ppm で示します。
また粉塵については mg/m3 で表しています。
・ LCL0:最少致死濃度(Lowest published lethal concentration)
ヒト又は実験動物が死亡したことがあると報告された最少濃度(ppm)です。
27.3 蒸気,粉塵などを吸入した場合,飲み込んだ場合,皮膚に付着した場合,眼に入った場合
10
貨物の漏洩などにより被毒した場合に現れる症状を記載しました。しかし,物質に対する感受性に
は,個人差はもちろん健康状態や被毒量などにより症状に強弱があるのは当然です。症状は必ずしも
直ちに現れるとは限らず,数時間,あるいは数日経てから現れて重症におちいることもありますから,
あらかじめ取り扱う物質の危険性をよく理解し,注意して取り扱って,被毒を未然に防ぐことが最も
大切です。作業後は身体の露出部分をよく洗い,うがいを励行するべきで,少しでも異常を感じたと
きは被毒したものと考えて,適当な処置をとる必要があります。
28
29.1
29
29.2
29.3
29.4
30
28 MFAG
IMDG-CODE の MFAG TABLE (Medical First Aid Guide)の番号を記載しました。リン,フッ素化合物,
シアン化物,殺虫剤,放射性物質などに対する応急処置を記載しています。※印を付したものは,MFAG
TABLE に指定がないが当委員会が参照すべきとしたものです。
29 救急処置
誤って被毒した場合,医師の手当を受けるまでに行うべき救急処置と漏洩した場合の応急処理など
を記載しました。
29.1
皮膚障害を除き,中毒は体内に吸収されて初めて現れるものです。誤って有害な物質を含有す
る空気を吸入し,あるいは有害な物質を飲み込んだ場合には,できるだけ速やかに医師の処置を受け
ることは当然ですが,同時に分秒を争って速やかにそれらの物質を体外に排除するか,又は体内で吸
11
収され難い形にするよう適切な処置を施すことが,その後の経過に重大な影響をおよぼすものである
ことを忘れてはなりません。速やかに適切な救急処置を施すことがいかに重要であるかを示す一例と
して,酸素欠乏により呼吸が停止した場合について下記のデータがあります。
人工呼吸による呼吸再開までの経過時
間
1 分以内
2 分以内
3 分以内
4 分以内
5 分以内
蘇生率
(%)
98
92
72
50
25
すなわち,このような場合には,医師の到着を待つまでもなく,速やかに人工呼吸と心臓マッサー
ジを施す必要があることは明らかです。
特に速やかな処置を要する場合は「直ちに」と記してあります。
なお,必要に応じて,医師への参考事項を「救急処置」欄の下 19.4 に(注)として記しました。
29.2 漏洩した場合の処置
イ.引火性のガスあるいは蒸気を発生する物質の場合は,通風換気を十分に行い,ガス濃度を測定(検
知)して,引火爆発の危険のないことを確かめ,また作業中にも随時確かめることが大切です。
ロ.沸点の低い物質の場合には,酸素濃度を測定して酸素欠乏のないこと(最低 18%以上の酸素がな
いと危険)を確認しなければなりません。そのおそれのある場合には保護具を着用し,まず吸着
材(おがくず,珪藻土,白土など)をまいて掃き取るべきです。
ハ.強い酸化性物質の場合には,おがくず,ぼろなど可燃性の材料を用いると火災の原因となるおそ
れがありますので,特に「不燃性の吸着材」又は「不活性材料」あるいは「不活性粉末」などと記
してあります。したがって,この場合には,白土,珪藻土,バーミキュライトなど(なければ普
通の土でも可。)を用い,掃き取ったものも燃えないように可燃性物質と隔離しておく必要があり
ます。
29.3 保護具
荷役などの際,当然着用しなければならないものは省略し,事故処理のときに,特に必要なものを
記載しました。通常の防毒マスクは空気中の有害物質を吸収除去して吸入による被毒を防止するもの
ですから,ガスの種類に応じて適切なものを選ぶ必要があります。また,吸収缶の吸収量には限度が
あるため,ガスの濃度に応じて使用できる時間が限定されています。使用可能な濃度は,およそ次の
とおりです。
隔 離 式
直 結 式
直結式小型
ガス濃度 2%以下
ガス濃度 1%以下
ガス濃度 O.1%以下
これ以上の濃度の場合又は長時間作業するときには,自給式呼吸具,又はエァラインマスクを使用
しないと危険です。
29.4 人体への影響・救急処置に関する注
毒性に関して,または,処置・医薬品に関して参考になる事項を記載しています。
30 蒸気圧曲線
データのあるものについては,1気圧までの蒸気圧曲線(温度に対応する物質の蒸気圧を示す曲線)
を図示しました。
液体又は固体の物質はすべて温度に対応した固有の蒸気圧を示し,密閉器内では蒸気と平衡を保っ
12
ています。蒸気圧は温度とともに高まり,その値が 101.3kPa(1 気圧)に達する温度がその物質の沸
騰点(沸点)
(Boi1ing point)です。
蒸気圧曲線の表示は,温度(℃)-蒸気圧(kPa)の関係で表示しました。液体の蒸発潜熱(蒸発熱)
は,一般に温度上昇に従い少し減少するものですが,これを近似的に一定であるとみてもよい狭い温
度範囲では,温度と蒸気圧の間には次式の関係が成立します。
1ogP = -(Lv/2.303)×(1/T) + C
ただし,P:蒸気圧(Pa)
Lv:モル蒸発熱 (kcal)
T :絶対温度(273.15 + t)
(t:摂氏温度 ℃)
C :物質による定数
(Lv/2.303R) ≒ const. = A とすれば
logP = -A(1/T) + C
すなわち,logP と絶対温度の逆数(1/T)との間には近似的に直線関係が成立することになり,多く
の蒸気圧曲線は下図(A)のように表示されていますが,これでは物理,化学を専門としない方々に
は,温度と蒸気圧の関係が一見して理解し難いと考え,本MSDSでは温度(℃)と蒸気圧(P)の関
係図を(B)のように表示しました。圧力の単位は kPa(キロパスカル,1000Pa)を用いています。
logρP
log
5
4
3
2
0.0025 0.003 0.0035 0.004 0.0045
1/T
(A)ベンゼンの蒸気圧曲線(logP vs. 1/T)
120
蒸気圧 (kPa)
100
80
60
沸 点: 80.1℃
引火点: -11℃
40
20
0
-40 -20 0
20 40 60 80 100
温度 (℃)
(B)ベンゼンの蒸気圧曲線(P vs. t)
・記載内容は現時点で入手できる資料,情報,データにもとづいて作成しておりま
すが,化学的性質,危険・有害性等に関しては,いかなる保証をなすものではあり
ません。また,注意事項は通常の取扱いを対象にしたもので,特殊な取扱いの場合
には,適した安全対策を実施して下さい。
・ 新たな情報を入手した場合には追加又は訂正されることがあります。
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参 考
文
献
主に参照した文献を記し,これらの著者・編者に深く感謝いたします。
[法規等]
1) 危険物船舶運送及び貯蔵規則 (平成 26 年 12 月改正)
2) Internationa1 Maritime Dangerous Goods Code (IMDG-Code:CD版)(Amdt.37-14)(2014)
3) Code of Federal Regulations, Tit1e 49 (CFR 49) (March, 2015)
4) 港則法
5) 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律 (平成 26 年 5 月改正)
6) 毒物及び劇物取締法
7) 消防法
8) 火薬類取締法
9) 高圧ガス保安法
[品名・物性等]
1) 日本化学会編,「化学便覧 改訂 5 版 基礎編」
,丸善 (2004)
2) 平山健三,平山和雄訳著,「有機化学・生化学命名法 上 (改訂第 2 版)」
,南江堂 (1988)
3) 有機合成化学協会編,
「有機化合物辞典」
,講談社 (1985)
4) 化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典」
,共立出版 (1963-1964)
5) 文部省・日本化学会編,
「学術用語集 化学編 増訂 2 版」
,南江堂 (1986)
6) 日本化学会編,「化学防災指針集成」
,丸善 (1996)
7) 「14906の化学商品」,化学工業日報社 (2006)
8) STN Internationa1:REGISTRY Fi1e
9) ChemIDplus Lite File
10) Richard J. Lewis, Sr., ed.,“ Sax's Dangerous Properties of Industrial Materials,
9th ed.” CD-ROM Ver.1.O Van Nostrand Reinhold, NY. (1995)
11) Richard J. Lewis, Sr., ed.,“ Hawley’s Condensed Chemical Dictionary, 12th ed.”
CD-ROM Ver. 2.O Van Nostrand Reinhold, NY. (1995)
12) Michael and Irene Ash, compiled,“Industrial Chemical Thesaurus, Third ed.,”,
Synapse Information Resources, Inc. NJ. (2000)
13) Maryadele, O’Neil, et al., editors, “THE MERK INDEX 14th ed.”, Merck & Co.,Inc,
NJ. (2006)
14) J. Buckingham, executive editor, “Dictionary of Organic Compounds, 5th ed.”
Chapman and Ha11, NY. (1982)
15) W.M.Haynes, Editor-in-Chief, “HANDBOOK of CHEMISTRY and PHYSICS on CD-ROM, Version 2011,
CRC Press (2011)
16) Jacqueline I. Kroschwitz, executive editor; “Kirk-Othmer Encyclopedia of
Chemical Thechnology, 4th ed.” John Wiley & Sons Inc. NY. (1991-1997)
17) Fritz Ullmann & Others,“Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemisty (5th ed)”,
14
John Wiley & Sons Inc. NY. (1985-1996)
18) T.
Boub1ik, V. Fried, E. Hala, “The vapour pressures of pure substances”,
Elsevier, NY. (1973)
19) Robert H. Perry, Ceci1 H. Chi1ton,“ Chemica1 Engineers' Handbook (5th ed.)”,
(Internationa1 Student Edition), McGraw-Hil1 International Book Company, Tokyo
(1973)
[有害性,救急処置等]
1) 後藤欄,池田正之,原一郎編,
「産業中毒便覧(増補版)
」,医歯薬出版 (1981)
2) ACGIH, 2012 TLVs and BEIs,(2012)
3) 東京消防庁 警防研究会監修,
「第 2 版危険物デ-タブック」,丸善 (1993)
4) 上原陽一監修,化学物質安全情報研究会編,
「化学物質安全性デ-タブック(改定増補
版)」
,オ-ム社(1997)
5) E. R. P1unkett,牛尾耕一訳,
「新産業中毒マニュアル」
,日本メディカルセンタ-
(1978)
6) 日本医師会,
「救急蘇生法の指針」
(日本医師会雑誌 第 90 巻,5 号付録) (1983)
7) 内藤裕史,西岡りき,
「絵で見る中毒 110 番」
,保健同人社 (1992)
8) 内藤裕史,「中毒百科」,南江堂 (2001)
9) 山下 衡,「農薬中毒」(最新医学文庫 33),新興医学出版社 (2000)
10) 遅塚令ニ,
「救急中毒マニュアル」
,医学書院 (2000)
11) 鵜飼
卓,
「救急中毒ケースブック」,医学書院 (1986)
12) 西勝
英監修,
「薬・毒物中毒救急マニュアル(改訂 3 版)」
,医学ジャーナル社 (1986)
13) 吉村正一郎,早田道治,山崎
太,森
博美編著,
「急性中毒情報ファイル(第 3 版)」,
廣川書店 (1996)
14) 中央労働災害防止協会編,
「危険・有害物便覧(新版)
」, 中央労働災害防止協会(1986)
15) 堀口博,
「公害と毒・危険物(有機編,無機編)」
,三共出版 (1971)
16) 農林水産省農蚕園芸局,「農薬中毒症状と治療法」
,(1989)
17) 東京化成工業編,
「取り扱い注意試薬ラボガイド」
,講談社 (1988)
18) 毒物劇物安全対策研究会編,
「最新 毒物劇物取扱の手引」
,時事通信社 (2001)
19) 日本油化学会編,
「油化学便覧 第四版―脂質・界面活性剤-」
,丸善 (2001)
20) 原田 一郎,
「油脂化学の知識 (改訂増補第 3 版)」
,幸書房 (1992)
21) RTECS Fi1e (Registry of Toxic Effect of Chemical Substances)
22) ICSC File (Internatinal Chemical Safty Cards)
23) HSDB File (Hazardous Substances Data Bank)
24) Richard J. Lewis, Sr. ed.,“ Sax's Dangerous Properties of Industrial Materials,
9th ed.,” CD-ROM Ver.1.O Van Nostrand Reinhold, NY. (1995)
25) George D. Clayton, F1orence E. Clayton, ed.,“PATTY'S INDUSTRIAL HYGINE AND
TOXICOLOGY, 4th ed.”, John Wiley & Sons Inc. NY. (1991-1995)
26) WHO:International Medica1 Guide for Ships (IMGS)(1967)
27) IMO:Medica1 First Aid Guide for Use In Accidents invo1ving Dangerous Goods
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(MFAG,改訂版)(1985);青木
友訳,
「危険物による事故の際の応急医療の手引き」
,
成山堂書店 (1983)
28) IMO:Emergency Procedures for Ships carrying Dangerous Goods(1981);
青木 友訳,
「危険物を輸送する船舶の非常処置指針」成山堂書店 (1996)
29) 製造メーカーの製品安全データシート (MSDS),たとえば
日本試薬協会MSDS検索 (http://218.223.29.73/msds-finder/select.asp)
Fisher Scientific Canada (https://www.fishersci.ca/Default.aspx)
30) 神奈川県化学物質安全性情報システム (kis-net)
(http://www.k-erc.pref.kanagawa.jp/kisnet/index.htm)