市街化区域における「未整備住宅地」の整備課題 ―595―

日本建築学会大会学術講演梗概集 (関東) 2015 年 9 月 7269
市街化区域における「未整備住宅地」の整備課題
正会員
「未整備住宅地」 地区計画 市街化区域 ○今西一男
土地区画整理事業 1 はじめに 市街化区域とは「すでに市街地を形成している区域及
びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図る
べき区域」(都市計画法第 7 条第 2 項)と定義される。し
かし、人口減少や経済規模縮小という都市の縮減傾向が
顕著となり、今や「優先的かつ計画的に市街化を図る」
ことは困難である。特にこれまで市街地開発事業または
地区計画が導入されておらず、用途地域のみによって土
地利用を制御してきた市街地では、本来図るべき整備や
機能更新がなされず、粗放化する事態が懸念される。 本研究ではこのように(1)市街化区域にあること、(2)
住居系用途地域 (1) にあること、(3)市街地開発事業の事業
計画決定(事業完了)及び地区計画の都市計画決定がな
されていないこと、のすべてに該当する市街地を「未整
備住宅地」と定義し、表 1 の全国調査(2)を実施した。その
目的は未整備住宅地の今後の整備手法を検討するため、
現在の整備課題を知ることにある。本報はその調査結果
より、市街地開発事業の基本的な手法である土地区画整
理事業(「区画整理」)の未着手に関する課題と、「未整備
表 2 未着手の区画整理の目的 (複数回答、n=138) 目的 中心市街地の活性化 既成市街地の再編 新住宅地の開発 防災性の向上 幹線道路の整備 その他 件数 12 66 71 37 58 13 割合 8.7% 47.8% 51.4% 26.8% 42.0% 9.4% 同じく「ある」138 自治体に未整備住宅地における区画
整理未着手の理由を聞いた結果(表 3)、「事業化への合意
形成が困難」が 102 件(73.9%)と最も多く、次いで
「自主財源の不足」59 件(42.8%)、「減歩負担への理解
が得られない」56 件(40.6%)となっていた。「事業化へ
の合意形成が困難」は区画整理によく見られるが、「自主
財源の不足」は経済規模縮小の趨勢を示す理由と言える。 表 3 区画整理未着手の理由 (複数回答、n=138) 理由 事業化への合意形成が困難 減歩負担への理解が得られない 換地にともなう移転への理解が得られない 事業が長期に渡りやすい 都市計画マスタープランとの不整合 自主財源の不足 補助制度の不足 宅地需要の低下 地価の下落 他の事業導入による必要性の低下 その他 件数 102 56 21 33 0 59 14 22 30 9 25 割合 73.9% 40.6% 15.2% 23.9% 0.0% 42.8% 10.1% 15.9% 21.7% 6.5% 18.1% 住宅地」の整備手法に関する課題を把握したものである。 3 未整備住宅地の整備手法の課題 2では現在未着手となっている区画整理の目的・理由
表 1 本研究における全国調査の概要 調査名称:都市縮減社会における「未整備住宅地」の計画課題に関する
を確認したが、今後、未整備住宅地において区画整理を
全国調査 調査対象:区域区分を設定している全国 635 自治体 調査方法:郵送調査法(配布・回収とも郵送) 調査期間:2014 年 9-11 月 有効回答:506 自治体(79.7%) 調査内容:回答自治体の都市計画の概要 4 問、未整備住宅地における都
市計画の課題 4 問、都市計画における住民参加と住民による
未整備住宅地の改善 6 問、自由回答 1 問、合計 15 問 施行する際の課題も聞いた(表 4)。ここでは未着手の区
画整理の有無について無回答の 2 自治体を除く 504 件に
ついて、「ある」「なし」の別に結果を示した。これによ
2 未整備住宅地における区画整理の未着手 従来であれば、未整備住宅地の基本的な整備手法とし
ると、やはり「ある」「なし」のいずれでも「事業化への
合意形成が困難」が最も多く、次いで「自主財源の不足」
となっている。特に「自主財源の不足」について、「ある」
ては区画整理が考えられる。そこで本研究では未整備住
宅地において未着手(事業計画決定以前、区域の都市計
画決定済みまたは調査段階)となっている区画整理も多
では 65.2%、「なし」では 59.8%となっており、「ある」
の方が 5.4%、課題として認識している割合が高い。 この区画整理に代わる手法としては、地区計画が考え
いと考え、その有無を聞いた。その結果、未着手の区画
られる。その策定の際の課題を聞いた結果(表 5)、「ある」
整理が「ある」は 138 自治体(27.3%)、「なし」は 366
では「道路など地区施設整備の合意が難しい」が 59.4%
自治体(72.3%)、無回答は 2 自治体(0.4%)であった。 と最も多く、「なし」では「地区計画策定から計画実現ま
この「ある」138 自治体に未着手の区画整理の目的を聞
でに時間がかかる」が 47.8%と最も多かった。第 2 位は
いた結果(表 2)、「新住宅地の開発」が 71 件(51.4%)
他方の第 1 位の項目となるが、その割合の差は「ある」
と最も多く、次いで「既成市街地の再編」66 件(47.8%)、 で 10.8%、「なし」で 0.8%であり、「ある」の「道路な
「幹線道路の整備」58 件(42.0%)となっていた。人口
減少下で、「ある」の半数以上がなお「新住宅地の開発」
を目的とした事業を積み残していることがわかる。 ど地区施設整備の合意が難しい」は主要な課題と言える。
未着手の区画整理が「ある」状況から、具体的な「道路
など地区施設整備」に目が向けられていると考えられる。
A Study on the Subject of Improvement of the Incomplete Housing
Areas in Urbanization Area
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IMANISHI Kazuo
なお、区画整理を施行する際の課題にも関わって「必要
事業に着目すると、「ある」で 5 件(33.3%)、「なし」で
な財源の確保が難しい」を見ると、「ある」では 26.8%で
第 5 位、「なし」では 31.4%で第 4 位と低い位置にある。 表 4 区画整理を施行する際の課題 (複数回答) 4 件(30.1%)と同様の割合である。「ある」「なし」とも、
自治体独自の事業より法定の事業を活用する場合が多い。 表 6 新たに用いる手法 (複数回答) 課題 事業化への合意形成が困難 減歩負担への理解が得られない 換地にともなう移転への理解が得られない 事業が長期に渡りやすい 都市マスタープランとの不整合 自主財源の不足 補助制度の不足 宅地需要の低下 地価の下落 他の事業の導入による必要性の低下 その他 ある なし 合計 n=138 n=366 n=504 120 279 399 87.0% 76.2% 79.2% 81 211 292 58.7% 57.7% 57.9% 47 140 187 34.1% 38.3% 37.1% 70 217 287 50.7% 59.3% 56.9% 9 34 43 6.5% 9.3% 8.5% 90 219 309 65.2% 59.8% 61.3% 32 55 87 23.2% 15.0% 17.3% 35 60 95 25.4% 16.4% 18.8% 35 62 97 25.4% 16.9% 19.2% 17 15 32 12.3% 4.1% 6.3% 7 21 28 5.1% 5.7% 5.6% 表 5 地区計画を策定する際の課題 (複数回答) 課題 地区整備方針など共通の目標を決めづらい 道路など地区施設整備の合意が難しい 建蔽率・容積率など建築条件の合意が難し
い 敷地面積の合意が難しい 高さ制限の合意が難しい 地区計画策定から計画実現までに時間がか
かる 必要な事業用地の確保が難しい 必要な財源の確保が難しい その他 ある なし 合計 n=138 n=366 n=504 62 162 224 44.9% 44.3% 44.4% 82 172 254 59.4% 47.0% 50.4% 26 61 87 18.8% 16.7% 17.3% 38 91 129 27.5% 24.9% 25.6% 27 46 73 19.6% 12.6% 14.5% 67 175 242 48.6% 47.8% 48.0% 21 62 83 15.2% 16.9% 16.5% 37 115 152 26.8% 31.4% 30.2% 15 39 54 10.9% 10.7% 10.7% 手法 建築協定 まちづくり条例に基づいたルールの策定 指導要綱に基づいた事業の推進 開発許可基準の推奨 用途地域以外の地域地区制度の活用 用途地域に委ねる その他 ある なし 合計 n=138 n=366 n=504 37 92 129 26.8% 25.1% 25.6% 29 65 94 21.0% 17.8% 18.7% 29 94 123 21.0% 25.7% 24.4% 43 97 140 31.2% 26.5% 27.8% 23 50 73 16.7% 13.7% 14.5% 92 212 304 66.7% 57.9% 60.3% 13 28 41 9.4% 7.7% 8.1% 表 7 住民による整備事例 区画 市区名 具体的事業 札幌市 地区計画 小山市 地区計画 川口市 地区計画・住宅市街地総合整備事業 柏市 地区計画 市原市 地区計画 板橋区 地区計画 「街づくり誘導計画」 ある 府中市 町田市 「地区街づくりプラン」 15 件 日野市 住宅市街地総合整備事業 鎌倉市 「まちづくり計画」 藤沢市 地区計画・建築協定・「景観形成地区」 芽ヶ崎市 地区計画 新潟市 地区計画 西宮市 「狭隘道路整備事業」 明石市 地区計画 天童市 「まちなみ協定」・「街並みづくり基準」 吉川市 地区計画・準防火地域 上尾市 「街づくり計画」 中央区 市街地再開発事業(組合) 東久留米市 地区計画 区画整理(組合) なし 稲城市 逗子市 区画整理(組合) 13 件 川崎市 建築協定 新発田市 区画整理 大垣市 「景観形成重点地域」 弥富市 区画整理(組合) 宇治市 「地区まちづくり計画」 古賀市 地区計画 (注)「」は自治体独自の事業。 このように区画整理にも地区計画にも課題が見られる
が、ではこれらの手法に代わり、新たに用いる手法とし
4 結論 ては何が考えられているのか。その結果(表 6)を見ると、 以上より、未整備住宅地において未着手となっている
「ある」「なし」のいずれでも「用途地域に委ねる」が最
区画整理は 27.3%に止まる。しかし、その半数以上が
も多く、次いで「開発許可基準の推奨」となっている。 「新住宅地の開発」を目的とする事業を積み残している。 「用途地域に委ねる」については、「なし」の 57.9%に対
今後の整備手法として区画整理には合意形成と財源、
し「ある」は 66.7%と 8.8%割合が高い。他の項目の割
合の差は 5%にもならず、顕著な違いと言える。ただし、
これらは積極的な整備や機能更新の手法とは言い難い。 一方、こうした手法を都市計画行政が担うばかりでは
なく、住民自らの市街地改善意欲に立脚した整備事例は
見られないのか。本研究では住民による未整備住宅地の
地区計画には合意形成という課題が指摘される。それら
に代わる手法として用途地域や開発許可があげられてい
るが、積極的な整備や機能更新に結びつくとは言い難い。 そこで都市計画行政だけではなく、住民自らの整備事
例から示唆を得る必要があると考える。未着手の区画整
理「あり」で 15 件、「なし」で 13 件の整備事例が見られ
整備事例を聞いた結果(表 7)、「ある」で 15 件、「なし」
たが、自治体独自の事業の活用はまだ少ない状況にある。 で 13 件が見られた。その具体的事業で目立つのは「ある」 付記 本研究は文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)「都市縮減社会にお
ける区画整理と新たな市街地整備手法の開発検討」(研究代表者:今西一
では地区計画の 10 件(66.7%)である。「なし」では地
男、課題番号:25420622)の一環として実施したものである。 区計画は 3 件(23.1%)であり、区画整理・市街地再開
発事業が 5 件(38.5%)と多い。なお、この 5 件の内 4
件は組合施行である。また、法定ではない自治体独自の
福島大学人文社会学群行政政策学類教授・博士(学術)
補注 (1)第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住
居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住
居地域、準住居地域の 7 種類。 (2)国土交通省「平成 24 年度都市計画現況調査」により対象を抽出した。 Professor, Faculty of Administration and Social Sciences,
Cluster of Human and Social Sciences, Fukushima Univ., Dr. Ph.
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