澤上 龍レポート

2015.11.30
さわかみファンド 月次レポート
郵政関連株は買いか? 代表取締役社長 澤上 龍
11月4日に郵政グル―プの3社が上場しました。政府に
「ゆうちょ銀行」が企業向け融資や住宅ローンへの参入
よる段階的な売り出しということもあり中途半端感が否め
を希望しようとも、また貯金や保険の加入限度額を引き
ない上場ですが、新聞では株式関連ニュースとして3社が
上げたところで本質的な構造は変わりません。両社とも今
話題をさらっているようです。投資家には注目の的なのか
後は国債運用の比率を下げる方向ですが、敢えて郵政関
もしれません。かつてのJR東日本やJTのような展開を期待
連株を買う必要があるのでしょうか? 郵政グループ各社
しているのでしょうか?
が完全独立採算性をとった場合、「日本郵便」は資産であ
そして長期投資家にとって郵政
関連株は買いなのでしょうか?
り遺産である星の数ほどの郵便局の維持管理コストだけで
■長期投資家は持続的な成長を見込んで買う
パンクしてしまいます。また金融 2 社も郵便局への窓口手
郵政 3 社に関わらず、長期投資家は企業の持続的成長
を見込んで株価暴落時に買いを入れます。間違っても
や流行、思惑などでは投資しません。それらは一時的な
ものであり、株価は必ず業績に収束していくのですから。
数料の支払いが減る一方で、販路という表面的なメリット
を失うこととなります。束ねる「日本郵政」然り。残念な
がらこのままでは、どう転んでも時代適合性は剥落してい
く方向だと思われます。
では郵政グループの本業は今後どうなっていくのでしょ
■郵政 3 社の上場が巻き起こす風
うか?
実際のところ別の視点でも 3 社上場は注目されていま
グループのうち株主のための利益を最も多く出している
す。それはもちろん、日本株の新たな買い手という意味
のは「ゆうちょ銀行」です。「かんぽ生命」も健闘してい
合いです。GPIF の株価下支えに次いで、上述の通り金融
ますが、誰もが知っている「日本郵便」の郵便事業は赤
2 社の国債から日本株へのシフトは相場全体に下からの
字であり、グループ全体は金融 2 社に食べさせてもらっ
圧力を与えます。最終的にどれだけの資金が株式市場に
ている状況です。
流れ込むかはわかりませんが、10 兆円を超えるという試
「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」はそれぞれの預か
算もあるようです。新しいクジラの登場は、資産効果に
り資産(貯金・保険)で国内最大規模、全国津々浦々の
よる景気浮揚策というアベノミクスの一手なのです。
郵便局を窓口にあらゆる生活者に接点を持ちやすい環境
■結局、郵政関連株は買いなのか?
を整えています。ある意味で化け物のような存在と言え
るでしょう。しかしながら中身を見ると恐怖を感じてし
まいます。
最近では投信や保険商品などの販売手数料稼ぎについ
ての意思も見えてきていますが、それらは先が知れている
どころか、むしろ厳しくなっていくはずです。稼がれたい
生活者などいないのですから。結果、主たる事業で成長
していかないといけません。主たる事業とはもちろん、銀
行も生保も預かった資金を運用することです。
その主たる事業において恐怖を拭いされない理由が国
債中心の運用という現実です。金利が上がりだしたら国債
価格は下落、運用損失が一気に表面化します。貯金者お
よび保険契約者が辛い思いをするのは避けられず、更に
は大幅な赤字を出し資産を棄損する 2 社はどうなること
か…。考え方を変えれば、
「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」
に投資をしようということは間接的に国債に投資をしよう
と言っていることにもなります。それらを考えると、まと
もな運用をする投信を買った方がよほど無難でしょう。
郵政グループには様々な影が付きまといます。政治がら
みのこと、誤配や破棄などあってはならない杜
な郵便
体制など。しかし投資家にとって世間話に興じる必要はな
く、あくまでも企業としての持続的成長を見定めないとい
けません。株式市場はこの度の 3 社上場と相場全体への
上昇圧力の両面に注目しているようですが、そのどちら
も一時的な要素であり長続きするかどうか疑問です。初動
のエネルギーとして慣性の法則に従って良い方向に流れ
ていけばよいのですが、無暗な期待はできない状況だと
考えられます。
結局、長期投資とはその企業の業績が徐々にでも良く
なっていくことを背景に行うものです。業績が良くなると
いうことは、生活者である我々が必要とし、消費者として
支え続けることが必須です。さて、皆様は今後も郵便、ゆ
うちょ銀行、かんぽ生命を利用し続けたいですか? 【2015 年 11 月 25 日記】
※さわかみファンドにおけるリスク・手数料については、最終ページに記載の「ご留意事項」をご覧ください。
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