第8章 関数電卓を使った演習

第8章
§ 8-1
関数電卓を使った演習
関数電卓はITツール
解決の手順は次のとおりです。
授業の中で関数電卓 fx375ES(CASIO)をよく使い
1次関数 AX + B = Y に、(0.39,0.24)、
①
ます。本校では全学生が入学時に購入します。値段は
1500 円前後です。はじめは理科の授業で電卓使用とは
(0.72,0.62)をそれぞれ代入し、式を2本つくる。
いかがなものかという気持ちを持っていましたが、買
結果:
、0.72A + B = 0.62
①の連立方程式を解き、A と B の値を求める。
②
うからには高度な使用法を経験させたいと考え、使う
0.39A + B = 0.24
ことにしました。この章では関数電卓をITツールと
電卓を使ってこの手順を実行するには、次のように
して問題解決に利用することについて述べます。
EQN(方程式)モードを使います。
§ 8-2
2点間を結ぶ式をつくる
はじめて関数電卓らしい使い方をしたのは、1年生
の地学基礎の授業で「太陽系」を扱った時です。次の
課題を使いました。
③
電源を ON にし、「MODE」→「5:EQN」を押す。
④
方程式タイプ「1: anX + bnY = cn」を選択する。
⑤
①の結果を次の行列とみなす。
課題1
(1)
⑥
きい惑星ほど公転周期(Y:その星の1年)が長いこ
(2)
0.39
0.24
金星
0.72
0.62
地球
1.0
1.0
1
0.62
①では A と B の決定を目的としましたが、電卓
しないよう注意が必要です。
(Y:年)
水星
0.72
では、X と Y の決定に置き換えられるので、混乱
公転周期
(X:天文単位)
0.24
「=」を押す。X の値、Y の値が表示される。
※
とがわかります。データからグラフを作成しなさい。
平均距離
1
電卓に行列の各要素を入力する(図2)。
次のデータから、太陽からの平均距離(X)が大
惑星名
0.39
水星と金星のデータを使って X と Y の間に成り立
つ式を作りなさい。また、その式は地球やそれ以外の
外惑星についても成り立つといえますか、あなたの考
えと根拠を書きなさい。
太陽系の惑星の太陽からの距離と公転周期との関係
1.2
図2
2元連立1次方程式の入力画面
1
0.8
公
転
周 0.6
期
こうして、関係式
1.1515X-0.209=Y
が得られ、
( )
およその値を使うと次のようになります。
年
0.4
0.2
y 1.2x 0.2 も し く は y
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
平均距離(au)
図1
1
(6 x 1)
5
およその値を使った式では、地球についてもとても
太陽からの距離と公転周期の関係
「行儀良く」成り立つことがわかります。しかし、詳
- 34 -
しい値を用いると、予想値 Y は実際の値よりやや小さ
課題2は、異なる媒質中を波が通過する際に起こる
くなります。この関係式が天体に関する規則性を正し
「屈折」について理解を深めるために使ったものです。
く言い当てているかは、さらに火星、木星、土星とサ
解決の手順は次のとおりです。
ンプルを変えながら検討する必要があります。参考の
①
ため、関係式が外惑星には当てはまらないことをグラ
三平方の定理を使い、まず手前の三角エリアの斜辺
を求め、経路を進むのに要する時間を計算する。次に
フにより示します(図3)。
奥の三角エリアの斜辺を求め、同様に時間を計算する。
結果:
t1
1 X2
4
、
t2
1 (2 X )2
8
①の合計が最小になる X の値を求める。
②
この手順を電卓を使って実行するには、電卓の数値
テーブル生成(TABLE)機能を使えるようアレンジす
る必要があります。
図3
8個の惑星をプロットした結果
③
電源を ON にし、
「MODE」→「6:TABLE」を押す。
④
「f(x)=」に続けて次の式を入力する。
電卓をこのように使うと、サンプルを変えてシミュ
⑤
なお、連立方程式計算は物理の「キルヒホッフの法
(2
8
x)2
「g(x)=」に続けて「=」を入力する。
⑥ 「Start?」に続けて「0 =」を、
「End?」に続けて「1
=」を、「Step?」に続けて「0.1 =」を入力する。
則」などでも力を発揮しますが、紙面の都合によりこ
⑦
こでは説明を割愛します。
1
4
レーションを行う時間を確保できます。これは電卓を
使用するメリットのひとつと言えます。
x2
1
⑥の結果から、0.6 の近くに極値が存在することが
わかるので、「AC」を押して④~⑥に戻る。
§ 8-3
⑧
数値テーブル生成(TABLE)機能を使う
「Start?」に続けて「0.5 =」を、「End?」に続けて
「0.7 =」を、「Step?」に続けて「0.05 =」を入力す
グラフから極値の存在は明らかなのに、解析解が得
られないことがあります。その場合は関数に次々に値
を代入し数値解を探します。挟み撃ちにして両サイド
からピークに迫るイメージです。関数電卓はこのよう
る。(※
0.01
は細かすぎて入力を拒否される。)
⑧の結果から、0.55 ~ 0.60 の間に極値が存在する
⑨
ことがわかり、同様に探索を続けると、最終的に極値
が 0.575 の近辺にあることがわかる(図4)。
な計算を行う機能を持っています。
課題2
図のように一辺 2km の正方
形の土地の一角をスタート、
対角をゴールとする。最短時
間でゴールするには対角線に
沿って進むが、土地の半分が砂地のため徒歩(時速4 km)
でしか進めず、整地された残り半分を時速8 km で走る
ことになる。最短時間でゴールできるルートを探索せよ。
図4
- 35 -
0.575の近辺にある極値の探索
こうして図の X が 0.575km、つまり 575m になる地
点を通過するルートが最短だとわかります。
は意味があります。このことを使い、学生・生徒が陥
りやすいミスの例を紹介します。
電卓をこのように使うと、入力値の刻みを次々に細
これは毎年起こることですが、電卓使用に慣れた学
かくして極値に迫る「しらみつぶし」作業等の効率を
生・生徒の中には結果を丁寧に吟味しない人が増えま
アップできます。これも電卓使用のメリットのひとつ
す。例えば、
「500 秒は何分何秒か」という問いに対し、
と言えます。
「500 ÷ 60 =約 8.3333・・・」の結果から「8 分 3 秒で
す」と答える学生がいます。確認するよう促すと今度
§ 8-4
単位換算機能と物理定数を使う
は「いいえ、8 分 33 秒でした」という答が返ってきま
最後に、単位換算(CONV)機能の使い方を紹介し
す。計算の意味に気づいていないのです。「何分何秒
ます。前のセクションの課題で、最短ルートの移動に
か」と問うのは、オーソドックスな計算「500 ÷ 60 = 8
は 0.4665067999 時間を要することがわかりました。こ
あまり 20」に立ち返り、「8 分 20 秒」という答を出せ
れは 0.5 時間に満たないので 30 分の少し手前であるこ
ることが大切だと気づいて欲しいからです。
とはわかります。では、具体的には何分何秒でしょう。
課題4
課題3
太陽-地球間の距離(1天文単位)の値を調べ、光が
0.4665067999 時間は何分何秒か。およその値を
この距離を進むのに何分何秒かかるか求めなさい。
※
求めなさい。
電卓には 40 種類の物理定数が記憶されています。
それらを呼び出す方法は附属のリストに記載されて
いるので利用すること。
単位換算(CONV)機能は、このような課題を解決
する上で有効です。手順は次のとおりです。
この課題を解決するには、定数(CONST)を呼び出
①
「ALPHA」→
②
す必要があります。手順は次のとおりです。
0.4665067999 を入力した後に、
「8:CONV」を押す。
1 を入力した後に、「ALPHA」→「8:CONV」を押
①
「097 =」を入力する。結果:1679.42448
し、「047 =」を入力する。(1AU を m に換算する)
結果:1.495979 × 10^11[m]
これは、本機にプリセットされている 200 種類の単
②
位換算機能のうちの「第 97 番:h → s」を使用するこ
「÷」を入力した後に、「SHIFT」→「CONST」を
押し、「28 =」を入力する。(光速度 C で割る)
とを意味します。
結果:499.0048816[s]
結果は「 1679.42448 秒 」となります。さらに秒を分
③
に換算するため「第 96 番:s → min」を使用します。
「ALPHA」→「8:CONV」を押し、「96 =」を入力
する。結果:8.316748027[min]
すると答は「27.99040799 分」に変換されます。アバ
8 分を引く。「0.3167480267」が得られるので、
④
ウトな解で良ければ「およそ 28 分」で良いしょう。
「ALPHA」→「8:CONV」を押し、「95 =」を入力
もう少し精密な値が必要な時はまず 27 を引き、
する。結果:19.0048816[s]
「0.990407994 分」を作ります。それを秒に換算する
⑤
以上の結果より、答
8 分 19.00 秒を得る。
ため、「第 95 番:min → s」を使用します。結果は
「59.42447964 秒」となります。よって、
「何分何秒か」
以上見てきたように、電卓は便利なツールですが、
という問いに正しく向き合うならば答は「およそ 27
計算過程をブラックボックスのままにしておくと思わ
分 59.4 秒」となります。
ぬ落とし穴が待っています。使用に当たっては、特徴
「およそ 28 分」と「およそ 27 分 59.4 秒」は、一見
と弱点をよく見極めて使用することが大切です。
同じように見えますが、これらを区別しておくことに
- 36 -