「生産②」自己研鑽資料(山村先生作成)

生産② 補足資料
生産②の内容について、もっときちんと理解したい!という方のための補足資料です。この資料をきっかけに
さらに広い知識の習得に励んでいただけたら幸いです。
Ⅰ.種苗
① 遺伝子と染色体 ―長い遺伝子を上手に収納する染色体―
・染色体は遺伝子(DNA)がヒストンというタンパク質(ボビンのイメージ)に巻きつき、さらに折りたたまれ
てできている(図 1)。
・人間は 23 種類の染色体を持っている。父親から 1 セット、母親から 1 セットの染色体をもらうので、同じ
種類の染色体を 2 つずつ、あわせて 46 個の染色体を持っている。このような性質を「2 倍体」という。受精
直後に両親の同種の染色体同士で遺伝子の一部を交換するので、父・母の遺伝子とは多少異なる(図 2)。
遺伝子
一部分
交換
父親由来
染色体
ヒストン
図 1 染色体の構造
母親由来
図 2 2 倍体の染色体
②
優性遺伝
・遺伝子には生物の様々な性質が記録されている。父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子で逆の内容(背が高
いと背が低い)が記録されていた時、どちらかの性質を優先的に採用することを「優性遺伝」と呼ぶ。
・例えばエンドウマメの遺伝子で、背が高くなる性質を記録しているものをA(優性)、低くなる性質を記録し
ているものをaとすると、父由来・母由来どちらの遺伝子もAである場合(AAと表記)、父由来・母由来ど
ちらかの遺伝子がAである場合(Aaと表記)には背が高くなり、父由来・母由来どちらの遺伝子もaである
場合(aaと表記)のみ背が低くなる。
③ メンデルの法則
・メンデルはまず、エンドウマメに背が高くなるものと低くなるものがあることに着目し、背の高い個体から
採取したマメと背の低い個体から採取したマメを分け、別々の場所で栽培することを数年続け、必ず背の高
くなるグループ(遺伝子がAA)と必ず背が低くなるグループ(遺伝子がaa)にわける「純系」の選抜を行っ
た(背の高いものをH、背の低いものをLとする)(図 3)。
AA
背が低くなる
グループ(L)
aa
Aa
aa
aa
aa
aa
aa
aa
AA
Aa
aa
aa
Aa
背が低い個体の選抜
Aa
aa
Aa
Aa
aa
AA
Aa
AA
Aa
Aa
aa
aa
元の集団
AA
AA
aa
AA
AA
Aa
Aa
背が高くなる
グループ(H)
AA
AA
AA
AA
AA
AA
背が高い個体の選抜
図 3 純系の選抜の概要図
・Hの花(A)にLの花粉(a)をつけても、Lの花(a)にHの花粉(A)
をつけても、できた豆(Aa)を育てると背が高くなることから、
背が高くなるという性質(A)が優性であることを発見した(優性
の法則)。
表 1 Aaの両親からできる子供の遺伝子型
母親由来遺伝子
A
a
父親由来遺伝子
A
AA
Aa
a
Aa
aa
AA:Aa:aa=1:2:1
このうちAAとAaが背が高いので
「背が高い」
:
「背が低い」=3:1
・次に、HとLを掛け合わせた背の高い個体(Aa)から収穫したマメをさらに栽培すると、背が高いもの(A
A、Aa)と背が低いもの(aa)が3:1で現れる(分離の法則)ことがわかった(表 1)。
・これらの特徴は、優性の法則がみられる他の形質(マメのしわ等)とは無関係に遺伝する (独立の法則)こと
にも気づいた。
④ 固定種
・メンデルがしたように、人類は古来より、栽培する農作物の中から、
自分たちに都合のいい性質を持った個体の種子を翌年の栽培に使
うことで、次第にその特徴を固定させてきた(純系の選抜、図 3)。
グループ内のほとんどすべての遺伝子が優性(A)であるため、グル
ープ内で再度交配しても次の世代も同じ性質を示す(表 2)。
・例えば穀物の非脱粒性、日本各地に点在するユニークな色や形をし
たいわゆる「伝統野菜」等がわかりやすい例。
表 2 固定種の交配
母親由来の
父親
遺伝子
A
A
由来の遺伝子
A
AA
AA
A
AA
AA
AA×AAの交配パターン
どのやり方でも優性の形質を永遠に
引き継げる
⑤ F1(雑種第一代)
・優性遺伝する異なる 2 つの性質について、それぞれ優性の遺伝子を 2 つ持つ(ホモ)植物同士を掛け合わせて
作ったもの(交配種)。両方の性質を兼ね備えている。
・トマトの架空の例で説明すると、完熟しても軟化
表 3 F1の交配
しない性質を記録する遺伝子(優性)をA、軟化し
aB
aB
aB
aB
てしまう遺伝子(劣性)をa、甘くなる性質を記録
Ab
AaBb
AaBb
AaBb
AaBb
する遺伝子(優性)をB、甘くなりにくい遺伝子
Ab
AaBb
AaBb
AaBb
AaBb
(劣性)をbとする。まず、あるグループのトマト
Ab
AaBb
AaBb
AaBb
AaBb
に対して完熟しても軟化しない性質をグループ
Ab
AaBb
AaBb
AaBb
AaBb
の中に固定し(グループ内の遺伝子を全てAAに AAbb×aaBBの交配パターン
する)、次に別のグループのトマトに対して甘く どのパターンからも全く同じ遺伝子型が生まれ、優性遺伝
なる性質をグループの中に固定(グループ内の遺
表 4 F2の交配
伝子を全てBBにする)する。二つのグループを
AB
Ab
aB
ab
掛け合わせると、全ての組み合わせがAaBbと
AB
AABB
AABb
AaBB
AaBb
なり、完熟しても軟化せず甘いトマトを作り出す
Ab
AABb
AAbb
AaBb
Aabb
ことができる(表 3)。
aB
AaBB
AaBb
aaBB
aaBb
ab
AaBb
Aabb
aaBb
aabb
・ただし、F1どうしを掛け合わせると、どうして
AaBb×AaBbの交配パターン
も優性の遺伝子がない個体が出てきてしまうた
め(表 4)、F1は毎年新しい種の購入が必要にな 7/16 のパターンで優性遺伝できない
る。
⑥
指定種苗制度
「○○交配」は
F1品種である
ことを意味する
種類及び品種
数量
種苗業者名称・住所
生産地
採種年月
発芽率
農薬使用履歴
Ⅱ.土壌
①
植物の根が土壌に求めるもの
・十分な養水分と酸素があり、生育を阻害する要因がないこと。それを満たせる土の性質を表 5 にまとめた。
細い孔隙と太い孔隙の両立が求められている。それを解決するのが団粒等の「構造」(表 6)。
植物が
求めるもの
水分
養分
酸素
有害要因が
ないこと
表 5 植物が求める土壌の性質
満足させるために
どのような土壌が満足させられるか
土壌に出来ること
高い保水性
細い孔隙が多い (細かい粒子が多い)
高い肥沃度、高い保肥力
細かい粒子や有機物が多い
太い孔隙が多い
高い通気性
(大きい粒子や有機物が多いまたは構造が発達している)
適度なpH
有機物が多い、適度な養分
無病害虫、無有害物質
土側で解決できないことも
表 6 ある土壌の表層と下層の比較
表層の断面
ペッド(土の塊)間の隙間がぴったりとふさがらない
→団粒構造の発達
団粒構造はミミズ等の土壌動物のフンがいくつもくっ
ついて形成される。
下層の断面
ペッド間の隙間がほぼふさがる(割れたビスケット)
→亜角塊状構造の発達
亜角塊状構造は土壌中の粘土鉱物(2μm 未満の小さい
粒子)の、乾燥湿潤による収縮膨張の繰り返しでできる
「ひび割れ」
② 構造化に必要な条件
・団粒化を担う土壌動物が活動するのに必要な新鮮有機物が絶えず供給されていること。また、できた団粒を
維持するために必要な粘土鉱物や腐植(腐熟の進んだ有機物)、カビの菌糸、ミネラル分等も必要。雨に直接
当たると、雨滴で団粒が壊れるので、植物に被覆されていること。
・亜角塊状のようなひび割れの構造を発達させるために必要な粘土鉱物を十分含んでいること。
③ 耕地土壌の構造
・耕地では、非作付け期間に表土が降雨にさらされ、人や機械の踏圧を受け、肥料の混合や雑草の除去のため
に耕うんするので、自然土壌のように構造を発達させることができない。そのため、作付けごとに耕うんし
土壌を膨軟にする必要がある。
Ⅲ.肥料
① 無機質肥料の種類
・無機質肥料の多くは速効性。
・単肥は 1 成分、複合肥料は
2 成分以上を含む。複合肥
料が含む各成分の量は、作
物や作型等に合わせていろ
いろな種類がある。
・2 つ以上の成分を単に混合
したものを配合肥料、化学
的操作を加えたものを化成
肥料と呼び、化成肥料のう
ち 3 成分を 15~30%含むも
のを普通化成肥料、30%以
上含むものを高度化成肥料
と呼ぶ。
・緩効性肥料は、無機質肥料
の成分を物理的または化学
的に溶け出しにくくしたも
の。
肥
料
無機質肥料
有機質肥料
速効性肥料
堆厩肥
単肥
硫安、尿素等
植物質肥料
複合肥料
普通化成肥料
高度化成肥料
配合肥料
動物質肥料
緩効性(遅効性)肥料
被覆肥料、化学合成緩効性肥料
図 4 肥料の分類
②
主要な肥料成分(植物養分)の種類 (表 7)
・窒素は肥料から溶け出し、土壌中で硝酸態(NO3)、アンモニア態(NH4)等の形で植物に供給される。
N
窒素
P
リン酸
K
カリウム
表 7 3 要素の概要
・タンパク質、核酸、クロロフィル等の構成成分
・もっとも重要でたくさん必要な養分
・施用すると葉色が濃くなるため「葉肥(はごえ)」とも
・核酸、リン脂質、糖リン酸エステル等の構成成分
・日本では土壌が固定してしまい欠乏しやすいため重要な
養分
・欠乏すると生殖成長が遅れるため「実肥(みごえ)」とも
・イオンの状態で細胞の膨圧調節、膜透過・輸送等に関与
・3 番目に重要な養分。セシウムと似た原子で、カリウム
を施用することで、植物の放射性セシウム吸収量の減少
が明らかに
・干ばつ抵抗性に関係しているので「根肥(ねごえ)」とも
表 8 窒素の形態と特徴
NO3-
NH4+
硝酸態窒素
・酸化 (酸素が多い) 条
件下で多い →畑
・(-)に帯電しているの
で、地下に流亡しやす
い
・
アンモニア態窒素
・還元(酸素が少ない)条
件下で多い →水田
・(+)に帯電しているの
で、土壌に吸着されや
すい
③
土壌pHの重要性
・植物は栄養を水に溶けた形(水溶性)で吸収する。それぞれの養分は
pHによって水への溶けやすさが変わる。図 5 のように、pHが 5
を下回ると、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、P(リン)等
が、pHが 7 を超えると、Fe(鉄)、Mn(マンガン)等が水に溶け
なくなり(不溶性)、植物に欠乏症(栄養失調みたいなもの)が発生す
る。そのため、pH6~6.5あたりがいいといわれる。
図 5 植物養分の有効性と pH の関係(Bacman ら,1970)
出典:神奈川県ホームページより
Ⅳ.農薬
①
農薬の登録 (表 9)
・法律上農薬に該当するものは、登録なしに製造等(輸
入・販売含む)使用はできない。「特定防除資材」(天
敵、重曹、食酢)はこの限りではない。
・登録の有効期間は 3 年。更新をしないと「失効」し、
以後の製造等はできなくなる。
・販売禁止されたものは使用も禁止。
表 9 農薬登録と製造・使用等との関係
種類
無登録
うち特定防除資材
登録
うち失効
うち販売禁止
製造 輸入 販売 使用
×
×
×
×
○
○
○
○
○
○
○
○
×
×
× ○/×
×
×
×
×
② ポジティブリスト
・作物への残留基準は、作物と農薬の組み合わせで決められている。例えば農薬「アドマイヤー」の成分イミ
ダクロプリドは、コメに対しては 1ppm、トマトに対しては 2ppm、ホウレンソウに対しては 15ppm という基
準値が設定されている。作物によって基準値が異なるのは、それぞれの農産物の 1 日摂取量や、適正使用し
た時の残留実績等をもとに残留基準値を決めるため。
・ポジティブリスト制度採用以前にも作物毎に基準値(ネガティブリスト)は定められていたが、その作物に登
録のない農薬は基準値がないことが多く、基準値をもとに取締りをしていることから、登録のない農薬の残
留は実質的に取り締まることができなかった。
ある輸入トマトを分析したら…
分析農薬名
A
分析値(ppm)
0.2
登録作物
トマト等
残留基準値(ppm)
0.5
B
5
トマト等
10
C
4
コメ
無設定
その作物に登録がないものは、
『使
わないんだから出ないはず』という
考えで基準を設定していなかった。
でも輸入品の場合、輸入先の国で登
録されているかもしれないし、国内
でも、隣の圃場からのドリフトは防
ぎきれないという問題が出てきた。
D
2
日本では無登録
無設定
農薬C、Dは安全性に関わらず、取り締まる基準がないため
どれだけ残留しても実質おとがめなし
言い方を変えると
基準がなければ残留していい、基準があるものの残留は基準値まで
この時の基準値(リスト)の目的は
残留を「制限」するためにある
制限=ネガティブということで、
ネガティブリスト制度と呼んだ。
さらなる安全性の向上のために
基準がなければ残留不可、基準があるもののみ基準値まで残留可
に変更、この時の基準値(リスト)の目的は
残留を「許可」するためにある
許可=ポジティブということで、
ポジティブリスト制度と呼ぶ。
③
作物への残留基準
・ポジティブリスト制度(H15)になり、今まで設定のなかっ
た作物と農薬の組み合わせで基準値の設定が必要となっ
た。
1 つの基準値を作るにも、
栽培試験をする必要があり、
時間や費用がかかる。一方で、設定をしないと一切の残留
が許されないことになってしまう。そこで、ネガティブリ
ストになかった組み合わせについて、COODEX 等の基準を
参照にした「暫定基準」を追加し、それでも補完できない
ものには「一律基準」を適用した。
表 10 残留基準値
既存の基準
暫定基準
一律基準
不検出
含有してはな
らない
ネガティブリスト時代からあっ
た基準
CODEX 等の基準を参照
0.01ppm
遺伝毒性、発がん性がある等
抗生物質、合成抗菌剤、使用禁
止
山村 友宏 著