Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (前半) March 2015 2015年3月、香港では初の写真集のブックフェア・HK Photobook FairをT&M Projects松本とZenFotoGalleryマーク・ ピアソンが共同で開催しました。アジアから16の出版社や書店が香港に集いました。その中で、中国のJiazazhi Press は僕が絶対に呼びたいと思っていた出版社です。少部数ながらとてもクオリティの高い写真集を出しており、個 人的にとても注目をしていました。幸運にもJiazazhiの出展が決まり、Jiazazhiにとって初めての国外フェア出展が HK Photobook Fairだったことは嬉しいことでした。 HK Photobook Fair開催期間中、Jiazazhi Pressを主宰するYanyou Di Yuan氏にインタビューする機会をいただきまし た。Yanyouは、奥さんが写真集の発送などの手伝いをしつつも、基本的にはすべてを一人で手がけています。た だ出版するだけではなく、(すべての本ではないですが)編集やデザインなど多岐に渡る作業もひとりでやっている ので驚きです。彼はこれからの中国を背負っていくひとりだと思います。 T&M Projects 松本 ̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ T&M Projects 松 本 (以 下 、太 字 ): Jiazazhi Pressは こ れ ま で に で 10タ イ ト ル (2015年 3月 )の 写 真 集 を 刊 行 し て い ま す よ ね 。 ( 現 時 点 8月 で 12タ イ ト ル ) Jiazazhi Press・Yanyou Di Yuan : はい、そうですね。 (松本が手に取っている) 「10 days in Karakow_」が 最新刊です。 あなたが関わった写真家たちの多くは、北京を拠点に活動しているのですか。 いえ、北京だけじゃないではありません。中国のいろいろな町にいますし、また他の国と行き来した生 活をしている人もいます。 で は 、ど の よ う に 彼 ら と 関 係 性 を 築 い て い る の で す か 。会 い に 行 く 機 会 を 頻 繁 に 設 け た り し て い る の で し ょうか。 そんなに多くはありません。ただ、彼らの多くは北京に展覧会のためにくることが多く、その際に会い にいっています。例えば北京に2週間滞在して、その間に本のデザインについてなどいろんな話し合い をし、その後は密に連絡を取るというかたちがあったりしますね。 中 国 は 小 さ な 島 国 に 住 む 日 本 人 に と っ て と て も 大 き な 国 で す 。で も 、そ ん な 国 の 中 か ら ど の よ う に 作 家 を 探すのですか。 ただ、中国での作家たちの環境は日本より整っていないとも言えるし、作家の数もまだまだ少ないんじ ゃないでしょうか。中国での現代美術(写真)はようやく始まったばかりと思っています。本当の意味で の写真における現代美術家(写真家)は2000年以降から現れたと僕は思います。90年代からごく一部の美 術家たちは多くのお金を生み出し始めたけれど、彼らは本当の意味で現代美術家とも国際的な作家とも 言い難いんです。彼らは欧米受けしそうな「中国的」な要素を使った作品をつくるだけだったんです。 Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (前半) March 2015 だけれど、若い作家たちは欧米で美術や写真を学び、その後中国へ帰国して活動を始めました。彼ら若 い世代はアイデアに溢れています。そして多くのことを実践しています。そのような背景もあり、中国 の現代美術(写真)にとって2000年がひとつの変わり目の年だったのじゃないかと思っています。 僕は2005年に大学を卒業しました。そして、2006年にブログを始めました。2006年というのはインター ネットを通して様々なことを知ることができるようになった頃です。多くの人たちが文章や写真をアッ プし始めました。インターネットというのは欧米のことを知る上でとても重要な手段であるし、さらに はまた、掲示板やFlickerなどの普及により、中国の作品が欧米へと紹介されていくようにもなりました。 そういった時代のなかで、僕はインターネットを通して数多くの作品と出会いました。僕は特に欧米の 写真や美術、また日本のシーンにも注目をしていました。そして、僕はネット上で見つけてきた海外の 情報を自分のブログで紹介していったのです。多くの人たちが僕のブログを見てくれるようになり、そ して僕自身のことが徐々に知られていきました。そのような活動をしていきながら、僕は中国国内にも 目を向けて始めていくなかで中国の作家のことも見つけていくことになりました。作家たちの多くもブ ログを持っていたりするんですよ。中国にもFacebookのような大きなSNSがあって、若者たちが映画や 音楽といったカルチャー情報などもアップしています。こうしたSNSによて多くの人たちが繋がってい きました。そうした現代のインターネット時代の恩寵により、僕のブログ「Jiazazhi」には多くの人がア クセスをしてくれるようになりました。 Jiazazhi Pressの 「 Jiazazhi」 と は ど う い う 意 味 で す か 。 「Jia」は「偽」、 「zazhi」が「雑誌」という意味です。僕のキャリアは編集者から始まり、最終的には雑 誌をつくりたいという夢があります。僕は日本の雑誌をたくさん見てきました。日本の雑誌は本当にす ばらしく、驚きでいっぱいだったんです。それに対して、中国の雑誌は本当にヒドくて、、、ダメな雑誌 が山ほどあります。だからこそ、自分の手ですばらしい雑誌をつくりたいと思いました。ブログ「Jiazazhi」 が自分にとって”雑誌をつくろう”という目標がスターティングポイントであって、 「Jiazazhi」という「偽 雑誌」が将来本当の雑誌になるようにと願って名付けたんです。ただ、いまとなっては「Jiazazhi」は 「Jiazazhi Press」となり、いろいろなプロジェクトでその名前を使っています。中国国外の人たちから は「Jiazazhi」の意味はわからないと思うし、ただの名前になっていると思います。ただ、中国国内では 漢字表記にすると「あなたの雑誌はどういうのなの」みたいに聞かれてしまうんですよね。その度に 「Jiazazhi Press」は出版社であって雑誌ではない、という説明をしなきゃいけないんですよ。だから中 国国内でも漢字表記ではなくアルファベットで表記しているんです。でも、この春雑誌を出すんです (2015年秋刊行予定)。1年以上仕込みをしていました。 そ れ は す ご い 。「 偽 」 が 本 当 に な る ん で す ね 。 そ れ は 写 真 に 特 化 し た も の に な る ん で す か 。 そうですね、FoamやIMAのような「立派」なものではないですが、それらのようなクオリティーの高い ものをつくりたいと思っています。中国の若手写真家を特集する予定です。他にもAlec Sothにロングイ ンタビューをしてました。Alec Sothは、中国の若手たちに影響を与えてきていると思います。中国の写 真家は彼のスタイルが好きですし、ある意味彼は中国写真家にとっての夢とも言えるでしょう。ただ、 中にはまだ Alec Sothの写真について勘違いしている人は多いし、彼の写真を見てただ「きれいな風景 写真、素敵なポートレート」とか言うかもしれないけれど、その背景にはいろんなストーリーやコンセ Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (前半) March 2015 プトがあります。 だから今回は僕と仲のいいNY在住の若手写真家にインタビュアーになってもらいま した。 中 国 の 写 真 に つ い て 多 く の 人 が 興 味 を 持 っ て い る と 思 う ん で す よ ね 。た と え ば 、Apertureが 中 国 写 真 集 の 本 を 刊 行 し た り 、そ れ の 展 覧 会 も 開 催 し ま し た 。た だ 、隣 国 で あ る 日 本 人 に と っ て も 中 国 で 何 が 起 こ っ て い る の か 、と い う の は 見 え に く い 。実 際 現 代 の 中 国 写 真 に つ い て わ か る 雑 誌 も ほ と ん ど な い 。で は ど う や っ て 知 る か と い え ば 、 北 京 の 三 影 堂 や RongRong&Inriの ふ た り の 活 動 を 通 し て で し ょ う 。 Apertureが 刊 行 し た も の も 世 界 的 写 真 家 ・ コ レ ク タ ー の Martin Parrが 携 わ っ て い ま す が 、 中 国 人 の 編 集 者 を 迎 え て の も の で す し 、中 国 国 内 に つ い て は 中 国 国 外 か ら の ア プ ロ ー チ だ け で わ か る も の で は な い と い う こ と だ と 思 ん です。そういう意味においても、あなたが雑誌をつくるというのはとてもよいアプローチだと思います。 楽しみです。 今回の雑誌はちょっと普通のものとは違う視点があると思います。先ほど話したように、⚪︎⚪︎のような 若手写真家たちが記事を寄せているんです。それはなぜかというと、写真家自身が自分たちの立場を表 明していく必要があると思うんです。杉本博司や森山大道、アラーキーといった作家は話し、書き、展 示をしたりと様々な手段で発表をしていますよね。中国の写真家たちはただ展示や写真集を通してでし か発表をしていないんです。カメラのシャッターを押しているだけで、思考を巡らせていない。そうい う状況をすこしでも変えられたらと思っています。だから書くことをお願いしました。Taca Suiという 作家はわかりますか。彼の写真集「Odes」(Jiazazhiがディストリビューションを手がけている)は中国の 伝統や文化を取り入れた作品です。杉本にも似ている部分があるようにも思います。彼はNYと北京を 行き来した生活をしながら、自分の文化、それは1000年以上前のモノからインスピレーションを得たり と、自分たちの軌跡をたどる作業をしています。スタジオに行くたびに骨董品などを見せてもらいます。 この作家のように、面白い作家が徐々に出てきました。 では、写真集というものに興味を持ったのはいつ頃ですか。 たぶん2008年くらいですね。 2006年 に ブ ロ グ を 始 め た と 言 っ て い ま し た よ ね 。と い う こ と は 、イ メ ー ジ と し て の 写 真 に ま ず は 興 味 を 持 ち、そのあと本というかたちに興味を持ったということですか。 まずは、そもそも日本の雑誌を集めていたんです。日本語は読めないから、その中で使われている写真 やアート、デザインを見ていたんです。 どのような雑誌ですか。 「ku-nel」や「装苑」とかですね。写真雑誌というわけではありません。写真ということだと、 「De-javu」 を手に取ったこともありますし、グラフィックデザイン関連だと「アイデア」や「+81」など色んな雑 誌があります。 おお、それはすごいですね。こんなにも多くの雑誌をどうやって見つけるんですか。 Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (前半) March 2015 インターネットですよ。「楽天」からフィードを集めるんです。情報は日々アップされますし、グーグ ル翻訳を使うこともできます。簡単に日本の雑誌を見ることができますよ。そういうことで、日本の写 真集にというよりは、まずは雑誌から自分の写真に対する興味は始まりました。 インターネットから始まるというのはやはり新しい世代ですよね。 そうそう、インターネットの時代ですよ。買わずして、インターネット上でみるんです。Weibo(「微博」 中国版twitterみたいなもの)でアップされたものを目にして、それをさっと保存したり。自分のコレク ションに雑誌が溜まっていくのは面白いですよ。それでまた僕も日本や欧米の雑誌の表紙をアップした りするんですよね。 特 に 上 の 世 代 の 人 た ち で 、日 本 の 雑 誌 編 集 者 や デ ザ イ ナ ー で も 欧 米 の 雑 誌 か ら 影 響 を 受 け た 人 た ち は 多 く い ま す 。多 く の こ と を そ う い っ た 雑 誌 か ら 学 ん だ ん で す よ ね 。中 国 で は 海 外 の 雑 誌 を 買 え る 書 店 は あ る ん ですか。 あるといえばありますが、それはリアル書店ではなく、それは日本に住む中国人があなたのために代理 で買ってくれるサイトです。もう便利なインターネット時代ですよね。日本の漫画やフィギアといった ものから雑貨まで人気なものはたくさんありますよ。また、このサイト以外にもいろいろあります。送 料はかかるけれど、日本から何でも買えますよ。パソコンのMacも中国で買うより、これを通して日本 から買ったほうが安いですし。これは中国政府のコントロールの範疇を超えたものですから問題もあり ません。 僕 も 中 国 の こ と を も っ と 知 り た い と 思 う ん で す が 、ど う に も 手 が か り が あ ま り あ り ま せ ん 。見 せ て も ら っ た よ う な ウ ェ ブ サ イ ト が あ る わ け で な い で す し 。だ か ら こ そ 、あ な た が 雑 誌 を つ く る と い う こ と は 嬉 し い ですよね。 日本人が中国のことを知っている以上に、中国人は日本のことをよく知っていると言えるかもしれませ ん。 「知日」という中国の雑誌知っています。内容はすべて日本についてなんですよ。 「知日」は30万部 も発行されています。 そ の 雑 誌 は 知 っ て い ま す が 、 な ん と 、 30万 部 と は 知 ら な か っ た で す 。 す ご い 多 い で す ね ! 日本は、中国人にとって複雑な国です。僕の友達でも日本は嫌いという人もたくさんいますが、そんな 人でも日本文化が好きな場合があります。 日 本 人 に と っ て も 同 じ か も し れ ま せ ん 。中 国 の あ る 面 は 嫌 い で も あ る 面 は 好 き と い う こ と は あ る と 思 い ま す 。そ う い っ た こ と は ど ん な こ と に も き っ と 言 え る こ と か と 。だ か ら こ そ 、い い も の を 自 分 た ち か ら 紹 介 す る こ と は 重 要 だ と 思 い ま す 。香 港 で ブ ッ ク フ ェ ア を 開 く の も 、い い も の を そ れ を 知 ら な い 人 た ち に 紹 介 したい、という思いがあります。 この地域でこうした交流の場を設けるのはいいスタートだと思います。またこうして顔を合わせる機会 があるのは重要です。アジアは似ている文化もありますし、まとまることができればいいですよね。日 Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (前半) March 2015 本の写真家が中国で受け入れられているのは、文化的側面から考えても、何を表現しているのが理解し やすいからだと思います。 イ ン タ ー ネ ッ ト で 調 べ る こ と は い く ら で も で き ま す が 、写 真 集 は「 も の 」で す し 、手 に 取 っ て み な い と 本 当 の 意 味 で わ か ら な い 。ブ ッ ク フ ェ ア は 体 験 の 場 な ん で す よ ね 。欧 米 で も い ろ ん な ブ ッ ク フ ェ ア が 催 さ れ て い る け れ ど 、ア ジ ア に は ま だ 全 然 な い で す し 、ア ジ ア で フ ェ ア を や れ ば ア ジ ア 人 で あ る 僕 た ち に と っ て コストもかからないですからね。体験を通して、よりお互いの理解が深まればいいなと思います。 (後半へ続く) ————————————————————————————————————————————— Jiazazhi Press (假杂志) 写真集に特化した中国の出版社。いままでみたことないような作品の可能性を探る。 以前は北京をベースにしていたが、現在は寧波が拠点。 出版のほか、ブログ、ディストリビューションも手がける。雑誌も出版予定。 www.jiazazhi.com Yanyou Di Yuan (言由) The Outlook Magazine の編集者を経て、2012 年に Jiazazhi を立ち上げる。 Jiazazhi では中国の若手写真家・アーティストの本の出版を手がけている。 T&M Projects 代表・松本知己... 出版社「赤々舎」を経て、2014 年「T&M Projects」を東京にて設立。赤々舎などの日 本の写真集の海外流通を手掛けるほか、様々な媒体で書籍のセレクトやベストブックの選出、執筆活動、 イベントプロデュース、展覧会のコーディネートなど多方面で活動。また、NY やパリのブックフェア への出展や、2015 年 3 月香港でのブックフェア「HK Photobook Fair」を Mark Pearson 氏と共同主催(次 回、2016 年 3 月開催予定)。2015 年 10 月に田附勝写真集『魚人』を出版予定。 www.tandmprojects.com © T&M Projects 記載内容を許可なく転載することを禁じます。
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