Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (後半) March 2015 (前半より続き) T&M Projects松 本 (以 下 、太 字 ): 写 真 や 写 真 集 を 買 う と い う こ と に つ い て 、中 国 で は ど う い う 状 況 で す か 。 Jiazazhi Press・Yanyou Di Yuan: とても厳しいですね。それは日本でも同じじゃないですか。多くの日本 の写真家が中国ではとても有名です。でも彼らは写真を売るだけで生計を立てることができるかと言え ば、そうでもない。ほんの一握りの作家しかそういうことをできていないんです。中国もその点はまっ たく一緒です。また、中国国内に目を向けると、中国人は中国人作家の写真集はあまり買わないと思い ます。日本の写真の方が好きなんです。 中 国 の 市 場 は あ る 意 味 と て も 巨 大 な も の じ ゃ な い か と 僕 は 思 っ て い ま す 。よ く 知 ら な い の で な ん と も 言 え な い で す が 、写 真 集 も 様 々 な と こ ろ で 販 売 で き た り し な い ん で し ょ う か 。た く さ ん の 人 が い て 、本 屋 も あ ったり、コレクターが存在しているのではと中国については想像しています。 日 本 で は 写 真 集 は ま だ 売 れ る と 思 い ま す 。た だ 、制 作 コ ス ト は か な り 高 い の で 、そ こ は 皆 に と っ て 悩 み ど ころかと思います。 中国で刷ればいいじゃないですか。安いと思いますよ。 ク オ リ テ ィ の 面 で よ く な っ て き て い る と は 思 い ま す が 、ま だ 心 配 で す よ ね 。ま た 、日 本 側 の こ と を 考 え る と 、英 語 や 中 国 語 を 話 せ る 人 材 が そ も そ も い な い と い う か 、少 な い と い う か 。そ れ ゆ え 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 取 れ な い ゆ え に 頼 む こ と も で き な い と い う 現 実 も あ り ま す 。中 国 、シ ン ガ ポ ー ル 、台 湾 と い っ た 国 で印刷された出版社もすこしはいますが。 それは問題ですよね。笑 ( 「 10 days in Karakow」 の )こ の 装 丁 で の 出 版 っ て 、 コ ス ト が す ご く 高 い ん じ ゃ な い で す か 。 そうですね、、、でも中国だとそんなに高くないですよ。 では、部数はどうやって決めているんですか。 個人的に500部という数字がしっくりきてます。笑 そもそも、そんなにたくさんの部数を刷りたい と思いません。というのも、一番最初に作った本が500部で、売り切るのに1年かからない程度でし た。500部刷るとたいてい200~300部は最初の3ヶ月くらいで動きます。200部残ったとしても、それはそ の後ゆっくりながらも売れていくし、大した量じゃないしです。逆に200部だけみたいな少部数すぎる と経済的にバックが全くありません。もちろん、経済的にまだまだなので、キュレーションなどの仕事 も手がけています。 出版にお金の話はつきものですよね。 ディストリビューションというのは生き残っていくゆえで有効な策だと思いますよ。僕も手がけていま す。中国の人たちが日本やヨーロッパなどからの本を求めているんです。ただ幅広く大掛かりにという ことではなく、少ない数を仕入れるだけですけどね。そうすればコストも少なくすみます。 また、売 る際にはインターネットなどのネットワークは自分の出版活動においても重要です。たとえば、自分の Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (後半) March 2015 本が出版された時に、Weibo(「微博」中国版twitterみたいなもの)に情報をアップすると1週間で100部く らいは動くんです。それと同じように仕入れた本についてもアップすれば動きます。僕のアカウントに は3万以上のフォロワーがいるんです。あとはWeChatというアプリも活用しています。WeChatはより内 輪なものですが。 志賀理江子さんの「螺旋海岸 album」を以前仕入れた時は1日で売り切れましたよ。 その時は、志賀さんという写真家本人について特に詳しい紹介を書かず、ただ「この写真が好きだなと 思ったら、買うべきだよ」と書いただけなんです。それで1日で売り切りました。これはある意味中国 の市場の可能性とも言えるし、特に日本の写真に対する反応とも言えるでしょう。いいことです。 日 本 の 出 版 や 写 真 関 係 の 人 た ち は Twitterと Facebookが 使 わ れ て い ま す ね 。 中国で日本の写真に興味をもっている人たちは多いと思います。ただ、現代美術における写真において はまだまだ知られていないです。もしあなたが日本からWeiboで投稿すれば興味持つ人いるんじゃない かなぁ。もし始めたら宣伝するしますよ(笑) 僕 は Jiazazhiが 出 し て い る 写 真 集 好 き な ん で す 。 た だ 実 際 日 本 の 書 店 で 仕 入 れ を し て い る と こ ろ は ほ ん の 数 店 舗 だ け で す が 、 Jiazazhi Pressの 本 に つ い て 興 味 を も つ 日 本 の 書 店 は も っ と あ る と 僕 は 思 い ま す 。 そ う い え ば 、 「 Yellow River」 ( 売 切 ) は フ ラ ン ス ・ ア ル ル で も 賞 を 取 り ま し た が 、 な に か リ ア ク シ ョ ン はありましたか。 そうですね、彼の本はとても人気でその後すぐに売り切れました。500部しか刷らなかったというこ ともありますが、ただ増刷もしませんでした。そういう賞もあって欧米や日本の書店が買い付けてくれ ましたが、他の書籍を注文することはその後ほとんどありませんでした。(「10 days in Krakow」を見な がら)この本のように内容が「Yellow River」とは全然違ったからでしょうね。でも、その本のおかげで、 いつもとは違う読者の獲得につながったと思います。それはとてもいいことです。 「 Yellow River」の Zhang Kechunの よ う に 、あ な た に 関 わ る 作 家 の 多 く が 北 京 の 三 影 堂 や ギ ャ ラ リ ー で 展 示 をしていますね。北京は中国写真の中心地と言えますか。 もちろん、そうです。また上海も重要な街ですね。ただ上海はより現代的で国際的なように思います。 写真集を出す出版社もたくさんあるんですか。 あると言えばありますが、それは大きな出版社です。個人でやっていたりする小出版社はほんの僅かで す。また、僕のように出版を手がけているところも幾つかありますが、真剣にというよりは、他のビジ ネスをやりつつ、遊び感覚でやっているようなところばかりです。僕の友達のなかにも、デザイン業を やりつつ、おしゃれな少部数の雑誌を作っている人がいます。たった100部や200部程度の雑誌で、Ren Hangのような人気写真家を起用したりするんです。 Ren Hangは 最 近 と て も 人 気 で す ね 。 日 本 で も 話 題 に な っ て い て 、 近 々 展 示 も す る 予 定 だ そ う で す。 おお、日本でもですか。ヨーロッパでは特に人気ですよね。 Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (後半) March 2015 ア メ リ カ で も そ う で す ね 。雑 誌 Apertureの 表 紙 に 彼 の 写 真 が 使 わ れ て い ま し た 。Ren Hangの ケ ー ス も そ う で す が 、写 真・写 真 集 の セ ー ル ス の 中 心 は 欧 米 だ と 思 い ま す 。そ の 点 、中 国 な ど の ア ジ ア 圏 は 市 場 と し て 未 知 数 じ ゃ な い で す か 。香 港 に は も っ と 写 真 集 を 売 る 書 店 が 多 い か と 思 っ た の で す が 、そ う で も な か っ た ですし。 中国にもそんなに書店はないですよ。書店に日本の写真集が並んでいるケースがあったとしても森山か 荒木です。要はビッグネームだけで、若手は売ってないないんです。また、中国で本を売る時に懸念す ることもあります。それは流通を中国政府がコントロールしているということです。正確に言えば、国 営企業が流通を牛耳っています。そのために、ややこしいこともあるんです。だから、なにか動きを起 こす時はあまり派手にならないようにすることもあります。 流通についても政府がややこしいんですね。知らなかったです。 そうなんですよ。厳しいですよ。政治的な検閲ということもあるけれど、要はお金です。国営企業が流 通させている本を買わせるようにできる限りする、そういうことです。 検 閲 と い う 点 で 、ヌ ー ド は ど う な ん で し ょ う 。た と え ば 、さ っ き 話 を し た Ren Hangみ た い な 写 真 。彼 の 写 真はヌードが多いですよね。 中国ではヌードは禁止されていると言えます。が、「芸術家」はある意味許されているとも言えます。 ただ、それは本当に政府の判断でしかなく、ある時はOKだし、また違う日になるとダメだったり、ボ ーダーラインがあるようでないんです。 難しいところですね。 政治的な面では、僕はアメリカのAmazonから本を買うこともあるんですが、その中に中国共産党にと って都合の悪い言葉があっても、政府や税関でそれを理解していないから問題になることはありません。 HK Photobook Fairに も 出 展 し て く だ さ っ て い る 台 湾 の 雑 誌 「 Voices of Photography(以 下 、 VOP)」 は 以 前 プ ロ テ ス ト (反 政 府 運 動 な ど )を 特 集 し た 際 、政 府 に 回 収 さ れ ま し た よ ね 。VOPの よ う な 写 真 業 界 の 小 さ な 出 版社のものでもそういうことがあるんですよね。 政府が芸術や文化について理解しているとは思いません。ただ、彼らは何も考えていなくて、ただなに かが起こることを恐れているだけで取り締まったりすることがあります。変化を恐れているんですよね。 で は 、た と え ば 反 政 府 的 な な い よ う な も の を 扱 っ た 作 品 が あ っ た と し て 、い い も の が あ っ た ら 出 版 し ま す か。 それは出版しますよ。アート雑誌で「禁止」されているかのような内容を扱ったものがあります。合法 なものなんですよ。実際、非合法なイメージなんてないはずなんです。ただ、政府のその時の都合があ るだけなんです。合法どうこうではなく、役人の都合なんです。 中国でのビジネスも政府とのやりとりに問題を抱えるということはよく聞きますよね。 強欲なんですよ、政府が。交渉どうこうでなく、NoはNoで、OKはOKなんです。 Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (後半) March 2015 出版する際に気にかけていることとかしていることはありますか。 僕も出版する時は政治的なことに気にかけてはいます。続けていくためにはね。最近は問題が起こらな いようにするために、政府側の人と良好な関係を築こうとしています。彼らだって、政府の人であって もただの人ですからね。何かする時もどうするのがいいかということを事前に聞いておいたりすれば問 題も起こりませんよね。また、最近は地元の新聞がスタジオに取材に行政の人たちと一緒に来たりしま した。そして、実際に彼らの知らない写真集を手にとって、とても驚いていたし、いい機会でした。彼 らは知らないだけなんです。より興味を持つ人が出てくると思いますし、協力できることがあればして いきたいとも思っています。そうすることで写真集を買う人も増えるだろうし、なにより僕が写真集と いうかたちが好きなんです。それが広まっていくようにしていきたいんです。たとえば、行政と協力し てフェアとかフォーラムといったものを開催するということも考えられますよね。 写 真 集 は 展 覧 会 よ り も 敷 居 が 低 い で す よ ね 。買 う に し て も 展 覧 会 で プ リ ン ト を 買 う お 金 で た く さ ん の 写 真 集 を 変 え た り す る わ け で す 。中 国 で 日 本 の 本 を 買 う 、日 本 で 中 国 の 本 を 買 う よ う に 、国 を ま た ぐ こ と も 簡 単 で す 。 昨 年 NYに 行 き 、 僕 は メ ト ロ ポ リ タ ン 美 術 館 の 図 書 館 に 写 真 集 を 納 品 し ま し た 。 そ の 時 は 莫 毅 の 私 家 版 写 真 集 を た く さ ん 見 せ て も ら い ま し た 。彼 ら も 中 国 の 写 真 集 を コ レ ク シ ョ ン し 始 め た そ う で す 。こ こ近年徐々に欧米の人たちが中国の写真集をコレクションし始めたように思います。 そうそう、もちろんお金のあるところや人だけでなくて、写真集は一般の人たちも気軽に買えます。た だ、先ほども言った通り政府が流通をコントロールするもあって、中国国内ではブックフェアの開催は 容易ではないんです。その点では中国は展覧会の方が道は開けています。 以前、北京の三影堂でブックフェアが開催されていたように思うのですが。 それは僕が2012年の春にやった写真集の展示ですね。正確に言えば、三影堂のすぐそばで写真祭の時期 にやりました。これは中国で初めての写真集展覧会になりました。 その時は写真集の販売はなかったんですか。 僕はただ自分のところの本を売っただけでしたね。他の本は見せただけです。流通の問題のほかに、や はりまだ写真集が高いんです。若い写真家たちが写真集を作り始めたけれど、学生ばかりでお金はたい してありません。それでもなお写真集の市場は大きいとも言えます。だからこそ、辛抱強く続ける必要 があります。 ————————————————————————————————————————————— Interview Yanyou Di Yuan @ Jiazazhi Press (後半) March 2015 Jiazazhi Press (假杂志) 写真集に特化した中国の出版社。いままでみたことないような作品の可能性を探る。 以前は北京をベースにしていたが、現在は寧波が拠点。 出版のほか、ブログ、ディストリビューションも手がける。雑誌も出版予定。 www.jiazazhi.com Yanyou Di Yuan (言由) The Outlook Magazine の編集者を経て、2012 年に Jiazazhi を立ち上げる。 Jiazazhi では中国の若手写真家・アーティストの本の出版を手がけている。 T&M Projects 代表・松本知己... 出版社「赤々舎」を経て、2014 年「T&M Projects」を東京にて設立。赤々舎などの日 本の写真集の海外流通を手掛けるほか、様々な媒体で書籍のセレクトやベストブックの選出、執筆活動、 イベントプロデュース、展覧会のコーディネートなど多方面で活動。また、NY やパリのブックフェア への出展や、2015 年 3 月香港でのブックフェア「HK Photobook Fair」を Mark Pearson 氏と共同主催(次 回、2016 年 3 月開催予定)。2015 年 10 月に田附勝写真集『魚人』を出版予定。 www.tandmprojects.com © T&M Projects 記載内容を許可なく転載することを禁じます。
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