道民カレッジ「ほっかいどう学」大学インターネット講座 「北海道の子ども

道民カレッジ「ほっかいどう学」大学インターネット講座
「北海道の子どもたちの“こころの揺らぎ”と成長~大人の役割をもう一度考える~」
講師:北翔大学 教育文化学部 心理カウンセリング学科
飯田昭人 准教授
◆「“こころ”の揺らぎ」とは
・人間関係の不調や、つらい出来事によって精神的に落ち込んだり、動揺してしまったりすること。
◇ 講座の内容 ◇
・
「“こころ”の揺らぎ」を抱えながら、社会を生きている子どもたちのために、私たち大人が何を
していくべきかを考える。
◆子どもたちが抱える「“こころ”の揺らぎ」その要因とは
・
「“こころ”の揺らぎ」の要因については、
「いじめ・
不登校」、
「非行」
、「抑うつ傾向」等が考えられる。
・これらの要因は、社会問題としてクローズアップさ
れることもある。
・一見、一部の子どもたちの話と捉えられがちだが、
「今日は学校に行きたくない」と思ったり、気づくと
1人ぼっちだったりと、どの子どもたちにも考えら
れることである。
・大人が考えている以上に子どもたちにとっては身近
な問題でもある。
◆ 「“こころ”の揺らぎ」要因~「いじめ・不登校」~
・文部科学省は「いじめ」の定義について
① 自分より弱い者に対して一方的に
② 身体的・心理的な攻撃を持続的に加え
③ 相手が深刻な苦痛を感じているもの
1
◆いじめの四層構造
・中心にはいじめられている「被害者」が存在する。
・その周りに「被害者」に対して、いじめを行って
いる「加害者」がいる。
・さらに、
「加害者」の周りには、いじめをはやし立
てる「観衆」と呼ばれる立場の者がいる。
・
「観衆」の周りには、直接いじめの危害を加えない
「傍観者」と呼ばれる立場の者がいる。
・彼らは自分に被害が及ばないように積極的に、も
しくは被害者に申し訳ないと思いながらも無関
心を装う傾向がある。
・
「傍観者」のなかには「仲裁者」と呼ばれる、いじめをやめさせようとする子どもたちも存在する
と言われている。
・大人は、この四層構造を理解し、いじめによる「いざこざ」や「トラブル」を大きくしないため
に「自分の問題」に置き換えて考えていく必要がある。
・私たちが、もし子どもだったら、四層構造のどの位置にいるのかをイメージしてみることも解決
への一歩になるのではないか。
◆いじめの認知件数
・文部科学省が 2012 年に都道府県別に調査を実施。
・認知件数とは、いじめの事実があることを学校が把
握している値でアンケートの結果を 1,000 人当たり
の認知件数として算出している。
・上位 3 県と比較しても、北海道の認知件数は 9 件と
少なく、平均よりもわずかに多いものの決して高い
値ではない。
・文部科学省によると、調査後の対応として北海道の
いじめの認知件数は、およそ 95%が解消していると
報告されている。
・学校や家庭の取り組みなどで、一定の成果が出ていると思う。
・人間関係の難しさは誰もが直面することである。
・いじめの被害者が一方的に継続したダメージを受けないための方策を考えなくてはならない。
・多くの研究データからも、いじめ被害の当事者は心配をかけたくないとの理由から、親や家族に
その事実を伝えることが少ないと言われている。
・日頃から、子どもの生活を注意して見ることやわずかな変化についても話し合えるような家族関
係の形成が大切になってくる。
◆「不登校」の状態にある全国の児童生徒の割合
・「不登校」とは、病気などの理由を除き、欠席日数が 30 日以上の場合を指している。
・端的に言うと、中学生にいたっては全国の中学校で「1クラスに1人は不登校の生徒がいる」と
いう状況である。
2
◆「不登校」の定義
・
「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会
的要因・背景により、児童生徒が登校しない、あ
るいは、したくても登校できない状況にあること」
としている。
不登校の子どもたちと、我々大人がどう向き合うべきか。悩みを抱えた胸の内を知るために、過去
に不登校の経験がある大学生に話を聞きました。
(取材 VTR)
◆北海道の不登校
・2012 年の文部科学省の調べによると不登校児童生
徒の数は北海道内では 1,000 人当たり、小学生 2.5
人、中学生 21.9 人、高校生 6.8 人となっている。
・いずれも全国平均を下回っているが、不登校の問題
は取り組むべき課題であることに変わりはない。
・以上のデータから北海道の現状として、さまざまな
効果の取り組みによって不登校児童生徒が減少傾
向にあることが挙げられる。
・一方で、不登校にある状態が北海道では、幾分、許容されていない環境にあるのかもしれない。
・特に高校生では、全国平均の 3 分の 1 ほどの値とあって、退学などの措置によって不登校の状態
では、学校生活を営めない可能性も見えてくる。
◆不登校の子どもへの接し方は?
・すべての子どもたちと言うわけではありませんが、私は、不登校の状態にある子どもたちの多く
は蝶が羽ばたく前の「さなぎの状態」にあると考えている。
・一見、外からは何もしていないように見えますが、さなぎの中では、蝶へと変わるために、いろ
いろな準備をしている。
・実際に不登校の子どもたちは、自宅でマンガを読んだり、ゲームをしたりして過ごすことが少な
くない。
・ただ、本人の中では、
「自分がこのままで良いのか、どう生活すればいいのか」といろいろな思い
が駆け巡っている。
・私たち大人は、時に見守り、時にねぎらい、将来をどう考えているか話し合うといった子ども1
人ひとりに合わせたオーダーメード的な関わり方を考えていく必要がある。
◆ 「“こころ”の揺らぎ」要因~「非行」~
・少年法では、犯罪に手を染める少年や法令に触れる行為をする少年、そして、将来的に罪を犯す
可能性のある少年などを「非行少年」と呼んでいる。
3
◆ 主要都道府県別の非行少年総数
・北海道は 2,430 人と、上位 10 位に入っている。
・北海道の非行少年の数は、大変多い印象を受けます
が、刑法犯での検挙や補導された非行少年の数では、
50 年前に比べ、8 分の 1 ほどまで減っている。
・非行が減るという意味では良い傾向である。社会が
大きく揺れ動くような出来事がないという意味で
は、現在は「安定した社会」とも言える。
・見方を変えると現代の子どもたちは、非行もできな
いくらいエネルギーが足りなかったり、行動力が乏
しかったりしているのではないか。
・子どもたちのコミュニケーションの仕方は今、変化の時を迎えている。
・インターネットの爆発的な普及により、子どもたちはLINEやツイッターなど、SNSと呼ば
れる携帯端末を使った交流サイトを駆使して、広く緩く社会とつながれるようになった。
・その一方で、一部の子どもたちは、気の許せる数人とだけしか関わらないという傾向も見られる。
・私は相当数の子どもたちが、その場の空気を読み、気を遣いすぎる結果、表面的な人間関係の築
き方に終始してしまっているのではないかと危惧している。
◆ 「“こころ”の揺らぎ」要因~「抑うつ傾向」~
・「抑うつ」というのは、
「うつ病」ということではない。
・「うつ」の気分が続いている状態のことを「抑うつ」という。
◆「児童生徒の心・健康に関する調査」
・2012 年に北海道学校保健審議会と北海道大学大
学院保健科学研究院が合同で調査。
・この中で、小学 3 年生と 5 年生のおよそ 4%、中
学 2 年生のおよそ 12%、
高校 2 年生のおよそ 20%
が中程度以上の「抑うつ傾向」であると答えてい
る。
・調査では、「自分に対して自信がない」、
「他者か
らの評価に対して敏感である」が、学年を進むに
従って多くなっている状況が見られるとも指摘
されている。
・子ども自身が自分という「大切な存在」の価値を見いだせない状況に置かれていることを表して
いる。
・日頃から、家庭や学校で「あなたはかけがえのない存在」だと子どもたちに伝えてあげることが
大切である。
・高校生の 2 割が「抑うつ傾向」にあるという現状はとても深刻である。
・「抑うつ傾向」が続き、心や体への影響が出ると「うつ病」にもつながる恐れがある。
・
「うつ病」と自殺の関連は高いことから、私たち大人も自殺予防の観点からもこの問題に取り組む
必要がある。
・子どもも大人も「うつの気分」が続くことがダメということではなく、時に生きていると、うつ
の気分が続くことがある。
・そういうときは、周囲の人間による「あなたには価値がある」
「今のあなたもかけがえのない存在
4
である」と本音で伝えることも大切である。
◆子どもたちと向き合う大人の役割とは?
・1つめの「自分の話をしっかり聞いてくれない」に
ついては、ただ聞くのではなく、しっかり聞くとい
うことが重要である。
・この経験を通して、
「しっかり聞いてもらえた、自分
の悩みやしんどさをわかってもらえた」と思えるよ
うになると私は考えます。
・次に2つめについては、時に、大人は子どもに対し
て奮起を促す言葉を投げかけることもある。しかし、
人によっては、
「やはり自分はダメなんだ」と考えて
しまうこともある。
・私たち大人は「自分の価値観」で何かを伝えたくなるが、大切なのは「子ども自身はどう考えて
いるのか」であり、求められるのは「子どもを理解しようとする姿勢」なのではないか。
・最後に、3つめについては、子どもがどうなれば安心できるのかといった要望を確認するという
ことに意識を向けてみることである。
・子ども自身が「自分の中で何とかできた」というように悩みや問題に対し、子どもが自ら歩める
ように応援していくのが大切である。
・これまで解説してきた「いじめ・不登校」、
「非行」、
「抑うつ傾向」などの子どもたちが、何に困
っているか、どうなれば安心できるか、私たち大人は、そのようなことに敏感であるべきだと思
う。
◆親や教師からの相談内容
・どこに相談したらよいかわからないという質問を耳にすることが少なくない。
・さまざまなケースがあるが、まずは子どもが通う学校に相談することをお勧めする。
・その他の公的機関で言えば、各自治体にある最寄りの児童相談所などがあげられる。
・場合によっては、医療機関を勧められるケースもあるかもしれない。
・医療機関などは、診察を受けるために、1 年以上予約待ちを余儀なくされるケースもある。
北翔大学にカウンセリングができる施設があります。そこでの取り組みを1つの例として紹介しま
す。【事例】北翔大学臨床心理センター(取材 VTR)
・佐藤教授は、子どもたちの心の問題については、できるだけ早く見つけて対応してあげることが
必要と話していた。
・相談機関の一つとして、参考にしていただければと思う。
◆まとめ
・子どもたちが抱える「
“こころ”の揺らぎ」について、大人がどうあるべきかを考えた。
・子どもたちは体の成長に伴い、心にもさまざまな変化が生じていく。
・
「“こころ”の揺らぎ」の要因として、
「いじめ・不登校」、
「非行」、
「抑うつ傾向」にある子どもた
ちは、時に悩み、押しつぶされそうに苦しんでいる。
・しかし、
「“こころ”の揺らぎ」のマイナス面だけを捉えるのではなく、周りの大人のあり方によ
っては、子どもたちが成長するために必要な糧にもなるのである。
5
・子どもの「“こころの揺らぎ”
」の経験は、成長へのステップになりうるので、大人はあまり一喜
一憂せず、時に見守りながら、子どもの主体性を尊重していくことが求められる。
・子どもたちが自分の悩みや問題に対処できるよう目指していくためにささやかなお手伝いをする
ことが我々、大人の役割として大切だと私は考える。
6