大分工業高等専門学校紀要 第 52 号 (平成 27 年 11 月) 5軸マシニングセンタの加工性能を評価するための加工試験 山本 通1・才川 大地2・藤原 敏博3 1機械工学科,2株式会社カンセツ,3オークマ株式会社 本研究では,簡単にかつ不具合原因特定を行いやすくすることを目的に5軸MCの新しい加工試験を提 案し,2種類の5軸MCを使った実験では,回転軸を反転させた位置で不具合が出やすいことを確認した. その他,加工結果から,回転軸と直進軸の同期が始まる位置での振動のような段差,NCの近回りの影響 によると思われる大きな加工誤差等,加工機の性能に関わる多くの情報を得ることができた.また提案 した数学モデルを使えば,機械の誤差が加工面にどの程度の影響を与えるかを確認するための指針とで きることも確認した.この試験を行い,その機械の特性を理解したうえで機械を使えば,加工不具合を 減らすことも可能で,本研究で提案した加工試験は有効であることが明らかになった. キーワード : 5軸マシニングセンタ,加工試験,回転軸,バックラッシ 1.緒言 2.加工機と加工試験 工作機械では送り軸や回転軸の方向が変わる位置(以下, 反転位置という)で起こるバックラッシが加工面に悪影響 (1) 加工機 5軸MCの構造形態としては,主軸旋回形,テーブル旋回 を及ぼすことがある.磨きレス金型のような加工品位が求 形と混合形の3種類の形態があることが知られている.こ められる場合,加工機のバックラッシ量を知らなければ, その機械で磨きレスの加工品位を実現できるのか分から のうち,最も多くの台数が出荷されているテーブル旋回形 5軸MCについて本研究では、取り扱う.実験で使用した機 ない.直進軸のバックラッシについては多くの研究が行わ 械構成は,図1(a)と(b)に示すタイプの5軸MCである. れている1,2)が,それに比べて回転軸のバックラッシに関 する研究例は少ない.特に近年リードタイムを短縮する手 (2) 加工試験 段として注目されている5軸マシニングセンタ(以下,5軸 MCという)が有する回転軸のバックラッシによる影響が 加工機の回転軸性能を簡単に評価できるようにするた めに,以下のような加工試験を考案した. 加工面にどの程度影響を及ぼすのかを知らずに工作機械 被削材として直方体もしくは立方体のブロック材を準 を購入し,製品を加工すると,意図せぬ不具合が発生し, 備しバイスなどでクランプする.これにボールエンドミル それを解決するために工数がかかり、リードタイム短縮が で指定した工具姿勢で平面加工を行い,その加工面を評価 実現できない. 5軸MCの性能評価方法としては,ダブルボールバーや球 する.評価方法としては,目視もしくは広く普及している 面粗度計を主に用いる.具体的には,図2に示すように, と変位計を使用した方法が開発され3,4,5),ISO規格原案と して採用されるまでになっている.しかしこのような高価 Z Z な測定機をユーザが購入することはほとんどない.一方, 3軸MCでは実際に切削を行い,性能評価を行う方法も既に X 提案されているが,5軸MC用としては円すい台加工 によ 6) るものがあるに過ぎない.そこで,本稿では,回転軸と直 C A B 進軸の同期加工精度や加工面について確認できる新しい A 加工試験を提案し,その有効性を確認する. Y X Y (a) Machine A (b) Machine B Fig. 1 Experiment environment ―11― 大分工業高等専門学校紀要 第 52 号 (平成 27 年 11 月) 直方体形状のワークに一定の切込みを入れ,ワークの上面 見られないが,加工開始位置に大きな誤差が発生している と平行に回転軸を同期させながらボールエンドミルで平 ことが分かる.送り速度が速いほど誤差量が大きくなって 面を加工するものである.例えば,図2に示すA点に角度θ いること等から判断すると,機械が近回りを行っていると 傾けた工具を位置決めさせ,B点で傾きがゼロになるよう 考えられるが,その誤差量は驚くべきものであり,このよ に回転軸も回転させながら加工を行う.B点まで到達する うな観点でも機械の評価が行えることが分かる. と,回転軸の回転方向を変え(反転させ),C点で角度θに 戻るように加工する.このようにすれば,B点で回転軸の バックラッシによる影響が出ると考えた.また単純な平面 4.考察 を加工するだけなので,プログラム作成,被削材のクラン プや測定が行いやすい.なお加工条件は表1に示す通りで (1) 静的バックラッシと動的バックラッシ ダイヤルゲージ等の変位計で図7に示す方法で測定した ある. 機械的な誤差を,本研究では静的バックラッシと呼ぶ. この方法で,回転軸がウォームホイールで構成されてい 3.実験結果 る機械Bの回転軸を測定したところ,回転中心から200mm 離れた位置で40μmの誤差が発生した(これを角度に換算 すると,静的バックラッシは0.011度となる). (1) 機械Aの加工結果 提案した加工試験を機械Aで行った結果を図3と図4に 示す(ただし図2に示すθを5度とした).図3(a)は,回転軸 一方,前述したように反転位置の加工面での誤差量は, 反転位置が発生する位置を上から撮影した写真で,図3(b) 加工時の送り速度によって異なる結果となった.また機械 Bでは,加工面に近い位置で静的バックラッシが40μmあ は,その断面曲線である.回転軸の反転位置でバックラッ るにも関わらず,加工面での誤差量はそれに比べて少ない. シによると考えられる大きな段差が発生していることが そこで本研究では,このような制御性能も含めたバックラ 分かる.また送り速度で比較すると,1000mm/minに比べ ッシを動的バックラッシと定義する. 3000mm/minで加工したほうが段差量は大きくなっている. 次に,図4は,送り速度3000mm/min時の加工結果の加工 開始位置付近の写真とその断面曲線である.提案した加工 3000mm/min 54μm 試験を行えば,直進軸と回転軸が同期し始める際に,この ような加工不具合が起こりやすいかどうかも診断できる. 3000mm/min 1000mm/min (2) 機械Bの加工結果 15μm 提案した加工試験を機械Bで行ったところ,回転軸の反 転位置での段差は,図5に示すように機械Aに比べて格段 Machining direction 1000mm/min に小さくなった.なお,機械Bの回転軸のストローク制限 (a) Photograph (b) Profile curve Fig. 3 Machining result 1 (machine A) の関係から機械Aでの加工試験と加工方向が異なるが,そ れ以外は表1のように機械Aと同じ条件になるように加工 を行っている.次に,図6は加工開始位置付近の写真であ る.機械Aで発生した段差と似た周期的な段差はほとんど θ θ A B Machining direction C 3000mm/min (a) Photograph (b) Profile curve Fig. 4 Machining result 2 (machine A) Fig. 2 Machining method 5000mm/min Table 1 Machining condition Spindle speed Feed rate 8000 min-1 1000 or 3000 or 5000 mm/min Pick feed Cutting depth Work material Tool 0.15mm 0.03mm NAK80 (125×80×50mm) R5mm Ball end mill 5000mm/min 1000mm/min Machining direction 1000mm/min (a) Photograph (b) Profile curve Fig. 5 Machining result 3 (machine B) ―12― 大分工業高等専門学校紀要 第 52 号 (平成 27 年 11 月) (2) 数学モデル 機械の各誤差が加工面に対しどれだけの影響を与える ただし, は,回転角度 の回転変換行列である. かはその誤差の性質と加工面の状況により加工面へ与え ここで,前述のように求めた静的バックラッシ0.011度 る度合い(量)は異なる.本研究で提案した加工試験でもワ ークの設置位置と,どの加工面を加工するかで同じ誤差や と回転中心基準の加工点座標をこの計算式に代入すると, ワーク座標系基準の誤差ベクトルは( 49,0,0 )μmとなり, 性能の機械でも加工面に与える影響は異なるはずである. その誤差はワーク上面には発生せず側面に大きく現れる つまり,機械の特性を正確に知るためには極力,加工面に ことが分かる.3章の実験結果からも分かるように,実際 影響が出るようにワークを設置し,適切な加工面を加工す の機械では各機械の制御性能により,この計算結果通りの るのが望ましい.そのために各誤差が加工面にどのような 誤差は発生しないわけであるが,5軸加工を行ううえで, 影響を与えるかを求めることができるようになる必要が 上式を使えば,どの加工面にバックラッシの影響がどの程 ある.そこで本研究では回転軸のバックラッシがどのよう 度出やすいか等,一つの目安とすることはできる. に加工面に影響を与えるかを求める数学モデルを考えた. その数学モデルでは,図8に示すように点P1から回転軸 (3) 確認実験 を反時計回りに回転させながら平面加工を行い点P2で回 提案した数学モデルの妥当性を確認するため,直方体形 転軸の反転が起こるとする.このとき,回転軸はバックラ 状のワークの側面に加工試験を行った.その結果を図9に ッシθだけ回転が遅れ,直進軸のみ点P2’へと移動できる 示す.数学モデルでの予想通り,同じ機械で加工したにも と仮定すると,ベクトルB1が機械座標系基準での誤差ベク 関わらず図5で示す結果よりバックラッシによる加工誤差 トルとなる.これを回転した角度αだけ戻したベクトルB2 が大幅に大きくなっている.つまり,数学モデルを使用し をワーク座標系基準の誤差ベクトルと定義する.その計算 て,どの加工面をどのように加工すれば,加工機の実力を 式は次式となる. 評価しやすいかの指針とすることができると言える. (1) (4) 加工結果の振動解析 5000mm/min 1000mm/min Machining direction 図10は主軸回転速度8000min-1,送り速度800mm/min unmachined area 2.35mm で直進軸のみを使い平面加工を行ったときの送り方向の start point Unmachined area 0.94mm 5000mm/min 5000mm/min start point Fig. 6 Machining result 4 (machine B) 1000mm/min Machining direction ccw. displacement gauge 1000mm/min 1. After rotating ccw., offset of the rotary axis and displacement gauge are set to zero. (a) Photograph (b) Profile curve Fig. 9 Machining result 5 (machine B) 2. After rotating cw. a little, the rotary axis is brought back to zero. 3. The scale marks of gauge is read. rotary axis Fig. 7 Measurement method Fig. 10 Profile curve amplitude Machining direction Frequency [Hz] Fig. 8 Mathematical model Fig. 11 Frequency analysis ―13― 大分工業高等専門学校紀要 第 52 号 (平成 27 年 11 月) 断面曲線である.また図11は図10に示す断面曲線を周波数 4)加工中に指定した送り速度で必ずしも機械が動いてい 解析した結果で,133Hzは一回転送り,266Hzは一刃送り るとは限らないので,加工結果からの振動周波数特定は, に相当し,断面曲線を用いると振動解析が容易に行えるこ 簡単ではないことが分かった. とが分かる.ここで図3や図4に示す加工結果を見ると,バ ックラッシによる加工不具合以外に周期的な振動も見ら れる.そこで,この振動の周波数が簡単に特定できると, 参考文献 1) 上田真大, 下田博一: ボールねじの玉挙動とロストモ 振動源の特定が容易になり,その振動を抑制することが可 ーション (第1報) —実験装置および玉公転挙動とロス 能になると考え,同様の解析手法を行った.しかし,提案 した加工試験のような加工の場合,指定した送り速度が全 ト モ ー シ ョ ン の 測 定 結 果 — , 精 密 工 学 会 誌 , 76, 12, pp.1371-1376, (2011) 領域で出ている保証はなく,仮に図11に示すようなピーク 2) 杉江弘, 岩崎隆至, 中川秀夫, 幸田盛堂: 工作機械にお ける漸増型ロストモーションのモデル化と補償5, シス が出ても信頼に値しない可能性があることが分かった. テム制御情報学会論文誌, 14, 3, pp.117-123 , (2001) 3) 松下哲也,沖忠洋,松原厚: テーブルチルト形5軸制御 (5) ダブルボールバーによる測定結果との比較 堤らが提案した図12に示すようなダブルボールバーに 工作機械によるテーパコーン加工精度, 精密工学会誌, 74, 6, pp.632-636, (2008) よる測定方法 で機械BのB軸を測定した得た結果を図13 7) に示す.図13(b)に示す接線方向の測定結果に注目すると, 4) 内海敬三,小杉達寛,齋藤明徳,堤正臣,5軸制御マシ 回転方向が変わると約50μmもの半径誤差が発生してい ニングセンタの静的精度測定方法(基準球と変位計を用 る.ここで,前述した静的バックラッシの測定は,回転中 心から200mmの位置で40μmであった.一方,DBBで測定 いた測定方法),日本機械学会論文集(C編), 72, 719, pp.2293-2298, (2006) した回転半径誤差も回転中心から250mmの位置で50μm 5) S. Weikert: R-Test, a New Device for Accuracy と角度換算で同じであることから,図13(b)で見られる半径 Measurements on Five Axis Machine Tools, CIRP Annals - 誤差は静的バックラッシの影響によるものであると考え Manufacturing Technology, 53, 1, pp.429-432, (2004) 6) NAS 979, Uniform cutting tests – NAS series, metal cutting equipment specifications, (1969) られる. 7) 斎藤明徳,堤正臣,牛久健太郎: 5軸制御マシニングセ 5.結言 ンタのキャリブレーション方法に関する研究(第2報) -同時3軸制御運動を用いた位置偏差および角度偏差 の推定-, 精密工学会誌, 69, 2, pp.268-273, (2003) 本研究では,簡単にかつ不具合原因特定を行いやすくす ることを目的に5軸MCの新しい加工試験を提案した.本研 究で得られた結果を以下に示す. (2015.9.30受付) 1)提案した加工試験により,回転軸を反転させた位置で 不具合が出やすいことを確認した.その他にも回転軸と直 進軸の同期が始まる位置での振動のような段差,NCの近 回りの影響によると思われる大きな加工誤差等,加工試験 の結果から加工機の性能に関わる多くの情報を得ること ができた. 2)バックラッシに限定したものだが,提案した数学モデ ルを使えば,確認したい誤差を効率良く確認するための指 針とできることも確認した. (a) Radial direction (b) Tangential direction (c) Axial direction Fig. 12 Measurement method 3)本加工試験は平面を加工するだけなので,加工や測定 が容易に行え,CAMや高価な測定機も不要である.本加 工試験を実施し,その機械の特性を理解したうえで機械を 使えば,加工不具合を減らすことも可能で,本研究で提案 した加工試験は有効であると考える. (a) Radial direction (b) Tangential direction (c) Axial direction Fig. 13 Result of measurement ―14―
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