∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ お酒造りの小さな主役 ―清酒酵母の話― Part 11 危険を顧みない働きもの ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ 1.プロローグ もろみでアルコール(エチルアルコール)が 20 %も生成 される酒造りは日本酒(清酒)をおいて他に例をみません。その理由は、日本酒 独特の三段仕込みや並行複発酵、そして、低温(10 ~ 20 ℃)、長期(17 ~ 30 日)発酵にあるとされていました。それにもう一つ肝心なのが、清酒酵母がアル コールに強い、つまりアルコール耐性が高いから、と考えられてきました。 ところが、最近の研究によると、清 2.清酒酵母はアルコールに弱い ! ? 酒酵母のアルコールというストレス(本コーナー Part 9 参照)への対応方法が 実験室酵母など他の酵母とは異なるというのです。異なるというより「欠陥があ る」と言った方が正しいようです。その結果、 清酒酵母はアルコールや熱に対して、他の酵母 よりむしろ弱く、死滅しやすいのです。つまり、 清酒酵母は、ストレスへの対応がうまくできず、 アルコールをストレスと感じても(感じられな いのかも知れませんが、)麻痺状態におちいって アルコール発酵を停止できず続ける結果、アル コール度数が高くなってしまうというのです。 3.遺伝子を… 清酒酵母「きょうかい7号」の遺伝子解析の結果、いろい ろなストレスに応答する遺伝子、 MSN2 や MSN4 の機能欠損が明らかになりま した。清酒酵母以外の酵母では、このような遺伝子が働いて、様々なストレスへ の適応として、代謝活性を変化させて早々と休眠してしまうなど、生命維持を図 ろうとします。清酒酵母ではこれをせず、身の危険を顧みずにアルコール発酵を 続けるのです。一方、実験室酵母などでも MSN2、 MSN4 を欠損させると高ア ルコールもろみができることが確かめられました。 以上のことは、酒類総合研 究所の下飯 仁、赤尾 健、渡辺大輔博士らの研究によって明らかにされたこと です。 4.そして、 「こんな私に誰がした。」との清酒酵母の嘆きが聞こえてきそ うですが、このような清酒酵母を見つけて選抜し、清酒造りに役立ててきたこと は、見方を変えれば、より少ない原料(白米)からより多くの清酒が得られる(酒 化率が高い)ので、貴重な資源の有効利用につながっているといえるのです。 文 献 下飯 仁、赤尾 健、渡辺大輔:生物工学、89 (9), 532-535 (2011) 渡辺大輔:バイオサイエンスとインダストリー、69 (4), 311-313 (2011) Copyright (C) 2011 Brewing Society of Japan All Right Reserved. -1-
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