151011 9条の会おおがきレジュメ(公開版)

9条の会・おおがき 総会&記念講演
民主主義ってなんだ? 2015.10.11 大垣市スイトピアセンター
本 秀紀(名古屋大学・愛知憲法会議)
はじめに──まだ終わりではない!
・ 最近の情勢から:
「一億総活躍社会」という名の「国家総動員」 →「国家の繁栄」か、
「個人の
尊厳」か=「国家」観をめぐるせめぎ合い ・ 「安保関連法案」をめぐる「民主主義」のせめぎ合い:
「選挙→多数決民主主義」vs.「路上の民
主主義」 1 憲法の考える民主主義のかたち ☞本編『憲法講義』
・ 前提:国民主権の史的展開=「純粋代表」から「半代表」(〜「半直接制」)へ
・ 「民意の反映」の実質と方法 cf.「アベノ任せておけ民主主義」・「マニフェスト民主主義」
国民主権(前文・1 条):公務員の選定罷免権(15 条)→国民代表機関(43 条)・「国権の最高機
関」(41 条)としての国会
国民主権を支える(民主主義社会の根幹を成す)表現の自由(21 条 1 項) →情報流通とコミュ
ニケーションの自由 cf. 表現の自由の現代的展開=「知る権利」の保障→情報公開の重要性
前文第 1 段落:……そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、
その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理
であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び
詔勅を排除する。
1 条:天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民
の総意に基く。
15 条 1 項:公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
21 条 1 項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
41 条:国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
43 条 1 項:両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
→不断/普段の民意反映と代表者のコントロール +直接民主主義的制度
前提:徹底した情報公開、表現の自由の手厚い保障(取材〜報道の自由、集会・結社の自由→デ
モの自由、選挙運動の自由……)、民意を反映する公正な選挙制度……
┌民主主義の制度的ルート:選挙を通じた民意の反映→国会中心の国政運営 cf. 媒体としての政党
└民主主義の非制度的ルート:市民の意見表明による不断の民意形成
..
「制度的公共圏」と「非制度的(対抗的)公共圏」の連動 ☞本『政治的公共圏の憲法理論』
※ 地方自治保障(憲法 8 章)の重要性
※ 「グローバル民主主義」という視点
1
2 日本における「民主主義」の現実 ・ なぜ民意が反映しないのか?:一般的傾向×日本的特殊性×安倍的特質
・ 擬似的「民意反映」:「内閣統治」から「首相統治制」へ cf. 自民「改憲草案」:首相による解散権(54 条)・総合調整権限(72 条)
首相補佐官の重用、日本版 NSC(国家安全保障会議)の設置、日本版 CIA(中央情報局)構想……
審議会は新議会? ex.「教育再生会議〜教育再生実行会議」、経済財政諮問会議、安保法制懇……
背景に「国家あっての国民」観 cf. 自民「改憲草案」前文、12・13・21 条「公益・公の秩序」
☞安倍晋三『美しい国へ』:国力維持のための「社会保障」・「教育再生」←→個人の尊重・幸福追求
・ 民意を歪める制度「改革」:小選挙区制中心の選挙制度×政党助成 →政党間格差の制度的拡大
cf. 制度「改革」の裏機能:党中央への権限集中 →「国民代表」の劣化=チルドレン化
・ 「企業権力」の影響力:企業献金を通じた政治支配
..
・ 情報統制×表現の不自由:抑圧と萎縮 →民主主義実現のための前提の欠如 cf. 秘密保護法、メ
ディア支配
・ 対米従属性:国民主権の前提となる国家主権の蹂躙 cf.「安保法制」整備の過程、沖縄問題
・ 安倍的特質:強固な「ファッショ(fascio)」性×同意調達の欠如 cf. 言説対抗の不存在
→裸の権力行使:民主主義破壊と立憲主義破壊の同時進行 cf. 強行採決の連続、議会のルール無視
※ なぜ強行するのか?
3 これからの民主主義 ☞『民主主義ってなんだ?』・『時代の正体』・『原発を止める人々』 ..
・ 民主主義の胎動:「新たな民主主義の回路」としての集会・デモ・街宣……参加民主主義
...
・ 「路上の民主主義」の正統性 ←議会制民主主義・政党民主政の構造的機能不全 ←資本主義の
構造変容+制度的要因 ☞本『政治的公共圏の憲法理論』
・ 特徴:若い世代による主導(SEALDs, T-ns Sowl)、自発的・内発的な動き、知を力に、緩やかな
..
連携・ネットワーク、インターネットの活用、国会外と国会内の連動、民主主義空間の創出……
.. ..
・ 3.11→脱原発運動〜秘密保護法反対〜戦争法反対 →憲法の実質化を支える文化の経験・蓄積
※ 課題:民主主義的文化の継続・発展 +制度的歪みの除去、民主主義の条件整備……
【参考文献】
・ 本秀紀編『憲法講義』(日本評論社、2015 年)
・ 本秀紀『政治的公共圏の憲法理論─民主主義憲法学の可能性』(日本評論社、2012 年)
・ 高橋源一郎×SEALDs『民主主義ってなんだ?』(河出書房新社、2015 年)
・ 神奈川新聞取材班編『時代の正体─権力はかくも暴走する』(現代思潮新社、2015 年)
・ 小熊英二編著『原発を止める人々』(文藝春秋社、2013 年) cf. 映画「首相官邸の前で」
・ 小熊英二×SELDs トーク「脱原発デモから SEALDs デモへ」http://www.webdice.jp/dice/detail/4856/
※ 反対行動情報:http://stopabenk.exblog.jp ex. 10/30(金)18:30〜@若宮広場(名古屋・矢場町)
※ 全国出前講師団→STOP! 違憲の「安保法制」憲法研究者共同ブログ https://antianpo.wordpress.com/
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【資料】愛知憲法会議機関紙「愛知憲法通信」508 号(2015 年 9 月)
ま だ 終 わ り で は な い 9・19 ここから始まる民主主義
愛知憲法会議事務局長 本 秀紀
「安保関連法」が成立した。憲法原則を幾重にも踏み破る戦後憲政史上最悪の暴挙である。
①同法は、自衛隊が海外での戦争に武力行使や軍事支援という形で「切れ目なく」参加すること
を可能にする。戦後 70 年にわたり築いてきた「平和国家日本」のブランドをかなぐり捨て、国際
紛争を軍事力で解決しないという憲法の平和主義を根本から覆すものである。
②こうした「一見極めて明白に違憲無効」の法律を「合憲」と強弁するため、安倍政権は閣議決
定により従来の憲法解釈を変更した。これまで長年にわたり維持してきた憲法の根幹に関わる解釈
を、憲法に拘束されるべき内閣が──制約を緩和する方向で──変更することは、国家が暴走しな
いようにその権力行使を憲法でしばるという立憲主義を踏みにじるものである。
③そのような平和主義や立憲主義の危機に対して、これまでになく広範な国民が反対の声を上げ
たにもかかわらず、安倍政権はこれを無視し、法案の強行採決を繰り返した。日本国憲法の定める
国民主権は、選挙結果に基づく「丸投げ民主主義」ではなく、常に民意を国政に反映させることを
求めており、政府与党の国民無視の姿勢は、民主主義を否定するものである。
④かつてない反対運動の高まりにもかかわらず法案成立を強行した背景には、アメリカへの従属
がある。国会にまだ法案が出されていない段階で、首相がアメリカ議会で夏までの法制定を約束し
たばかりか、法案審議過程において、昨年 12 月の時点で自衛隊統合幕僚長が米軍幹部に今夏まで
の成立見込みを明らかにし、法案提出前から日米「両軍」の一体的運用について検討されていたこ
とが明らかとなった。これらは、国民主権の前提となる国家主権の蹂躙を示すものである。
⑤国民の反対運動の高まりに追い込まれた政府与党は、法案審議の最終盤、議会のルールを破り
捨てた。参議院特別委員会では地方公聴会の報告も総括討論も行われないまま、与党議員の実力行
使により「採決」が強行された。議事録には委員会開会の記録もなく、「聴取不能」と記されてい
るのみである。与党は、ルールに従って討論・採決をするという議会制の基礎を掘り崩した。
こうして安倍政権は、日本国憲法に基づくこの国の屋台骨をことごとく破壊したが、これと反比
例して政権批判の声は高まった。国会前を十数万の人びとが埋め尽くし、全国津々浦々で反対運動
が展開された。それは法案成立と同時に、戦争法発動を許さず、さらには廃止に追い込む運動へと
転化した。政治を自らの問題として考え、折に触れて声を上げる憲法文化を定着・発展させていく
ならば、9・19は日本の民主主義創造の画期として歴史に刻まれることになるだろう。
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