アナログ・デバイセズ株式会社 | SUCCESS STORIES 集合写真(左より) 株式会社マクニカ テクスター カンパニー 第 1 統括部 SBU1 第 1 部 PS1 課 竹内 崇道 氏 株式会社エルセナ 技術 2 部 FAE 課 主任技師 阿部 博樹 氏 渡辺電機工業株式会社 コンポーネント事業部 技術部 開発グループ 小林 佑輔 氏 渡辺電機工業株式会社 コンポーネント事業部 技術部 部長 品田 弘之 氏 アナログ・デバイセズ株式会社 リージョナルマーケティング&チャンネルグループ セントラル・アプリケーションズ アプリケーションエンジニア 祖父江 達也 氏 アナログ・デバイセズ株式会社 リージョナルマーケティング&チャンネルグループ マーケティングマネージャー 高松 創 氏 図1:渡辺電機工業が開発した信号変換器用のボード(ADSP-BF592を搭載)。 DSPの導入と全体最適化で 信号変換器をコストダウン た。製品発表時には200MHz動作品の価格が せん。Blackfinは、バッテリーで動作するよう 小林:いえ、DSPの後段に低速の汎用マイコン 価)とアナウンスされており、2ドルを切る価格 なポータブル機器やプロ用のオーディオ機器な を接続し、出力側の制御をこちらにまかせるこ でDSPによる高速な信号処理機能を利用できる どに採用されています。 とを考えました。その上で、あらためて最小限 ことが大きな特徴となっています。なお、今回 を高めることができた。今回の手法は、高速かつ高分解能が要求される今後の計測機器開発にも有効だという。 かつ必要十分な機能を備えたDSPがないか探し は400MHz動作のコアを搭載した製品を採用 計測機器メーカーの渡辺電機工業(以下、WEI)は、時間量の測定に使う信号変換器製品の開発にアナログ・デバイセズ(以下、ADI)のDSP えて部品コストを削減した。また、DSPと低速の汎用マイコンを組み合わせることにより、システムの拡張性や信号処理プログラムの再利用性 ―― DSPによる処理をあきらめたのですか? 1.99ドル(米 国 における1,000個 購 入 時 の 単 していただきました。 (デジタル信号処理プロセッサ) 「Blackfin®」を採用した。従来機種ではFPGAを採用し信号処理を行っていたが、これを安価なDSPに置き換 ので、中の細かい動作に配慮する必要はありま たところ、前機種の開発などで取引のあったア 低速マイコンと組み合わせて ナログ・デバイセズのBF592にたどりつきまし 拡張性や再利用性を向上 た。部品単価は、400MHz動作の他の高機能 ―― センサ・アプリケーション向けの機能はあ なDSPと比べて半額に近いものであり、外付け りますか? の低速マイコンを含めても、圧倒的な低コスト 祖父江:外部インタフェースとして、パラレルポー ―― Blackfinを採用した経緯を教えてください。 を実現できました。 トとシリアルポートの両方を備えています。シリ 小 林: 従 来 機 種 は、 高 速ADコ ン バ ー タ と 竹内 (マクニカ):渡辺電機工業様とおつきあい アルポートについては、一般的なSPIやUARTの FPGA、高速マイコンを並べて、信号処理を行っ させていただいたのは一つ前の機種からで、そ ほか、用途に応じてユーザーがレジスタベースで ていました。FPGAを使うとどうしてもコスト高 のときはアナログアンプやADコンバータが中心 コンフィグレーションして使えるSPORTというイ となります。そこで、これをDSPに置き換える、 でした。その繋がりで、次のプロジェクトでDSP センサ、高速ADC、DSPで 波などが反射して戻ってくるまでの時間を測定 ありますか? ンタフェースも装備しています。さらに、BF592 というところから検討を始めました。ただし、私 を使いたいというお話しをいただき、グループ 時間量を計測 すれば、距離や間にある物体の特性が分かりま 小林:信号変換器は産業用途ではかなりポピュ には消費電力が少ないという特徴があります。 たちはDSPを一度も使ったことがなかったので、 企業のエルセナでDSPを担当する阿部と相談し す。今回の機器では、DSPがセンサに制御信号 ラーな機器で、技術的には“やり尽くされた感” 最初は手探り状態でした。今回の機器に必要な ながらサポートさせていただきました。 を送り、センサから戻ってきたアナログの計測 のある領域です。ただし今回の製品は、特殊な ―― 汎用マイコンとDSPの違いは? AD変換の速度は数十Mサンプル/秒です。例え ―― どのような製品にDSPを搭載したのでしょ 信号を高速ADコンバータでサンプリングします。 場所、特殊な状況で使用されるもので、技術的 祖父江:Blackfinシリーズ自体は12年ほど前 ば12ビットを数十Mサンプル/秒で取得しようと ―― コスト以外に、DSPを採用して良かった点 う? 送出した信号とADコンバータで取得した信号を にまだまだ改善の余地がありました。そのため、 に発表されたDSPで、ディジタル信号処理とシ すると、数百MHz動作のデバイスが必要です。 はありますか? 品田 (WEI):当社は主に3つの事業を行ってい DSPの演算処理で解析して、時間量を算出して 従来機種に対して、コスト面や性能面で優位性 ステム制御を一つのコアで実行可能なプロセッ また、パラレルの入力ポートがないと使いもの 小林:「DSP+低速マイコン」のシステム構成 ます。自動車ヘッドライトの検査に用いられる自 います。 を高めた新規提案が求められており、加えてさ サ・アーキテクチャとして登場しました。積和 になりません。さらに、出力側にも、アナログ には、出力側の機器が変更になった場合でも、 動車検査機器事業、電力監視を中心とする計測 高松 (ADI):私どもの事業も同じ領域にフォー まざまな計測環境において安定的に計測できる 演算命令を含め、信号処理で使われる命令を1 出力やパルス出力、アラーム出力などのインタ DSPまわりの回路やその上で動作するプログラ システム製品事業、そして製造ラインの状態監 カスしています。センサで取得したアナログ信号 能力も要求されました。 クロックで実行できます。さらに、命令や演算 フェースが 必要です。当初は、1チップ のDSP ムをほとんど変更する必要がないという利点が 視などの計測コンポーネント製品事業です。今 をデジタルのデータに変換して活用するための 中のデータの出し入れを高速にするため、ハー でこれらすべてに対応することを考えていまし あります。仕様変更にかかわる部分を後段の低 回DSPを採用したのは、計測コンポーネント製 デバイスを開発しています。当社は創業50周年 ―― 使用したDSPの概要を教えてください。 バード・アーキテクチャを採用しています。これ た。しかし、高機能なプロセッサの場合、使う 速マイコンで吸収できるので、システムの拡張 品事業の信号変換器の製品です。 を迎えますが、こうした計測やセンシングの分 祖 父 江 (ADI): 当 社 のADSP-BF592を 採 用 は命令バスとデータ・バスを独立に配し、メモ 側にとって不要な周辺機能が含まれる場合が多 性や信号処理プログラムの再利用性を高めるこ 小林 (WEI):信号変換器は温度や圧力、流量 野は当社が創業当初から取り組み、今も進化を してい た だきました。これ はBlackfinアーキ リアクセスに伴う通信ボトルネックが発生しない く、外形寸法も大きくなりがちです。400MHz とができました。また、DSPはROMを内 蔵し などの物理量を電気信号に変換するモジュール 続けている技術領域の一つです。 テクチャを採 用した 信 号 処 理プロセッサです。 ようにする方式です。また、Blackfinのプログ 以上の動作クロックで今回必要な機能を備える ていないことが多いのですが、今回は、DSPの BF592は、 「高い信号処理性能をローコストで ラムは基本的にC言語で開発できます。マイコ DSPを探したのですが、コスト的に見合うもの ブートプログラムを低速マイコンの内蔵フラッ 利 用できる」というコンセプトで開 発されまし ンと同じように周辺機能がレジスタとして見える は見当たりませんでした。 シュROMに 格 納することで、 外 付 け のブ ート ですが、ここでは時間量を測定するための信号 変換器にDSPを搭載しました。例えば、光や音 2015.8 26 Volume.11 APS MAGAZINE ―― 信号変換器の開発には、どのような要求が Volume.11 2015.8 APS MAGAZINE 27 アナログ・デバイセズ株式会社 | SUCCESS STORIES 演算性能を変えずに、小型・低消費電力・低価格を実現 ―― 今後の展開を教えてください。 小林:一番直近の展開はマルチチャネルへの Technical NOTE 対応です。複数のセンサおよび ADコンバータ 従来のシステム構成 からの入力をアナログスイッチで切り替え、一 FPGA ADC ROM MCU シリアル 出力 つの BF592で解析処理できるようにします。ま た、信号変換器に繋がる出力側の機器の構成 RAM DSPの高性能と使いやすいMCUをひとつに Blackfinプロセッサ ファミリ 「新Blackfin+コア(ADSP-BF706)簡単レシピ!」 h ttp: / / go.aps-we b.jp/ 1 1 -ad i QRコードアプリで関連デモ動画を再生できます。 が変わると出力インタフェースの仕様変更が発 生しますが、このような変更にも対応していき 今回採用されたシステム構成 プログラムROM ADC MCU シリアル 出力 図2:FPGAをDSPに置き換え、性能を維持しつつコストダウンを実現。 ます。 リアルタイム信号処理とシステムコン 先 進 の セ キュリティと堅 牢 性 を 備 品田:今回の案件は、オシロスコープの波形が トロー ルを両 立するBlackfin®ファ え た、 最 新 Blackfinプ ロ セ ッ サ、 - USB2.0 HS OTG 信用できない高速・高精度の領域のシステム開 ミリ ADSP-BF70x - ePPI Video I/O(パラレルポート) ■豊富な周辺機能(ペリフェラル) - 2xSPORT(汎用シリアルポート) 発です。その 中で、ADコンバータとDSPの 組 み合わせにより、ノイズに埋もれた状態でも信 ■小規模マイコンでは処理が間に合わない、し ADSP-BF70xシリーズは、新世代のコアと、豊 - 2xQuadまたは1xDual SPI 号を正しく取り出せたことに感動しています。も かし大規模プロセッサではコストや発熱(消費 富な周辺機能を備え、性能/消費電力/コストバ - I2C, 2xUART, 2xCAN2.0B ちろんこれはADコンバータの実力によるものな 電力)が問題になる。。。 ランスを高い次元で実現した最新のBlackfinプ - SD/SDIO/MMC(8-bit) のですが、その背景には正しいタイミングでAD アナログ・デバイセズのBlackfinプロセッサ ロセッサです。 - 4-ch 12-bit 1Mサンプル/sec ADC ROMを削ることができました。センサにつなが ている資料で、スムーズに作業を進めることが 変換を制御するDSPの働きがあります。今回の は、こうしたアプリケーションに 向けて、 性 るADコンバータのサンプリング速度はDSPで制 できました。ただ、PPI( パラレルポートのイン ノウハウは、今後の高速・高分解能の製品の開 能/消費電力/コストの3つのバランスを高い ADSP-BF70xの特長 - セキュリティ・キー格納向けOTP内蔵 御できます。そこで通常はデータを間引き、必 タフェース)の理解不足で、少々とまどったとこ 発にも活かせると思っています。 次元で実現した製品です。 ■Blackfin+ コア 最大400MHz動作 - 高速セキュアブートやIP保護のための 要なところだけサンプリング速 度を引き上げ、 ろはありました。今回の計測時間の必要分解能 祖父江:Blackfinシリーズについて、性能、コ ■記事中のADSP-BF592は400MHzで動作す 必要最小限のデータをSRAM上に展開していま は数十psのオーダで、計測値にはクロックのジッ スト、 消 費 電 力 の バランスのよい 製 品を提 供 るDSPを非常に低いコストでシステムに取り す。FPGAを使っていたときと比べると、実際に タ(ノイズ)が乗ってきます。例えば、400MHz していくという方 針 は、 今 後 も変 わりません。 入れることができる製品です。 解析しているデータ量は圧倒的に少なくなって 動作で1クロックずれると最大2.5nsのずれにな 2014年 に は、 新 世 代 の コ ア を 持 つ 最 新 の ■この他にもBlackfinファミリは、EthernetMAC います。 り、これは目標分解能の10~100倍の誤差に Blackfinプロセッサ「ADSP-70x」ファミリも発 やUSB、SDカードI/Fなど様 々なペリフェラ つながります。この部分について、試作ボード 表しました。また「ADSP-BF60x」ファミリのよ ルや内蔵メモリ容量、デュアルコア製品など 上で思い通りに動作せず、エルセナさんに相談 うに、デュアルコア搭載の高性能な品種も用意 50種類からお選びいただけます。 全体最適化を考慮する設計で しました。エルセナさんにはBF592評価ボード しています。その一方で、今回採用していただ 力を発揮するDSP を使ってほぼ同じ環境を整えてもらい、こちらで いたBF592のような、シンプルでコストパフォー 作成したテストコードによる精査を行っていただ マンスに優れた品も提供しています。 きました。その結果、なんとか要求性能を満た 高松:FPGAの品種を変えたり、マイコンを高 ―― DSPの 評 価 や 開 発に 時 間はか かりました す仕組みを実現できました。これがうまくいか 速にしたりと、いわゆる部分最適化で新規の機 か? なかったり、解決に時間がかかりすぎたりして 種を開発するのも一つの方法です。しかし、現 小 林:2014年4月頃に 構 想 の 検 討に 入り、5 いたら、今回の採用はなかったと思います。 実のプロジェクトでは多くの設計制約とコストの ~6月までにはシステム構成の見通しが立ちまし 阿部 (エルセナ):当社は、多数の技術サポー バランスをとることが求められます。渡辺電機工 た。納期的な制限もあったので、ある程度行け トメンバーを抱えている点を強みとしています。 業様の今回の案件では、さまざまな設計上の工 そうだという目処が立った時点で試作ボード(デ 今回のお話しをいただいたときも、最も鍵にな 夫を凝らしてシステムの全体最適化を実現され バッグボード)の開発に着手しました。並行して るのはADコンバータからの信号を受け取るPPI ました。当社のDSPは、まさにこのような局面 アナログ・デバイセズが提供しているBP592評 の部分だろうと考えていました。過去にもPPI で力を発揮できるデバイスだと思っています。当 価ボードを使って動作を確認し、6~7月には完 の部分で技術サポートの経験があったので、早 社は現在、“Ahead of What's Possible”と 成した試作ボードの上で基本的な入力回路が動 期に弊社での実証実験の結果を資料としてまと いう指針を掲げていますが、今後もお客様の可 作するところまでいきました。 めて渡辺電機工業様へフィードバックすることが 能性を広げる一歩先のソリューションを提供する できました。 ことに注力していきます。 ■IPを保護と高速セキュア・ブート - 16bit精度で2回または32bit精度で 1回の積和演算をシングルサイクルで実行 - 複素積和など多数の算術命令を実装 - 従来のBlackfinコア製品とは 暗号化エンジン ■12mm角、ローコスト・パッケージ - BGA 184ボール 0.8mmピッチ - QFN 88ピンパッケージ 命令セットベースで互換性を確保 ■極めて低いトータル消費電力 ■オンチップメモリ 400MHz動作時100mW以下の消費電力を - パリティ付き136KB L1 SRAM 実現(ジャンクション温度25°C時) - ECC付き1MByte L2 SRAM ■DDR2/LPDDR対応 外部メモリI/F 低消費電力かつ 高性能固定小数点DSP 新世代Blackfin+コア Single-Cycle 2x16-bit, 32-bit & Complex Math 16bit: 800MMACS, 32bit: 400MMACS 従来のBlackfinシリーズとコード互換 1MByte SRAM 大容量内蔵メモリ ―― 苦労したところはありましたか? 超低消費電力 98W@400MHz 小林:コスト、性能、消費電力など、当初の目 VDDINT Power at 25℃ Tj BOMコスト低減に貢献する 豊富なペリフェラルと デバイスコスト 低消費電力かつ 高性能固定小数点DSP 低コスト $3.99∼ 効率化Cコンパイラ、最適化された ライブラリとアルゴリズム (US参考価格1,000個受注時) Quad-SPI, I2C, UART, SPORT, Video ePPI, 4-ch 12-bit ADC &more Enhanced Connectivity Options SDHC CAN LPDDR DDR2 すぐに評価と開発を 可能にするハードウェア とJTAGエミュレータ サードパーティ ネットワーク 資産とシステムの安全を 守るセキュリティ機能 暗号化 アクセラレータを 内蔵 高速セキュアブート 内蔵メモリ保護機能と 機能安全に貢献する 安全機能 超低SER-FIT率 標をほぼ 達 成でき、DSPの 採 用が 原 因で開 発 が停滞するということはほとんどありませんでし システム性能を落とすことなく、コスト・サイズ・省電力・熱などの課 た。アナログ・デバイセズ社が提供するソフト 題をすべて解決するのは難しい。DSPとマイコンの境界線が薄らいでい ウェア開発環境「CCES」についてのちょっとした る中、渡辺電機工業はADIのアナログ技術とマイコンのような使い勝手 相談や確認はありましたが、だいたい開示され のDSPを組み合わせたことで、FPGAからの置き換えに成功した。 2015.8 28 Volume.11 APS MAGAZINE ADSP-BF70xシリーズの概要 本社 :東京都港区海岸1-16-1 ニューピア竹芝サウスタワービル 大阪営業所 :大阪市淀川区宮原3-5-36 新大阪トラストタワー 名古屋営業所:愛知県名古屋市西区牛島町6番1号 名古屋ルーセントタワー40階 アナログ・デバイセズ株式会社 http://www.analog.com/ Volume.11 2015.8 APS MAGAZINE 29
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