VOYAGE GROUP 社員は同じ船に乗る「クルー」 だから、理念で採用する

Part 2
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新規参入が相次ぐIT 業界は、人材の獲得競争も激しい。
VOYAGE GROUP
社員は同じ船に乗る「クルー」
だから、理念で採用する
そんななか、スキルフィットと同時にカルチャーフィットを重視した
採用を続けているのが株式会社 VOYAGE GROUP( 以下
「VOYAGE」
)だ。
世界的な
「働きがいのある会社」
ランキングで
中堅企業のトップに位置し、
離職率の低下にも成功している。
「移り変わりの激しいインターネット
「ポイントはそれを人事部だけではな
産業では、商品やサービスではもう競
く、社員も一緒に見極めること。特に新
争優位を保てない。大事なのは人です。
卒採用では、
1人に対して8人前後の
長く勤め続ける社員がいて、彼らがい
社員が面接します。新卒採用プロジェ
かにモチベーションを高く保ち、行動
クトに関与しているのは、社員の半数
するか。そこが最も重要な競争の源泉
以上。日頃唱えている経営理念につい
になってきています」と取締役 CCO の
て個人が納得できる機会の1つを採用
青柳智士氏は言う。そのために、近年、
と捉え、組織に浸透させていく。ここも
力を注いでいるのが採用だ。
われわれにとってのねらいの1つです」
「新卒でも中途でも基本的な考え方は
一緒です。スキルと同様にカルチャー
言葉と空間の両方で
フィットも重視する。カルチャーとは
経営理念を表現する
具体的に何かと言えば、経営理念です。
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この部分で合わなければ、いくらスキ
年間の応募者は新卒は数千人、中
ルがあっても採用はしません」
途は 100 人前後です。一対一で面接す
経営理念は「 SOUL(創業時からの
る場合もあれば、何人かが同時にまと
」の2つか
想い)
」と「CREED(価値観)
めて会う場合もある。採否を決めるま
スゴイ」という SOUL を
ら成る。
「 360°
でに一度、候補者と社員が社内バー
体現するために必要なのが、
「挑戦し続
「 AJITO」などで一緒に飲むこともあ
ける」
「自ら考え、自ら動く」
「本質を追
る。
い求める」などの CREED で、中途採
「トップを筆頭に VOYAGE の歴史を
用の場合は過去の職歴を通じてこれら
語り、会社の個性に合った人物を採用
が顕在化されているか、新卒の場合は、
することにエネルギーを注ぐ。こちら
学生時代の経験などからこれらが潜在
がカルチャーを強く打ち出せば、それ
的にあると感じられるかどうか、を対
をいいと思う人たちが応募してくれま
話を通じて見極めていく。
すから、定着率も良くなります。その後
text : 曲沼美恵 photo : 伊藤 誠
特集 「適応
「専門」
」のメカニズムを探る
正社員と「自由」正社員
任したことだ。青柳氏は、当時社内に
なんとなく漂っていた停滞感を払拭し
ようと、オフィスや経営理念の刷新に
取りかかった。
「業績がいいときばかりではなく、悪い
ときもここに残って頑張りたいと思え
るような会社にするにはどうすればい
フォーマンスのみを見て評価しがち
だ。しかし、VOYAGE では、本人の
能力とミッションが噛み合っているか、
または、ミッションの伝え方に問題は
なかったか、など総合的に判断して評
価を出している。エンジニアに関して
は特に、同じエンジニアの観点とマネ
ジメント側の観点を総合しながら評価
いのか、社長の宇佐美(進典)とも真剣
をしている。
に話し合いました」
「われわれは社員をクルーと呼んでい
そのなかで出てきたのが、
『海賊』と
ロジェクトは「新時代を切り開く航海
ますが、上長とクルーとの間に何か問
いうキーワードだ。
― VOYAGE」をコンセプトとし、の
題があったり、評価に納得がいかない
「ベンチャーマインドやベンチャース
ちに現在の社名になった。
ようであれば、すぐに間に入って調整
します。基本的に『現場は正しい』とい
ピリットという言葉はすでに使い古さ
れていました。われわれはそれを、海賊
失敗を共有する「座礁学」と
う考え方ですが、経営層と現場では視
という言葉で言い換えた。これなら『常
ノウハウを学ぶ「見聞学」
野が違う。その違いを理解しながら、両
に挑戦していく』
『仲間と事を成す』と
者をブリッジしていくのが人事の役目
青柳氏らは企業理念を外に向けて強
だと思っています」
く打ち出すと共に、社内に浸透させる
VOYAGE は、定期的な社内アン
ことにも熱心に取り組んでいる。先の
ケートも実施している。その回答率は
航海イメージは、社内で開く勉強会の
97%にも上るという。先のような人事
用語などにも貫かれている。
の取り組みが、クルーにも理解され、
「本部長などを対象にした勉強会を、
信頼されている証だろう。
われわれは『座礁学』と呼びます。これ
「 GPTW さんが出している『働きがい
は失敗の経験を共有して、次に生かす
のある会社』ランキングで、今年は中
ためのもの。もう1つは『見聞学』と呼
堅企業の1位をいただきました。
3位
んでいますが、
こちらは文字通り、
見る、
だった以前は『人事部が評価されたん
聞くが中心です。例えば、あるメンバー
でしょ』と人ごとのような感じだったの
が辞めたいと言ったら、上長としてど
が、今回は全員が自分事のように喜べ
のようなコミュニケーションをとれば
た。この変化は大きいし、嬉しい」
いう、われわれの価値観にもピッタリ
いいかなど。その時々でみなが困って
一時は 15%に上っていた離職率も、
だと思いました」
いることをテーマに掲げて、ノウハウ
最近は8%台とかなり低く抑えること
そしてオフィスは、海賊である社員
を共有する場を設けています」
ができている。
が、既存のルールを打ち破り、新しい
いずれも「正しい答え」は存在しない
社会、新しいサービスを創り出してい
ため、最終的な判断の拠り所はやはり
くべく航海を続ける場と定義した。経
経営理念になる。
営理念を体現するオフィスへの刷新プ
能力に関して、通常は個人のパ
青柳智士氏
取締役 CCO(Chief Culture Officer)
新領域事業兼人事部門管轄
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ボヤージュ・グループ
高文化責任者)が誕生し、青柳氏が就
始まりは 2009 年、新たに CCO(最
事例
採用時点で決まっていると思います」
社内で使う用語も
オフィス空間もすべて
」で統一
「航海 (VOYAGE)
に関しても、じつは8割くらいはこの