地域の良さを生かし,思考判断表現する力を伸ばす学習展開の工夫

地域の良さを生かし,思考判断表現する力を伸ばす学習展開の工夫
~保谷梨プロジェクトを通して~
西東京市立碧山小学校
主幹教諭 中島武史
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はじめに
物ではない。しかし,地元の人に美味しい梨を食
子供が将来にわたって生きる力の核となるの
べてもらいたいと自信と誇りをもって栽培をして
は,課題解決のために知識や技能を活用して,思
いる。そん な生産者の思いや願いに出会うことは,
考・判断・表現する力であると捉えた。
自己の生き方を考えるきっかけとなると考える。
思考・判断・表現する力とはどのような力なの
しかし,子供たちには保谷梨に対する関心は高
か,具体的にそれがどのようなものなのか描いて,
くない。そこで,担任の声かけのもと,近隣の梨
その能力の発揮と向上をはかる学習活動を組み立
農園を見学し,栽培の仕方や苦労の話を伺った。
てることを目指した。そのためには、子供の主体
的な探究活動を通して,子供自ら思考・判断・表
現する活動に取り組ませることだと考え,総合的
な学習の時間を重点に授業を展開して行った。
簡単に数値化できない物を決めるときどのよう
に判断していったらよいのか,社会の中で実際に
生きて働く力をつけるにどうしたらよいか考える
こと,今回は保谷梨を使ったパンやスイーツの商
品化を行うときにどのようにしたら実現できるか
考える事で思考・判断・表現する力を意図的につ
けていけると考えた。
梨生産者の話を聞く子供達
子供たちに保谷梨についての予備知識をつけて
から,保谷梨は今年学習する総合的な学習にふさわ
しいか検討した。何も知識がないところで検討するの
は難しいからである。総合的な学習で何を課題にする
かはとても大切である。子供たちが自ら探究的に活動
していきたいと思える課題を設定することが重要であ
る。しかし,子供がやってみたい学習と教師がねらっ
ている力や出会わせたい人材とが必ずしも一致すると
商品化したシュークリームとデニッシュ
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は限らない。そこで今回は教師が「保谷梨」をテーマ
課題設定
に総合的な学習をしようと提案をし,1年間学習する
学区域近辺に保谷梨農家が4軒ある。保谷梨は
価値があるか話し合うことにした。総合的な学習が成
小売店の店頭で販売するのではなく,直売所や直
り立つか考えるには担任が以下の8つの条件を提示
接宅配による販売を行っている。摘果を何度も繰
し,それにあてはまる学習になるか考えた。
り返し,さらに樹で完熟させてしまうので,収穫
量にも,保存期間にも制約があり生産性のよい作
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3
保谷梨を使った商品を開発しよう
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全員でできる
2
みんなが本気になれる
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地域の方・プロと関われる
さを知ってもらいたいという気持ちを理解して
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自分たちの成長につなげることができる
もらうにはどういたらよいか話し合った。その結
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夢や感動がある
果,保谷梨を加工して今まで保谷梨を食べたこと
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喜んでもらえる
のない人にも食べてもらい良さを知ってもらお
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発表の場がある
うということになった。すると一人の女の子が
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6年最後の総合にふさわしい
「近所のパン屋さんに,リクエストパン受け付け
保谷梨をPRすることで自分たちの地域のよ
ますと書いてあったよ。」と発言した。また,市
保谷梨をテーマに,やってみたい活動,できそ
の産業振興課の方からも地元のケーキ屋さんを
うな活動をマインドマップやウエビングを使っ
紹介してもらった。児童はどこで商品を作っても
て広げていった。その後その活動が総合的な学習
らうか話合い,1つは学区のパン屋さんにすぐに
の時間にあてはまるか検証していくことにした。
決まった。もう一地区は学区のケーキ屋さんにす
るか,産業振興課から紹介してもらったケーキ屋
さんにするか話し合った。パン屋さんは旧保谷地
区なので,旧田無地区のケーキ屋さんにした方が
広くアピールできるという意見になり,紹介して
もらったケーキ屋さんに商品化をお願いするこ
とにした。
梨をテーマに
考えた活動
児童は保谷梨でスイーツを作りたい,農協の保
谷梨祭に出てみたいなど様々な活動を考えた。8
つの条件で児童がこだわったのは,6年最後の総
合的な学習としてふさわしいかというところだ。
5年生で取り組んだ芝生の学習を保谷梨は超え
パティシエの話を聞く子供達
ることができないという意見が出た。昨年度の学
パン職人とパティシエに来てもらい話を聞い
習に充実感を感じている児童は,それ以上の学習
た。華やかに見える仕事も 30kg もある小麦の袋
をするためにどんな学習が展開できるのかイメ
を担いだり,朝の 3 時には仕事をしていたりする
ージができないからだ。しかし,超えられるよう
ことなど苦労や,仕事に対する責任感,やりがい
にやってみよう,やってみないと分からない,生
についても話を伺い自分の将来についても考え
産者の思いや保谷梨の良さを PR してくことで自
る機会となった。商品開発の話では,ターゲット
分たちの地域の良さを大勢の人に知らせること
を絞ることが大切であることを教えてもらった。
ができたら去年の総合を超えることができると
そして,どんなパンやケーキを買っているのかア
話し合い,保谷梨で学習をしていこうという意欲
ンケート調査をした。そして,ターゲットは子供
をもつことができた。
をもった主婦層に絞ることにした。主婦層は健康
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志向で甘さ控えめであることがアンケート結果
とが大切だということを経験しているので,メリ
から分かった。
ット・デメリットを検討しマトリックスに整理し
また,保谷梨のよさを引き出すにはどのように
て,視点ごとに検討した。さらに,視点の中でも,
調理したらよいか様々なカットをして試食をし
保谷梨のよさが生かされているかに一番の重き
た。その結果,大きめにカットした物がみずみず
を置くことが共通理解されているので,自分たち
しく美味しいということがわかった。
の意見にこだわらず,建設的に話合いをし,商品
アイディアを提案することができた。
カットの仕方で味の変化を確認する
学習が進むにつれて,子供たちの自主的な活動
メリット・デメリットの比較検討
が展開されていった。「スイーツにしたり,パン
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にしたり加工して本当にいいのか。生産者の方は
商品を PR しよう
生の美味しいままを食べてほしいのではない
か。」と疑問を出した時には,「そのことなら,
この前の放課後に,梨園に行って確認してある
よ。多くの人に食べて欲しいから,加工品にして
もかまわないと言ってくれたよ。」
「近所のジャム店で,和梨にはサツマイモやカ
ボチャをミックスしてジャムを作るとよいとア
ドバイスしてらったよ。」「自宅でも試作をして
みたよ。」など,授業時間外にも主体的に活動が
展開された。
子供たちの様々なアイディアをもとに実際に
アイディアスケッチをもとにポスターの制作
調理し試食をしてみると,梨のよさを生かすこと
保谷梨を使ったデニッシュ,シュークリームの
はなかなか難しいことがわかったが,試作の末,
商品化が決まると,商品をPRするために,ポス
スイーツは4種,パンは3種のアイディアを出
ター・チラシを作ることになった。ポスター・チ
し,保谷梨のよさが生かされているか,見た目,
ラシに入れる項目やキャッチフレーズなどホワ
味,その他の4つの視点をもとにマトリックスに
イトボードを使って検討をしながら作成した。
整理し検討した。
比較するということは視点をはっきりさせるこ
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商品展示の取材と商品 POP
実際に店舗で,商品の陳列の仕方,ポスターを
貼る場所,商品ポップなどの取材をした。商品ポ
ップにはアレルゲン表示もすることができた。
チラシはレジで商品と一緒に配布するように
依頼をした。商品の売れ行きは大変好調であっ
た。
販売終了後のアンケートで,自分たちの活動か
ら保谷梨を知ったという人が3割増えたことで
充実感を得た。さらに,1年間学習してきたこと
をパンフレットにまとめ,直売所で配布してもら
った。
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販売促進ポスター
おわりに
実社会にも役立つ本物の活動は子供たちにと
って大きな自信となった。子供たちが商品開発し
たスイーツは西東京市認定の地産地消メーニュ
ーに登録され,毎年販売されることになった。
生産者・製造販売者・市役所産業振興課の協
力があり地域の力を活用した学習になった
出来上がった製品で会食
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配布用チラシ
パンフレット三つ折り表面
パンフレット三つ折り裏面
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