オブザーバの設計と入出力の線形化 - 三平研究室

オブザーバの設計と入出力の線形化
三平満司(東京工業大学)
1
に変換される((C, A) 可観測)と仮定する.ここで状態方
はじめに
程式の非線形項である p(y) と r(y) が出力 y のみの関数で
ここではオブザーバの設計と入出力線形化について考え
あることに注意する.このシステムに対して次の同一次元
る.ここで扱うシステムは次の状態方程式で表される1入
= f (x) + g(x)u
(1)
オブザーバを考える.
dξˆ
= Aξˆ + p(y) + r(y)u + K(C ξˆ − y)
dt
= h(x)
(2)
このときオブザーバ誤差を ε = ξ − ξ̂ とすると ε の挙動は
力1出力系である.
dx
dt
y
dε
dt
2
オブザーバの設計
システムの状態が利用でない場合にはオブザーバを用い
=
dξ
dξˆ
−
dt
dt
ˆ
A(ξ − ξ̂) + KC(ξ − ξ)
=
(A + KC)ε
=
(7)
(8)
てシステムの状態を推定し,状態フィードバックを実現す
となり,非線形要素 p(y), r(y) と入力 u の影響を受けな
る必要がある.ここでは線形誤差応答オブザーバと指数オ
い,厳密に線形な自律系で表わされることになる.さらに
ブザーバについて紹介する.
(C, A) が可観測であるから (A + KC) の固有値は K によ
り任意に設定できる.つまり,ξˆ の真値 ξ への収束の度合
2.1
を任意に設定することができる.さらにもとの状態 x の
線形誤差応答オブザーバ
推定値 x̂ は
ˆ
x̂ = T −1 (ξ)
状態方程式の厳密な線形化問題の双対問題として,状
態から出力までの厳密な線形化問題が定式化されている
で求めることができる.
[1-4].これが線形誤差応答オブザーバの設計方法である.
一般的にシステム (1) は座標変換
ξ = T (x)
このようにシステム (1) を座標変換により (6) のシステ
ムに変換できればオブザーバ誤差 ε の挙動が線形となる
オブザーバを設計することができる.このようなオブザー
(3)
バを線形誤差応答オブザーバと呼ぶことにする.これは状
により ξ 座標系でのシステム
dξ
dt
=
∂ξ dx
∂x dt
∂T
{f (x) + g(x)u}
∂x
∂T
∂T
f (T −1 (ξ)) +
g(T −1 (ξ))u
∂x
∂x
f¯(ξ) + ḡ(ξ)u
=
h(T −1 (ξ)) = h̄(ξ)
=
=
=
def
y
def
態−出力間の厳密な線形化であり,座標変換でシステムを
ひねって,出力により観測できる非線形性を打ち消す線形
化と考えることができる.
以下では簡単のため次の1出力の自律系
dx
= f (x)
dt
y = h(x)
(4)
ḡ(ξ) = r(y),
h̄(ξ) = Cξ
dξ
dt
y
(5)
{Aξ + p(y)} + r(y)u
=
Cξ
f¯(ξ) = Aξ + p(y)
=
h̄(ξ) = Cξ
(11)
システム (11) に対して誤差の挙動が線形になるオブザー
つまり ξ 座標系でシステムが
=
=
なるシステム((C, A) 可観測)に変換することを考える.
となるように座標変換 T (x) が選ばれていると仮定する.
dξ
dt
y
(10)
を考え,このシステムを座標変換 ξ = T (x) により
に変換される.いま f¯(ξ), ḡ(ξ), h̄(ξ) が
f¯(ξ) = Aξ + p(y),
(9)
バは
dξˆ
(6)
dt
1
= Aξˆ + p(y) + K(C ξˆ − y)
(12)
で与えられ,オブザーバ誤差 ε = ξ − ξˆ は
dε
dt
を満たすスカラー関数 φi (x), (φi (0) = 0) が必ず存在する
ことが証明されている.この φi (x) を用いてシステム (10)
= (A + KC)ε
(13)
を (11) に変換する座標変換の一つは

と線形システムで表わされる.


ξ = T (x) = 


入力のあるシステム (1) は同じ座標変換 T (x) により
ḡ(ξ) = (∂T /∂x)g(x) が ḡ(ξ) = r(y) のように出力 y の
みの関数で表わされるとき,オブザーバの厳密な線形化が
(14)

とするならば,ある意味でこのシステムは基のシステムの
指数安定オブザーバとなる [9].
dξ
dt
Krener と Isidori[3] は線形誤差オブザーバの設計の可能
性に関して次の定理が成り立つことを示した.ここでスカ
=
ラー関数 φ(x) の外微分 dφ(x) は
y
(15)
【定理】
システム (10) に対して座標変換 ξ = T (x) が存在して
(10) が ξ 座標系で (11) と表わされるための必要十分条件
は,次の2つの条件を同時に満たすことである.








 τ (x) = 






0
..
.
0
1
0 ··· 0
1
Lf φi (x) − φi−1 (x)

L2f h(x)








p1 (y)




 p2 (y) 
0 





ξ +
(y)
p
3


0 



.


..
.. 


. 
p
(y)
n
0
ξ
(20)
(21)
i = 2, 3, · · · , n
(22)
= Cx
∂h
f (x) = CAx
=
∂x
∂
Lf h(x) f (x) = CA2 x
=
∂x
(23)
..
.
(16)
h(x)
Ln−1
f
= CAn−1 x
より
dh(x)
dLf h(x)
[adif τ (x), adjf τ (x)] = 0
dL2f h(x)
..
.
(17)
□
h(x)
dLn−1
f
定理の条件が満たされるとき i = 1, 2, · · · , n; j =
=
0
pi (y) =
h(x)
対して成り立つ.
f
1

線形システム f (x) = Ax, h(x) = Cx の場合には
とするとき,次式が 0 ≤ i ≤ n − 1; 0 ≤ j ≤ n − 1 に
0
0
..
.
0

れている.
を満たす(唯一な)ベクトル場(縦ベクトル値関数)
1, 2, · · · , n で
···
0
0
Lf φ1 (x)
Lf h(x)
0
0
1
0
p1 (y) =
b) ベクトル場 τ (x) を

0
..
.
0
であり,これらの関数が出力 y の関数になることが証明さ
a) {dh(x), dLf h(x), · · · , dLn−1
h(x)} が任意の点 x にお
f
いて(実ベクトルの意味で)線形独立である.
L(−1)j−1 adj−1 τ φi (x)
=
1
..
.
···
..
.
..
.
..
.
0
となる.ここで
で定義される行ベクトル値関数である.

 dLf h(x)


..

.


n−2
dL
h(x)

f
n−1
dLf h(x)









∂φ
dφ(x) =
∂x

(19)
で与えられ,この座標変換によりシステムは
dξˆ
ˆ + H(y − C ξ)
ˆ
= Aξˆ + k(y) + ḡ(ξ)u
dt
dh(x)





φn (x)
可能となる.また,この条件を満たさない場合にも


φ1 (x)
φ2 (x)
..
.
∂h
= C
∂x
∂
Lf h(x) = CA
=
∂x
= CA2
=
(24)
= CAn−1
であるから,定理の条件 (a) はシステムの可観測性の条件
と考えることができる.
0,
i = j
1,
i=j
多出力系のオブザーバの線形化は Krener と Respon-
(18)
dek[4] により解かれている.
2
条件 (b) は [ad0f τ, ad1f τ ](x) を計算するだけでチェックでき
[例題]
る.[ad0f τ, ad1f τ ](x) を計算すれば
次のシステムを考える.
x1
x2
0
d
=
+
u
dt
ex1
x2
−x21 − x1 x2
def
y
=
f (x) + g(x)u
=
x1
def
=
[ad0f τ, ad1f τ ](x)
∂ad1f τ 0
∂ad0f τ 1
adf τ (x) −
adf τ (x)
∂x
∂x
0 0
0
− 0 · ad1f τ (x)
1 0
1
0
(34)
0
=
=
(25)
=
h(x)
まず,h(x) と f (x) についてオブザーバの厳密な線形化を
となり,定理の条件 (b) が満たされていることがわかる.
考える.
(座標変換の決定)
(19) の座標変換を求める為に (18) を満たす φi (x) を求
(定理の条件のチェック)
まず,定理の条件 (a) が満たされていることを確かめる.
h(x)
=
x1
Lf h(x)
=
∂h
f (x) = (1 0)
∂x
=
x2
x2
−x21
める.(18) は次のように表わすことができる.
(26)
− x1 x2
=
dLf h(x)
=
∂h
= (1 0)
∂x
∂
Lf h(x) = (0 1)
∂x
L−ad1f τ φ1 (x) = 0
Lad0f τ φ2 (x) = 0,
L−ad1f τ φ2 (x) = 1
=
(28)
(29)
L−ad1f τ φ1 (x)
となり,dh(x) と dLf h(x) は独立となる.よって定理の条
を満たすものだから
0
τ (x) =
1
と一意に定まる.また
Lad0f τ φ2 (x)
=
=
= τ (x) =
ad1f τ (x)
= [f, ad0f τ ](x)
0
∂φ1
∂x2
∂φ1
∂x1
∂φ2
∂x2
∂φ2
∂x1
(32)
∂ad0f τ
∂f 0
f (x) −
adf τ (x)
∂x
0
0
1
= 0 · f (x) −
1
−2x1 − x2 −x1
−1
=
(33)
x1
∂x
=
−[ad1f τ, ad0f τ ](x)
∂φ1
∂x2
1
−x1
∂φ1
∂φ1
−
x1
∂x1
∂x2
0
∂φ2
∂φ2
∂x1
∂φ2
∂x2
∂φ2
∂x1
∂x2
(37)
1
(38)
∂φ2
∂x2
1
−x1
∂φ2
∂φ2
−
x1
∂x1
∂x2
(39)
=1
−
∂φ1
x1 = 0
∂x2
=0
−
∂φ2
x1 = 1
∂x2
(40)
(41)
(42)
(43)
を満たさなければならない.簡単な計算により次の関数
φi (x) がこれらの式を満たすことがわかる.
φ1 (x)
である.Lie bracket の定義より [adif τ, adif τ ](x) = 0,
[ad0f τ, ad1f τ ](x)
(36)
であるから φi (x) は
1
∂φ1
∂x1
=
(31)
ad0f τ (x)
=
=
(30)
L−ad1f τ φ2 (x)
∂φ1
∂x2
=
=
件 (a) が満たされている.次に定理の条件 (b) について調
べる.定理で定義されている (16) の τ (x) は
dh(x)
0
1 0
τ (x) =
τ (x) =
dLf h(x)
0 1
1
(35)
Lie 微分の定義にしたがってこれらの左辺を計算すれば
0
∂φ1
∂φ1
Lad0f τ φ1 (x) =
∂x1
∂x2
1
(27)
であるから
dh(x)
Lad0f τ φ1 (x) = 1,
であるから,定理の
φ2 (x)
3
1
= x2 + x21
2
= x1
(44)
(45)
これらの φi (x) を用いて (19) に従って座標変換 ξ = T (x)
ここで x̂ = (x̂1 , x̂2 , · · · , x̂n )T ∈ Rn とする.システム (51)
を
がシステム (1) のオブザーバであるとはシステム (51) が
ξ=
ξ1
ξ2
=
1 2
2 x1
x2 +
x1
以下の条件 A,B を満たすことである.
(46)
(条件 A)
と定義する.この座標変換の逆変換は
x1
ξ2
=
x2
ξ1 − 12 ξ22
ある時刻 t0 において x̂(t0 ) = x(t0 ) ならばすべての t ≥ t0
において (入力 u(t) と出力 y(t) に関わらず)x̂(t) = x(t) と
(47)
なる.□
となる.この座標変換により元のシステムは
dξ
dt
=
=
=
=
y
=
(条件 B)
∂ξ dx
∂x
dt
x1 1
1
−x21
0
x2
+
−ξ22
ξ1 − 12 ξ22
x2
−x21
e
x1
0
+
− x1 x2
+
u
ξ2
e
0
0
ex1
u
これらの条件のうち (条件 A) はシステム (51) の形を以
下のように仮定することにより容易に満たすことができる.
(48)
u
y
dx̂
= f (x̂) + g(x̂)u + k(h(x̂) − y)
dt
ただしここで k( · ) は
k(0) = 0
x1 = ξ2
(52)
(53)
を満たすものとする.このようなシステムはある時刻 t0
となる.y = ξ2 であることに注意すれば,このシステムは
−y 2
ey
dξ
=
+
u
dt
ξ1 − 12 y 2
0
−y 2
0 0
ey
ξ+
=
u
+
1 0
− 21 y 2
0
def
t → ∞ のとき x̂(t) → x(t).□
で x̂(t0 ) = x(t0 ) となれば y(t0 ) = h(x(t0 )) = h(x̂(t0 )) よ
り k(h(x̂(t0 )) − y(t0 )) = 0 となり,t ≥ t0 で
dx̂
dt
= f (x̂) + g(x̂)u
(54)
x̂(t0 ) = x(t0 )
=
Aξ + p(y) + r(y)u
=
(0, 1)ξ
テムで表わされる.これは t ≥ t0 で x̂(t) = x(t),つまり
Cξ
条件 A が満たされることを示す.このように条件 A を満
def
=
(49)
と元のシステム (1) と同じ状態方程式,同じ初期値のシス
たすシステムを設計することは簡単なので,非線形システ
と表わされ,(6) の形となる.このシステムの状態 ξ の推
ムに対するオブザーバの研究は如何に条件 B が満たされ
定値 ξ̂ を推定するに対する線形誤差応答オブザーバは (7)
るようにシステムを設計するか,つまり (52) のオブザー
で,状態 x の推定値 x̂ は (9) と (47) より状態 ξi の推定値
を ξ̂i として
x̂1
ξˆ2
=
x̂2
ξˆ1 − 12 ξˆ22
バゲイン関数 k(·) を如何に求めるかという問題に帰着さ
れる.
条件 B を満たすように k(·) を求める問題はシステムの
(50)
安定性に深く関わる問題である.しかし,非線形システム
の安定性を簡単に保証する統一的理論(特に大域的な安定
により求められる.
性)はまだ十分確立されていない.そのため条件 B を満
2.2
たすオブザーバゲインを求める問題を解くことは容易では
指数オブザーバ
なく,オブザーバの設計理論はどうしても各論的になって
しまう.
前節の線形誤差応答オブザーバは線形システム理論に帰
さて,実際に有用なオブザーバは条件 B よりも強い条件
C を満たすものであり,指数オブザーバと呼ばれている.
着させるため,オブザーバゲイン K の設計や誤差応答の
解析が容易である.しかし,オブザーバを設計可能なシス
テムが限られる.ここでは一般的なシステムにも対応でき
条件 B ではオブザーバ誤差 ε = x − x̂ の漸近安定性しか
るオブザーバの設計方法を考える.
要求していないのに対して条件 C では指数安定性を要求
している.
(1) に対して次のようなシステムを考える.
dx̂
= fˆ(x̂, u, y)
dt
(51)
(条件 C)
4
2.3
ある正の数 M , a が存在して t > 0 で
x(t) − x̂(t) ≤ M x(0) − x̂(0)e−at
(55)
積極的に非線形性を打ち消すオブザーバ
基のシステム (1) に対する従来型の非線形オブザーバの
一般形は前節の (52) である.しかし,基のシステムが
を満たす.□
dx
dt
y
このようなオブザーバの設計に関しては文献 [5-7] にお
いて議論されている.しかし,それらの議論の中心は安定
= f (x, y) + g(x, y)u
= h(x)
(61)
論に関してであり,各論的なオブザーバの設計法を述べて
で表されている場合(状態方程式の一部に出力 y を陽に含
いるにすぎない.つまり,ある特殊なシステムに対するオ
む場合)には
ブザーバであるか,オブザーバの形を固定した場合の安定
Kou ら [5] は非線形システムに対する指数オブザーバの
dx̂
= f (x̂, y) + g(x̂, y)u + k(y − h(x̂))
(62)
dt
のように出力で分かる非線形性を積極的に打ち消すオブ
概念を定義し,オブザーバの安定論を議論している.Kou
ザーバの設計法も考えられる.後は誤差応答が指数安定と
らはオブザーバの指数安定論を Lyapnov 関数の存在性に
なるように k(·) を決定すればよい.
性についてである.
帰着させ以下の定理を与えた.入力のない(多出力)シス
テム
dx
dt
y
= f (x)
3
(56)
オブザーバを用いたフィードバック
系の安定性
= h(x)
一般に状態フィードバックを設計するときには状態が利
に対して
用可能と仮定して,出力方程式 y = h(x) を無視する.ま
dx̂
= f (x̂) + K{h(x̂) − y}
dt
た,本解説でオブザーバを設計するときには入力を無視し
(57)
て,入力が存在しないシステムを考えていた.これらを組
(K は定数行列) なるオブザーバ(の候補)を考える.
み合わせた補償器により閉ループ系が安定となることは次
の定理により保証されている [9].
【定理】
正定な行列 P > 0 と正数 ε > 0 が存在して
∂h
∂f
∂h
∂f
+K )+(
+ K )T P ≤ −2εI
P(
∂x
∂x
∂x
∂x
【定理】
u = ζ(x) をシステム (1) の原点 x = 0 を漸近安定平衡点
(58)
する状態フィードバックとする.またシステム
をすべての x において満たすとする.このとき (57) は (56)
の指数オブザーバとなり,
1/2
p2
x̂(t) − x(t) ≤
x̂(0) − x(0)e−(ε/p2 )t
p1
(65)
の指数安定な平衡点であるとする.このときシステム (1) を
システム (56) の近似線形化システムを考える.
(60)
C=
(64)
x̂˙ = γ(x̂, 0)
この定理は大域的なオブザーバの安定性を論じているが
局所的な議論をすれば以下のように考えることができる.
= Cx + O2 (x)
∂f
|x=0 ,
A=
∂x
γ(x, h(x)) = f (x)
を満たし,かつ x̂ = 0 が
大固有値である.□
= Ax + O2 (x)
(63)
が
(59)
を満たす.ただしここで p1 , p2 はそれぞれ P の最小,最
dx
dt
y
x̂˙ = γ(x̂, y)
x̂˙
= γ(x̂, y) + g(x̂)u
u
= ζ(x̂)
(66)
なる補償器により制御すれば,閉ループ系において (x, x̂) =
∂h
|x=0
∂x
(0, 0) は漸近安定な平衡点となる.□
定理の (64) は基のシステムが (1)(2) で表されている場
これを用いてオブザーバ (57) のゲイン K を (A + KC) が
合にはシステム (63) が
十分安定になるように設計すれば,原点 x = 0, x̂ = 0 の
近傍に状態 x, x̂ が留まる限り,システム (57) が指数オブ
x̂˙
ザーバになることを定理は示している.
= γ(x̂, y) = f (x̂) + k(h(x̂) − y)
k(0) = 0
5
(67)
の形をしていれば常に成り立つ.また,基のシステムが
ここで設計したオブザーバはすべて指数安定性が補償され
(61) で表されている場合には (63) を
るので問題はない.
x̂˙ =
γ(x̂, y) = f (x̂, y) + k(h(x̂) − y)
(68)
k(0) = 0
4
と選べば常に成り立つ.これらはシステム (63) が入力のな
入出力関係の線形化
ここではフィードバックを用いて入出力関係のみを線形
いシステム((1)(2) の場合には dx/dt = f (x), y = h(x),
化することを考える.1入出力系の入出力の厳密な線形化
(61) の場合には dx/dt = f (x, y), y = h(x))に対してオ
ブザーバの条件 A を満たしていることを示している.ま
手法は入力 u が現われるまで出力 y を繰り返し時間微分
た (65) は出力 y が恒等的に零の場合のシステム (63) の指
し,u が現われた時点で非線形性をすべてキャンセルする
数安定性を求めている.これは指数オブザーバの条件 C
ようにフィードバックを決定するというものである.
1入力1出力システム (1) において次を満たす自然数 ρ
より弱いオブザーバの収束(安定)条件と考えることがで
が存在すると仮定する.
きる.つまり,厳密さを要求しないならば (63) はシステ
ム (1) の入力を無視したシステム(入力を恒等的に零とし
たシステム)の指数オブザーバと考えることができる.ま
た (66) の状態方程式は γ(x̂, y) を (67) の形に選んだ場合
には
dx̂
= f (x̂) + g(x̂)u + k(h(x̂) − y)
dt
Lg Lif h(x)
=
0,
i = 0, 1, · · · , ρ − 2
(70)
Lg Lfρ−1 h(x)
=
0,
∀x
(71)
このような ρ が存在するとき,出力 y = h(x) の時間微分
を繰り返せば
(69)
基に入力を考慮したオブザーバ (52) を設計したことにな
=
る.(61) で表されるシステムに対して (68) を用いて場合
=
∂h dx
∂x dt
∂h
(f (x) + g(x)u)
∂x
Lf +gu h(x)
も同様である.
=
Lf h(x) + uLg h(x)
=
=
Lf h(x)
d dy
dt dt
d
Lf h(x)
dt
Lf +gu Lf h(x)
ここでの議論は原点が安定な平衡点であるか否かだけで
=
Lf Lf h(x) + uLg Lf h(x)
あるので,原点に収束する状態空間の範囲や,その応答が
=
..
.
L2f h(x)
=
Lfρ−1 h(x) + uLg Lfρ−2 h(x)
=
Lfρ−1 h(x)
=
Lρf h(x) + uLg Lfρ−1 h(x)
dy
dt
となり,入力を考慮したオブザーバ (52) の形をしている
ことが分かる.これは入力を無視したオブザーバ (67) を
この定理はシステム (1) を漸近安定化する状態フィード
バック u = ζ(x) を指数安定なオブザーバを用いて u = ζ(x̂)
=
2
d y
dt2
で実現すれば,少なくとも原点 (x, x̂) = (0, 0) は漸近安定
な平衡点になる,つまり,原点近傍に初期値がある限り,
=
=
閉ループ系の状態 (x, x̂) が原点に収束することを示して
いる.
どうなるかについては議論していない.そのため,厳密な
線形化を用いて設計した状態フィードバックと線形誤差応
dρ−1 y
dtρ−1
答をもつオブザーバを用いた補償器の有効範囲と閉ループ
系の挙動が近似線形システムに比べて改善されるどうかは
dρ y
dtρ
一般的には分からない.しかし,状態フィードバックとオ
ブザーバの有効範囲が広ければ,これらを組み合わせた補
償器の有効範囲も広くなることが期待できる.
(72)
ρ−1
h(x) = 0 であるから,出力
y を ρ 階時間微分したときに初めて入力 u が影響したこと
を得る.ρ の定義より Lg Lf
さて,この定理で重要なことは状態フィードバックには
漸近安定性だけが要求されているのに対してオブザーバ
になる.これは ρ が線形システムにおける相対次数に相
には漸近安定性より強い指数安定性が要求されているこ
当することを示している.新しい入力を v としてフィード
とである.これが逆の場合,つまり,状態フィードバック
バックを
u = ζ(x) がシステムを指数安定化しても,オブザーバ (65)
u
が漸近安定ではあるが指数安定ではない場合には,これ
らを組み合わせた補償器 (66) によって原点が不安定な平
衡点になる場合があるので注意が必要である [9].ただし,
6
= α(x) + β(x)v
−Lρf h(x)
1
+
v
=
ρ−1
ρ−1
Lg Lf h(x) Lg Lf h(x)
(73)
と定義すれば明らかに
非線形不可観測な状態 η の挙動は zero dynamics と呼ば
れ,線形システムの零点と対応している.
ρ
d y
=v
dtρ
(74)
このように入出力の線形化は入出力関係に関係するとこ
ろのみを線形化し,非線形性の残る部分は不可観測にして
となる.いま状態の一部 ξ を



ξ=


y
ẏ
..
.
dρ−1 y
dtρ−1


h(x)
 
  Lf h(x)
=
..
 
 
.
(臭いところに蓋をして)入出力に現れないようにする線






形化と考えることができる.
(75)
[例題]
Lfρ−1 h(x)
と定義し,残りの状態関数 η = T2 (x) を
ξ
x →
η
例として次のシステムの入出力線形化問題を考える.

  


x1
tan x2
0
d 

  

=
+
 x2 
 x3   1  u
dt
x3
x1 x2
1
(76)
y
が座標変換になる(逆関数が存在する)ように決定できた
=
dy
dt
Aξ + Bv
=
=
=
ζ1 (ξ, η) + ζ2 (ξ, η)v
=
Cξ
d2 y
dt2
(77)
=
=
となる.ここで

A =










B
C
=
=








0
1
0
0
..
.
0
..
.
1
..
.
0
0
0

··· 0
. 
..
. .. 


..
. 0 


..

. 1 
0
0

0
··· 0
0







0 
1
0
..
.
=
=
=
=
Lf˜T2 (x)
ζ2 (ξ, η) =
Lg̃ T2 (x)
f˜(x)
=
f (x) + g(x)α(x)
g̃(x)
=
g(x)β(x)
dx1
dt
tan x2
d dy
dt dt
d
tan x2
dt
∂
dx2
tan x2
∂x2
dt
dx2
1
cos2 x2 dt
1
(x3 + u)
cos2 x2
1
x3
+
u
cos2 x2
cos2 x2
となる.このとき y を2階時間微分したときに初めて入力
u が現われていることに注意する.ここで新しい座標 ξ1 ,
ξ2 とフィードバック(v は新しい入力)を
(78)
ξ1
ξ2
(1 0 · · · 0 0)
ζ1 (ξ, η) =
(79)
x1
出力 y を時間微分すれば
とすればフィードバックを施したシステムの状態方程式は
dξ
dt
dη
dt
y
=
u
= y = x1
dy
= tan x2
=
dt
= −x3 + (cos2 x2 )v
と定義すると
ξ1
d
dt
ξ2
=
0 1
0 0
である.このようにシステムはフィードバックと座標変換
y
により線形可観測な状態 ξ と非線形不可観測な状態 η に
=
1 0
ξ1
ξ2
ξ1
+
0
1
v
ξ2
分解されている.入出力に着目すればこのシステムは線形
なる線形状態方程式と線形出力方程式を得る.つまりシス
である.また,この非線形不可観測な状態 η が安定である
テムの入力から出力までが線形化されていることがわか
ならば,線形な部分 ξ のみを安定化することにより,シス
る.もとのシステム (79) が3次のシステムであるのに対
テム全体を安定化することができる.このようなシステム
して線形化されたシステムが2次であることから,線形化
は線形システムの最小位相系に相当する.
する際に不可観測な状態が生まれていることがわかる.こ
7
[4] A.J.Krener and W.Respondek: Nonlinear Observers
with Linearizable Error Dynamics, SIAM J.of Con-
の例における不可観測な状態は x3 である.線形化フィー
ドバックを施したときの x3 の挙動は
dx3
dt
trol and Optimization vol.23, no.2, 197/216 (1985)
= x1 x2 + u
= x1 x2 + {−x3 + (cos2 x2 )v}
−1
= ξ1 tan
[5] S.R.Kou, D.L.Elliott and T.J.Tarn: Exponential Ob−1
ξ2 − x3 + {cos (tan
2
servers for Nonlinear Dynamic Systems, Information
and Control, vol.29, 204/216 (1975)
ξ2 )}v
で表わされるが,この状態は出力に影響しない.また,ξ =
[6] S.P.Banks: A Note on Non-Linear Observers, Int. J.
of Control, vol.34, no.1, 185/190 (1981)
0,v = 0 の時の状態 x3 は
dx3
dt
= −x3
[7] X.Xia and W. Gao: On Exponential Observers for
Nonlinear Systems, Systems and Control Letters,
vol.11, 319/325 (1988)
となるので安定である.つまり,非線形かつ不可観測な状
態 x3 は安定である.この場合には線形化された状態 ξ を
[8] 三平, 石川: 非線形オブザーバを用いた車両の位置推
定, 第23回制御理論シンポジウム, 297/300 (1994)
安定化することによりシステム全体を安定化することがで
きる.
[9] C.I.Byrnes and A.Isidori: Steady State Response,
多入出力システムの入出力線形化する方法は Isidori と
Separation Principle and the Output Regulation
of Nonlinear Systems, Proc.of the 28th CDC,
Ruberti[10] によりボルテラ級数展開を用いて定式化され,
構造アルゴリズムを用いて解かれている.詳細については
2247/2251 (1989)
[1,2] が詳しい.
[10] A.Isidori and A.Ruberti: On the Synthesis of Lin-
5
ear Input-Output Responses for Nonlinear Systems,
Systems and Control Letters, vol.4, no.1, 17/22
おわりに
(1984)
ここではオブザーバの設計,状態フィードバック+オブ
ザーバ併合系の安定性,入出力線形化について解説した.
状態方程式の線形化も含めて,これらの手法は如何に頭を
柔らかくして非線形性に対処するかということになると考
える.状態フィードバックの設計では嫌らしい非線形性を
状態フィードバックでたたきつぶし,座標変換でひねるこ
とにより線形にし,オブザーバの設計では測定できる非線
形性(出力の関数)は出力で打ち消し,はたまた入出力線
形化では非線形でいやな部分は不可観測にして入出力関係
から追いやっている.
ここで述べた手法の根底になっている考え方を理解して
いれば,たとえ,ここで述べた方法が使えないシステムの
設計をしなくてはならなくなったとしても,新しい創造的
な制御系の設計が可能となるものと確信している.
参考文献
[1] 石島, 石動, 三平, 島, 山下, 渡辺: 非線形システム論,
計測自動制御学会 (1993)
[2] A.Isidori: Nonlinear Control Systems, SpringerVerlag (1st ed. 1985, 2nd ed. 1989)
[3] A.J.Krener and A.Isidori: Linearization by Output Injection and Nonlinear Observers, Systems and
Control Letters, vol.3, 47/52 (1983)
8