オブザーバの設計と入出力の線形化 三平満司(東京工業大学) 1 に変換される((C, A) 可観測)と仮定する.ここで状態方 はじめに 程式の非線形項である p(y) と r(y) が出力 y のみの関数で ここではオブザーバの設計と入出力線形化について考え あることに注意する.このシステムに対して次の同一次元 る.ここで扱うシステムは次の状態方程式で表される1入 = f (x) + g(x)u (1) オブザーバを考える. dξˆ = Aξˆ + p(y) + r(y)u + K(C ξˆ − y) dt = h(x) (2) このときオブザーバ誤差を ε = ξ − ξ̂ とすると ε の挙動は 力1出力系である. dx dt y dε dt 2 オブザーバの設計 システムの状態が利用でない場合にはオブザーバを用い = dξ dξˆ − dt dt ˆ A(ξ − ξ̂) + KC(ξ − ξ) = (A + KC)ε = (7) (8) てシステムの状態を推定し,状態フィードバックを実現す となり,非線形要素 p(y), r(y) と入力 u の影響を受けな る必要がある.ここでは線形誤差応答オブザーバと指数オ い,厳密に線形な自律系で表わされることになる.さらに ブザーバについて紹介する. (C, A) が可観測であるから (A + KC) の固有値は K によ り任意に設定できる.つまり,ξˆ の真値 ξ への収束の度合 2.1 を任意に設定することができる.さらにもとの状態 x の 線形誤差応答オブザーバ 推定値 x̂ は ˆ x̂ = T −1 (ξ) 状態方程式の厳密な線形化問題の双対問題として,状 態から出力までの厳密な線形化問題が定式化されている で求めることができる. [1-4].これが線形誤差応答オブザーバの設計方法である. 一般的にシステム (1) は座標変換 ξ = T (x) このようにシステム (1) を座標変換により (6) のシステ ムに変換できればオブザーバ誤差 ε の挙動が線形となる オブザーバを設計することができる.このようなオブザー (3) バを線形誤差応答オブザーバと呼ぶことにする.これは状 により ξ 座標系でのシステム dξ dt = ∂ξ dx ∂x dt ∂T {f (x) + g(x)u} ∂x ∂T ∂T f (T −1 (ξ)) + g(T −1 (ξ))u ∂x ∂x f¯(ξ) + ḡ(ξ)u = h(T −1 (ξ)) = h̄(ξ) = = = def y def 態−出力間の厳密な線形化であり,座標変換でシステムを ひねって,出力により観測できる非線形性を打ち消す線形 化と考えることができる. 以下では簡単のため次の1出力の自律系 dx = f (x) dt y = h(x) (4) ḡ(ξ) = r(y), h̄(ξ) = Cξ dξ dt y (5) {Aξ + p(y)} + r(y)u = Cξ f¯(ξ) = Aξ + p(y) = h̄(ξ) = Cξ (11) システム (11) に対して誤差の挙動が線形になるオブザー つまり ξ 座標系でシステムが = = なるシステム((C, A) 可観測)に変換することを考える. となるように座標変換 T (x) が選ばれていると仮定する. dξ dt y (10) を考え,このシステムを座標変換 ξ = T (x) により に変換される.いま f¯(ξ), ḡ(ξ), h̄(ξ) が f¯(ξ) = Aξ + p(y), (9) バは dξˆ (6) dt 1 = Aξˆ + p(y) + K(C ξˆ − y) (12) で与えられ,オブザーバ誤差 ε = ξ − ξˆ は dε dt を満たすスカラー関数 φi (x), (φi (0) = 0) が必ず存在する ことが証明されている.この φi (x) を用いてシステム (10) = (A + KC)ε (13) を (11) に変換する座標変換の一つは と線形システムで表わされる. ξ = T (x) = 入力のあるシステム (1) は同じ座標変換 T (x) により ḡ(ξ) = (∂T /∂x)g(x) が ḡ(ξ) = r(y) のように出力 y の みの関数で表わされるとき,オブザーバの厳密な線形化が (14) とするならば,ある意味でこのシステムは基のシステムの 指数安定オブザーバとなる [9]. dξ dt Krener と Isidori[3] は線形誤差オブザーバの設計の可能 性に関して次の定理が成り立つことを示した.ここでスカ = ラー関数 φ(x) の外微分 dφ(x) は y (15) 【定理】 システム (10) に対して座標変換 ξ = T (x) が存在して (10) が ξ 座標系で (11) と表わされるための必要十分条件 は,次の2つの条件を同時に満たすことである. τ (x) = 0 .. . 0 1 0 ··· 0 1 Lf φi (x) − φi−1 (x) L2f h(x) p1 (y) p2 (y) 0 ξ + (y) p 3 0 . .. .. . p (y) n 0 ξ (20) (21) i = 2, 3, · · · , n (22) = Cx ∂h f (x) = CAx = ∂x ∂ Lf h(x) f (x) = CA2 x = ∂x (23) .. . (16) h(x) Ln−1 f = CAn−1 x より dh(x) dLf h(x) [adif τ (x), adjf τ (x)] = 0 dL2f h(x) .. . (17) □ h(x) dLn−1 f 定理の条件が満たされるとき i = 1, 2, · · · , n; j = = 0 pi (y) = h(x) 対して成り立つ. f 1 線形システム f (x) = Ax, h(x) = Cx の場合には とするとき,次式が 0 ≤ i ≤ n − 1; 0 ≤ j ≤ n − 1 に 0 0 .. . 0 れている. を満たす(唯一な)ベクトル場(縦ベクトル値関数) 1, 2, · · · , n で ··· 0 0 Lf φ1 (x) Lf h(x) 0 0 1 0 p1 (y) = b) ベクトル場 τ (x) を 0 .. . 0 であり,これらの関数が出力 y の関数になることが証明さ a) {dh(x), dLf h(x), · · · , dLn−1 h(x)} が任意の点 x にお f いて(実ベクトルの意味で)線形独立である. L(−1)j−1 adj−1 τ φi (x) = 1 .. . ··· .. . .. . .. . 0 となる.ここで で定義される行ベクトル値関数である. dLf h(x) .. . n−2 dL h(x) f n−1 dLf h(x) ∂φ dφ(x) = ∂x (19) で与えられ,この座標変換によりシステムは dξˆ ˆ + H(y − C ξ) ˆ = Aξˆ + k(y) + ḡ(ξ)u dt dh(x) φn (x) 可能となる.また,この条件を満たさない場合にも φ1 (x) φ2 (x) .. . ∂h = C ∂x ∂ Lf h(x) = CA = ∂x = CA2 = (24) = CAn−1 であるから,定理の条件 (a) はシステムの可観測性の条件 と考えることができる. 0, i = j 1, i=j 多出力系のオブザーバの線形化は Krener と Respon- (18) dek[4] により解かれている. 2 条件 (b) は [ad0f τ, ad1f τ ](x) を計算するだけでチェックでき [例題] る.[ad0f τ, ad1f τ ](x) を計算すれば 次のシステムを考える. x1 x2 0 d = + u dt ex1 x2 −x21 − x1 x2 def y = f (x) + g(x)u = x1 def = [ad0f τ, ad1f τ ](x) ∂ad1f τ 0 ∂ad0f τ 1 adf τ (x) − adf τ (x) ∂x ∂x 0 0 0 − 0 · ad1f τ (x) 1 0 1 0 (34) 0 = = (25) = h(x) まず,h(x) と f (x) についてオブザーバの厳密な線形化を となり,定理の条件 (b) が満たされていることがわかる. 考える. (座標変換の決定) (19) の座標変換を求める為に (18) を満たす φi (x) を求 (定理の条件のチェック) まず,定理の条件 (a) が満たされていることを確かめる. h(x) = x1 Lf h(x) = ∂h f (x) = (1 0) ∂x = x2 x2 −x21 める.(18) は次のように表わすことができる. (26) − x1 x2 = dLf h(x) = ∂h = (1 0) ∂x ∂ Lf h(x) = (0 1) ∂x L−ad1f τ φ1 (x) = 0 Lad0f τ φ2 (x) = 0, L−ad1f τ φ2 (x) = 1 = (28) (29) L−ad1f τ φ1 (x) となり,dh(x) と dLf h(x) は独立となる.よって定理の条 を満たすものだから 0 τ (x) = 1 と一意に定まる.また Lad0f τ φ2 (x) = = = τ (x) = ad1f τ (x) = [f, ad0f τ ](x) 0 ∂φ1 ∂x2 ∂φ1 ∂x1 ∂φ2 ∂x2 ∂φ2 ∂x1 (32) ∂ad0f τ ∂f 0 f (x) − adf τ (x) ∂x 0 0 1 = 0 · f (x) − 1 −2x1 − x2 −x1 −1 = (33) x1 ∂x = −[ad1f τ, ad0f τ ](x) ∂φ1 ∂x2 1 −x1 ∂φ1 ∂φ1 − x1 ∂x1 ∂x2 0 ∂φ2 ∂φ2 ∂x1 ∂φ2 ∂x2 ∂φ2 ∂x1 ∂x2 (37) 1 (38) ∂φ2 ∂x2 1 −x1 ∂φ2 ∂φ2 − x1 ∂x1 ∂x2 (39) =1 − ∂φ1 x1 = 0 ∂x2 =0 − ∂φ2 x1 = 1 ∂x2 (40) (41) (42) (43) を満たさなければならない.簡単な計算により次の関数 φi (x) がこれらの式を満たすことがわかる. φ1 (x) である.Lie bracket の定義より [adif τ, adif τ ](x) = 0, [ad0f τ, ad1f τ ](x) (36) であるから φi (x) は 1 ∂φ1 ∂x1 = (31) ad0f τ (x) = = (30) L−ad1f τ φ2 (x) ∂φ1 ∂x2 = = 件 (a) が満たされている.次に定理の条件 (b) について調 べる.定理で定義されている (16) の τ (x) は dh(x) 0 1 0 τ (x) = τ (x) = dLf h(x) 0 1 1 (35) Lie 微分の定義にしたがってこれらの左辺を計算すれば 0 ∂φ1 ∂φ1 Lad0f τ φ1 (x) = ∂x1 ∂x2 1 (27) であるから dh(x) Lad0f τ φ1 (x) = 1, であるから,定理の φ2 (x) 3 1 = x2 + x21 2 = x1 (44) (45) これらの φi (x) を用いて (19) に従って座標変換 ξ = T (x) ここで x̂ = (x̂1 , x̂2 , · · · , x̂n )T ∈ Rn とする.システム (51) を がシステム (1) のオブザーバであるとはシステム (51) が ξ= ξ1 ξ2 = 1 2 2 x1 x2 + x1 以下の条件 A,B を満たすことである. (46) (条件 A) と定義する.この座標変換の逆変換は x1 ξ2 = x2 ξ1 − 12 ξ22 ある時刻 t0 において x̂(t0 ) = x(t0 ) ならばすべての t ≥ t0 において (入力 u(t) と出力 y(t) に関わらず)x̂(t) = x(t) と (47) なる.□ となる.この座標変換により元のシステムは dξ dt = = = = y = (条件 B) ∂ξ dx ∂x dt x1 1 1 −x21 0 x2 + −ξ22 ξ1 − 12 ξ22 x2 −x21 e x1 0 + − x1 x2 + u ξ2 e 0 0 ex1 u これらの条件のうち (条件 A) はシステム (51) の形を以 下のように仮定することにより容易に満たすことができる. (48) u y dx̂ = f (x̂) + g(x̂)u + k(h(x̂) − y) dt ただしここで k( · ) は k(0) = 0 x1 = ξ2 (52) (53) を満たすものとする.このようなシステムはある時刻 t0 となる.y = ξ2 であることに注意すれば,このシステムは −y 2 ey dξ = + u dt ξ1 − 12 y 2 0 −y 2 0 0 ey ξ+ = u + 1 0 − 21 y 2 0 def t → ∞ のとき x̂(t) → x(t).□ で x̂(t0 ) = x(t0 ) となれば y(t0 ) = h(x(t0 )) = h(x̂(t0 )) よ り k(h(x̂(t0 )) − y(t0 )) = 0 となり,t ≥ t0 で dx̂ dt = f (x̂) + g(x̂)u (54) x̂(t0 ) = x(t0 ) = Aξ + p(y) + r(y)u = (0, 1)ξ テムで表わされる.これは t ≥ t0 で x̂(t) = x(t),つまり Cξ 条件 A が満たされることを示す.このように条件 A を満 def = (49) と元のシステム (1) と同じ状態方程式,同じ初期値のシス たすシステムを設計することは簡単なので,非線形システ と表わされ,(6) の形となる.このシステムの状態 ξ の推 ムに対するオブザーバの研究は如何に条件 B が満たされ 定値 ξ̂ を推定するに対する線形誤差応答オブザーバは (7) るようにシステムを設計するか,つまり (52) のオブザー で,状態 x の推定値 x̂ は (9) と (47) より状態 ξi の推定値 を ξ̂i として x̂1 ξˆ2 = x̂2 ξˆ1 − 12 ξˆ22 バゲイン関数 k(·) を如何に求めるかという問題に帰着さ れる. 条件 B を満たすように k(·) を求める問題はシステムの (50) 安定性に深く関わる問題である.しかし,非線形システム の安定性を簡単に保証する統一的理論(特に大域的な安定 により求められる. 性)はまだ十分確立されていない.そのため条件 B を満 2.2 たすオブザーバゲインを求める問題を解くことは容易では 指数オブザーバ なく,オブザーバの設計理論はどうしても各論的になって しまう. 前節の線形誤差応答オブザーバは線形システム理論に帰 さて,実際に有用なオブザーバは条件 B よりも強い条件 C を満たすものであり,指数オブザーバと呼ばれている. 着させるため,オブザーバゲイン K の設計や誤差応答の 解析が容易である.しかし,オブザーバを設計可能なシス テムが限られる.ここでは一般的なシステムにも対応でき 条件 B ではオブザーバ誤差 ε = x − x̂ の漸近安定性しか るオブザーバの設計方法を考える. 要求していないのに対して条件 C では指数安定性を要求 している. (1) に対して次のようなシステムを考える. dx̂ = fˆ(x̂, u, y) dt (51) (条件 C) 4 2.3 ある正の数 M , a が存在して t > 0 で x(t) − x̂(t) ≤ M x(0) − x̂(0)e−at (55) 積極的に非線形性を打ち消すオブザーバ 基のシステム (1) に対する従来型の非線形オブザーバの 一般形は前節の (52) である.しかし,基のシステムが を満たす.□ dx dt y このようなオブザーバの設計に関しては文献 [5-7] にお いて議論されている.しかし,それらの議論の中心は安定 = f (x, y) + g(x, y)u = h(x) (61) 論に関してであり,各論的なオブザーバの設計法を述べて で表されている場合(状態方程式の一部に出力 y を陽に含 いるにすぎない.つまり,ある特殊なシステムに対するオ む場合)には ブザーバであるか,オブザーバの形を固定した場合の安定 Kou ら [5] は非線形システムに対する指数オブザーバの dx̂ = f (x̂, y) + g(x̂, y)u + k(y − h(x̂)) (62) dt のように出力で分かる非線形性を積極的に打ち消すオブ 概念を定義し,オブザーバの安定論を議論している.Kou ザーバの設計法も考えられる.後は誤差応答が指数安定と らはオブザーバの指数安定論を Lyapnov 関数の存在性に なるように k(·) を決定すればよい. 性についてである. 帰着させ以下の定理を与えた.入力のない(多出力)シス テム dx dt y = f (x) 3 (56) オブザーバを用いたフィードバック 系の安定性 = h(x) 一般に状態フィードバックを設計するときには状態が利 に対して 用可能と仮定して,出力方程式 y = h(x) を無視する.ま dx̂ = f (x̂) + K{h(x̂) − y} dt た,本解説でオブザーバを設計するときには入力を無視し (57) て,入力が存在しないシステムを考えていた.これらを組 (K は定数行列) なるオブザーバ(の候補)を考える. み合わせた補償器により閉ループ系が安定となることは次 の定理により保証されている [9]. 【定理】 正定な行列 P > 0 と正数 ε > 0 が存在して ∂h ∂f ∂h ∂f +K )+( + K )T P ≤ −2εI P( ∂x ∂x ∂x ∂x 【定理】 u = ζ(x) をシステム (1) の原点 x = 0 を漸近安定平衡点 (58) する状態フィードバックとする.またシステム をすべての x において満たすとする.このとき (57) は (56) の指数オブザーバとなり, 1/2 p2 x̂(t) − x(t) ≤ x̂(0) − x(0)e−(ε/p2 )t p1 (65) の指数安定な平衡点であるとする.このときシステム (1) を システム (56) の近似線形化システムを考える. (60) C= (64) x̂˙ = γ(x̂, 0) この定理は大域的なオブザーバの安定性を論じているが 局所的な議論をすれば以下のように考えることができる. = Cx + O2 (x) ∂f |x=0 , A= ∂x γ(x, h(x)) = f (x) を満たし,かつ x̂ = 0 が 大固有値である.□ = Ax + O2 (x) (63) が (59) を満たす.ただしここで p1 , p2 はそれぞれ P の最小,最 dx dt y x̂˙ = γ(x̂, y) x̂˙ = γ(x̂, y) + g(x̂)u u = ζ(x̂) (66) なる補償器により制御すれば,閉ループ系において (x, x̂) = ∂h |x=0 ∂x (0, 0) は漸近安定な平衡点となる.□ 定理の (64) は基のシステムが (1)(2) で表されている場 これを用いてオブザーバ (57) のゲイン K を (A + KC) が 合にはシステム (63) が 十分安定になるように設計すれば,原点 x = 0, x̂ = 0 の 近傍に状態 x, x̂ が留まる限り,システム (57) が指数オブ x̂˙ ザーバになることを定理は示している. = γ(x̂, y) = f (x̂) + k(h(x̂) − y) k(0) = 0 5 (67) の形をしていれば常に成り立つ.また,基のシステムが ここで設計したオブザーバはすべて指数安定性が補償され (61) で表されている場合には (63) を るので問題はない. x̂˙ = γ(x̂, y) = f (x̂, y) + k(h(x̂) − y) (68) k(0) = 0 4 と選べば常に成り立つ.これらはシステム (63) が入力のな 入出力関係の線形化 ここではフィードバックを用いて入出力関係のみを線形 いシステム((1)(2) の場合には dx/dt = f (x), y = h(x), 化することを考える.1入出力系の入出力の厳密な線形化 (61) の場合には dx/dt = f (x, y), y = h(x))に対してオ ブザーバの条件 A を満たしていることを示している.ま 手法は入力 u が現われるまで出力 y を繰り返し時間微分 た (65) は出力 y が恒等的に零の場合のシステム (63) の指 し,u が現われた時点で非線形性をすべてキャンセルする 数安定性を求めている.これは指数オブザーバの条件 C ようにフィードバックを決定するというものである. 1入力1出力システム (1) において次を満たす自然数 ρ より弱いオブザーバの収束(安定)条件と考えることがで が存在すると仮定する. きる.つまり,厳密さを要求しないならば (63) はシステ ム (1) の入力を無視したシステム(入力を恒等的に零とし たシステム)の指数オブザーバと考えることができる.ま た (66) の状態方程式は γ(x̂, y) を (67) の形に選んだ場合 には dx̂ = f (x̂) + g(x̂)u + k(h(x̂) − y) dt Lg Lif h(x) = 0, i = 0, 1, · · · , ρ − 2 (70) Lg Lfρ−1 h(x) = 0, ∀x (71) このような ρ が存在するとき,出力 y = h(x) の時間微分 を繰り返せば (69) 基に入力を考慮したオブザーバ (52) を設計したことにな = る.(61) で表されるシステムに対して (68) を用いて場合 = ∂h dx ∂x dt ∂h (f (x) + g(x)u) ∂x Lf +gu h(x) も同様である. = Lf h(x) + uLg h(x) = = Lf h(x) d dy dt dt d Lf h(x) dt Lf +gu Lf h(x) ここでの議論は原点が安定な平衡点であるか否かだけで = Lf Lf h(x) + uLg Lf h(x) あるので,原点に収束する状態空間の範囲や,その応答が = .. . L2f h(x) = Lfρ−1 h(x) + uLg Lfρ−2 h(x) = Lfρ−1 h(x) = Lρf h(x) + uLg Lfρ−1 h(x) dy dt となり,入力を考慮したオブザーバ (52) の形をしている ことが分かる.これは入力を無視したオブザーバ (67) を この定理はシステム (1) を漸近安定化する状態フィード バック u = ζ(x) を指数安定なオブザーバを用いて u = ζ(x̂) = 2 d y dt2 で実現すれば,少なくとも原点 (x, x̂) = (0, 0) は漸近安定 な平衡点になる,つまり,原点近傍に初期値がある限り, = = 閉ループ系の状態 (x, x̂) が原点に収束することを示して いる. どうなるかについては議論していない.そのため,厳密な 線形化を用いて設計した状態フィードバックと線形誤差応 dρ−1 y dtρ−1 答をもつオブザーバを用いた補償器の有効範囲と閉ループ 系の挙動が近似線形システムに比べて改善されるどうかは dρ y dtρ 一般的には分からない.しかし,状態フィードバックとオ ブザーバの有効範囲が広ければ,これらを組み合わせた補 償器の有効範囲も広くなることが期待できる. (72) ρ−1 h(x) = 0 であるから,出力 y を ρ 階時間微分したときに初めて入力 u が影響したこと を得る.ρ の定義より Lg Lf さて,この定理で重要なことは状態フィードバックには 漸近安定性だけが要求されているのに対してオブザーバ になる.これは ρ が線形システムにおける相対次数に相 には漸近安定性より強い指数安定性が要求されているこ 当することを示している.新しい入力を v としてフィード とである.これが逆の場合,つまり,状態フィードバック バックを u = ζ(x) がシステムを指数安定化しても,オブザーバ (65) u が漸近安定ではあるが指数安定ではない場合には,これ らを組み合わせた補償器 (66) によって原点が不安定な平 衡点になる場合があるので注意が必要である [9].ただし, 6 = α(x) + β(x)v −Lρf h(x) 1 + v = ρ−1 ρ−1 Lg Lf h(x) Lg Lf h(x) (73) と定義すれば明らかに 非線形不可観測な状態 η の挙動は zero dynamics と呼ば れ,線形システムの零点と対応している. ρ d y =v dtρ (74) このように入出力の線形化は入出力関係に関係するとこ ろのみを線形化し,非線形性の残る部分は不可観測にして となる.いま状態の一部 ξ を ξ= y ẏ .. . dρ−1 y dtρ−1 h(x) Lf h(x) = .. . (臭いところに蓋をして)入出力に現れないようにする線 形化と考えることができる. (75) [例題] Lfρ−1 h(x) と定義し,残りの状態関数 η = T2 (x) を ξ x → η 例として次のシステムの入出力線形化問題を考える. x1 tan x2 0 d = + x2 x3 1 u dt x3 x1 x2 1 (76) y が座標変換になる(逆関数が存在する)ように決定できた = dy dt Aξ + Bv = = = ζ1 (ξ, η) + ζ2 (ξ, η)v = Cξ d2 y dt2 (77) = = となる.ここで A = B C = = 0 1 0 0 .. . 0 .. . 1 .. . 0 0 0 ··· 0 . .. . .. .. . 0 .. . 1 0 0 0 ··· 0 0 0 1 0 .. . = = = = Lf˜T2 (x) ζ2 (ξ, η) = Lg̃ T2 (x) f˜(x) = f (x) + g(x)α(x) g̃(x) = g(x)β(x) dx1 dt tan x2 d dy dt dt d tan x2 dt ∂ dx2 tan x2 ∂x2 dt dx2 1 cos2 x2 dt 1 (x3 + u) cos2 x2 1 x3 + u cos2 x2 cos2 x2 となる.このとき y を2階時間微分したときに初めて入力 u が現われていることに注意する.ここで新しい座標 ξ1 , ξ2 とフィードバック(v は新しい入力)を (78) ξ1 ξ2 (1 0 · · · 0 0) ζ1 (ξ, η) = (79) x1 出力 y を時間微分すれば とすればフィードバックを施したシステムの状態方程式は dξ dt dη dt y = u = y = x1 dy = tan x2 = dt = −x3 + (cos2 x2 )v と定義すると ξ1 d dt ξ2 = 0 1 0 0 である.このようにシステムはフィードバックと座標変換 y により線形可観測な状態 ξ と非線形不可観測な状態 η に = 1 0 ξ1 ξ2 ξ1 + 0 1 v ξ2 分解されている.入出力に着目すればこのシステムは線形 なる線形状態方程式と線形出力方程式を得る.つまりシス である.また,この非線形不可観測な状態 η が安定である テムの入力から出力までが線形化されていることがわか ならば,線形な部分 ξ のみを安定化することにより,シス る.もとのシステム (79) が3次のシステムであるのに対 テム全体を安定化することができる.このようなシステム して線形化されたシステムが2次であることから,線形化 は線形システムの最小位相系に相当する. する際に不可観測な状態が生まれていることがわかる.こ 7 [4] A.J.Krener and W.Respondek: Nonlinear Observers with Linearizable Error Dynamics, SIAM J.of Con- の例における不可観測な状態は x3 である.線形化フィー ドバックを施したときの x3 の挙動は dx3 dt trol and Optimization vol.23, no.2, 197/216 (1985) = x1 x2 + u = x1 x2 + {−x3 + (cos2 x2 )v} −1 = ξ1 tan [5] S.R.Kou, D.L.Elliott and T.J.Tarn: Exponential Ob−1 ξ2 − x3 + {cos (tan 2 servers for Nonlinear Dynamic Systems, Information and Control, vol.29, 204/216 (1975) ξ2 )}v で表わされるが,この状態は出力に影響しない.また,ξ = [6] S.P.Banks: A Note on Non-Linear Observers, Int. J. of Control, vol.34, no.1, 185/190 (1981) 0,v = 0 の時の状態 x3 は dx3 dt = −x3 [7] X.Xia and W. Gao: On Exponential Observers for Nonlinear Systems, Systems and Control Letters, vol.11, 319/325 (1988) となるので安定である.つまり,非線形かつ不可観測な状 態 x3 は安定である.この場合には線形化された状態 ξ を [8] 三平, 石川: 非線形オブザーバを用いた車両の位置推 定, 第23回制御理論シンポジウム, 297/300 (1994) 安定化することによりシステム全体を安定化することがで きる. [9] C.I.Byrnes and A.Isidori: Steady State Response, 多入出力システムの入出力線形化する方法は Isidori と Separation Principle and the Output Regulation of Nonlinear Systems, Proc.of the 28th CDC, Ruberti[10] によりボルテラ級数展開を用いて定式化され, 構造アルゴリズムを用いて解かれている.詳細については 2247/2251 (1989) [1,2] が詳しい. [10] A.Isidori and A.Ruberti: On the Synthesis of Lin- 5 ear Input-Output Responses for Nonlinear Systems, Systems and Control Letters, vol.4, no.1, 17/22 おわりに (1984) ここではオブザーバの設計,状態フィードバック+オブ ザーバ併合系の安定性,入出力線形化について解説した. 状態方程式の線形化も含めて,これらの手法は如何に頭を 柔らかくして非線形性に対処するかということになると考 える.状態フィードバックの設計では嫌らしい非線形性を 状態フィードバックでたたきつぶし,座標変換でひねるこ とにより線形にし,オブザーバの設計では測定できる非線 形性(出力の関数)は出力で打ち消し,はたまた入出力線 形化では非線形でいやな部分は不可観測にして入出力関係 から追いやっている. ここで述べた手法の根底になっている考え方を理解して いれば,たとえ,ここで述べた方法が使えないシステムの 設計をしなくてはならなくなったとしても,新しい創造的 な制御系の設計が可能となるものと確信している. 参考文献 [1] 石島, 石動, 三平, 島, 山下, 渡辺: 非線形システム論, 計測自動制御学会 (1993) [2] A.Isidori: Nonlinear Control Systems, SpringerVerlag (1st ed. 1985, 2nd ed. 1989) [3] A.J.Krener and A.Isidori: Linearization by Output Injection and Nonlinear Observers, Systems and Control Letters, vol.3, 47/52 (1983) 8
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