日本財政を巡る課題 法政大学准教授 小黒 一正 1 最近の動き(1) 「財政再建「年2.5兆円」必要 歳出減、具体 策なく 基礎収支20年度黒字化へ諮問会議で 提言」 (2015年2月13日、日経新聞) 経済財政諮問会議の民間議員らは12日の会合で2020年度 の基礎的財政収支の黒字化に向けた提言を示した。今後 5年間、国内総生産(GDP)比で毎年0.5%、2.5兆円 ずつ、成長による税収増と歳出抑制で赤字をなくすよう 求めた。新たな試算では高い経済成長を実現しても20年 度には9.4兆円の赤字が残るとされ、支出削減の具体策も 見えていない。(略) 市場関係者からは「税収の自然増頼みで20年度に黒字化 を達成できる可能性は薄い」(ゴールドマン・サックス 証券の西川昌宏金融商品開発部部長)との見方が多い。 税収は景気によって大きく左右されやすいためだ。政府 が夏にまとめる財政健全化の計画では、医療・介護の縮 小といった具体的な「痛み」も伴う改革に、どこまで踏 み込めるかが問われる。 2 3 最近の動き(2) ・想定外の追加緩和(2014年10月31日、金融政策決定会合) ① 2012年末に130兆円(うち保有する長期国債は89兆円)で あったマネタリーベースについて、14年末に270兆円(同 190兆円)に増やすため、年間60兆-70兆円のペースで増や すとしていたマネタリーベースを約80兆円まで拡大 ② 長期国債の保有残高が年間約80兆円(+約30兆円)のペ ースで増加するように買い入れを行い、平均残存期間も現 状の7年程度から7-10年程度に延長 ③ 上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の保有 残高を3倍に増やし、それぞれ買い入れペースを年間約3兆 円と年間約900億円に増やす。また、新たにJPX日経400に連 動するETFを買い入れ対象に加える。 4 出所)日本経済研究センター 5 急速に膨張する政府債務(対GDP) 6 年金や医療関係の給付と財政の関係 高齢化の進展に伴い、社会保障給付費が大きく伸びる一方で、社会保険料収入は横ばいで推移し、その差額は拡大 傾向。この差額は主に、国や地方の税負担で賄われる。 社会保障制度を通じて、国民に給付される金銭・ サービスの合計額 (兆円) (例)年金の受給額 医療・介護の給付額(自己負担見合いを除く) 社会保障給付費 給付費 110.6兆円 財源103.2兆円 +資産収入 介護・ 福祉その他 21.1兆円 資産収入等 (%) 一般会計との関係 地方税等負担 11.2兆円 歳 出 [うち介護 9.0兆円] 医 療 36.0兆円 恩給関係費 0.5兆円 国 税 負 担※ 29.7兆円 この部分 に対応 社会保障関係費 ※ 29.1兆円 ○社会保障関係費は、国の税収と公 債金収入(借金)を財源としています。 保険料 62.2兆円 ○社会保障関係費は、毎年度1兆円規模 で増大していく見込みです。 年 金 53.5兆円 社会保険料収入 2013年度(予算ベース) ※数値は基礎年金国庫負担2分の1ベース。 (出典)社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」、平成25年度(予算ベース)は厚生労働省推計。 7 債務残高(対GDP)の安定化に必要な最終的な消費税率 Q. 毎年1兆円以上のスピードで膨張する社会保障費をどう制御するか 。 ・Braun and Joines (2011年 8月)未定稿 【ベースライン】 2017年に消費税率33%が必要(2012年に消費税率10%に することが前提) 【先送りケース】 2022年に増税するなら、消費税率37.5%が必要(2012年 に消費税率10%にすることが前提) 【2%インフレのケース】 消費税率25.5%が必要 ・Sakuragawa and Hosono (2011年7月) 債務残高を安定させるために消費税で賄う場合、2021年に5→16% 、2031年に消費税率21%が必要 ・小黒・小林(2011年11月) 2025年に20%、2055年に消費税率31%が必要(機械的試算) ・小黒・島澤(2011年9月) ピーク時に消費税率33.5%が必要(OLGモデル) 8 Braun and Joines (2011): Revised • 増税の先送りプラン(消費税5%)と実施プラン(消費税10%) – 可能な限り、消費税率を5%、または、10%に維持。 – 先送りプランまたは実施プランを持続できる限界とは? • 公的債務/GDP 比率を発散させないために、消費税率を100% に上げざるを得なくなるまで、先送りプランまたは実施プランを続 けると想定。 • その限界の時期は? – 先送りプラン: 2028年まで持続可能。 – 実施プラン : 2032年まで持続可能。 – 今回の政策変更で稼げる時間は4年。 9 Braun and Joines (2011): Revised • 包括的な政策プラン ① ② ③ ④ ⇒ - 政治的な現実性あり(?) 2%のインフレ率を実現する 高齢者の医療費窓口負担を20%とする 年金給付の現役時年収半額保証をはずす 政府の経常経費を1%削減する 消費税は段階的に32%まで引き上げ、 その後17%まで引き下げる 10 Braun and Joines (2011): Revised 包括的な政策プランを実施した場合の消費税率の推移 5%増税=5回程度 11 日銀「経済・物価情勢の展望」(2013年4月) 日経新聞(2013年4月27日)から抜粋 「市場、冷めた見方も 電子版)からの抜粋 日銀「展望リポート」」(2013/4/27 日本経済新聞・ 日銀が公表した展望リポートは2年で2%の物価上昇率を目指すという目標を意識し た内容だ。政策目標と経済見通しが一致する分かりやすさを重視した半面、市場の見方 との隔たりは大きく、日銀の幹部ですら「辻つま合わせ」との声がくすぶる。(略)市 場では「展望リポートはインフレ期待を定着させるためのプロパガンダ手段になった」 (みずほ証券の上野泰也氏)と冷めた見方も目立つ。 12 CPI(コア)対前年比の推移 89年 消費増税 97年 消費増税 08年 原油高騰 90・91年 湾岸戦争 (出所)総務省 13 2015年以降も、日銀は国債買い入れを急にはやめられない (出所)拙著『財政危機の深層』NHK出版 14 主要中央銀行の総資産の対GDP比 の推移(四半期) (出所)拙著『財政危機の深層』NHK出版 15
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