10%消費税を救う 中古住宅流通の秘策 SAREX News 2015 年 7 月

10%消費税を救う
中古住宅流通の秘策
SAREX News 2015 年 7 月
■年間 30 万円の増税に相当■
8%消費税の反動減に沈んだ 2014 年の住宅市場。そして緩やかな回復基調にあるも
のの、地味で捉えどころのない 2015 年の住宅需要動向。最後の駆け込み需要が期待
されている 2016 年 9 月末日までの上半期。
3 年間で 2 回、計 5%の消費税率アップを経験することになる住宅業界は、過去の
経験則によらない新機軸の政策提言やロビー活動が必要とされよう。
しかし、住宅軽減税率の代わりとして考案された「住まい給付金」は、一時の涙金
であって住宅需要を喚起するパワーは到底期待できない。
住宅需要のキーファクターはいつに変わらず所得にある。所得の裏付けがあって住
宅ローンの借り入れは可能となる。そして、住宅ローンとは租税公課を控除した可処
分所得の中から、消費税の支払いを伴う日常家計消費を行いつつ、35 年間支払い続け
なければならない借財である。はじめの 10 年間はローン減税のおかげで、固定資産
税や火災保険料を支払ってもまだ家計は回るだろうが、11 年目以降、収入が増えない
限り、家計消費を税額分縮減しなければ家計収支は赤字となってしまう。
総務省統計では 2 人以上の消費支出(消費税対象)額は月額 235,390 円であり、消
費税率 10%で計算すると 23,500 円が消費税額となる。年間およそ 30 万円弱の納税相
当額で、旅行や外食、お父さんのゴルフやお母さんのエステが何回楽しめるかを考え
ると、住宅取得意欲が萎えるのはむべなるかな。
■おかしな税制並立■
消費税制開始以来この方、久しく軽減税率品目に指定されることを待ち望まれてい
る住宅だが、軽減どころか消費税率ゼロが適用されている住宅がある。それが個人間
売買の中古住宅である。法人から個人への住宅販売は新築・中古とも課税扱いになる
が、個人から個人への住宅売買においては、一度でも住んだことのある住宅は中古と
なり、税金がかからない非課税扱いとなる。
新築住宅中心から諸政策により中古住宅へと誘導が進む中で、従来あまり関心を持
たれてこなかった中古住宅の税率違いは、中古住宅流通の普及拡大の妨げとなること
が懸念される。
まず、中古住宅流通市場ではいわゆる上玉(優良物件)を流通事業者が抱え込んで
しまう問題がある。事業者利益と消費税を加算してもなお魅力のある中古住宅が、掘
り出し物として生活者の眼前に現れる機会はまずあり得ない。中古流通情報格差の最
たる一つである。
そして一方で、誰も欲しがらないスカ(不人気物件)が延々再々「for sale」のまま
放置される問題がある。人口減少が進行する地方都市の中古住宅流通においては、需
要と供給の均衡点として成約を待っていても取り引きは成立しないだろう。なぜなら
住宅需要がそもそも少ないのだから。
税率の他にも中古住宅流通のもう一つの課題として「売主の瑕疵担保責任」が挙げ
られる。中古住宅の個人売主は 2 ヵ月程度の短期間しか瑕疵責任を負わない取引の慣
行が通例だ。非課税で有利に見える中古住宅個人間取引について回る最大のリスクで
ある。
■損して得取れの税制提言■
そこで、現在 13.5%の空き家率の上昇を食い止め、滞留している中古住宅流通市場
にインパクトを与える施策として、事業者取引にもゼロ税率を適用するプランはどう
だろうか。もともと中古住宅に消費税を課税する根拠は薄弱だ。現状有姿の中古住宅
を仕入れて再販することを付加価値とは言わない。
そして益税懸念についても、リフォーム工事やリノベーションの形で預かる課税仕
入れ分は中古購入者に消費税分が還元され、事業者利益となるわけではない。中古住
宅流通の本質は不動産であり、不動産の実相はカネである。カネを司る主務官庁は財
務省であり、中古住宅ゼロ%税率をロビーイングすべき先は自民党税調である。
中古住宅流通では売り主(所得税)
、媒介者(法人税)、買主(登録免許税、不動産
取得税)の3者への課税機会が発生するのだから、国は消費税収分以上の増収が見込
めるはずだ。
最後に先進各国の中で、新築住宅に軽減税率が適用される国はあっても、中古住宅
に消費税(付加価値税)が課税される国は一つもないことを強調しておく。