冠飾句 (1) Er antwortet auf meine diese Angelegenheit betreffende Frage. 彼はこの件に関する私の質問に答える。 常例が日本語訳のようになるのはなぜかわかりますか? 下線部 diese Angelegenheit betreffende は,diese Angelegenheit betreffen「この件に関 する」という動詞句を現在分詞句にし,それに適当な格語尾 -e(女性4格)をつけたもの で,これらがひとかたまりになって形容詞のように名詞 Frage を修飾しているのです。 meine diese Angelegen-heit をひとかたまりに考えて,「私の-この-件」と訳しては意 味が通じなくなります(ドイツ語にはそもそも meine diese という結合はないのです)。 この構造的関係を図示すると次のようになります。 meine [diese angelegenheit betreffen] -d -e Frage 私の 質問 この件に関する ---------------------------------------------参照: meine 私の schwierig-e Frage むずかしい 質問 以上のように現在分詞はその目的語を伴いながら,形容詞のように名詞の付加語になれる のですが,--目的語や前置詞つきの句を含み,構造的に複雑になったこのような付加語 をふつう「冠飾句」と呼びます--この「冠飾句」は現在分詞に限られたものではありま せん。現在分詞以外にも,形容詞,過去分詞,未来受動分詞が「冠飾句」を作りますので, それらを順序よく学んでゆきましょう。先取りするようですが,「冠飾句」は,関係代名 詞が主語である関係文を名詞(先行詞)の前に置いた言い換え表現であると考えられるも ので,したがってそれぞれの「冠飾句」には対応する関係代名詞文を並記することにしま す。題文を次のような関係文に書き換えることができます。 (2) Er antwortet auf meine Frage, die diese Angelegenheit betrifft. また,「冠飾句」の格語尾は関連する名詞の性・数・格に応じ,形容詞とまったく同一に 変わることも憶えておいてください。ちなみに上記の「冠飾句」を含む名詞句を格変化さ せると次のようになります。 1格 meine diese Angelegenheit betreffende 2格 meiner diese Angelegenheit betreffenden Frage 3格 meiner diese Angelegenheit betreffenden Frage 4格 meine diese Angelegenheit betreffende Frage Frage なお,diese Angelegenheit は betreffen の4格目的語で,Frage と直接関係しておらず, Frage がどの格になっても常に4格です。 以下,「冠飾句」の具体例を挙げます。 A.形容詞 1 (1) der in Berlin wohnhafte Professor ベルリーンに住んでいる教授 → der Professor, der in Berlin wohnhaft ist (2) die der Mutter bei der Hausarbeit behilfliche Tochter 家事において母親の手助けをする娘 → die Tochter, die der Mutter bei der Hausarbeit behilflich ist ☆形容詞を基礎とする冠飾句は,関係文の動詞 sein を削除したものに対応します。 ☆関係文の時称は現在時称にしておきましたが,文脈によっては当然,過去時称などにな ることもあります。 B.現在分詞 (3) Mit großen, ihre ganze Freude ausdrückenden Augen sah sie das Kind an. 彼女は大きな,喜びのすべてを表現している目でその子を見た。 → Mit großen Augen, die ihre ganze Freude ausdrücken, sah sie ... das Kind an. (4) Wer ist der dort stehende Mann? あそこに立っている男は誰ですか? → Wer ist der Mann, der dort steht? ☆現在分詞を基礎とする冠飾句は,能動態の関係文の定形(本動詞)を現在分詞にしたも のです。 ☆主文と冠飾句との時称関係は同時性です(すなわち2つの出来事が同時的に起こる)。 したがって関係文内の時称は主文の時称と同一になります。 C.過去分詞 過去分詞を基礎とする冠飾句には,他動詞からのものと自動詞からのものとがあります。 他動詞からのものは受動態および状態受動に対応するものであり,自動詞のものは原則的 に sein による完了形に対応します。 [他動詞からの過去分詞] (5) das von Herrn Müller aus dem Deutschen ins Japanische übersetzte Buch ミュラー氏によってドイツ語から日本語に訳された本 → das Buch, das von Herrn Müller aus dem Deutschen ins Japanische übersetzt wird/wurde (6) Die durch diese Verfassung dem Volke zugesicherte Freiheiten und Rechte sollen durch die ständige Wachsamkeit des Volkes aufrecht erhalten werden. この憲法によって国民に保証された自由および権利は,国民の不断の監視によっ て保持されなければならない。 → Die Freiheiten und Rechte , die durch diese Verfassung dem Volke zugesichert werden, sollen... ☆他動詞の過去分詞を基礎とする冠飾句は,受動態の関係文の助動詞部分を削除したもの 2 に対応します。したがって意味は受動的です。 ☆冠飾句の時称関係は,主文の時称と同一のことも(同一の時点の出来事),その前のこ ともあります(主文の出来事より前の出来事)。 [自動詞からの過去分詞] (7) der vor einigen Minuten abgegangene Zug 数分前に発車した列車 → der Zug, der vor einigen Minuten abgegangen ist/war (8) Das in Fäulnis übergegangene Fleisch ist ungenießbar. 腐りかけた肉は食べられない。 → Das Fleisch, das in Fäulnis übergegangen ist,ist ungenießbar. ☆自動詞の過去分詞を基礎とする冠飾句は,(現在/過去)完了形の関係文の助動詞部分 を削除したものに対応します。 ☆冠飾句の出来事は必ず主文の出来事よりも前(過去)のことになります。 D.未来受動分詞 (9) der von den Schülern zu lesende Text 生徒によって読まれるべきテキスト → der Text, der von den Schülern zu lesen ist (10) Das ist ein nicht zu billigender Schritt. それは承認できない処置である。 → Das ist ein Schritt, der nicht zu billigen ist ☆未来受動分詞を基礎とする冠飾句は,関係文の動詞 sein を削除し,zu 不定形に -d を付 けたものに対応します。 ☆冠飾句と主文との時称関係は同時性です(すなわち2つの出来事が同時的に起こる)。 以上がA.形容詞,B.現在分詞,C.過去分詞(2種類),D.未来受動分詞による冠 飾句です。なんども例文を読んで,関係文との関係を把握してください。 最後に冠飾句に関して触れるべき2,3の点を述べましょう。 (イ)冠飾句をいう名称は,「格語尾のつけられる品詞(形容詞と分詞)を基礎とする句 を名詞の前に「冠して修飾する」」という意味から来ています。命名者は本誌創刊者の関 口存男先生です。 (ロ)冠飾句内の語順は副文の場合と同一で,日本語の語順ときわめて似ています。 (ハ)したがって冠飾句も関係文も意味内容は基本的に同一なのですが,両者には文体的 な相違があります。すなわち関係文は,名詞の後に規定するものが来るというかたちにな るため,ゆったりと落ち着いた文体になりますが,冠飾句は,極めて簡潔化された表現で あるため,やや硬い,はしょった文体になるのです。そのため冠飾句は論文や新聞によく 用いられます。 3
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