思いや考えを伝え合う道徳の時間 ~学習過程を工夫し役割演技を取り入れて~ 前橋市立永明小学校 Ⅰ ベルジュロン順子 テーマ設定の理由 本校では、伝え合う活動における自分の考えの表現の仕方、意見の交流の仕方など、伝 え合う活動に視点を当てて児童の表現力の向上に努めてきた。また、道徳の時間において は目指す児童の姿を 「自分の思いや考えをもって自分の内面を見つめることができると ともに、自分と異なる考えに接し、共感したり自分の思いを深めたりすることができてい る児童」ととらえた。自分の考えと他者の考えを比較し、互いの意見から学び合うこと(伝 え合う活動)によって、児童は様々な道徳的価値に気付き、自己を振り返り自分の内面を 見つめることができるようになる。そこで、扱う資料の道徳的価値を分析し、ねらいとす る道徳的価値が曖昧にならないよう学習過程展開部を3つの段階に分け発問を構成した。 それぞれの段階での発問を「○つかむ発問」 「◎深める発問」 「☆(自己を)振り返る発問」 とし、3つの段階(道徳的価値に気付く・登場人物の心情を読むことで価値についての理 解を深める・価値を自分に照らし合わせて振り返る)を踏むことで、ねらいとする道徳的 価値を大切にしていこうとする心を育てていくことができると考えた。 ○つかむ発問(場面を読む段階…道徳的価値に気付く) ◎深める発問(登場人物の心情を読む段階…価値についての理解を深める) ☆振り返る発問(自分のことに置き換える段階…価値を自分に照らし合わせる) ○伝え合う活動における手立ての工夫 ・役割演技(ロールプレイング) 登場人物の思いや考えを言葉に表すことで、それぞれの立場になって考えることがで き、道徳的価値の理解が深まる。 ・伝え歩き 児童が思い思いに友達のところに行って思いや考えを伝え合う。みんなの前では言い にくいけれど、友達には自分の考えを聞いてほしいとき、また、自分の体験は思い出せ ないけれど友達はどうなのか知りたいときに有効である。 Ⅱ 実践例 1 主題名 思い切って 資料名 「ぼく、よびにいってくる」 2 役割演技を通した伝え合う活動(2年) 1-(3)勇気 (出典:2年生のどうとく 文溪堂) 主題設定の理由 (1) ねらいとする価値について 勇気は何事にも積極的に取り組む原動力となるものであり、様々な場面や状況で求 められるものであると考える。よいこと、正しいことについて的確に判断し、よいと 思ったことを勇気をもって進んで行うことが大切である。そこで、この段階からどん な状況においても勇気をもって正しいことを行おうとする心情を育てていく必要があ る。 (2) 児童の実態(男子13名 女子12名 計25名) 本学級は、よいことと悪いことの区別ができる児童がほとんどである。しかし、い けないことをしているのを見ても仲のよい友達には「だめだよ。」と言えなかったり、 相手によっては物怖じしてしまったりすることが多々ある。本資料を使って、よいと 思ったことを勇気をもって進んで行おうとする心情を育てたい。 (3) 資料について 仲間はずれはよくないことを頭では分かっていても、周りの友だちの言動に左右さ れ、正しいと思う行動をとれない主人公の葛藤は、この時期の児童にとって身近で理 解しやすいと思われる。ぽんきちや他の友だちの言動に迷いながらも、正しいと思う ことを思い切って発言し、行動に移す主人公の心情に共感させることで、勇気をもっ て行動することの大切さに気付かせたい。 3 ねらい よいことと悪いことの区別をし、よいと思うことを進んで行おうとする心情を育てる。 4 過程 展開 ○つかむ発問 主な学習活動 導 1 入 ◎深める発問 主な発問と予想される児童の反応 ●補助発問 指導上の留意点・支援 よくないことを見た時、どうしたらよいか ◇よくないことをしているのを見 考える。 た時、自分がどうしていたか想 ●よくないことをしている友達を見たら、ど うしていますか。 3 ☆振り返る発問 起させ、価値の方向付けを行う。 ◇行動に移せた時と移せなかった 分 ・注意する。 時の気持ちも考えさせる。 ・止める。 ・先生に言う。 展 2 開 資料の場面前半を聞き、ぽんすけの気持ち ◇場面絵や登場人物の絵カードを を考える。 用いて提示することで,場面を ( ○ 「かくれるんだ。 」と言われてかくれている 理解しやすいようにする。 つ とき、ぽんすけは、どんな気もちだったで ◇しっぽを出してかくれたぽんす か しょう。 けに、せめてもの抵抗心と後ろ む ・人数が半端になると、おもしろくなくなる。 めたさなどがあることに気付か ) せる。 ・どうしよう。 ・ちがう遊びじゃだめなのかな。 ◇絵カードを裏返して提示し、ぽ 10 ・しっぽに気付いてくれるといいな。 んすけの取った行動を確認させ -1- 分 ・本当はかくれたくないな。 ( 3 る。 場面後半を聞き、ぽんすけの言葉を考える。 ◇ぽんきちの様子からぽんすけの 深 ◎ぽんたのことが気になってしかたがないぽ んすけは、みんなに何と言ったでしょう。 め る 4 ワークシートに書いたぽんすけの言葉を使っ 言葉を考えさせ、発表させる。 ◇なかなか書けない児童には、友 達の発表を参考にさせる。 ) て全員の児童が役割演技をして気持ちを伝え合 ◇ぽんすけの思いをそれぞれの児 20 う。 童が口に出すことで,よいと思 分 ・ぽんたのことが気になるなあ。 ったことをつらぬく気持ちに共 ・ぼく、よびにいってくる。 感させる。 ・ぽんたも仲間に入れようよ。 ◇小さな声で言った時、ぽんきち ・ぽんたがかわいそうだよ。 ににらまれた時、もう一度大き ・仲間はずれはよくないよ。 な声で言った時の「ぽんすけ」 の心の葛藤に気付かせる。 ● 思い切ってみんなに言ったとき、ぽんすけ ◇役割演技の感想を全体で交流さ はどんな気もちがしたでしょう。 せることにより、ぽんすけの心 ・よかった。 情理解を深めさせる。 ・言えてすっきりした。 ・勇気を出して言えてよかった。 ・勇気を振り絞って言えたからすっきりした。 ( 5 自分自身の行動を振り返る。 ◇よいと思ったことを勇気を出 振 ☆これまで、よいとおもったことをゆう気を 出してしたことはありますか。 り してした経験を想起させ、その 時の気持ちをワークシートに書 返 ・優しくしてあげた。 かせ発表させる。 る ・遊びに誘ってあげた。 ) ・友達に注意してあげた。 10 ・友達がいじめられているのを見たとき、「だめ 分 だよ。」と言った。 終 6 教師の話を聞く。 ◇担任の話を聞き、よいと思った 末 ことを勇気をもって行動に移し 2 た時の気持ちよさを感じ取らせ 分 るようにする。 5 授業記録 (つかむ) 児童からは、「注意する。」という声があがったが、「じゃぁ、いつも言える?」と聞くと 口を閉ざしてしまった。「言えないときもあるよね。言えなかったときはどんな気持ち?」 -2- と返すと、「もやもやした気持ち。」「すっきりしない気持ち。」が出され、できなかったと きの気持ちを確認することができた。 (深める) ワークシートの記入では、道徳に間違った意見はない、思い付いて書いた意見はすべて 受容されるということを児童に伝え、消しゴムを使用させず、訂正箇所は二重線を引かせ るのみにし、児童が自由に考えられるようにした。ぽんすけ役はワークシートを持って、 ぽんきち役、友達役は板目紙で作った名札を持って 役割演技する。友達役を作ることで全員が一斉に役 割演技に取り組める。お面を使わないことで、お面 の絵や頭のサイズに合わないことなどに気を取られ ずに演技に集中出来た。役割演技後の感想では、児 童から出た「勇気」という言葉がキーワードになり、 登場人物の心の動きに共感した様子の児童が多くな った。 (振り返る) 隣同士で自分の経験を伝え合ったが、生活経験の乏しさや思い出せない児童もいたため、 「お花とチョウチョウ」に扮して、伝え歩きを行った。友達に自分の思いや考えを伝えた い児童はチョウチョウになってお花を周って話をする。逆にみんなから聞いてみたい児童 はお花になってチョウチョウが来てくれるのを座って待つ。友達の経験を聞き、「あっ、わ たしも(同じような経験が)あった!」と、さっそくワークシートに書き始める児童もい た。「友達から行っちゃいけない場所にいっしょに行こうって言われて、ぼくはしばらく考 えて『ぼくは、行かないよ。』って言った。」といった感想や資料から離れ、自分自身を振 り返ることができた児童からは、 「授業で思い切って手を挙げて発表したら、うれしかった。」 といった感想が出た。 Ⅲ まとめ ・机を使わずにコの字型に座席を配置したことで、児童同士・児童対教師の距離が近くな り、意見が出やすくなった。声の小さい児童の意見も全体に届き、児童が自信をもって 発言できるようになった。 ・中心人物が勇気を出して言う場面の役割演技をさせることにより、中心人物の気持ちに 共感させ、仲間はずれをなくすこと、勇気を出して行動することの心地よさに気付かせ ることができた。 ・導入部分で想起させた「正しいと思っていてもできなかったときの気持ち」をもとに、 「今 までの自分はどうであったか」を振り返らせることにより、自分の課題に気付かせるこ とができた。 ・伝え合う活動が充実してきたことにより、児童一人ひとりが自分の考えをもち、積極的 に自分の考えを、自分の言葉で発表できるようになった。 -3-
© Copyright 2024 ExpyDoc