進んで考え,学び合う児童生徒の育成 ― ICT を

研究の概要
研究主題
進んで考え,学び合う児童生徒の育成
― ICT を活用した協働学習を通して ―
1 主題設定の理由
(1)児童生徒の実態と過去の研究から
本校は英国にある日本人学校と言う特殊性から,転出入児童生徒が多く,それぞれの出身地も多岐に
渡っており,育ってきた文化や環境が異なる。そのため,個々の児童生徒が多様なものの見方,考え方
をすることができ,高い創造力,柔軟な思考力を有している。しかし,授業等での友達との交流の様子
を見ると,コミュニケーションの内容や方法に課題が見られる。自分の考えを進んで相手に伝えたり,
相手の考えを聞いて共感したり,受け入れたりすることが十分できているとは言えない。そこで,友達
と積極的に関わり合いながら考えを交流し,学び合ったり,お互いのよさを認め合ったりしていくこと
ができるようにしたいと考え,本主題を設定した。
また,本校では,平成25年度,26年度に研究主題「外国語を中心とした実践的コミュニケーショ
ン能力の育成」を設定して研究に取り組んだ。現地校児童生徒との交流において,双方向のコミュニケ
ーションが活発になるような活動内容の工夫や,積極的に話すこと聞くことができるような英会話フレ
ーズ集の作成,活用等を行うことで,自ら相手と関わり合う児童生徒の育成を図ることができた。そこ
で,普段の授業において,進んで考える姿,友達と学び合う姿の育成を目指す本研究は,これまでの研
究を継続,発展させる意味でも意義深いと考える。
(2)今日的な教育課題から
新学習指導要領は,
「変化の激しい社会を担う子どもたちには,確かな学力,豊かな心,健やかな身
体の調和のとれた『生きる力』の育成がますます重要となっており,確かな学力の育成には,基礎的・
基本的な知識・技能の習得,これらを活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等及び主
体的に学習に取り組む態度等を育むことが必要である」としている。
また,平成20年中央教育審議会答申では,
「21世紀は新しい知識,情報,技術が政治,経済,文化
をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,知識基盤社会の時代である。
このような社会においては,幅広い知識と柔軟な思考力に基づく新しい知や価値を創造する能力が求め
られるようになり,異なる文化,文明との共存や国際協力の必要性が増大してくる」と述べられている。
このように,本研究が目指す,進んで考える,学び合う児童生徒像は,教育の本質,現代日本社会が
目指す人間像と相通じるものであり,今後の教育の方向を見据えたものである。
2 主題・副主題の意味
(1)進んで考え,学び合う児童生徒とは
意欲的に課題に取り組み,自分の考えを具体化して友達に分かりやすく
伝えたり,友達の考えを聞き,新たな見方や考え方を知ったり,お互いの
よさを認め合ったりすることができる児童生徒のことである。これらの児
童生徒の姿は,1単位時間の学習過程の「導入」
「展開」
「終末」の中で段
階的に表れるものと考える。
(図1)
具体的には,授業において,ある課題に対して,その解決法や答えを複
数人で話し合い,教え合ったり,お互いの考えを吟味し合ったりする姿,
話合いを通して新たに学んだこと,考えたことを振り返り,友達の考え方
や考えのよさに目を向けることができる姿であり,本研究では,これらの
姿の育成を目指す。
【図1 目指す児童生徒像】
(2)ICT を活用した協働学習とは
ICT とは,
「Information and Communication Technology」の略称で,コンピュータやインターネット
等の情報通信技術のことである。本校は,主にタブレット端末,インタラクティブボード,プロジェク
タ,実物投影機等の ICT 機器を所持している。授業の中で ICT 機器を使用することにより,画像,動画
等を提示して児童生徒の学習への理解を促したり,興味関心を高めたりする効果が期待される。また,
デジタル教材,ソフトウェア等を活用することで作業に必要な時間を節約し,話合いの時間を確保する
ことや考えを文章や図,表等の具体物として表現させたりすることが容易になる。
このような ICT の特長を生かした,小集団による言語活動
を伴った課題解決型学習(本研究では協働学習と呼ぶ)を行
うことにより,自分の考えを具体化して友達に分かりやすく
伝えたり,友達の考えを聞き,新たな見方や考え方を知った
り,お互いのよさを認め合ったりすることができる児童生徒
を育成することができると考える。小集団で取り組ませるこ
とにより全ての児童生徒に表現の場を与えること,お互いの
考えに対する意見交換の回数を多く,時間を長く設定するこ 【図2 ICT を活用した協働学習とは】
とが可能となる。この際,発表や ICT 機器を扱う能力の習得を目的とするのではなく,発表に至るまで
の伝え合い,話合いの過程を重視し,教科の学習内容の理解とともに,児童生徒の思考力,表現力の向
上を目指すものとする。
(図2)
また,昨年度行った現地校交流において交流校児童生徒とのコミュニケーションの質,量の向上を目
的とし,ICT の効果的な活用法を探った。その成果と課題を本研究に生かし,より深化,充実,発展さ
せていくこととする。
3
研究の目標
小学部,中学部における各教科の授業において,進んで考え,学び合う児童生徒を育成するために ICT
を活用した協働学習を設定することの有効性を明らかにする。
4
研究の仮説
「導入」
「展開」
「終末」の各過程において必要に応じて ICT 活用の工夫を行うとともに,
「展開」部
分に考えを伝え合い,学び合う協働学習の場を設定すれば,論点が焦点化された活発な話合いが行われ,
学習内容の確かな理解を促すとともに,進んで考え,学び合う児童生徒を育成することができるであろ
う。
5
研究の具体的構想
(1)仮説検証のための具体的方途
①「導入」
「展開」
「終末」の各過程における ICT 活用の工夫
これまでに行ってきた ICT 機器を使用した授業実践を整理し,より効果的な活用法を究明する。
授業の目的は,教科の目標を達成することであり,ICT はあくまでもそれを促すツールである。よ
って使用の際には,児童生徒の学習課題の理解を促す,関心・意欲を高める,思考を具体化させる
といった明確な目的が必要となる。このことを考慮し,1単位時間の学習指導過程の「導入」
「展
開」
「終末」において,次項のように適時 ICT 機器を使用する。ICT 機器の使用形態は,①教師が児
童生徒全体に対して使用する②教師が個別の児童生徒に対して使用する③児童生徒同士が表現の
道具として使用するという3つに分けられる。本研究では,これらの使用形態を①一斉②個別③協
働と呼ぶ。言うまでもなく,授業を指導するうえで中心となるものは,教材研究,板書,発問等で
あり,これらの指導技術と ICT 活用を融合させ目指す児童生徒像の育成を実現する。
過程
目的
使用法
前時の板書や前学年の学習内容の画像
を提示する。
プロジェクタ
インタラクティブボード
一斉
関心・意欲を高める。
音声,画像,動画を提示する。
プロジェクタ
タブレット端末
インタラクティブボード
一斉
学習課題に対する正確な
理解を促す。
音声,画像,動画を提示する。ソフトウ
ェアによる学習課題の説明を行う。
プロジェクタ
タブレット端末
インタラクティブボード
一斉
図や表などの作成時間を
短縮させる。
ソフトウェアを使用させる。
タブレット端末
協働
思考を具体化させる。
(交流の際の表現の道具
として)
ソフトウェア,画像,動画を使用させる。 タブレット端末
表現物を拡大提示させる。
実物投影機
協働
児童生徒へ個別支援を行
う。
音声,画像,動画を提示する。ソフトウ
ェアを使用する。
タブレット端末
個別
新たな見方・考え方に気付
かせる。
児童生徒の活動の様子を記録した画像
や動画,表現物の提示を行う。
プロジェクタ
タブレット端末
インタラクティブボード
実物投影機
一斉
知識の定着,技能の習熟を
図る。
ソフトウェアを使用する。
(反復,ドリ
ル式,フラッシュカード式)
プロジェクタ
インタラクティブボード
タブレット端末
一斉
入
開
終
末
使用形態
既習事項を想起させる。
導
展
使用機器
②考えを伝え合い,学び合うための協働学習の場の設定
授業の展開部分において,以下の例のように小集団による言語活動を伴った課題解決型学習を設定
する。協働学習の場において ICT を効果的に活用することにより,作業に必要な時間を節約し,話合
いの時間を確保することや考えを文章や図,表等の具体物として表現させたりすることが容易になる。
そのことによって,話合いの観点が明確になり,より活発なものとなることが期待できる。
教科
学習課題(例)
国語科
物語の内容を伝える劇を作成する。
国語科
読み手を納得させる新聞の割り付けを検討する。
算数科
アンケート結果をグラフに表し,集団の特徴を考察する。
算数科
図形を組み合わせて,複合図形を作成する。
社会科
テーマに合わせた国々を巡る旅行プランを作成する。
理科
実験結果,考察を表やグラフ,画像で紹介する。
体育科
自分達の運動の様子を動画で視聴して課題を把握し,練習方法を選択する。
図工科
アプリケーションソフトを使用し,コマ撮りアニメーション作品を作成する。
音楽科
自分達の合唱の様子を動画で視聴して課題を把握し,修正案を考える。
英語
外国語 B(英会話)
英語劇を作る。
(2)研究組織図