Toys”R”Us-Japan, Ltd. / Abuse of Superior

外立総合法律事務所
HASHIDATE LAW OFFICE
July, 2015
HASHIDATE
LAW OFFICE
Vol. 05
NEWS LETTER
TOPIC
日本トイザらス株式会社に対する審決(子供・ベビー用品
の小売業者による優越的地位の濫用事件)の解説
下「本件返品」といいます。)及び14社のうちの13
第1
はじめに
社に対する減額(取引の相手方に対して取引の対価の額
「この商品、長いこと売れ残っているから返品するっ
を減じること。以下「本件減額」といいます。)が優越
て 取引先に 言われ たんだけ ど。今さ らそれ はないよ
的地位の濫用に該当するか否かが主要な争点となり、本
な・・・。そもそも買取りだし、法律上問題にならない
件審決において、排除措置命令の一部及び3億6908
のかな。」
万円の納付を命じた課徴金納付命令のうち2億2218
こんなご経験はありませんか。
万円を超えて納付を命じた部分を取り消す旨の判断が下
2015年6月4日、子供・ベビー用品の小売業者に
されました。
優越的地位の濫用の考え方については、平成22年1
よる納入業者に対する優越的地位の濫用(私的独占の禁
止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」
1月30日に公正取引委員会が公表した「優越的地位の
といいます。)2条9項5号1)が問題となった事件につ
濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「ガイドラ
き、公正取引委員会の審決(平成24年(判)第6号及
イン」といいます。)に示されているところですが、本
び第7号、以下「本件審決」といいます。)が出ました。
件審決は、具体的な事実関係を踏まえた上で、一部の論
本件では、子供・ベビー用品の小売業者である日本ト
点においてさらに踏み込んだ考え方を示しており、冒頭
イザらス株式会社(以下「被審人」といいます。)によ
に記載したようなご経験の有無にかかわらず、参考にな
る納入業者(小売業者が自ら販売する商品を、当該小売
るものと思われます。
業者に直接販売して納入する事業者。以下同じ。)のう
そこで、本件審決のできる限りわかりやすい解説を試
ちの14社(以下「14社」といいます。)のうちの5
みるべく、本記事を執筆する次第です。以下、争点ごと
社に対する返品(取引の相手方から取引に係る商品を受
に本件審決の判断内容を示した上で、その前提となる優
領した後その商品をその相手方に引き取らせること。以
越的地位の濫用についての基本的事項を解説します。
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第2
本件の争点及び本件審決のポイント
第3
1.本件の争点
争点
1.争点1(本件返品及び本件減額は被審人が14社に対
本件の争点は以下のとおりです。
し自己の取引上の地位が優越していることを利用して
①争点1:本件返品及び本件減額は被審人が14社に対
正常な商慣習に照らして不当に行ったものか否か)に
し自己の取引上の地位が優越していることを
ついて
利用して正常な商慣習に照らして不当に行っ
(1)優越的地位の濫用規制の趣旨
たものか否か
優越的地位の濫用は、独占禁止法2条9項5号におい
②争点2:本件返品及び本件減額に公正な競争を阻害す
て「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを
るおそれがあるか否か
利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれ
③争点3:本件における違反行為期間はどのように認定
かに該当する行為をすること。」と定義されており(本
すべきか
件で問題となった返品及び減額は同号ハに規定されてい
ます。)、独占禁止法19条において禁止されています。
本件審決が示す優越的地位の濫用規制の趣旨の考え方
2.本件審決のポイント
は、以下のとおり、ガイドラインの考え方2を踏襲したも
本件審決は、優越的地位の濫用の考え方について、基
本的にガイドラインの内容を踏襲していますが、以下の
のとなっています。
ような新たな考え方を示している点がポイントと言えま
「自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当
す。
事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正
①「優越的地位」を認定する際の考慮要素の一つとして、
常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当
「取引の一方当事者による濫用行為を他方の当事者
該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻
が受け入れているという事実」を挙げていること
害するとともに、当該取引の相手方はその競争者との関
(後記第3.1(2)イ【3ページ】)
係において競争上不利となる一方で、行為者はその競争
②買取取引における取引の相手方の責めに帰すべき事由
者との関係において競争上有利となるおそれがあり、こ
がない場合の返品及び減額が、原則として濫用行為に
のような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争
当たると解されるとしていること
阻害性)があるといえるからである。」
すなわち、事業者間の取引条件の決定は自由な交渉に
(後記第3.1(3)イ【3ページ】)
また、本件審決の判断を踏まえた上で、返品及び減額
委ねられるのが原則であり、交渉の結果、どちらかの当
を行うにあたり、取引実務上どのような対応が必要と考
事者に有利な取引条件となることも当然に想定されます
えられるかをポイントとしてまとめました(後記第3.
が、上記のような形で公正な競争を阻害するおそれがあ
1(4)ア(ウ)【5ページ】)。
る場合にはもはや事業者の自由に委ねることはできず、
規制の対象となります。
(2)優越的地位の判断基準
ア
本件審決は、優越的地位の意義について以下のよう
に述べ、ガイドラインの考え方3を踏襲しています。
「取引の一方当事者(以下「甲」という。)が他方の当
事者(以下「乙」という。)に対し、取引上の地位が優
越しているというためには、甲が市場支配的な地位又は
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それに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく、
取引依存度、②甲の市場における地位、③乙にとっての
取引の相手方との関係で相対的に優越した地位にあれば
取引先変更の可能性、④その他甲と取引することの必要
足りると解される。また、甲が取引先である乙に対して
性、重要性を示す具体的事実を総合的に考慮して判断す
優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続
るのが相当である」
が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、
(3)本件返品及び本件減額にかかる濫用行為該当性に
甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙が
ついての判断
これを受け入れざるを得ないような場合をいうと解され
ア
る。」
も買取取引における返品及び減額であり、独占禁止法2
イ
条9項5号ハに規定されています。
また、本件審決は、以下のとおり、取引の一方当事
本件で濫用行為該当性が問題となったのは、いずれ
者による濫用行為を他方の当事者が受け入れているとい
イ
本件審決は、買取取引における取引の相手方の責め
う事実を、「乙にとって甲との取引の継続が困難になる
に帰すべき事由がない場合の返品及び減額について、以
ことが事業経営上大きな支障を来す」との事実を認定す
下のように、原則として濫用行為に当たると解されると
るにあたっての重要な要素と位置付けていますが、これ
の考え方を示しています。
はガイドラインでは明示されていなかった考え方です。
「買取取引において、取引の相手方の責めに帰すべき事
「取引の相手方に対し正常な商慣習に照らして不当に不
由がない場合の返品及び減額は、いったん締結した売買
利益を与える行為(以下「濫用行為」ということもある。)
契約を反故にしたり、納入業者に対して、売れ残りリス
は、通常の企業行動からすれば当該取引の相手方が受け
クや値引き販売による売上額の減少など購入者が負うべ
入れる合理性のないような行為であるから、甲が濫用行
き不利益を転化する行為であり、取引の相手方にとって
為を行い、乙がこれを受け入れている事実が認められる
通常は何ら合理性のないことであるから、そのような行
場合、これは、乙が当該濫用行為を受け入れることにつ
為は、原則として、取引の相手方にあらかじめ計算でき
いて特段の事情がない限り、乙にとって甲との取引が必
ない不利益を与えるものであり、当該取引の相手方の自
要かつ重要であることを推認させるとともに、「甲が乙
由かつ自主的な判断による取引を阻害するものとして、
にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを
濫用行為に当たると解される」
受け入れざるを得ないような場合」にあったことの現実
なお、ガイドラインにおいては、返品については「当
化として評価できる」
該取引の相手方側の責めに帰すべき事由により、当該商
ウ
このほか、①乙の甲に対する取引依存度、②甲の市
品を受領した日から相当の期間内に、当該事由を勘案し
場における地位、③乙にとっての取引先変更の可能性、
て相当と認められる数量の範囲内で返品する場合」、減
④その他甲と取引することの必要性、重要性を示す具体
額については「当該取引の相手方側の責めに帰すべき事
的事実を総合的に考慮する点についてはガイドラインの
由により、当該商品が納入され又は当該役務が提供され
4
考え方 を踏襲しています。
た日から相当の期間内に、当該事由を勘案して相当と認
エ
そして、上記アからウの考え方を踏まえた上で、本
められる金額の範囲内で対価を減額する場合」には、い
件審決は、優越的地位の認定について、以下のような判
ずれも「正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える
断基準を提示しています。
こととならず、優越的地位の濫用の問題とはならない。」
「甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かに
5
ついては、甲による行為が濫用行為に該当するか否か、
手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品及び減額は
濫用行為の内容、乙がこれを受け入れたことについての
濫用行為に当たるとの取扱いが原則であることをより積
特段の事情の有無を検討し、さらに、①乙の甲に対する
極的に示したものと評価できます。
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としていたところでありますが、本件審決は、取引の相
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ウ
ただし、本件審決は、返品に関して、以下の場合な
合(以下、これに該当する場合の事情を「例外事由」と
どは、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利
いいます。)に該当する特段の事情がない限り、濫用行
益を与えるものではなく、例外的に濫用行為には当たら
為該当性が認められることとなります。
ないという解釈を示しています。
本件審決は、このことを前提に、本件返品及び本件減額
①商品の購入に当たって、当該取引の相手方との合意に
について例外事由に該当する事実の有無を検討した上で、
より返品の条件を明確に定め、その条件に従って返品す
以下のような判断を行っています。
る場合(ただし、返品が当該取引の相手方が得る直接の
(ア)本件返品について
利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超え
本件審決は、本件返品の一部(19件のうち8件)に
た負担となり、当該取引の相手方に不利益を与えること
ついては、例外事由のうちの「③当該取引の相手方から
となる場合には、当該取引の相手方の自由かつ自主的な
商品の返品を受けたい旨の申出があり、かつ、当該取引
判断による取引を阻害するものとして、濫用行為に当た
の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方
ることとなる。)
の直接の利益となる場合」に該当することを理由として
②あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て、かつ、商
濫用行為に当たらないものと判断しています。また、本
品の返品によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失
件審決は、この判断を行う前提として、濫用行為に当た
を自己が負担する場合
らないとした8件について、(a)納入業者が旧商品の
③当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出
早期処分及び新商品の販売促進を目的として返品を申し
があり、かつ、当該取引の相手方が当該商品を処分する
出たこと、及び(b)結果として納入業者の被審人に対
ことが当該取引の相手方の直接の利益となる場合
する商品の販売実績が上がったことという事実を認定し
エ
ています。
また、減額に関しても、以下の場合などは、当該取
引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるも
(イ)本件減額について
のではなく、例外的に濫用行為には当たらないという解
本件審決は、本件減額の一部(66件のうち21件)
釈を示しています。
については、例外事由のうちの「②当該取引の相手方か
①対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環と
ら値引き販売の原資とするための申出があり、かつ、当
して行われ、その額が需給関係を反映したものであると
該値引き販売を実施して当該商品が処分されることが当
認められる場合
該取引の相手方の直接の利益となる場合」に該当するこ
②当該取引の相手方から値引き販売の原資とするための
とを理由として濫用行為に当たらないものと判断してい
申出があり、かつ、当該値引き販売を実施して当該商品
ます。また、本件審決は、この判断を行う前提として、
が処分されることが当該取引の相手方の直接の利益とな
返品の場合と同様に、濫用行為に当たらないとした21
る場合
件について、(a)納入業者が旧商品の早期処分及び新
(4)本件における具体的検討
商品の販売促進を目的として値引き販売費用の一部負担
ア
を申し出たこと、及び(b)結果として納入業者の被審
濫用行為について
本件審決は、被審人が14社に対して本件返品及び本
人に対する商品の販売実績が上がったことという事実を
件減額を行ったこと、本件返品及び本件減額が、いずれ
認定しています
も14社の責めに帰すべき事由がない場合の返品又は減
なお、本件減額のうち、納入業者Cに対して行われた
額であったことを認定しています。したがって、上記(3)
あらかじめ合意した条件に基づく減額について、「Cと
に示した本件審決の判断基準によると、上記(3)ウ及
被審人は、新製品を継続的に導入するために、Cが年度
びエのような例外的に濫用行為にあたらないとされる場
の初めに定めた値引き販売に伴う費用負担についての
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(ママ)定めた予算の範囲内で、Cが被審人に販売した
間で十分な交渉を行い、その納得を得た上で、納入業者
商品のうち廃盤となった商品の在庫一掃を促進するため
が返品又は値引き販売費用の一部負担を申し出るに至っ
の値引き販売費用を各2分の1の割合で負担することを
た経緯や意図、背景にある納入業者の販売戦略等も含め
あらかじめ合意していた」という事実認定を前提とした
て事後的に確認することができる形で記録化しておくこ
上で、以下のような判断を示しています。
とが望ましい対応であると考えられます。
「減額①ないし④は、Cが、商品の販売促進を図るため
また、商品の購入に先立つ事前の合意に基づいて返品又
に、新製品を継続的に導入すべく、被審人との間で、限
は値引き販売費用の一部負担としての減額を行うに際し
度額及び対象商品をあらかじめ限定した上で、値引き販
ては、返品又は減額について単に包括的・抽象的な内容
売の原資とするための減額の条件を明確に定め、被審人
を合意するのみでは足りず(このような合意だけでは、
が、その条件に従って上記限度額及び上記対象商品の範
納入業者側において実際に返品又は減額が行われる範囲
囲内で行った減額であることが認められるから、上記各
の見込みを立てることができないため、取引の相手方に
減額については、Cにあらかじめ計算できない不利益を
あらかじめ計算できない不利益を与えるものであると判
与えるものではなく、また、上記各減額がCが得る直接
断される可能性が高いものと考えられます。)、小売業
の利益を勘案して合理的であると認められる範囲を超え
者と納入業者との間の事前の合意において限度額及び対
た負担となり、同社に不利益になることもうかがわれな
象商品をあらかじめ限定した上で、返品又は値引き販売
いから、上記減額については、濫用行為に当たるとは認
の原資とするための減額の条件を明確に定め、その条件
められない。」
に従って上記限度額及び対象商品の範囲内で返品又は減
なお、本件審決は、減額に関しては、返品に関する例
額を行う必要があると考えられます。
外事由である「①商品の購入に当たって、当該取引の相
イ
手方との合意により返品の条件を明確に定め、その条件
(ア)本件審決は、優越的地位の認定については、被審
に従って返品する場合」に対応する例外事由について直
人が濫用行為を行い、納入業者が特段の事情なくこれを
接言及していません(上記(3)エ)。これは、減額の
受け入れていることを認定した上で、さらに、①乙の甲
場合は返品の場合と異なり、買取取引においてあらかじ
に対する取引依存度、②甲の市場における地位、③乙に
め減額の条件を定めることは一般的でないことによるも
とっての取引先変更の可能性、④その他甲と取引するこ
のと考えられますが、個別事案によっては減額において
との必要性、重要性を示す具体的事実の検討を行ってい
も当該例外事由の考え方が当てはまる場合があることを
ます6。
前提として上記の判断を行っているものと思われます。
(イ)本件審決は、上記(ア)に示した①ないし④の要
(ウ)本件審決の判断から必要と想定される実務上の
素のうち、②の要素については、行為者と取引の相手方
対応
優越的地位について
との取引に係る商品類型を考慮した市場における行為者
上記(ア)及び(イ)で紹介した本件審決の判断を踏
の地位ではなく、「通常は行為者が供給する商品全体が
まえると、小売業者が納入業者からの申出に基づいて返
取引される市場における地位」を考慮するのが妥当であ
品又は値引き販売費用の一部負担としての減額を行うに
るとした上で、以下のとおり認定しています。
際しては、納入業者からの申出が「旧商品の早期処分及
「子供・ベビー用品全般」という市場を前提として、「被
び新商品の販売促進」を目的としたものであることを明
審人は我が国に本店を置く、子供・ベビー用品全般を専
確にするにする必要があるため、単に返品又は値引き販
門的に取り扱う小売業者の中で最大手の事業者であり、
売費用の一部負担について当事者間で合意したという結
有力な地位にあった。」
果を文書等の形で記録化するだけでなく、納入業者との
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(ウ)また、本件審決は、上記(ア)に示した①ないし
を目的として、組織的かつ計画的に一連の行為として本
④の要素のうち、②の要素以外の①、③及び④の要素に
件行為(以下「本件濫用行為」といいます。)を行って
ついては、基本的には相手方報告書(納入業者が審査官
いたものとしています。
の報告命令に対して提出した報告書)及び納入業者の担
当者の供述調書に基づいた事実認定を行っています。
2.争点2(本件返品及び本件減額に公正な競争を阻害す
①及び④の要素については、納入業者から報告された
るおそれがあるか否か)について
納入業者の被審人に対する売上高、納入業者の被審人に
本件審決は、本件濫用行為が、①115社という多数
対する取引依存度、納入業者ごとの取引依存度における
の取引の相手方に対して、②2年以上もの期間にわたり、
被審人の順位を主な考慮要素としています。また、③及
③組織的かつ計画的に一連の行為として行われたもので
び④の要素については、相手方報告書及び納入業者の担
あることや、本件濫用行為により、④115社にあらか
当者の供述調書に基づいて、取引先変更の可能性、被審
じめ計算できない不利益を与え、115社の自由かつ自
人と取引することの必要性や重要性に関する納入業者側
主的な判断による取引が阻害されたという結果が生じた
の認識に重きを置いた事実認定を行っています。
ことを認定した上で、本件濫用行為の公正競争阻害性を
(エ)その上で、被審人による濫用行為の内容と上記(ア)
認めており、行為と結果の両面に着目した判断を行って
に示した①ないし④の要素に関する事情を総合して、被
います。
審人の取引上の地位が納入業者に優越していたと判断し
また、「正常な商慣習」の考え方については、「優越
ています。
的地位の濫用の成否の判断に際して考慮されるべきは
(オ)なお、被審人が納入業者に対して優越的地位にあ
「正常な商慣習」であり、公正な競争秩序の維持・促進
ることを否定する被審人の主張について、本件審決は、
の観点から是認されないものは「正常な商慣習」とは認
主として、(a)納入業者が被審人に代わる取引先を見
められないから、仮に本件濫用行為が現に存在する商慣
付けることが困難であると認識していたことと、(b)
習に合致しているとしても、それにより優越的地位の濫
現に被審人が納入業者に対して返品又は減額という濫用
用が正当化されることはない。」としてガイドラインの
行為を行い、納入業者が特段の事情なくこれを受け入れ
考え方7を踏襲しています。
ていたことという事実を示した上で、これを排斥してい
ます。この点にかんがみると、本件審決は、被審人の優
3.争点3(本件における違反行為期間はどのように認定
越的地位を認定するに際して、代替的な取引先発見の困
すべきか)について
難性に関する納入業者の認識と納入業者による濫用行為
本件審決は、課徴金額の算定対象となる売上額の計算
の受入れという2つの事実に特に重きを置いていること
にかかる「当該行為8をした日から当該行為がなくなる日
がうかがわれます。
までの期間」について以下のように判断しています。
ウ
「濫用行為は、これが複数みられるとしても、また、複
濫用行為の組織性・計画性について
さらに、本件審決は、証拠上、被審人が、①従来から、
数の取引先に対して行われたものであるとしても、それ
会社の方針として、売上不振商品等について返品又は値
が組織的+、計画的に一連のものとして実行されているな
引き販売費用の一部負担としての減額を行うこととして
ど、それらの行為を行為者の優越的地位の濫用として一
いたこと、②業績回復のため、種々の利益改善策を講じ
体として評価できる場合には、独占禁止法上一つの優越
ていたこと、③当該利益改善策に基づき、バイヤーに対
的地位の濫用として規制されることになり、課徴金算定
して返品及び減額に関連する指示を行っていたことが認
の基礎となる違反行為期間についても、それを前提にし
められるとして、被審人が、自社の利益を確保すること
て、濫用行為が最初に行われた日を「当該行為をした日」
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とし、濫用行為がなくなったと認められる日を「当該行
同号の規定のみを適用すれば足りるので、当該行為に独占禁止法第2
為がなくなる日」とするのが相当である。」
条第9項第6号の規定により指定する優越的地位の濫用の規定が適用
また、課徴金の要件である濫用行為の継続性に関して
されることはない。
」
(ガイドライン(注2))としているので、本稿で
は、濫用行為と濫用行為との間に同類型の合法行為があ
は専ら独占禁止法2条9項5号の規定について言及することとします。
ったとしても、濫用行為がなくなったと認められる日ま
2 ガイドライン第1の1
では継続性の要件に欠けるところはないと判断していま
3 ガイドライン第2の1
す。
4 ガイドライン第2の2
5 ガイドライン第4の3(2)イ①及び(4)イ①
第4
6 なお、納入業者のうち、Bについては「Bは、Eの完全子会社であ
結語
り、Eが被審人との取引を始めるに当たり、被審人に卸売販売をする
本件審決において、取引の一方当事者による濫用行為
ために当時休眠会社となっていた会社(当時は旧商号)を販売会社と
を他方の当事者が受け入れているという事実を「乙にと
して利用していたものであることが認められる。」との事情があったよ
って甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大
うですが、本件審決は「被審人の取引上の地位を検討するに当たって
きな支障を来す」との事実を認定するにあたっての重要
は、取引の相手方であるBを基準に判断すべきであり、Eの存在はそ
な要素と位置付けていること、及び取引の相手方の責め
の際の事情の一つとして考慮すれば足りると解される。」という判断を
に帰すべき事由がない場合の返品及び減額が原則として
示しています。
濫用行為に当たるとの考え方を積極的に示していること
7 ガイドライン第3.なお、この点に関して、本件審決は「子供・ベ
は今後の法執行の動向をうかがう上での重要なメッセー
ビー用品を取り扱う小売業者において、納入業者の責めに帰すべき事
ジであると考えられます。優越的地位の濫用は、今後法
由のない返品や減額が行われることが業界の慣行であると認めること
執行の強化が見込まれる分野でもありますので、本ニュ
はできない。
」との事実を認定しています。
ーズレターが本審決にて示された考え方を皆様の日々の
8 独占禁止法19条の規定に違反する行為のうち、同法2条9項5号
業務の中に反映するための一助になれば幸いです。
に該当するものであって、継続してするものに限ります(独占禁止法
20条の6)
。
1優越的地位の濫用については、独占禁止法2条9項5号のほか、同項
6号ホの規定に基づきより公正取引委員会が指定する、①すべての業
種に適用される「不公正な取引方法」
(昭和57年公正取引委員会告示
第15号)13項(取引の相手方の役員選任への不当干渉)、及び②特
定の業種にのみ適用される不公正な取引方法(以下「特殊指定」とい
います。)にも規定が置かれています。特殊指定には、①新聞業におけ
る特定の不公正な取引方法(平成11年公正取引委員会告示第9号)、
②特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取
引方法(平成16年公正取引委員会告示第1号)、③大規模小売業者に
よる納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(平成17年
公正取引委員会第11号)の3つがあります。公正取引委員会は、
「独
占禁止法第2条第9項第5号に該当する優越的地位の濫用に対しては、
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執筆担当者
執筆担当者
弁護士 藪田 広平 Kouhei Yabuta
パートナー
Partner
E-mail: [email protected]
第一東京弁護士会所属
弁護士 髙原 慎一 Shinichi Takahara
アソシエイト
Associate
E-mail: [email protected]
東京弁護士会所属
本ニューズレターは、一般的な情報を提供する目的で作成されたものであり、特定の事実関係を前提とする具体的な法的アドバイスを提
供するものではありません。本ニューズレターで紹介する法令又は判例の個別事案に対する適用可能性につきましては、具体的な事実関係
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外立総合法律事務所には、公正取引委員会への勤務期間中に独占禁止法違反事件の審査・審判・訴訟、下請法違反事件の調査及び関連法
令のガイドライン作成に携わった経験を有する弁護士が所属しており、独占禁止法を中心とする「競争法」の運用実務に関する幅広いノ
ウハウを蓄積しています。このような体制を活かして、競争法に関する日常的なご相談から公正取引委員会が行う調査への対応、社内の
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