不揮発性ネットワークのためのセッション分離機能の実装と評価

不揮発性ネットワークのためのセッション分離機能の実装と評価
Implementation and Evaluation of the Session Separation Function for Non-Volatile Network
リアルタイムシステム学講座 0312011033 川村 康嘉
指導教員: 今井信太郎 新井義和 猪股俊光
1.
はじめに
地震や津波などの災害時には情報収集のため,イ
ンターネットへのアクセスの集中による輻輳が発生
ため,自身の情報を一方的に送信することはできる
が安否情報の入手には向かない.
2.2.
OpenFlow
し,Web ページのアクセスが困難になることが予
OpenFlow はこれまで一つのネットワーク機器の
想される.一度障害が発生すると利用者は情報を取
内部に同居していたセッション分離の機能とデー
得するためにさらなるアクセスを繰り返し,そのア
タ転送の機能をそれぞれ別の機器に分離し,Open-
クセスでさらに輻輳が発生するという悪循環に陥
Flow コントローラと呼ばれる制御装置が複数の転
る.このような悪循環は「Web サーバの応答がな
送装置 (OpenFlow スイッチ) の振る舞いを一括し
い場合にリクエストが消えてしまう」ことにより利
て管理する手法である 2) .OpenFlow はネットワー
用者が頻繁なアクセスを行うことが原因となってい
クの構成,機能などをソフトウェアの操作だけで設
る.
定,変更できるネットワークであり,通信経路など
この問題を解決するために Web サーバへのリク
を自分で設定,管理することができる.
エストが消えない仕組みである不揮発性ネットワー
クが提案されている.不揮発性ネットワークは,障
3.
セッション分離機能の実装
害のある状況を検知したとき対象となるセッション
1 節で述べた不揮発性ネットワークを実現するた
の経路を変更する機能,分離したセッションを保存
めに,不揮発性ネットワークでは,利用者のリクエ
する機能,Web サーバへのリクエスト送信を制御
ストを保存するためのストレージとリクエストの送
する機能,応答と保存したセッションを照合しセッ
信順を制御するための順序制御サーバ (以降,合わ
ションを復元する機能からなる.
せて順序制御システムと呼ぶ) を用いる.セッショ
本研究ではこれらの機能のうち,障害のある状
ン分離機能は,利用者のリクエストをストレージ
況を検知したとき経路を変更する機能 (以降,セッ
に,リクエストの応答結果を順序制御サーバへ送信
ション分離機能と呼ぶ) について OpenFlow スイッ
する必要がある.図 1 にセッション分離機能の概要
チを用いた実装と評価を行う.この機能は,不揮発
を示す.本研究では,外部のネットワークや Web
性ネットワークを実現するために,通信されるパ
サーバに障害が発生しており,内部のネットワーク
ケットに基づき経路を制御し,対象となる通信を不
には障害が発生していない環境を想定している.
揮発性ネットワークのシステム側に,それ以外の通
信は通常時と同様の経路となるように通信経路を切
り替えることを目的としている.本研究において対
象とする通信は Web サーバへのリクエストである.
2.
2.1.
関連技術
DTN
DTN(delay-tolerant network)1) は中断や切断
が多発したり,大きな伝送遅延が生じたりする劣悪
な通信環境において,信頼性のあるデータ転送を
実現するための通信方式である.DTN では,送信
図 1 セッション分離機能の概要
セッション分離機能では以下の動作を実現する必
要がある.
先までデータを送る際に,中継地点でデータを保持
(F1) 利用者からの通信の場合,対象となる通信パ
しながら,通信可能になった時点でデータを転送す
ケットであった場合はストレージに,対象のパケッ
る.しかし,DTN は送信のみの単方向通信である
トでないならば通常時と同じくインターネット側に
送信する.
(F2) 順序制御サーバからの通信の場合,全てイン
ターネット側に送信する.
(F3) インターネット側からの通信の場合,順序制
御サーバからのリクエストへの応答の場合は順序制
御サーバに,それ以外の通信の場合は利用者側に送
信する.
これらの機能を本実装では以下のように実現す
る.以下の説明では,スイッチのポート 2 番に利
用者側のネットワーク,ポート 1 番にストレージ,
ポート 3 番に順序制御サーバ,ポート 4 番にイン
ターネット側のネットワークを接続した環境を例と
して上の (F1) から (F3) を説明する.
(F1) ポート 2 番から入ったパケットが TCP/UDP
ポート 80 番を使用した通信 (http リクエスト) 由
来であればポート 1 番から,それ以外のパケットな
らばポート 4 番から送信する.
(F2) ポート 3 番から入ったパケットはすべてポー
ト 4 番から送信する.
(F3) ポート 4 番から入ったパケットが TCP ポー
ト 80 番を使用した通信由来であればポート 3 番か
図 3 実験環境
4.2.
実験結果と評価
4.1 節で述べた実験環境において,(F1) と (F3)
の動作が行われているか確認を行った.実験では利
用者 1 は非 Web サーバと提案手法の対象とならな
い通信を行い,利用者 2 は対象の Web サーバと通
信をそれぞれ行った.通信を 10 万回ずつ 10ms 間
隔で行い,それぞれの通信の経路を調査した.受信
側はどれだけのパケットを受信できたか,また,順
序制御システムが Web ページを読み込むことが可
能かを調べた.実験の結果
• 利用者 1 からのリクエストはすべてサーバ側
に直接送信されていること
• 利用者 2 からのリクエストはすべて順序制御
システム側に送信されていること
• 非 Web サーバからの通信は全て利用者 1 側
に直接送信されていること
• Web サーバからの通信は全て順序制御システ
ム側に送信されていること
ら,それ以外のパケットならばポート 2 番から送信
する.
以上のセッション分離機能の動作を図 2 に示す.
以上の 4 点が確認できた.
すなわち,提案手法により,経路制御が正しく行
われていることが確認できた.
図 2 セッション分離機能の動作
4.
評価実験
5.
おわりに
本研究では,Web ページの情報を災害時でも安
定して取得するための不揮発性ネットワークのセッ
セッション分離機能がパケットの種類によって
ション分離機能を,OpenFlow スイッチの経路変更
経路変更ができているかを評価するために実験を
機能を利用して実装し,その評価実験を行った.そ
行った.
の結果,想定した環境において OpenFlow スイッチ
4.1.
実験環境
構築した実験環境を図 3 に示す.この実験では利
用者の送信するリクエストの代わりにパケットジェ
ネレータによりパケットを送信し,パケットの到達
先を確認することで OpenFlow スイッチによる経
が不揮発性ネットワークのセッション分離機能に利
用できることがわかった.今後の課題として,順序
制御システムと合わせた実験が挙げられる.
参考文献
路制御が有効であるかを評価する.送信元は対象の
1) V.Cerf et al.,
“ Delay-Tolerant Networking
パケットと対象外のパケットを送信することとし,
Architecture ”,IEFT RFC 4838,2007.
2)馬 場 達 也 ,大 上 貴 充 ,関 山 典 孝 ,高 畑 知 也:
OpenFlow 徹底入門,翔泳社 (2013).
パケットの種類によって経路が変更されているかど
うかを実験で確認する.