[第8回]冬に流行する感染症

こどもの病気【第 8 回】
冬に流行する感染症
冬に流行する感染症というと、真っ先にインフルエンザが浮かびますが、イ
ンフルエンザだけが冬に流行する怖い感染症ではありません。予定日より早く
生まれた児(早産児)や肺や心臓に異常を持った児、免疫不全の児、ダウン症
候群の児が感染すると重症化する RS ウイルス感染症なども冬に流行します。冬
に流行る感染症の代表として、インフルエンザと RS ウイルス感染症について解
説します。
Ⅰ.インフルエンザ
① インフルエンザウイルスとは?
インフルエンザは、毎年冬に流行を繰り返し、時には脳症などの重篤な状態
を引き起こします。インフルエンザウイルスには A,B,C の3つの型があります。
大きな流行を引き起こし臨床的に問題となるのは A 型と B 型のインフルエンザ
です。インフルエンザは、毎年冬に流行を繰り返し、人口の 5~10%が罹患しま
す。日本では、年間 600 万~1200 万人の患者が出ていることになります。
② インフルエンザの症状
インフルエンザウイルスの潜伏期は短く、24~48 時間程度です。成人では、
高熱、頭痛、関節痛、腰痛、筋肉痛、倦怠感など全身症状が突然出現し、やや
遅れて咳嗽、鼻汁などの上気道症状が見られます。数日で解熱しますが、その
後 7~10 かほど症状は続きます。気管支炎や肺炎を併発することもあります。
小児では、発熱以外の全身症状は比較的目立たず、発病当初から咳や鼻汁を伴
うことが多いです。中耳炎や熱性痙攣を併発することもあります。
乳幼児がインフルエンザにかかった場合、水分をとってもすぐに吐いてしま
ったり、意識がはっきりせずうとうとしたり、けいれんを起こすなどの症状を
呈することがあります。このような時は、脳炎や脳症を併発している可能性が
高いです(インフルエンザ脳症)。このような場合は直ちに病院を受診してくだ
さい。
③ インフルエンザの診断
インフルエンザの最も確実な診断方法は、患者様の鼻咽頭をぬぐった液を採
取し、ウイルス分離を行うことや血液検査でのインフルエンザウイルスの抗体
価が上昇しているかですが、結果が出るまでに時間がかかります。現在では、
10~30 分で結果が出る迅速診断キットを使用することが多くなってきています。
ただ、発熱後数時間は陽性反応が出ないという弱点があります。発熱後 12 時間
程度が経過しないと陽性反応が出にくいとも言われています。インフルエンザ
流行期に熱が出たからといってあわてて病院にいってもインフルエンザの診断
はできません。特に夜間にあわてる必要はありません。しっかりと対症療法を
行って、翌日の診療時間内に病院を受診して、しっかりと診断してもらうこと
が重要です。
④ インフルエンザの治療
インフルエンザはウイルスによる感染症です。ほとんどのウイルスの感染症
は、ウイルスを殺す特効薬がないため、対症療法のみで軽快するのを待ちます。
発熱に対しては十分に冷やしてください。決して暖めてはいけません。
(冷やし
方はこどもの病気【第 2 回】発熱の中で紹介しています。参考にしてください。)
安静にし、休養を十分にとりましょう。水分も十分に補給しましょう。
インフルエンザウイルスに対してはオセルタミビル(商品名タミフル)やザ
ナミビル(商品名リレンザ)、ベラミビル(商品名ラピアクタ)、ラニナミビル
(商品名イナビル)などの抗インフルエンザ薬があります。しかし、諸外国で
は日本ほど使用されていません。
「タミフル」は生産量の半分以上が日本で消費
されています。重症例にのみ使用されているのが諸外国の現状です。現在、5 歳
以下のお子さんやぜんそくや免疫不全、糖尿病などの基礎疾患がある場合は抗
インフルエンザ薬を使用するというのが世界的な考えですが、日本の現状では、
抗インフルエンザ薬を使用することが推奨されています。
数年前のシーズンは「タミフル」による異常行動が話題になりました。イン
フルエンザ自体にも症状として異常行動があるといわれていますが、再調査で
は、
「タミフル」にも異常行動を誘発する可能性があるのではないかと考えられ
ています。安易に抗インフルエンザ薬を用いることは、必ずしもお勧めできま
せん。また、
「タミフル」の内服の有無にかかわらずインフルエンザと診断され
たら、2 日間は患児を一人にせずに様子をしっかりと見ることが重要です。
インフルエンザは高熱を呈する疾患です。解熱剤を使用せざるを得ないこと
も多いです。しかし、インフルエンザにかかっているときには使用を避けなけ
ればならない解熱剤があります。インフルエンザの可能性が高ければ、必ず病
院を受診し適切な解熱剤を使用してください。
⑤ インフルエンザの予防
インフルエンザウイルスは、寒くて乾燥した環境を好みます。また、寒くて
乾燥した空気は気道粘膜の抵抗力を弱めるためインフルエンザは冬に流行しま
す。そのため、流行する前(11 月ころ)に予防接種を受けることがインフルエ
ンザの予防に有効です。予防接種の目的は、病気にかかりにくくしたり、かか
っても重くならないようにしたりすることです。予防接種を受けたら絶対にイ
ンフルエンザにかからないわけではないことを覚えておいてください。成人の
場合インフルエンザの発病阻止率は 70 から 90%くらいで、小児の場合はさら
に低いです。
また、日常生活において(ア)外出後うがい・手洗いをする、
(イ)室内の湿
度を保つ(50~60%)、(ウ)人ごみへ行くときはマスクをする(インフルエン
ザにかかったとき、人にうつさないためのエチケットとしても有効です)、
(エ)
バランスのとれた食事や十分な睡眠をとるなどに気をつけることで、ある程度
の予防ができます。
Ⅱ.RS ウイルス感染症
① RS ウイルスとは?
冬に乳幼児に呼吸器感染症を引き起こす最大のウイルスが RS ウイルスです。
大人に感染した場合は、軽い風邪のような症状で治まりますが、予定日より早
く生まれた赤ちゃんや生まれつき肺や心臓に病気を持っている赤ちゃんが感染
すると、非常に重症化し、最悪の場合生命の危機にも直面する可能性を持った
怖いウイルスです。一年を通じて感染がみられますが、特に晩秋から春に流行
します。
② RS ウイルスの症状
一般に“かぜ”のような症状で始まりますが、急激に悪化し、ゼイゼイとし
て呼吸がはやくなり、哺乳ができなくなったりする細気管支炎や肺炎になるこ
ともあります。さらにウイルスが肺の奥に入り込み重症化すると、呼吸困難が
みられることもあります。重症化すると呼吸器症状は長期にわたり、軽快・増
悪を繰り返すことがあります。
③ RS ウイルスの治療
ウイルス感染ですので治療法はありません。対症療法が中心となります。た
だ、重症化することを抑えられる可能性を持ったパリビズマブ(商品名シナジ
ス)という注射薬があり、重症化しやすい早産児や慢性肺疾患の児や先天性心
疾患の児、免疫不全の児、ダウン症候群の児にうつことができます。
④ 「シナジス」とはどんなくすり?
人は、体にウイルスなどの異物が侵入してくると、抗体というものをつくり
ウイルスが体内で増殖するのを防ぐ免疫システムを持っています。「シナジス」
は人工的につくられた RS ウイルスに対する抗体で、RS ウイルスの増殖を防ぐ
ことにより、RS ウイルス感染症から赤ちゃんを守ります。
効果は約 1 ヵ月で弱まりますので、ウイルスの流行期間(現在の考え方では 8
月後半から 4 月末まで)、月 1 回の筋肉注射を継続して行う必要があります。
必要な薬ですが、どこの医療機関でも接種できるわけではありません。未熟
児や心臓に病気のあるお子さんを多く診療しているような大きな病院でしか接
種できません。
⑤ 「シナジス」の対象となる赤ちゃんは?
RS ウイルス感染症が重症化しやすい次のような赤ちゃんやお子さんに使用さ
れます。
1)早産児
在胎期間が 28 週以下で RS ウイルス流行開始時(現在の考え方では8月後半)
に 12 ヵ月齢以下の赤ちゃん
在胎期間が 29~35 週で RS ウイルス流行開始時に 6 ヵ月齢以下の赤ちゃん
2) 慢性肺疾患をもつ子ども
過去 6 ヵ月以内に気管支肺異形成賞などの呼吸器疾患の治療を受けたことが
あり、RS ウイルス流行開始時に 24 ヵ月齢以下の子ども
3) 先天性心疾患をもつ子ども
RS ウイルス流行開始時に 24 ヵ月齢以下の先天性心疾患児で、明らかに循環
動態(心臓や血流)に異常がある子ども
4) 免疫不全の子ども
RS ウイルス流行開始時に 24 ヵ月齢以下の免疫不全を伴う子ども
5) ダウン症候群の子ども
RS ウイルス流行開始時に 24 ヵ月齢以下のダウン症候群の子ども
行徳総合病院小児科 佐藤俊彦