31 保証債務の履行に伴う譲渡所得の特例 業務サービス事例紹介 他人の保証債務を履行するために、自分の土地や建 定しており、B 社が債務を返済できない状態でなかった 物などの不動産を売った場合には、所得税法第 64 条 2 こと、また、競売手続きであることから保証債務の履行 項によりその不動産の譲渡による譲渡所得はなかったも のための売却であることが明らかであるため(1) (2)の のとされる特例があります。今回はこの特例を受けて譲渡 要件を満たしておりました。 (3)の要件における『回収 所得が課税されなかった事例をご紹介します。 できなくなったこと』とは、本来の債務者が資力を失って いるなど、債務の弁済能力がないため、将来的にも回収 ■競売手続きにより売却された事例 A 氏は知人の会社であるB 社の株主となり、知人から の依頼を断りきれず、A 氏が所有する不動産をB 社の借 入金の担保として提供したところ、金融機関が A 氏の不 動産に6,000 万円の抵当権を設定した。その後、B 社は 経営が傾き金融機関からの借入金を返済することができ ないまま実質的に倒産状態になっていた。しばらくすると 裁判所より債務者(担保権者)である金融機関が担保 不動産競売を申し立て、競売が開始された旨の通知書 が送られてきた。その後、競売手続きが進み6,000 万円 で売却された。 できない場合をいいます。例えば、本来の債務者が破産 をしていたり、失そうをしているなどの場合がこれに当たり ます。したがって、本来の債務者であるB 社に対して債 務の履行をした6,000 万円の求償権が回収不能である 場合に要件を満たすことになりますが、B 社は破産等の 法的手続きをしていないため、B 社に対して求償権が回 収不能であることを自ら立証する必要があります。 ■保証債務の特例の手続き 特例を受けるには、適用を受ける旨を記載した所得税 の確定申告に次の書類を添付する必要があります。 (1)保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算 ■保証債務の特例の対象となるもの 不動産を売却した場合には所得税がかかりますが、A 氏のように他人の債務を履行したようなケースでは特例が あります。この保証債務の特例の適用対象となるものは 主として次の4つのケースです。A 氏のケースはこのうち の(4)に該当します。 (1)保証人、連帯保証人として債務を弁済した場合 (2)連帯債務者として他の連帯債務者の債務を弁済し た場合 (3)身元保証人として債務を弁済した場合 (4)他人の債務を担保するために、抵当権などを設定し た人がその債務を弁済したり、抵当権などを実行さ れた場合 明細書 (2)保証債務の事実がわかる書類 (3)求償権が行使不能であることを証する書類 一般的には、債権者に担保不動産の競売を申し立て られた時点で債務者本人に返済能力がないことは明らか ですが、この特例の適用を受けるためには(3)の書類 を添付しなければならないことから、B 社の直近の財務 諸表を入手しB 社が債務超過であることを確認したうえ で、B 社に対して債権(求償権)放棄の通知書を内容 証明郵便にて送付するという手続きをしました。 ■担保不動産などがある場合 景気回復ムードが高まりつつありますが、債務整理の ために個人資産を売却する事例もまだまだあります。 ■保証債務の特例の要件 特例を受けるには、次の三つの要件すべてに該当する ことが必要です。 (1)本来の債務者が既に債務を弁済できない状態であ るときに、債務の保証をしたものでないこと (2)保証債務の履行のために不動産を売却したこと (3)履行をした債務の全額又は一部の金額が、本来の 債務者から回収できなくなったこと A 氏のケースにおいては、設立後まもなく抵当権を設 なお、この特例は、自らが運営する会社に対する連帯 保証を履行するために個人所有不動産を売却をしたケー スなどでも、適用を受けられる場合があります。 執筆(文責)東京総合経営 税理士:越井 智 【参照法令等】 (所得税法 64 条、所得税法施行令 180 条、所得税基 本通達 64−1、64−2の2、64−4)
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