責任会計のパラ ドック ス

文
払
員田
責任会計のパラドックス
一責任会計の機能と管理可能性原則の関係について一
奥 山 修 司
目1
次
はじめに
H 責任会計と管理可能性原則
皿 管理可能性原則の問題点
L 不確実性による影響の問題
2・相互依存性による影響の問題
(1)他セクターの行動影響
(2)他セクターの業績影響
3. 期間性による影響の問題
IV おわりに
1 はじめに
責任会計という用語は,管理会計及び原価計算に関する実に数多くの論
題と関連づけられながら頻繁に使用されている。たとえば,予算統制,業
績評価,事業部制,原価管理,直接標準原価計算といった題目があげられ 主
/、
る。その一影響からか,責任会計の定義には,微妙な違いが生じているが1),
物的な製品あるいはプロジェクトなどを中心点に会計データを識別・測
1)溝口〔15〕第1章を参照。
一 1一
定・集計・伝達(以下,認識)する会計システムと対比して,責任会計を
組織内に設けられた人的な権限と責任の関係を中心点に会計データを認識
する会計システムと定義する点では共通している2)。そしてまた,責任会
計システムの設計に際しては,責任中心点における管理、可能要素(con−
trollable com〕onents)のみにもとづv・た会計データの認識を行うべきと
する管理可能性原則(controllability principle;以下r管能原則」)が提
唱されている。
責任会計におけるr管能原則」は,■考したところ当然かつ妥当な原則
であるように思われる。しかし企業組織において実践的に採用されている
責任会計システムを見ると,事業部制会計における本社費などの共通費配
賦のように,必ずしもr管能原則」は厳守されているとは思われない。こ
の実践的な会計現象は,責任会計におけるr管能原則」が無限定的(un−
qualified)に意義をもった原則であるとは言えないのでないかという疑念
をいだかせる3)。そして少し飛躍的な言い方をすれば,rある状況下では
r管能原則」に第一義的な意義を持たせない(以下,後送する)ことが責
任会計の経済的機能を遵守するためには必要である』という逆説的な命題
が存在することを暗示しているとも思われる。
本論文では,この逆説的な会計現象を説明するうえで鍵概念になると剋
われる極めて基礎的なことがらについての整理を行い・そしてそれをもと
に責任会計の理論体系構築の出発点としての大まかなフレームワークを提
示してみたい。まず次節において,責任会計という概念を職能的に階層化
された企業組織におけるマネジメント・システムとの関連においてとらえ,
毛 その基本的視点から責任会計の本源的機能を明示する。そして第皿節で,
五
r管能原則」に影響を及ぼす外生的要因を環境の不確実性,センター間の
2)当然のことながら,物的な会計システムと人的な会計シス子ムは相互に関連的
な関係をもつ。
3) Choudhury 〔4〕 P・190・
一 2一
相互依存性,そして測定の期間性という三つの側面から考察し,その考察
からもたらされる矛盾点をもとに責任会計の基本的フレームワークを提示
してみたい。そして,より精緻化・体系化された理論的フレームワークの
提示と実例研究や実証研究などによる具体的な分析は,今後の課題とした
いo
1 責任会計と管理可能性原則
企業組織では,規模の拡大化や環境の複雑化といった状況のもとで組織
を効率的に運営していくために,運営一ヒの権限と責任が階層的かつ職能的
に委譲されている。権限と責任が委譲された組織のサブ単位は,責任セン
ター(responsibility center)と呼ばれ4・,各責任センターの経営管理者は
委譲された権限と責任の範囲内で決定と自己組織の管理を行う。この場合・
各センターの経営管理者たちは,必ずしも企業全体の目標と整合性をもっ
た組織最適行動をとるとは限らず,時には委譲された権限と責任を組織に
とって不都合な利己的利益(self−interestl)の追求に活用しようとする部
分最適行動をとることがあると考えられる。よって職能的に階層化された
企業では,経営管理者に自発的に組織最適行動を遂行するよう動機づける
ための何らかのマネジメント・コント・一ル手段が必要となる。通常用い
られる経営管理システムは,各経営管理者の行動内容あるいは行動成果に
関する事前的(行動前に認識される)目標と事後的(行動後に認識され
る)結果をもとにした評価システムを設計するという形態がとられる。
この評価システムの実施にあたって必要となる各責任センターの事前的
目標値,事後的実績値,そして両者間の差異値といった会計データを提供
する会計システムが責任会計システムとして定義される。そして一般に, 茜
目標値と実績値の認識にあたっては,委譲された権限と責任の範囲内で経
営管理者がコント・一ルできる,つまり優先して自由に影響を及ぼすこと
4)意思決定セン与一(decision center)とも呼ばれる。岡本〔17〕第1章P・47。
∩
一 〇 {
のできる管理可能要素のみに限定すべきとするr管能原則」に従うことが
一般に提唱されてきている。換言すれば,責任会計とは職能的に階層化さ
れた企業組織の効率的な運営のために設計される評価システムに有用な会
計情報を提供することをその本源的な機能とする会計システムであり・そ
σ)有用な会計情報とはr管能原則」にもとづいて認識される会計データで
あるとされる。
責任会計の機能とr管能原則」におけるこの表裏一体的な関係に着目し,
この関係がはたして恒常的に成立するものでありうるか否かを考察するの
が本稿の主眼である。その考察への接近方法として, r管能原則」に影響
を及ぼす三つの外部性(extemality)に焦点をあてた考察を行う。
皿 管理可能性原則の問題点
r管能原則」は,図一1に示すように次の二つのプロセスに大別するこ
とができる。まず第1のプ・セスは,経営管理者に委譲された行動集合
(A)にもとづく管理可能要素の事前的な認識プ・セスである。本稿では,
図一1
畷騰叡)
行動結果
行動集合
(A)
集合
(Z)
七
ロ ヒ
じ
1管理可能要素 管理可能要素1
ロ ド
1 の の l
l事前的認識 事後的認識 1
I l
らナココ し へ へ へへじ コ コ
管理可能性原則
一 4一
1.不確実性による影響
分離
2.相互依存性による影
響分離
3.期間性による影響分
離
行動集合が既定として議論を進めていくが,一般に行動集合は,階層の違
い(工場長か生産担当重役か)と職能の違い(販売部長か購買部長か)に
よる組織図一ヒの特性,技術の違い(FA化された工場の工場長かそうでな
い工場長か)などによる情報上の特性,そして委譲期間の違い(6カ月か
3年か)による期間上の特性といった諸特性に依存すると考えられる。そ
してそれらの諸特性は,企業環境,組織風土,経営理念,情報構造などに
よって影響を受けると考えられる。
第2のプ・セスは,経営管理者の行動遂行からもたらされる行動結果集
合(Z)にもとづく管理可能要素の事後的な認識プロセスである。この認識
プロセスにおいては,結果集合から経営管理者にとってコント・一ル不可
能な次の3つの外部効果(extemal effects)による影響部分を分離しな
げればならない5)。
1.環境の不確実性による影響の分離
結果集合は不確実な環境のもとでの行動決定と努力遂行からもたらさ
れるものであるため, r管能原則」に従った認識を行う場合には,経営
管理者にとってコント・一ル不可能な環境の不確実性による影響部分を
分離しなければならない。
2. センター間の相互依存性による影響の分離
結果集合は程度の差はあれ他センターとの相互依存的な関係のもとで
達成されたものであるため, r管能原則」に従った認識を行う場合には,
まず経営管理者にとってコント・一ル不可能な他センターの行動決定に
よる影響部分を分離しなければならない。そしてまた,他センターの行
動結果(業績)のいかんによって・当該経営管理者の行動結果(業績) τ
の認識が影響を受けてはならない。
5)Demski〔3〕は, この外部効果を分離するコィルターを事象分離フィルター
(event separation filter),経営管理者分離フィルター(manager seParation
filter),そして期間分離フでルター(period separation filter)と呼んでいる。
一 5 一
3.測定の期間性による影響の分離
結果集合は行動遂行からもたらされるすべてのものを含むものである
ため,期間測定が実施されているもとでr管能原則」に従った認識を行
う場合には,過去の行動遂行による影響を除去し,将来にまで及ぶ行動
遂行の影響を加味することによって測定の期間性による影響部分を分離
しなければならない。
以上の三つの外部性の分離は,概念的には妥当性をもったものであるよ
うに思われる。しかしこうした外部性の分離は,実践的・経済的な側面か
ら見た場合に可能であろうか,また,経営管理の側面から見た場合に有効
であろうかという疑問がもたれる。以下では後者の疑問に注目しながら,
三一)の外部性の分離(r管能原則」)と評価システム(責任会計の支援的機
能)の関係の問題をより詳細に考察していくことにする。
1.不確実性による影響の問題
経営管理者は,委譲された行動集合(君)のなかからある行動(α∈ハ)
を選択し,不確実な環境(θ∈θ)においてその行動をある努力水準(召∈
E)で遂行し,ある業績(Z∈Z;2=∫(0,8,θ))をあげるものとする。経
営管理者がいかなる行動(α)を選択するかは,経営管理者の原因一結果
関係を見さだめる能力とかリスクに対する態度などによって,またいかな
る努力水準(8)を遂行するかは・努力を払うことによってもたらされる
総期待効用(報酬に対するプラスの効用と労働に対するマイナスの効用の
総和)に依存すると考えられる。ここで,以下の議論を混乱させないため
@の留意点を二つ述べておくことにする。まず一つは本稿では環境の不確実
.一
主性の程駒問題は考察の対象とはしない.そして環境の不確実性の影響が
小さくて気にならないケースは,確実性下であると考え,影響が気になる
ケースのみが考察の対象とされる。もうひとつは,業績から環境の不確実
性による影響を明確に特定化できるケース,たとえば機械故障による休業
一6一
間数を正確に把握できるような場合などは,考察の対象外とする。
環境の不確実性が存在するもとでは,たとえ経営管理者が企業の望むよ
うな行動選択(o*)と努力遂行(8*)をしたとしても6),環境が悪ければ期待
した業績は達成されず,また逆に環境が良ければ,たとえ望ましくない行
動選択と努力遂行が行われても,期待した業績が達成されるようなケース
が生じうる。換言すれば,不確実性下の業績は,コントロール不可能な環
境要因の影響を受けるので,業績から経営管理者の行動選択と努力遂行が
どうであったかを知ることはできないのである。したがって,環境の不確
実性が存在するもとでr管能原則」を厳守するためには,経営管理者にと
っての管理可能要素である行動(αと召)にもとづいて認識される行動情報
を提供しなければならない。当然のことながら企業にとって最も望ましい
行動情報は,経営管理者の行動選択と努力遂行の内容を完全にモニター
(monitor)する行動観察情報である。なぜならば,そのモニター情報を
もとにした明確な能力評価や努力評価や報酬(賞罰)決定が行えるからで
ある7)。
しかし,こうした完全なモニター情報を得ることは,経済的に不可能と
考えられる。その場合r管能原則」を厳守するために,行動に関する不完
全なモニター情報(たとえば作業時間報告書,上位者からの監督報告書,
経営管理者自身からの活動報告書など)をもとに評価システムを設計する
と,環境の悪さに責任転嫁できる範囲,つまり露見しない範囲内でのr偽
り」やr言V・訳」や「怠慢(shirk)」などによって利己的利益を追求しよ
うとするモラル・ハザード(moral hazard;道徳的危険)の問題が起こ
6)*印は,企業サイドからみナニ最適要素であることを表わす。
7)エイジェンシー・モデルを用いだ分析(Holmstr6m〔8〕,佐藤〔19〕など)
では,ゼ・のコストで完全な観察情報が入手できるときにファースト・ベストな
解(first best solution)カ∫得られることを示している。
8)モラル・ハ∬一ドについては,酒井〔18〕第12章の4が詳しい。
一 7一
七〇
りうる8)。 このモラル・ハザードという部分最適行動の出現は, r管能原
則」を厳守するが故にもたらされたものであり・それはまた・部分最適行
動を阻止しようとする評価システムを支援するという責任会計の本源的機
能を喪失させることにもなる。換言するならば,環境の不確実性が存在し
て経営管理者の行動が完全にモニターできない場合に・ r管能原則」を厳
守した責任会計システムを設計することは,逆に責任会計の支援的機能を
喪失させる可能性を有していると言える。
ではこのような場合に責任会計の支援的機能を遵守するためには,いか
なる会計システムを設計すればよいのであろうか。これは,取りも直さず
モラル・ハザードを阻止するにはいかなる評価システムを設計すればよい
かを解明することに他ならない。企業が経営管理者のモラル・ハザードな
行為を食い止めるのに最も効果的と思われる方法は,モラル・ハザードを
起こすことが逆に自己の利益を損うことになるというようなモラル・ハザ
ードの自発的放棄に経営管理者を導びく誘因(インセンティブ)を有する
評価システムを設計することである。一般に用いられるインセンティブ・
システムは,業績そのものを報酬決定とか努力や能力などの評価の対象に
することによって,業績の悪さを環境の悪さに責任転嫁しようとするモラ
ル・ハザードを妨ごうとするシステムである。これを行動一業績一報酬の
状況(setting)で説明するならば,努力水準が高まれば高まるほどより高
い期待業績が達成でき,それに応じたより高い期待報酬が得られるという
インセンティブを与えることによってモラル・ハザード問題を解消しよう
とするのである。ただしインセγティブ・システムの設計にあたっては,
次の二点に留意しなければならない。まずひとつは,このシステムはr極
_ 端な環境下でない限り,さぼればそれだけ業績は悪くなり,がんばればそ
尖 れだけ業績は良くなる』という一般的妥当性をもった命題にもとづいてい
る9)。逆に言えば,極端な環境下ではこのシステムは機能しないのである。
次に,企業サイドと経営管理者との間にリスクに対する態度の違いが存在
9)Baiman〔1〕p.186.
一8
する場合には(一般に下位者の経営管理者の方がリスク回避的であると考
えられる)ゆ,選択してもらいたい行動と実際に経営管理者が選択する行
動が異なる可能性が生じうる。よってこうした場合には,経営管理者がい
やがるリスクを何らかの形でシェアリング(sharlng)する保険システム
が必要となる11)。
以上のインセンティブ・システムに関する考察から,環境の不確実性下
でモラル・ハザード現象が生じうるような場合に有用となる責任会計情報
は,業績の認識にもとづく業績情報となる。当然のことながら,業績情報
には経営管理者にとってコントロール不可能な環境要因による影響が含ま
れているので,この業績情報はr管能原則」に準拠して認識された会計情
報とは言えない。つまりこれは,環境の不確実性のもとで責任会計の支援
的機能を遵守するために, r管能原則」が後送されねばならないケースが
存在することを表わしている。
業績情報に基づくインセンティブ・システムを設計するに当っては,以
下のようなコントロール不可能な環境要因からの影響を低下させる,つま
りリスク・シェアリング効果を高めるための方法がよく用いられる。まず,
業績情報に不完全なモニター情報を加味してインセンティブ・システムを
設計する。これは,行動に関するより精な推計を行うに有用な追加情報を
得ることを意味している。次に,環境に関するより精な事前的・事後的な
認識ができる環境情報システムを設計し,業績情報にその環境情報を加味
したインセンティケ・システムを設計する。しかし環境情報システムは,
環境に近い各責任センターのところに設置されることが多いので,その場
合には環境情報に対して企業サイドと経営管理者との間に情報の非対称性 ■
4、
(informational asymmetry)が存在することになる12)。そしてこの情報 八
10) Shavell〔20〕 pp.55−56.
11)リスク・シェアリングについては,石塚〔11〕,補遺Hを参照。
12)インセンティブ・システムにおける環境情報システムと情報の非対称性問題の
詳しい分析は,Christensen〔5〕・〔6〕,石塚〔11〕第6章を参照。
一9一
の非対称性は,情報優位にある経営管理者が情報劣位にある企業サイドに
対して巧妙な情報の歪曲を行うことによって私的利益を追求しようとする
アドバース・セレクション(adverse selection;逆選択)の問題をもたら
しうる13。第3にインセンティブ・システムではある範囲内の環境の変化
を事前的に考慮した予算をもとに目標(基準)業績の設定を行うが,そび)
予算決定に際し予期せぬ事態に対処するためのスラック(余剰資源)を予
め与えておくという方法が取られる。このスラックは・経営管理者の環境
適応を迅速にするとともに,リスクに対する回避度を和らげる。しかしス
ラックの決定は,曖昧になりやすく,またその決定に経営管理者を参画さ
せるか否かが問題となる。そして経営管理者を参画させた参加型予算を設
定する場合,先の情報の非対称性とか人間は悪いことの方を過大評価する
といった特性から,経営管理者サイドの方が有利になる可能性をもってい
る。
2.相互依存性による影響の問題
① 他セクターの行動影響
職能的に階層化された組織における経営管理者の行動は・程度の差はあ
れ直接的あるいは間接的に他の経営管理者の行動の影響を受けると考えら
れる。たとえば,製造部門の行動集合(製造数量の決定とその製造管理)
は販売部門が受注する優先注文(rush order)の数量によって影響を受け
るし,また各事業部の行動集合は本社の戦略的な意思決定の内容によって
影響を受ける14・。こうした責任センター間の相互依存ないし相互関連的関
■ 係のもとでの責任センターの行動結果(業績)には,他の責任センターの
ノや
七 行動決定による影響という経営管理者にとってコント・一ル不可能な部分
が含まれている。先の例で言えば,優先注文による製造原価の増加分であ
13)アドバース・セレクションについては,酒井〔18〕第12章の2が詳しい.
14)Horngren〔10〕,pp。143−144.
一10一
り,本社の戦略決定がもたらす各事業部の業績(収益面と費用面)への影
響部分がそれである。前者の場合には,客観的に認識できるが,後者の場
合には,客観的認識が困難である。
責任センターの業績から相互依存性による影響部分を明確かつ客観的に
分離できない後者の例のような場合にr管能原則」を厳守しようとするな
らば,組織図ヒの階層関係はともかく,実質一ヒの権限と責任は,相互依存
性による影響を明確かつ客観的に分離できる組織単位にまで統合するとい
う集権化(centralization)による集団的評価システムが必要となる。しか
しこの集権化システムは,経営管理の立場から見た場合に企業組織の効率
的な運営にとってマイナス効果となる以下のようなr組織上のロス(or−
ganizational loss)」をもたらしうる。 ここでは・r組織上のロス」を次
の三つの側面に分類して考察する15)。
①人的資源の側面からのr組織上のロス」
(i)人間の処理能力には限界があり,ある一定以上に問題が多くなった
り複雑になったりするとそれを合理的に処理することができなくなるの
で,集権化による上位経営管理者の行動集合の拡大は,重要な決定問題
を合理的に処理できなくなるというr処理能力上のロス」をもたらしう
るの
倒上位の経営管理者の時間は企業にとっての貴重な資源であり・それ
をローカルな決定問題に使うことは効率的な利用とは言えないので・集
権化は経営管理者の行動集合をローカルな決定問題にまで拡大すること
による「時間資源上のロス」をもたらしうる。
圃企業の継続的成長にとって有能なトップ・マネジメント (top _
ンな
management)を養成してV・くことは最重要課題であり・そのためには 六
より多くの人材のたかから優れた計画と統制に関する能力を有する者を
選び出していくか,それともある特定の人材に限定した教育を行ってい
15)この分類方法は,伊丹〔12〕からヒントを得ている。
一11一
くかの方法がとられる。もし前者の方法がとられる場合には,一般に経
営管理者をより高度な決定問題を処理するポジションヘと進めていく過
程の中で適格者が見極められるので,集権化による権限と責任の集約は
その大事なトレーニングの機会を減少させるというr人的資源育成上の
ロス」をもたらしうる。
②情報的資源の側面からの「組織上のロス」
(i)組織単位が大きくなればなるほど情報の伝達にともなう費用,時間,
それに内容の欠如や誤謬が生じやすくなるので,集権化による決定権限
の集約は決定に必要な情報収集にともなうr情報伝達上のロス」をもた
らしうる。
岡環境の変化が頻繁に起こる場合には環境情報を入手しやすい場所に
コントロール権を与えた方がより迅速な適応ができるので・集権化によ
るコントロール権の統合は環境情報を組織単位の統轄者である上位の経
営管理者のところまで伝達しなければならず,それは先のr情報伝達上
のロス」とともに環境への反応が遅れるというr情報反応上の・ス」を
もたらしうる16)。
③心的エネルギー資源の側面からの「組織上のロス」
(i)経営管理者は自ら決定することに強い関心をもっているので・集権
化による経営管理者のコントロール権の縮少は,経営管理者のやる気を
低下させ,それが組織全体の心的エネルギーを低下させ,またそれが組
織の情報活動や物的なオペレーション活動にまで悪い影響を伝染させて
いぐというr無気力化によるモチベーション・ロス」をもたらしうる17)。
⊥ハ
ワ
倒ある経営管理者は集権化によって自己の行動結果による明確な責任
16)この「情報反応上のロス」は,Miller〔14〕の「人は最悪な成果に対する限界
をより効率的(最小)に設定できる者にコントロール権を委譲する」とするミニ
マックス(minmax)仮設に反する・スとも考えられる。
17)心的エネルギー底下の伝染効果については,伊丹〔12〕pp.1∼6を参照。
一12一
追求から解放されるため,今までと変らぬ努力を払っているかのごとく
装った怠慢を行い・恩恵だけは今まで通りあるいは他の同レベルの経営
管理者と同じだけを受けとろうとするフリー・ライダー(free rider)
となる可能性がありうる。よって集権化による業績指標の統合は,フリ
ー・
宴Cダーの出現から組織内の努力評価に対するr公平性」やr平等
性」が乱れ組織単位全体のやる気(心的エネルギー)を低下させるとい
う「フリー・ライダー化によるモチベーション・ロス」をもたらしうる。
以上の考察から, r管能原則」を厳守するがために設計される集権化シ
ステムは,人的資源・情報的資源・心的エネルギー資源を効率的に活用で
きないことに帰因する「組織上のロス」をもたらす危険性が高く,そして
それは組織の効率的な運営を支援するという責任会計の本源的機能を喪失
させる可能性を有する。この場合に責任会計の支援的機能を果すためには,
r智能原則」を後送させ,集権化システムの r組織上のロス」と相対的
なr組織上のベネフィット」をもつ分権化システムを採用することである
18)。つまり,分権化によって上位の経営管理者の行動集合を合理的に処理
できる範囲内に縮少させ,それによって重要な決定問題への集中を可能に
し,また下位の経営管理者により多くの決定問題を処理させることによっ
て有能なトップ・マネジメントを養成するための教育を行うことができる。
そして分権化による情報的資源の側面から見たベネフィットとしては,組
織単位の分化によって情報伝達上のロスが低下し,環境への迅速な適応が
可能となる。また分権化による心的エネルギー資源の側面からみたベネフ
18)Kaplan〔13〕第13章は, 分権化への要因として,情報の分化 (Information 六
四
Specialization),反応の適時性(Timeliness of Response),上位経営管理者の
時間の保存(Conservation of Central Management Time),問題処理の複雑
化(ComPutational ComPlexity),下位経営管理者の教育(Training for Local
Managers),下位経営管理者の動機づけ(Motivation for Local Managers)を
あげている。
一13一
イットは,分権化にともなう経営管理者の努力評価や責任追求の個別化に
よってフリー・ライダーが減少し,そしてコント・一ル権の拡大によって
やる気が増大し,それらが組織全体のエネルギーを高めると考えられる。
しかしながら,責任会計の支援的機能を重視した分権化による個別的評
価システムを採用した場合,分権化された各センターの業績認識にあたっ
て他セクターとの相互依存性による影響部分をどう処理するかが重要な課
題として残る。この課題に対する考え方としては,大雑把に言って二つの
方法が存在する。それは相互依存による影響部分を両センターのどちらか
一方に重点を置いて認識する方法と,なんらかの基準とか政策によって両
センターに按分して認識する方法である。たとえば中間製品や用役を責任
センター間で取引する際の内部振替価格制度(intemal transfer pricing
system)の例で言えば,振替価格を原価とすることによって一方のセンタ
一のみを利益センター(profit center)とする場合と,市場価格とか交渉
価格などを振替価格とすることによって両センターを利益センターとする
場合である。また本社と各事業部間での本社費配賦(allocation of head
office costs)の問題で言えば,本社費を配賦しない場合とある基準を用い
て配賦する場合である。
企業がいずれの認識方法にもとづくか,またいかなる振替価格・配賦基
準を採用するかは,どれが最も効率的な組織運営を可能にするか,つまり
どれが企業全体にとって最も高い期待業績をもたらしうるかに依存すると
考えられる。そしてその決定にあたって考慮される要因としては次のよう
なものが考えられる。まず第一に,責任センター間の依存関係を規定する
一 内生的要因(たとえば両センターの組織におけるポジションや両センター
六
三 の人的・技術的・情報的関係など)と外生的要因(両センターが関係する
外部市場の状況など)があげられる。第二は,経営管理者の行動目的を個
人的価値観にもとづく自己効用の最大化をめざすものと考えるか,それと
も個人的価値観とともに組織に貢献したいという組織的価値観にもとづく
一14一
複合効用(自己効用と組織的効用)の最大化をめざすと考えるかである。
もし組織に属する者が,程度の差はあれ組織の一・員として組織的効用を高
める行動を示し,そして一般に組織の階層レベルが高まれば高まるほど又
組織に属したいと思う期間が長ければ長いほどその傾向は強くなるとする
仮定が成立するならば,そうした属性をもつ経営管理者問における振替価
格あるいは共通費配賦基準の決定は,交渉(参加)で決めるのが最適な方
法と考えr)れる。なぜならば,交渉にあたって自己の効用のみを最大化し
ょうとする1縫偽情報の報告や結託(collusion)が起こりえないと考えられ
るからである。第三は,企業が振替価格とか配賦問題にあたって管理上の
政策を置くか否かである。たとえばVanci1〔21〕が指摘するように,経
営管理者の企業心の範囲(scope of his initlative)を彼に運営の権限を
与えている資源のみに限定されるようにすべきでなく,彼の視界範囲を企
業全体にまで広げる意味で共通費の配賦を企業的メッセージとして送るべ
きだとする政策が存在する場,残された問題は配賦基準の設定だけとなる
19)。
また分権化システムの採用にあって留意すべきことは,分権化が進み過
ぎた場合には逆に「組織」二のロス」が生じうるということである。まず人
的資源一ヒのロスとしては,ある決定問題の原因一結果を適切に見極める能
力がまだ養成されていない下位の経営管理者にまで,ある一一定のコント・
一ル権が委譲されることによってもたらされるr処理不能による・ス」が
生じうる。そして情報的資源上のロスとしては,組織を過度に細分化する
ために,組織単位間あるいは企業全体の情報ネットワークを構築する場合
にコストがかかり過ぎるというr情報ネットワーク上のロス」が生じうる。_
そしてまた,過度の細分化によって情報の非対称性が進み,必要なローカ 登
ル情報を入手しようとした場合に真実で適格な情報が入手しにくくなると
いうr情報の非対称惟一ヒのロス」が生じうる。最後に心的エネルギー資源
19) Vancil〔21〕p.105.
[0
1
上の・スとしては,過度の分権化が組織のもつ結合性(coherence)を低
下させ,それが組織内の各個人の問の相互作用や意思疎通によってもたら
される集団心理や集団力学を低下させ,そしてそれが組織という場のみが
もつエネルギーを低下させるというr結合性低下によるロス」を生じさせ
る。
(2)他セクターの業績影響
企業が各責任センターの評価ルールの設計に必要な業績情報を作成する
場合に,企業内や同業種における他センターの業績を認議し,それを加味
(比較)するということが実践的に広く行われている。たとえばA事業部
の業績認識にあたって,販売する製品は同じで地域のことなるB事業部の
業績と比較したり,販売部門の事前的・事後的業績(目標と実績)の認識
にあたって,ライバル業社の販売部門の業績を参考にしたりする。しかし
経営管理者にとって,他のセンターの業績は完全にコント・一ル不可能な
要素であるので,経営管理者の業績認識にあたって他センターの業績と比
較することは,r管能原則jを完全に後送させたものであるといえる。し
かしなが1ヒ,こσ)業績比較には,次のような企業サイドにおける経営管理上
のベネフィットと,経営管理者サイドにおける r自己の行動能力(self−
efficacy)」を判断する一ヒでのベネフィットが存在すると考えられる。
まず企業サイドにおけるベネフィットであるが,第一に同質的な環境要
因をもつ経営管理者間の業績比較は,環境の不確実さゆえにはっきりしな
かった経営管理者の努力水準に関する追加情報を与えてくれ・その結果と
して経営管理者間に競争が生まれる20)。そしてその業績比較の結果をある
_ 期間に亘って個人別に管理することによって経営管理者の意思決定に関す
f1 る能力水準についてのスクリーニング(screening)情報を得ることがで
き,それによってより効率的な人員配置(適材適所)を図ることができる。
第二に同業種間の業績比較を業績評価に用いることによって・経済環境の
20) Holmstr6m〔9〕,pp.334−335.
一16一
変化を加味した相対的な業績評価へと自動調整することができる21)。第三
に業績比較は経営管理者間に競争原理を導入するものであり,それは経営
管理者のやる気を刺激するという事前的モチベーション効果をもつ。そし
て自己の業績が他の経営管理者の業績よりも良ければ,r自信」やr勝利
の美酒(満足度)」や「昇進のチャンス」が得られ, さらにやる気を高め
る。また他より業績が悪ければ,r反省」やr敗北の悔しさ」や「昇進の
危機」によって,情報活動や学習活動を刺激するという事後的モチベーシ
ョン」効果をもつ。
次に経営管理者サイドのベネフィットであるが,それは経営管理者があ
る目標をもとに行動する場合,その目標を達成できたか否かだけでr自己
の行動能力」一目標を達成するのに必要な行動がいかにうまく実行できる
か22)一を判断するよりも,他の経営管理者がどうであったか(成か否か)
を加味して判断する方が,表一1に示すようにより精な(finer)判断
表 一 1
a.業績比較を行わない場合
達 成 不達成
b、業績比較を行う場合
逢 成 1 五星成 一
他は 両方をも 他は i両方とも
一一一一■不達成連珠 一一一達成 不達成一
精一杯 努力して能力がな
精一杯 努力して仕事が 能力が一仕事が
⇒
努力したよかった,いのでは
努力したよかった普通 ない 困難
精一杯 能力があ努力が足
努些な1るのでは鵠いの
精一杯 能力が 努力が
努力しな…あるとくした足りなv、一とくした
かっノこ
かった
⊥ハ
が行えるという利点である。なぜならば,業績比較によって成否が,自己
の努力や能力による内生的要因(intemal attribution)と環境などによ
21) Nalebuff 〔16〕,p.278
22) Bandura〔2〕,p.22.
一17一
る自己の努力や能力以外の外生的要因(extemal attribution)とに分け
ることができるからである。たとえば,精一杯努力したにもかかわらず目
標が達成できなかったケースについて,業績比較を行わない場合〔表一1
のa〕と業績比較を行う場合〔表一1のb〕とで見てみると,前者のaの
場合には単にr能力がないのでは」というかなり主観的な自己判断となり
うるのに対して,後者のbの場合には他の経営管理者が達成していた時に
のみr能力がない」と判断するように,先に比べてより客観的な自己判断
となっている。なぜならば後者のbの場合には・両方の経営管理者が達成
できなかったケースをr仕事が困難」であったとして分離できるからであ
る。この例のように自己の成否をより客観的に学ぶことは,ある行動に対
する自己の能力を認識することであり,それは結局,自己に合う,つまり
自己の能力を十分に発揮できる行動(仕事)を見極めるのに役だつことに
なる。
しかしながら業績比較において,比較される業績間の同質性・つまり経
営管理者間における行動集合の同質性と環境要因の同質性が確保されなけ
れば,業績比較は能力や努力水準のスクリ一二ンゲに関する有用な追加情
報の提供ができず,かえってそのバイアス(bias)のためにスクリーニン
グを間違わせる結果になりうる。そしてその非同質的な業績比較は,競争
原理における「公平性」や「平等性」という根本原則を歪め,それがやる
気よりも逆にr不満」やrあきらめ」やr無気力」といったマイナス効果
(モチベーション・ロス)をもたらすことになりうる。
一 3.期間性.による影響の問題
ロ 九 経営管理者の業績は,一般に1ヵ月,6ヵ月,1年といった一定期間に
区切られて認識されている。もし,この場合にr管能原則」を厳守した期
間業績の認識を行うためには,期間業績から当該期間より以前(過去)の
行動決定と遂行による影響部分を除却し,当期の行動決定と遂行によって
一18一
もたr,ざれる成果のうち当該期間より以後(将来)に生じる部分を期間業
績に加味しなければならない、 r管能原則」に基づくこの限りなく清算的
な業績認識を行うためには,経営管理者をできる限り長期間に亘って同一一
のポジションに固定化するという固定人事による長期的評価システムを採
用することである。なぜなf)ば,ある一一定期問に区切った業績の期間認識
によるそうした除却あるいは加味しなければならない影響部分を,人事移
動による経営管理者間の交錯が存在しないために次期以降で客観的に調整
でき,その結果長期的にみて限りなく清算的な状態をつくりだす二とがで
きるからである。
しかしこの固定人事システムには,組織の効率的な運営にとって次のよ
うなr組織上のロス」をもたらしうる。まず人的資源一ヒのロスとしては・
そのシステムによる組織の硬直化のために,適材適所による効率的な人員
配置が行えないというr人置配置一ヒのロス」が生じうる。次に情報的資源
上のロスとしては,組織の硬直化によってセγタ一問の情報交換や連結の
必要性が低下し,情報の共有からもたらされる新しい情報利用とか加工が
低下し,企業全体としての情報蓄積の増分(新技術や新しいデータベース
など)が逓減していくというr情報共有上のロス」が生じうる。そして心
的エネルギー資源一ヒのロスとしては,組織の硬直化が昇進や決定権の拡大
をめざそうとする経営管理者のやる気を低下させるというr硬直化よるモ
チベーション・ロス」が生じうる。
こうした組織の硬直化に帰因した固定人事による長期的評価システムの
マイナス効果を解消するためには,組織の柔軟化をもたらす移動人事によ
る短期的評価システムヘと移行することである。この移動人事システムは・一
五
組織の硬直化がもたらすr組織.ヒの・ス」と相対した,組織の柔軟化がも 八
たらすr組織上のベネフィット」を提供してくれる。つまり・組織問の人
事移動を活発化させることによって,効率的な人材配置がおこなえるとい
う「人材配置上のベネフィット」をもたらしうる。そして活発な人事移動
一19一
からセンウ一問の情報交換や連結が進み,そこから新しい技術やノウハウ
やデータベースがもたらされ,企業全体としての情報蓄積が活発になって
いくというr情報共有上のベネフィット」をもたらしうる。また組織の柔
軟化にともなう昇進や決定権拡大へのチャンスの増大は,経営管理者間に
おけるやる気や競争心の増大というr柔軟化によるモチベーション・ベネ
フィット」をもたらしうる。
しかし移動人事システムは,短期的な人事移動による経営管理者間の交
錯によって,業績の期間認識にともなう影響部分を客観的に認識すること
ができないという問題をもたらしうる。この問題を経営管理の視点からと
¢・えれば,経営管理者が早いペイバ・・〃「payback)をともなうプ・ジェ
クトのみを選択したり,補修や修繕のコストを無視したり,研究開発への投
資を怠ったりと言うような,短期的業績を高めるに効果的な行動決定と遂
行のみに終始する可能性を有するということになる。企業の長期的目標に
合致しなv・経営管理者のこのような非機能的行動(dysfunctional behav−
ior)に対処する方法としては,次のようなものが考えられる。まず企業内
での対処方法としては,個人別の継続的な業績認識から不完全ではあるが
長期的企業目標に合致した行動に関する推計を行い,その結果を昇進や界
給などの評価材料とする方法や,ボーナスの支払いを数年に亘って繰り延
べたりする猶予的報酬支払いの方法などが考えられる。また企業外での対
処方法としては,労働市場の効率化があげられる。つまり企業目標に合致
しない利己的利益のみを追求する経営管理者をスクリーニングするに十分
な程の効率的な労働市場を形成すれば,経営管理者の短期的な行動を抑制
玉
することができる23)。
七 また当然のことながら・移動ノ\事システムが進み過ぎると以下のような
「組織上のロス」をもたr)しうる。まず人的資源一ヒのロスとしては,人事
移動が活発になり過ぎると,決定と管理に関する十分な教育を与えること
23) Fama〔7〕,pp.327−350.
一20一
ができず,しっかりとした人材育成を行えないというr人的資源育成上の
ロス」が宝じうる。次に情報的資源一ヒのロスとしては,十分な情報交換や
情報学習が行えないために,情報の蓄積活動を低下させるというr情報蓄
積上のロス」が生じうる。そして心的エネルギー資源一ヒのロスとしては,
活発になり過ぎた人事移動によって組織のもつ結合性が継続的かつ安定的
に活用できなくなり,それが組織の集団エネルギーを低下させるというr結
合性一ヒのロス」が生じうる。
麗 おわりに
本稿における以上の考察を整理すると,表一2のごとく要約できる。ま
ず,いかなる責任体系(集権化システムか分権化システムか),人事体系
(固定人事システムか移動人事システムか),そして情報体系(行動情報
か業績情報か)を採用するかによって,実に数多くの形態をもつ評価シス
テムが考えられうる。そしてどのような組み合せの評価システムを設計す
るかは,各評価システムがもつプラス効果とマイ+ス効果がどの程度であ
るかに依存すると考えられる。実践的にr管能原則」が厳守されていない
という現象から,数多くの企業が分権化における異動人事システムのもと
で,一業績比較を織り込んだ業績情報にもとづくインセンティブ・システム
を採用しているのではないかと推論しうる・
しかし表一2に示されているように,r管能原則」の後送につながる各
評価システムにはマイ+ス効果が存在する。よって評価システムとそれを
支援する責任会計システムを設計するにあたっては,そのマイナス効果を
補強するあるいはマイ+ス効果の顕在化を抑Lヒするためのr管能原則」厳 一一
五
守の方向への誘引が働くため, r管能原則」の完全な無視は起こりえない 六
のではないかと推論しうる。いずれの推論を検証するにしても,実証研究
などによる具体的な分析とともに,理論的フレームワークのより一層の精
練化と体系化が必要である。
一21一
2
表
測定の期間性
環 境 の 不 確 実 性
センター間の相互依存性
集権化による
固定人事による
行動観察情報に基づく
管能原則﹂の厳守
︷
長期的評価システム
賞罰的評価システム
e集権化を採用した場合に生じる
組織上のロス
①人的資源の側面
i)処理能力上のロス
ii)時間資源上のロス
iiD人的資源育成上のロス
②情報的資源の側面
i)情報伝達上のロス
ii)情報反応上のロス
※完全なモニター情報にもとづく
場合
_一一→first best solution
しかし
く経済的に不可能》
※不完全なモニター情報にもとづ
e組織の硬直化によって
生じる組織上のロス
①人員配置上のロス
②情報共有上のロス
③決定権の硬直化による
モチベーションロス
く場合
③心的エネルギー資源の側面
eモラル・ハザ』ド
i)無気力化によるモ千ペーシ
ョン・ロス
ド一V
ワV
ii) フリー・ライダーイヒによる
モチベーション・ロス
分権化による
V
:■〉業績情報に基づく
1個別的評価システム1
移動人事による
塵亟亟
インセンティブ・システム野
↑ 、∋相互依存性による
亭e企業の長期的な目標に
反する非機能的行動
↑
eリスク回避行為
(+)一
(+)i 影響部分の処理
(一)i 内部振替価格システム“
︷
共通費配賦システム
企業内処方
・麟難翻譲
︿1
e分権化が進み過ぎた場合に
生じる組織上のロス
O不完全なそニター情報を加える・
企業外処方
労働市場の効率化
①i)処理不能によるロス
②i)情報ネットワーク上のロス
O環境情報システムを設計する・・…
ii)情報の非対称柱上のロス
∈1アドベース・セレクション
〈
③i)結合性低下によるロス
Oスラックを与える一・
業績比較による
e
l
l
ll
il
〉
e人事移動による柔軟化が
進み過ぎた場合に生じる
組織上のロス
eアドベース・セレクション・・
相対的評価システム
O企業サイド
①人的資源育成上のロス
②情報蓄積上のロス
i)努力や能力に関するスク
③結合性上のロス
リ一二ング情報
ii)経済環壌の変化への自動
調整
iH)競争原理導入によるモチ
ベーション効果
O経営管理者サイド
i)自己の行動能力の効率的
な判断
︿巨
五
五
︷
﹁管能原則﹂の後送
︿1 一, 1
(一):保険システム
〔リスク・シェアリング効果)i
e業績間の非同質性によるマ
イナス効果
i)スクリーニングを誤りに
l ii)モチベーション低下
1
⊃マイナス要因,㊦プラス要因,(+)(一)システムの内容に依存して決まる。
一「智能原則」への厳守命と後送ψの方向を示している。
一22一
最後に,本稿の初歩的考察に基づく二つの展開的課題を明示して本稿を
結ぶことにする。まずひとつは,責任会計における原価センター,利益セ
ンター,投資センダーの各センターを,環境の不確実性の違い,本社や本
部と言った中心センターとか他センダーとの相互依存性の違い,そして権
限と責任の委譲期間の違いにもとづいた整理を行い,その結果をもとにし
て各センターとr管能原則」の関係を考察してみたい。いまひとつは,企
業内における物の流れに注目した横断的な製品原価計算システムと,人の
権限と責任の関係に注目した縦断的な責任会計システムとがどのような相
互関連(交わり)的な関係にあるかをマネジメント(計画と統制)の視点
から考察し,その結果をもとに理想的な交わりをもつシステムとはどんな
ものであるか,そしてそのシステムと従来管理会計や原価計算で提唱され
てきた直接原価計算システムとがどう関連するかを考察してみたい。
〔参 考 文 献〕
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