2015年米国カリフォルニア不動産研修レポート_HP

2015 年 米国(カリフォルニア)不動産研修レポート
株式会社 RIA コア・ブレインズ
東京都中央区日本橋人形町 1-5-13 STR ビル 6F
03-5643-2296 [email protected]
2015 年 10 月に私自身14回目の引率となる「米国不動産研修」に行ってまいりました。
遅くなりましたが、以下にレポートをさせていただきます。なお、本レポートは、現地にてお世話になりましたプラ
イムアソシエイツ社の JACK&TAEKO 才田夫妻からの研修と、ご準備いただいた資料も参考として原稿を作成し
ています。
株式会社 RIA コア・ブレインズ
土屋克己
■NAR の会員数
米国の不動産市況を測る指標のひとつに「NAR(全米不動産協会)
」の会員数があります。
日本の宅建協会と異なり、会社単位ではなく実務者(Realtor/リアルター)単位での数字です。
原則コミッション制の業界なので、市況の良し悪しにより増減は顕著に表れます。
サブプライム問題の発生前(2006 年 12 月)に 135 万人まで増えたリアルターは、2012 年 5
月に 97 万人まで減少し、その後増加に転じました。その後増減を繰り返し、現在は 108 万人か
ら 109 万人で推移しています(NAR=全米不動産協会のホームページより)
。
毎年視察をさせていただいていますが、
カリフォルニアの市況は現状では安定しているようですが、
市場を甘く見ている新規参入者は数か月で業界から去っているのは変わらないようです。
■ハイブリット ブローカレージ(混合システムの仲介会社)の台頭
ご周知の通り、米国ではセールス(営業)ライセンスを持っている個人が、ブローカー(不動産経
営者)ライセンスを持っている会社と業務委託契約を締結し、不動産営業を開始します。
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原則固定給は無く、個人の売上(仲介手数料)を会社と契約で取り決めた割合で配分します。
営業は稼げば稼ぐだけ、自分の収入が増えるので、知名度が高く、集客力があり、教育システムが
しっかりしている会社、そしてコミッション・スプリットレート(手数料分配率)の高い会社に所
属したがります。
経営者も優秀なエイジェントを確保したいので、そのような体制を作っていきます。
日本にも不動産フランチャイズ(FC)は増えてきましたが、不動産 FC の歴史が古い米国ではかな
り多くの不動産 FC があります。
※以下は全米最大数の不動産 FC「RE/MAX」の加盟店に展示されていたポスターです。2012 年時点の不動産 FC
の上位ランキングが記載されています。参考までにご参照ください。
左から米国内取扱件数、米国内 WEB 訪問件数、米国 CM 認知度、FC 展開国数、世界加盟店数、AGENT 数です。
最近、米国では「ハイブリッド仲介業者」の参入が増えてきています。
これに対抗するものが従来型のトラディショナルと呼ばれる仲介業者で、センチュリー21、コー
ルドウェルバンカー、リマックスなどがその代表例です。
ハイブリッド型の特徴は売り手にかかるコミッションのディスカウント、買い手エージェントとし
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て機能した場合のコミッションの買い手への払い戻し、ハイテク技術の駆使、給料やボーナスを中
心としたエージェントの報酬体系がその基本となっています。
以下はトラディショナルとハイブリッドの主要企業の比較です。
代表例はレッドフィン社。
トラディショナルブローカレージにとって、ハイブリッドの脅威があるということは否定できませ
んが、今のところ両者とも少しずつビジネスモデルを変えながら、お互いに自らの短所を改善する
動きに出ています。
例えばトラディショナルは場合によってコミッションを引き下げるとか、モバイルアプリなど新た
なテクノロジーを積極的に使用する努力を始めました。また従来のように個人ベースでオフィス内
でも競い合う方法に代わり、レッドフィンが行っているようなチーム制でアプローチする方法を採
用するトラディショナルブローカレージも増えてきています。
一方ハイブリッドではショーイング(物件案内)やホームインスペクション(住宅検査)時の立会
いなど、これまでできる限り避けてきたトラディショナルな労働集約型のサービスを提供し始めま
した。
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レッドフィン社CEOグレンケルマン氏は「市場はレッドフィンだけでなくコールドウェルバンカ
ーも必要としている。両者はお互いに存続するだろう。
」と述べています。
多くのトラディショナルエージェントにとってハイブリッドの存在がコミッションの下落につなが
ると脅威を感じており、そのためハイブリッドブローカレージに対する反感が強い。
レッドフィンが提供するテクノロジーで仲介業に役に立っているものをあげると、
物件検索サイト、
ショーイングスケジュール機能、3Dホームツアー、コンタクト先や取引管理システム、オファー
(申し込み)システム、CMA(行動・顧客管理)ツール、教育システムなど多岐にわたっている。
アナリストの多くはこれまでの歴史から判断して、現在のような売り手市場ではコミッションを売
り手が多額に支払うことを嫌うため、ハイブリッドブローカレージがもてはやされるが、いったん
市場が下り坂になるとハイブリッドビジネスはほとんど存在しなくなると見ていますが、最近の動
きからすると必ずしもそうではなさそうです。
ハイブリッドがトラディショナルのビジネスモデルを一部採用し始めました。
例えばレッドフィンでは買い手エージェントとして成約した場合、当初エージェントはサラリーベ
ースのみで、買い手にコミッションのリベートを行うのが最大の特徴であったが、最近同社ではリ
ベート額を減らす分エージェントへのボーナスを増やすポリシーを取っています。
やはりエージェントとのパーソナルタッチがある程度必要だと判断したようです。
ニューヨーク市でハイブリッドブローカレージを営むコンパス社はエージェントの報酬体系をこれ
までのサラリー+ボーナスから完全コミッション制にスイッチしています。
また同じくニューヨーク市内にあるハイブリッドブローカレージトライミント社では、同社が提供
する付加価値の高いサービスを考慮すればあまり効果がないとして、買い手に対するコミッション
リベートを廃止しました。
米国には法定手数料というものがないので、同じ観点での比較はできませんが、日本でも似たよう
な動きがあることは否めません。
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■不動産ポータルサイト 【zillow.com】【trulia.com】
全米の消費者が好んで利用している不動産ポータルサイト「zillow.com(ジロー・ドット・コム)」と
「trulia.com(トゥルーリア・ドット・コム)」
。
日本では全米不動産協会主導で始まった「realtor.com」が有名ですが、数年前からかなり遅れを
とっており、この二つのメジャーサイトの機能を後追いで追加してつけているような状況です。
消費者と不動産実務者の間では、使い勝手が悪く評判は良くありません。
●不動産会社の物件掲載料は無料。収益は広告費で賄う。
●販売物件の情報はもちろん。成約事例も地図上で確認できる。
●加えて、膨大な販売事例や成約事例から売りにも出ていない物件の価格も地図上にプロットして
いる(Zestimate/zillow の価格査定機能)
●よって、
「売りたいなぁ」と思う人は不動産会社に連絡をする前にこのサイトを確認する。買主も
「相場はどれくらいかなぁ」と思っても不動産会社に連絡しない。
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●買主への機能として「Affordability calculator」というものがあり、頭金、毎月の支払希望額な
どから購入可能額が算出でき、そのままこのサイトから金融機関のサイトへも入れる。
●物件の詳細画面には写真、間取りなどの概要はもちろんのこと、そこからひも付きで生活関連デ
ータ(エリア内の学校の教育レベル、犯罪発生率、ハザードマップ、年収レベル、人種構成など)
も確認できる。
少し前に「Buyer's Agent=買主側業者」が日本でも騒がれた時があったが、このようなサイトの
情報整理と開示により、Buyer's Agent の役割はなくなりつつある。
とは言っても、買主の中には売主側業者と直接交渉をしたくないという方もいることも事実。
そのような方のための機能も備えられています。
以下はいつも米国研修でお世話になっている優秀な不動産 AGENT(Taeko Saida さん)の専任
媒介物件です。
この物件の媒介金額は 799,000 ドル。
その下に zestimate(zillow の人工知能で算出する査定価格)と表示があり、このサイトの査定価
格が 936,392 ドルと表示されています。
実務をしている人には、マーケット動向、競合物件の内容、売却理由により査定価格は異なると分
かりますが、一般消費者にはそれは伝わらないので、相場や価格の根拠説明が難しそうです。
写真が小さくて見えにくいのですが、物件写真の右側に Agent の写真が4つあります。
一番上が物元の Taeko さん。
その下にあるのが「わたしはこのエリアの専門家です。売主側業者には私たちが交渉します。連絡
ください」という AGENT たちです。
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これだけだと「うそくさい」のですが、Agent の顔写真をクリックするとその人の専門分野などの
プロフィールが書いてあり、それに加え、その Agent を通じて取引した消費者の評価が 5 つ星で
現れます。
「エリア知識の豊富さ」
、
「レスポンスの早さ」
、
「交渉力」など客観的な評価を見ることができ、そ
こから E メールでコンタクトができます。
その他、このサイトには広告を出しているリノベーション会社、住宅検査会社、金融機関も情報を
提供しており消費者がワクワクするようなコンテンツが満載。
米国では年々情報の整理と公開が進んでおり、買主側で働く Agent の仕事の機会が減少してきて
います。
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日本では、成約事例公開を規制し、ライセンス制度を導入せず、新築住宅に対する手厚い優遇税制
を保ちながら、中古住宅のインスペクションと中古住宅の流通を促進しようとしています。
一方で、異業種から参入してきた会社が、ネットやタブレット、アプリを駆使し消費者の支持を取
り付けることで、これまでとは異なる不動産流通市場を形成しようとしています。
消費者にとっては便利な部分もあり、サービスに関わるフィーも節約できます。一方で業者の介在
が減ることで取引に対するリスクは増加します。
米国だけではなく世界の動きを学んできた新しい企業の取り組みが、日本の消費者および行政に受
け入れられるか否か見ていきたいものです。
■消費者のテイスト
今回はカリフォルニア州南部にあるオレンジカウンティ(オレンジ郡)の郊外の分譲住宅を視察し
ました。4ベッド、2~3バスルーム。価格帯は日本円で1億から2億という物件です。
カリフォルニアの住宅というと「広い敷地」に「広い庭」
、
「大きなプール」というイメージがあり
ますが、最近の消費者はそうでもないようです。広い米国なので州によりけりだとは思いますが、
毎年定点観測をしていると分譲住宅の敷地が狭くなってきている気がします。
質問をしてみると「最近の購入者は広い庭を望む人が減りました。若い人は管理する手間をきらい
ます」とのこと。
また、最近は自然をそのまま演出する庭が目立ちます。
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ブドウを育て自宅でワインを造れるような庭を演出する物件も増えているようです。
このようなイメージです。
もちろん、従来型の庭を備えた住宅も販売されています。
おしゃれなキッチンを望むのは、日米同じ。
アイランドキッチンはやはり人気です。
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そして、キッチンに隣接するワインセラー。贅沢です。
最近のキッチントレンドはイタリア製のガスコンロと「SUB ZERO」のロゴが入った冷蔵庫。
靴を脱ぐ習慣も定着しつつあるようです。最
近はアメリカ人も室内が汚れることを良しと
しない人が増えてきています。玄関に「たた
き」はありませんが、ガレージにシューズを
収納する棚を設置することも多くなってきま
した。
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■業者ベンチマーク:アナログ回帰???
今回は高額物件の仲介を行っている「FIRST TEAM REAL ESTATE(ファースト・チーム・リ
アルエステート)社」に訪問をさせていただきました。
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First Team Real Estate, Newport Beach
https://www.firstteam.com/
4 Corporate Plaza Suite 100, Newport Beach, California, 92660)
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Travis White さんの案内で、オフィスを見学させていただき、会社の内容を説明していただく。
【オフィス】
高額物件を扱うので、ステイタスの高いお客様が多い。
ニューポートビーチという地域柄、世界中からお客様がこられる。
そのような顧客層に合わせたオフィスづくりになっている。
エントランスとレセプション
【無料トレーニング】
全てのエージェントに無料でトレーニングを提供している。内容は
①契約・交渉・エスクロー・タイトル・リスティング・バイヤーとの協力・マーケティング・法
的部分。毎週行っている。
②市場やマーケティングに関するミーティング、メンタルサポート(自己啓発)も提供される。
【手数料分配と経費について】
①手数料は平均6%。
②新しいエージェントは 60-65%からスタート、能力があがればどんどん上に行ける。
③最初はブースでの仕事だが、売り上げ順にプライベートオフィスがもらえる。因みに他の会社
の手数料分配率は 70-80%が多い。当社の分配率が低い理由は他社よりもトレーニングをき
ちんと行っているため。ここが FirstTeam の特徴。研修は助かる。
④トップクラスまでいくと手数料の 95%が分配される。
⑤エージェントは独立した契約でブローカーのもとで働いているので、広告費や営業に係る経費
は全て個人負担。
⑥また、エージェントは EO 保険(取引の損害をカバーする保険)に加入しなければならない。
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【ルール】
①会社のロゴの使用にはルールがある。しかしブローカーは全てのエージェントの責任を負う。
②ドレスコードは決められていないが、サンダルは不可。高級物件のみ扱うので様々な国籍の方
が来る。単価が高いのでそれにふさわしい服装と対応が必要。
個室を与えられていないエージェントが働くブース
Travis 氏のチームで働く女性エージェント
【質疑応答】
Q.エージェントレビュー(ホームページ上の消費者評価)は気になる?
それをみて問合せしてきたとかある?
A.気にしてる。ほとんどのお客様は来店前にチェックしてくる。コンタクトは近所や友達からの紹
介が多い。
Q.この会社の女性の割合はどのくらい?平均年齢も知りたい。
A.たぶん男60:女40。他社の平均年齢は55くらいだけど、弊社は40歳。
150人所属していて100人はパートタイマーで殆ど見かけない。50人がフルタイム。
Q.新しく入る営業のうち何人がエージェントとして残れる?
A.だいたい15人中1~3人程度しか残らない。とても厳しい。
Q.営業方法は何をしているの?ポスティングとか?
A.アメリカではポスティングは違反です。だから DM をする会社にお願いしている。
チームを組んで飛び込み営業(ノック・ザ・ドア)もする。3か月に 1 回は訪問して DM は 3、
4 週間に1回ペース。クリスマスにはギフトを用意したりもする、昨年は700ドル(約 8 万円)
使った。ニューポートビーチは価格も高く、人気もあるいいマーケットだから、シェア率を上げ
たいので、自分も住んでいる。
近所づきあいも大切にして、ご近所さんを食事やレジャーにさそったりして人間関係を作ってい
る。DM のポストカードも目に留まり易くつくる。A4サイズで両面カラー、投函したときに顔
と名前が見えるように作っている。ギフト用のメモ帳にも顔写真をいれている。飛込み営業でも
配っている。メモ帳のページ数は50枚。キッチンなどで使ってもらうと2~3ヶ月でなくなる
ので、その頃にまた訪問して配る。毎日見てもらえるから覚えてもらえる。
その蓄積が売却依頼につながる。
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Q.働いていて一番うれしかったことはなんですか?
A.売ることによって売主様の生活が潤うことかな。喜んでもらえることが嬉しい。
Q.チーム制のよさはなんですか?
A.ヘルプし合えることかな。オープンハウスなどヘルプしてもらえるし、顧客フォローもお互いに
ヘルプし合える。分担することで効率的に動ける。
今日は女性の後輩が同席しているけど、私からマーケティング(営業活動)を教えることでチーム
の生産性があがる。契約が完了してコミッションの1部をチームに支払うことにしているので、チ
ームの生産性が上がると全員にメリットがある。チームごとにルールは異なる。
ミーティングルーム
Travis さん。有難うございました。
■最後に
今回の業者訪問のベンチマークでは、ネット、タブレット、アプリを使った集客が業界の主流のな
かで、ファーミングによる人脈づくりが成果に直結しているという話が聞けました。
このような話を聞くと、やはり不動産営業だけでなく「営業職は人間業」だなと改めて感じます。
米国では、昨年からほとんどの「ディスクロージャー(重要事項説明)
」と「契約書」のやり取りは
PDF ファイルと署名ファイルで行い、売主と買主は顔を合わせないと聞きました。3年前は「署名
ファイルでの契約が始まりました」という話だったので、IT化の速度の速さを感じます。
米国の場合、物件調査は膨大なデータベースを持つ「タイトルカンパニー」が担い、売主の瑕疵担
保責任をタイトル保険がカバーする。建物の調査はフィジカルインスペクション(住宅検査)会社
が行い、手付金・残金・仲介手数料などの金銭と契約に関わる書面はエスクローカンパニーが責任
を持って決済まで管理する。
このような仕組みができた不動産業界だからこそ、ネット(PDF と署名ファイル)で契約が締結で
きるような気がします。
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日本でも重説のIT化が始まりました。
また、人工知能で物件価格を自動で算出し表示するサービスを提供する民間企業が増えてきていま
す。たぶん彼らは「zillow」や「trulia」の仕組みも十分に研究しているでしょう。
売主が業者と媒介契約を結ばずに、直に不動産を売り出す事の出来るサービスも始まりました。
法定手数料のある日本の不動産業界でこれらのサービスがどのように定着していくかは未知数です
が、冷静に観察し、各社がどのように考え行動していくかがさらに重要になるような気がします。
今回一緒に渡米いただいた皆様、
現地でお世話になった関連者の皆様に心より御礼を申し上げます。
有難うございました。
2015 年 11 月 10 日
株式会社 RIA コア・ブレインズ
代表取締役 土屋克己
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Phone : 03-5643-2296
Mibile : 090-9299-7280
[email protected]
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