2.3 Subjective value and decision theory

2.3 Subjective value and decision theory
20150625 担当 志村
1 段落 「 主 観 的 効 用 の 毒 性 」
経済学における主流の見方
「経済学は土地や労働といった投資(◀︎ 客 観的効用)への優遇を捨てて、主観的効用
(subjective utility)を採用することで発展してきた」◀︎筆者は認める
⇅ 逆接
限界主義(marginalist)の主観についての重要でない仮定(効用が各人の頭の中で完結して
いるという仮定)により主観的効用の概念は経済学の理解に対して有害なものとなりうる。
→経済学は神経科学や心理学に毒されてきている。
※ Trojan horse:トロイの木馬、ウイルス的なもの
2段落 「 意 思 決 定 理 論 と 他 の 学 問 と の 関 係 」
限界主義者は客観的効用(objective utility)から主観的効用(subjective utility)の考え方に移
行してきた。
→経済学者の関心は制度的構造(マーケットやゲームの構造を定義する)から個人の選択
の問題(意思決定理論・制度的構造が定義された後の人間行動の理論)へ移っていった。
意思決定理論(decision theory)は確率論と結びついて経済学の理論的基礎の1つとなった。
意思決定理論は心理学の一部、ないしは少なくとも深く関連している←most common view
哲学者は意思決定理論による経済理論基礎論学会に積極的に参加し、彼らは規範的合理性1
によって経済学の研究のレベルが上がると主張した。
哲学者たちは意思決定理論の基礎論の良い dicipline を見つけることを喜びとした。
哲学者 Frank Ramsey や論理学者 Richard Jeffrey は意思決定理論の基礎論に慣れていたの
で、経済学者も意思決定理論における規範的合理性(〜であるべき)を認識するようにな
った。
3段落 「 意 思 決 定 理 論 と 経 済 学 と の 関 係 」
意思決定理論が経済学にとって重要であることは間違いない。
理由…その公理系の一部をゲーム理論と共有している。
↑ミクロ経済学をここ2,30年で書き換えてしまった理論
「意思決定理論の公理」はあまり聞いたことがないが、ここでは期待効用理論の公理のこ
1 規範的合理性…ある理論が成立するために経済主体が満足することが必要とされる合理
性のこと
↔ 記述的合理性…実際の経済行動の観察から広く妥当することが認められた合理性[2]
とを指している??
期 待 効 用 理 論 の 公 理 ( By Von Neum ann and M orgensterm )
1. 順序公理
(1)推移性 𝑝 ≿ 𝑞 ⋀ 𝑞 ≿ 𝑟 ⟹ 𝑝 ≿ 𝑟
(2)完備性 ∀𝑝, 𝑞 ∈ 𝑋, 𝑝 ≿ 𝑞⋁𝑞 ≿ 𝑝
2.独立性公理
∀𝑝, 𝑞, 𝑟 ∈ 𝑋,
𝑝 ≻ 𝑞 ⟹ 𝜆𝑝 + 1 − 𝜆 𝑟 ≻ 𝜆𝑞 + (1 − 𝜆)𝑟
3.連続性公理
𝑝 ≻ 𝑞⋀𝑞 ≻ 𝑟 ⇒ ∃𝛼, 𝛽 ∈ 0,1 , 𝛼𝑝 + 1 − 𝛼 𝑟 ≻ 𝑞⋀𝑞 ≻ 𝛽𝑝 + (1 − 𝛽)𝑟
しかし、そのことを強調しすぎてしまうあまり、次のような三段論法は誤りである。
1.経済学は意思決定理論の応用である。
1 が言い過ぎ
2.意思決定理論は心理学に含まれる。
3.したがって、経済学は心理学の応用である。
4 段 落 「 記 述 的 意 思 決 定 理 論 」
意思決定理論 規範的意思決定理論
記述的意思決定理論
・記 述 的 意 思 決 定 理 論 に つ い て
…実際の人々が選択肢の中からどのように選択をするのかを数学的に記述。
Ward Edwards,Herbert Siomn,Daniel Kahneman,Amos Tversky,Paul Slovic などの心理
学者、神経科学者によって体系が作られてきた。
↑心理学、神経科学の適用がなされた。(Chapter 4 で詳しく。)
経済学の心理学や神経科学からの離脱を目指すには記述的分析において、経済学の役割の
減少を止めなければならない。(ただし、経済学と心理学・神経科学は深く関連しているの
であるが。) 5段落 「 規 範 的 意 思 決 定 理 論 」
規 範 的 意 思 決 定 理 論 に つ い て … 既に哲学によって体系が組まれてしまっている。
人々が選択肢を選ぶ際にどのように比重をおき、どのように選択をするのか、ということ
の論理的一貫性があり統計的にも整合性のある原理を特定することを目的とする。
哲学者の意思決定理論に対する興味 VS (経済学者である)筆者の興味
一般的な合理性の境界を作り上げること すべての状況において理想とされ優先される (general な)認識的な戦略はあるはずがない。 筆者の主張(続き)…哲学者の「単峰的な一般的合理性の基準の信念は神の心の信念から
来ている」という考え方は全く未意味であり、意思決定理論を宗教的にしてしまっている。
※哲学者の興味(一般的な合理性とは何か)と経済学者の興味(情報伝達
の改善、特定の場面での(特に市場においての)効用の改善)を一緒にし
てはならない。
6段落 経済学者が規範的意思決定理論の合理性モデルにおいて強調してきた2つのこと
一般的な経済学者の主張
(1)結果に関する選好の一貫性
(2)標本から実際の頻度や分布を推定することができる。
これらが強調されてきた理由:
→Agent の結果に対する選好の一貫性のなさの程度や、標本から実際の頻度や分布を推定
できない程度によっては、それらが備わっている agent に競争で負けてしまうと考えられ
るから。
このことを言い換えると次のようになる。
「規範性に欠けた agent は市場において倒産したりダーウィン的な適応度の競争において
負けたりしてしまうことは,市場競争や自然選択が最適化装置であることを示している。」
→一般の経済学者に対する反論(筆者の立場)
これは一般的には成り立たない。
理由:環境変化(正確性、情報処理速度、エラー耐性)により異なる戦略が勝つということ
もあり得るから。また、agent には学習機能が存在し、あらゆる状況下で最適な戦略は存在
しないはずだから。
7段落 規範的意思決定理論
(生物学の自然淘汰は別にしても、)市場が注目される状況下では、規範的意思決定理論を
強調するモチベーションは、(市場競争)より一般的な consideration として望ましい概念
に基づくと考えられる。
もし規範的分析が現在の市場についてではなく、長期にわたって高い利益を得ることので
きる意思決定の原理を明らかにすることができるのであれば,起業家にそのことに気づいて
もらい、彼らにこの意思決定の原理を改善する効率的な方法を探してもらうことを期待す
るべきである。
しかし、克服しがたい物理的・制度的障壁があるためにこれは失敗してしまうものと考え
られる。
→起業家には意思決定原理を改善することは難しい。
→では、理論家にはどうか?
「聡明な市場の分析者は、彼らの想像の限界が起業家の狡猾さの限界よりも狭いことに気
づくだろう。」
結 論 :意思決定原理を探索することは起業家にも研究者にも難しいと言える。
分析者がより良い起業家による狡猾な罠を定義できるならば、そしてそれに物理的障壁が
ないならば、その分析者は多かれ少なかれその罠が市場に現れ、わずかな確率で起業家の
狡猾さの投資の波に影響を与えると予想すべきである。
8 段 落 “ 行 動 ” と “ 一 般 的 な 状 態 の 変 化 ” の 違 い に つ い て :
この主張は「経済学および社会学は行動の学問である。」という社会学者 James Coleman
によって提唱された哲学的主張によって支持される。
“行動”と“一般的な状態の変化”の違いについて:
“行動”…agent にとって規範的に有利な条件(=合理的な条件)に注目する。そしてそれが
ために選ばれるもの。
“一般的な状態の変化” は必ずしもそうではない。
“行動”と“一般的な状態の変化”の関係を明らかにするには、主体が繁栄しているとい
う条件が一定程度安定的に成り立っていることが必要である。
さらに、どの行動が agent 自身にとって良いかの情報は、agent に構造的にある程度組み込
まれていて、またそれが体系的に agent の行動を制限する。
(斜字体 some の意味)モデル作成者によってその程度が恣意的に決められる。
9 段 落 agent が 持 つ 能 力 に つ い て
このことは agent の行動が理想的な規範的意思決定理論の条件を満たさなければならない
ということまでは意味しない。
“理想的な規範的意思決定理論の条件”
…ゲーム理論におけるプレイヤーの能力に関する仮定と同じ?(計算・推論能力、情報)
実際の agent は、
・ 有限の計算力しか持っていない。
・ 推論の能力が限られている。
・ アクセスできる情報量も限られている。
Agent は、”行動”と”改善された状況の確率”を関係づけることのできるメカニズムの機能に
おける最小限の健全性を有している。
↑agent の行動を分析するためにその agent に付与される最低限の能力のこと
(有限の計算力・推論の能力・アクセスできる情報量)
経済学者と社会学者は 少なくともそうした最小の規範を与える意思決定モデルの構築を
行ってきた。
ミクロ経済学の公理系はこうした考え方に基づいてつくられている。←後に2章中で解説
10 段落 philosophy of econom ics で 問 い た い 最 も 重 要 な 疑 問
規範的意思決定理論の原理は、単独で意思決定を行う個人によって近似されるのか、制度
的状況に応じて意思決定を行う集団によって近似されるのか?
この本の中 心 的 な 結 論 は、これら2つの説の内、「 制 度 的 な 文 脈 に 応 じ て 意 思 決 定 を 行
う 集 団 に よ っ て 近 似 さ れ る 」 という説の方を支持する、ということである。
人間の選択は、彼らが
・ 資源の相対値に関する情報へのアクセスと
・ 少なくとも部分的には市場を介して来た情報の所在
市場の存在
を与える制度的状況において
行動する人々の集団間に分布するとき、規範的意思決定理論によってのみ近似される。
→要するに、
市場における人間の選択は、規範的意思決定理論によってのみ近似される
11 段落 次 回 予 告
このことに関してはこの本の残りのページで詳しく述べられる。客観(的効用)は、重要な前
提の基礎は経済学思想の歴史に埋め込まれているということを示し続けるだろう。