SUN・GROUP News -企業のグローバル化経営に資する知財戦略の実践プロ集団- 実用椅子のデザインに著作権! (知財高裁画期的判決・意匠との関係は?) 各位 2015年11月 サン・グループ 代表 藤本昇特許事務所 所長 弁理士 藤本昇 貴社ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼 申し上げます。 応用美術の著作物性が認められた注目すべき判決が出ましたのでご案内いたします。 ご覧いただけましたら幸いです。 ※事件名 知財高裁平成26(ネ)10063号事件(平成27年4月14日判決) 〔原審:東京地裁平成25(ワ)8040号事件〕 ※事案 <控訴人製品> <被控訴人製品一例> 原告(控訴人)の右記幼児用椅子(原告製品・ト リップ・トラップ名)に被告の製品(幼児用椅子) の形態が酷似しているため、被告の製造、販売 行為が原告の著作権を侵害する(著作権法112 条)及び原告製品は周知又は著名な商品等表 示に該当するため不正競争防止法2条1項1号 又は2号に該当するとして訴訟が提起された事 案である。 ※争点(応用美術の著作物性について) (1)東京地裁の判決 原審の東京地裁は、従来のこの種判決と同様に量産品で実用品のデザインについては、意匠で 保護すべきであって著作物性を否定した。但し、「実用的な機能を離れて見た場合に、それが美 的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えている場合には著作物性を認める」との判示で ある。これは例えば従来の東京地裁昭和51年(ワ)10039号Tシャツ事件や大阪地裁昭和45年 (ヨ)3425号天正菱大判事件等と同趣旨の判決である。 これに対し、本件の原告製品の椅子は実用的な機能を離れて見て、美的鑑賞の対象となり得る 美的創作性を備えているとは認め難いと認定し、そのデザインは著作権法の保護する著作物に 当たらないと判示したのである。尚、原審は不正競争防止法2条1項1号については、原告製品は 周知な商品等表示に該当するが、被告製品と原告製品とは類似するとはいえないと判示した。 SUN・GROUP News (2)知財高裁の判決 これに対し、知財高裁は控訴人製品(原告製品)が美術の著作物として保護を受 けるものといえるか否かについて次のように判断した。 『著作物として保護を受けるためには、「思想又は感情を創作的に表現したものであ ることを要し(著作権法2条1項1号)、「創作的に表現したもの」といえるためには、 当該表現が厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの、作成者の何ら かの個性が発揮されたものでなければならない。表現が平凡かつありふれたもので ある場合、当該表現は、作成者の個性が発揮されたものとはいえず、「創作的」な表 現ということはできない。 あくまで個別具体的に作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。 控訴人の製品の形態的特徴は、①「左右一対の部材A」の2本脚であり、かつ、 「部材Aの内側」に形成された「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」 の両方を「はめ込んで固定し」ている点並びに②「部材A」が、「部材B」前方の斜め に切断された端面でのみ結合されて直接床面に接している点及び両部材が約66 度の鋭い角度を成している点において著作物性が認められる。 このことから、控訴人オプスヴィック社の著作権及び控訴人ストッケ社の独占的利 用権の侵害の有無を判断するに当たっては、控訴人製品において著作物性が認め られる前記の点につき、控訴人製品と被控訴人製品との類否を検討すべきである。 上記の結果、控訴人製品と被控訴人製品とは、脚部の本数に係る前記相違は、椅 子の基本的構造に関わる大きな相違といえ、その余の点に係る共通点を凌賀するも のというべきである。以上によれば、被控訴人製品は、控訴人製品の著作物性が認 められる部分と類似しているとはいえないとして著作権侵害を否定した。 』 (3)著作性と成立要件(意匠との関係) 一方、従来の判決や原審が示した著作性を認める判断基準としての「美的鑑賞の 対象となり得るような美的創作性を備えているか否かについて」、知財高裁は、 『「美 的」という概念は、多分に主観的な評価に係るものであり 、何をもって「美」ととらえる かについては個人差も大きく、客観的観察をしてもなお一定の共通した認識を形成 することが困難な場合が多いから、判断基準になじみにくいものといえる。 』と判断し、 従来の判断基準を変更し、「作成者の個性が発揮されているか否か」を判断基準と した。 さらに知財高裁は、意匠法との関係について「著作権法と意匠法とは、趣旨、目的 を共にするものであり、いずれか一方のみが排他的又は優先的に適用され、他方の 適用を不可能又は劣後とするという関係は、明文上認められず、そのように解し得る 合理的根拠も見出し難い。」「応用美術につき、意匠法によって保護されることを根 拠として著作物としての認定を格別厳格にすべき合理的理由は見出し難いというべ きである。」と判示し、意匠権と著作権の併存を認めた。 SUN・GROUP News ※今後の企業の実務上の指針 (1)著作物性について 今回の知財高裁の判決理由から企業が開発した製品(創作物)が美術の範囲に属するもので 創作者の個性が発揮されたものであれば著作物性が認められ得る場合があり著作権が成立す る可能性があるので、この点について自社製品の著作物性を検討する意義がある。 (2)意匠権と著作権との対比 ①登録要件 意匠法は厳格な審査のうえ新規性、創作性等が審査されて登録要件が認められる意匠に ついて権利が付与される。一方、著作権は上記のように著作物性が認められれば出願や 登録なしで著作権が発生する。 ②権利の安定性 意匠権は審査のうえ登録によって権利が発生するので安定した権利といえるが、著作権は登 録なしで発生するため不安定な権利である。 ③権利の保護範囲 意匠権は同一又は類似の範囲まで権利行使できるが、前記知財高裁の判決からも明らか なように実用品に著作権が認められたとしても著作権の保護範囲は狭く解釈されるので意 匠権を獲得しておく意義は大きい。 ④存続期間 意匠権は登録日から20年間であるが、著作権は著作者の死後50年(70年になる可能性あ り)と非常に長期間権利が存続するため、著作権のメリットは大きいがその権利範囲が狭い 点デメリットがある。よって、意匠権存続期間満了後に著作権の権利行使を行うことも一手段 といえる。 (3)今後の侵害性調査と注意点 今回の椅子のように、著作権が認められると意匠権の事前調査はむろん著作権についての 調査も必要となるほか、意匠権存続期間満了時の著作権についても調査をする必要がある ため、要注意である。 (4)むすび 今回の知財高裁の判決は、実務上非常に重要な意義があるため、企業として新製品の保 護態様として著作権の保護が可能か否か、他人の著作権侵害にならないか否か検討する必 要がある。この点に関して当グループ又は藤本昇特許事務所の意匠部にお気軽に御相談 下さい。 【本件に関するお問合せ】 藤本昇特許事務所 意匠部 TEL 06-6271-7908 弁理士 野村 FAX 06-6271-7910 慎一 / 弁理士 石井 隆明 E-mail [email protected]
© Copyright 2025 ExpyDoc