12. 小論まとめ(10)

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9b
高齢社会と福祉
少子化-高齢社会の背景
趨勢となった少子化は、1960 年代からの経済成長の結果獲得した「豊かさ」を守るための家族変動
の帰結である。これは、合計特殊出生率が 1.46 を記録した 1993 年以降に各方面で注目されはじめ、
様々な発言が出てきた。ただし、これらの発言には問題がある。たとえば、比較社会学的な視点に乏
しかったり、やや気分的な少子社会メリット論であったりする。
第一に、第二に、第三に
少子化はそれほど簡単な問題ではない。
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10a
人権と民主主義
住民投票をどう見るべきか
今までの日本の政治にはなかった事態が起こっている。地域の重要な政策課題について、住民自身
で投票を行って意思表示し、それが国政にも大きな影響を与えている。欧米では、直接民主主義は長
い歴史をもち、現在でも重要な政策を決定する際に機能している。しかし、直接民主主義はしばしば
衆愚政治と結びつけられる。確かに、直接民主制は衆愚政治をもたらす危険性がある。しかし、一握
りの政治家や官僚の決定にまっとうな疑問を唱える人間の存在を彼らが恐れるとき、衆愚政治という
レッテルを登場させる。
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5b
近代と国民国家
国家と市場を越える道
市場は、人間の社会関係を商品化し、アイデンティティを抹消する機能を持つ。近代は、アイデン
ティティを社会的に担保する枠組みとして国家を生んだ。しかし、市場が国家を越えて浸透すると、
アイデンティティも担保できなくなる。そのため、人々は文化に回帰し、しばしば原理主義運動へと
退行する。では、こうした絶対化と異なる視点は何か。1つは「経済」の問い直しであり、1つは「民
際的市民社会」の形成であろう。これは、相対性を根拠とする(効率や競争によって人間をモノ化す
る)市場や国家から絶対性を根拠とする(尊厳と人権によって人間を主体化する)市民社会への転換
を意味する。
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6a
情報とメディア
情報化とネットワーク社会
情報ネットワーク社会が本格化したとき、どのような基底となる価値が要求されるだろうか。情報
ネットワーク社会では、個人の選択の自由が大きくなる可能性もあるが、一方で個人を拘束する恐れ
もある。そのため、自己決定できるような底力のある自己を確立する必要がある。また、情報ネット
ワーク社会が本格化したとき、個人と社会組織との関係も変化する。情報ネットワーク社会では、個
人の行動の自由度や範囲も広がるが、一方で個人の拠点である社会組織が変貌せざるを得ない。個人
が自立することと社会組織がその個人の拠点となることが、求められる。
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7a
言語・記号
言語の排外運動に反対する
かつて、ヨーロッパは英語の氾濫に脅威を感じていた。1972 年、フランスでは言い換え表が発表さ
れ、1973 年、西ドイツでは演説が行なわれた。しかし、両者の違いは、前者はアカデミー的権威によ
るものだが、後者は市民一人一人の復元力に訴えるものであった、という点である。言葉の民主主義
を前面に押し出すこの演説が、文化人ではなく国家元首によるものであったことは、ドイツにおける
外来語とその純化をめぐる議論の豊かな歴史を想起させる。かつて言語的排外運動が最高潮に達した
とき、
「純化運動に反対する」声明が出された。絶え間なく生成し、変化にさらされるところに言語の
本質を見、規範はそれに死を与えるものだという考え方は、ついにアカデミーを持たぬことを誇る自
由を打ち立てた。
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8a
消費と生活
消費の記号的側面とは何か
先進諸国は、<モノ>の氾濫という事態に直面している。われわれがそれを買うのは、必要だからと
いうより欲しいからである場合が多い。もちろん、こうした過剰消費が歴史上全く存在しなかったわ
けではないが、それらは社会の一部の者が非日常的な儀礼として行なっていた。しかし、今日のように
誰もが日常的に行なっているということは未曾有のことである。衣食住の例でも明らかなように、われ
われの消費は、確かに日常生活にとって不可欠なものだが、その一方で、記号としての側面をもってい
る。
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1a
環 境
地球規模でのルール作りを
人間は、目先の動きに振り回され、超長期の課題を直視しようとしない。そのため過去の多くの文明
が崩壊したのであろう。しかし、現代文明の崩壊はそのまま人類の破滅を意味する可能性が大きい。
現在、企業活動と生活様式ばかりでなく、生産資源と環境資源の破壊の「地球規模化」が進行してい
る。こうした地球規模の問題に対処するために、地球上のどの企業も「人権」と「環境」への配慮が
不可欠であるとされている。その実現には、他国政府間の交渉や民間の自発的団体の国境を越えた協
力を通じて地球規模の共通ルールを確定する必要がある。
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2a
エネルギー・資源
乱獲による生物資源の枯渇
人類にとって海岸は常に最重要の生活拠点であり、資源獲得の場であった。それだけに、人間活動
の影響をもろにかぶり、沿岸部の生態系は大きく歪められてきた。海洋の漁獲量はほぼ増加しつづけ、
漁業資源の枯渇は深刻化している。しかし一方では、魚の消費量や漁業従事者は増加している。しか
も、漁業資源の枯渇で魚価が上昇し乱獲に拍車がかかる。そこで、FAOは漁獲量の減少を訴えてい
るのだが、耳を貸す国もなく、多くの人々も関心を示そうとしていない。
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3a
国際社会(政治・経済)
米ソ冷戦の「負の遺産」
植民地からの独立後、アフリカは民族和合の問題を抱えたが、これは米ソ冷戦による影響がある。
アフリカ各国は米ソから、経済政策の選択を迫られ、武器や食料の援助を受けた。その結果、民族間
の対立が内戦に発展した。アンゴラの場合には、UNITAとMPLAの紛争は米ソの代理戦争であ
った。この紛争の解決に向けた動きが本格化するのが 1991 年。ポルトガルの調停案を受けて、政権を
握っていたMPLAが資本主義を受け入れ、民主的な総選挙も実行した。しかし、MPLAが勝利し、
アメリカもこれを承認すると、UNITAはこれに反発した。その後、反政府運動の再開を宣言し、
各地でゲリラ化、激しい戦闘をしかけていく。
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4a
国際社会
「日本人」とは何か
21 世紀の民族と文化の共存を考えるうえで、ある国家内部の先住民族の存在は無視できない。日本
には自らを「純粋な日本人」だと自己規定する人々もいるが、この「日本人」がいつ成立したのかは
にわかに断定できない。また、日本人も同化融合して形成された「複製民族」「複合民族」であったと
の見解もある。こうしてみると、血統的な「純粋さ」を突き詰めて議論することはできない。もちろ
ん、日本に住む人々を血統、文化、国籍などで類型化することはできる。しかし、日本には様々な「外
国人」がすでに住んでいる。国際化の時代にあって、互いが対立するのではなく、民族と文化の共存
のあり方を模索することが望ましい。