米国医学研究所からの報告書に対する イギリス ME 協会顧問医師チャールズ・シェパード博士のコメント 2015.2.11 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 米国医学研究所の報告書「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群を越えて:疾患の再定義」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 委員会の中には非常に異なった意見を持った方もいたと思われますが、委員会によって作成された どんな報告書でも同様であるように、この報告書にも長所と短所があります。 全体として長所が短所をはるかに上回っています。特にこの報告書が、医療従事者に対して非常に 明確なメッセージを送っている点においてです。 ME/CFS(現在はこのように呼ばれ定義されています)は: 〇約 25%の患者はある時期において寝たきりか、家から出られなくなるほどで、どんな普通の生活を送 る能力も著しく損われる、重篤で複雑な慢性的な全身性疾患(全身性疾患という用語が非常に重要)です。 〇小児期や青年期でもかかります。 〇身体的疾患です。 〇しばしば診断も治療も受けられないままですが、特有で複雑な様々な症状(提案された診断基準はこ うした症状から構成されています)から、他の疾患とは異なる固有の疾患概念として診断できますし、 診断されるべきです。 〇医科大学での授業、医学教科書における情報、大学院レベルの教育等の医学教育において重要な構成 要素から、しばしば ME/CFS は抜け落ちています。そのため、多くの医療従事者はこの疾患を誤 解し、メンタルな問題だとみなし、どうやって診断し治療したらよいかという知識を持ち合わせ ていません。 〇根本に潜む疾患の経過や原因を解明するためのクオリティーの高い研究が至急必要です。 〇治療に関して魔法の答えはなく、症状の管理に関する意見や勧告はこの委員会に付託されていま せんが、認知行動療法や段階的運動療法では解決しません。 そこで私は、非常に詳細な報告書を作成するために多くの時間を使い努力して下さった、米国医学研 究所委員会の方々に感謝致します。現在 ME または CFS と呼ばれている疾患の患者達に対する認知 や診断、症状の管理の向上に、この報告書はアメリカでは間違いなく役立つはずです。 さて今度は、ME や CFS が新しい定義と新しい病名である「全身性労作不全病」、略して SEID(委 員会がこの疾患の主要な特徴をさらに正確に捉えていると信じている病名)に置き換えられるべき であるという勧告について、もう少し詳しくコメント致します。 提案された新しい定義に、労作後の倦怠感と起立不耐症が含まれる(イギリス ME 協会は英国国立 医療技術評価機構に対して認めるように説得に努めてきました)と言及されていることには励まさ れますが、ここ英国のほとんどの医師は、診断をする場合に実用主義的な態度を取り続け、特定の 一つの診断基準に厳格に固執することはないと思いますので、この勧告が英国での診療に実際的な 影響を及ぼすことはないと考えます。 命名法に関して 慢性疲労症候群(CFS)は、重篤で身体を衰弱させる神経系疾患にとって、実にひどい病名です。 それは、認知症を慢性健忘性症候群と呼ぶに等しいことです。廃止された病名を集めた医学用ゴミ 箱に、CFS をできるだけ早く入れてしまう必要があります。 しかし私は、米国医学研究所から提案された「全身性労作不全病」、略して SEID という病名にも、あ まりわくわくしません。 もし国際医学界が、 (筋痛性脳脊髄炎の「脳脊髄炎」が病理学的に正確ではない可能性があるため)ME(筋 痛性脳脊髄炎)という病名も削除したいのであれば、私は再度、筋痛性脳脊髄症という病名を考慮するこ とを提案します。筋痛性脳脊髄症という病名であれば、医学文献に報告されている構造的及び機能的な 神経系異常と合致しますし、病理学的に正確ではないという立場からも重大な異議を唱えることはでき ません。 もし医学界が筋痛性脳脊髄炎も筋痛性脳脊髄症も受け入れないのであれば、ME/CFS の神経系及び免疫 系の構成要素を強調した新しい病名(おそらく慢性起立性神経免疫機能不全病というような病名) の方が、はるかに好ましいと思います。 私の予感では、米国医学研究所の提案は、国際的な患者コミュニティーや医学界からも十分な支持 を得られないと思います。 ですから、問題が解決される必要はありますが、SEID によって簡単に解決されるわけではありません。 疾患の定義と命名法の問題に対処するために、CFS は死語になった(ME 患者のコミュニティーと 多くの医師から広く歓迎されたでしょう)とし、新しい病名と新しい疾患の定義について、国際的 な医学界及び患者コミュニティーも巻き込んで協議するプロセスを開始しなければならないと米国 医学研究所が断言していれば、はるかに良かったでしょう。 この種の国際的な諮問と同意がなければ、この疾患を何と呼び、どう定義するかという重要な問題 を解決することはできないでしょう。 イギリス ME 協会顧問医師 チャールズ・シェパード博士 2015 年 2 月 10 日に米国医学研究所より、 「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群を越えて:疾患の再 定義」と題する報告書が発表され、それに対してイギリス ME(筋痛性脳脊髄炎)協会顧問医師のチ ャールズ・シェパード博士が、2 月 11 日にコメントを発表しました。当法人ではシェパード博 士より、コメントを翻訳する許可を得ております。翻訳は NPO 法人「筋痛性脳脊髄炎の会」理事長 の篠原三恵子が行い、理事の申 偉秀(東京保険医協会理事)が医学監修致しました。
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