■第1章 こんな「堺」を目指したい 1.ものの始まり何でも堺、「歴史と文化」の街・堺 (1)歴史、文化財産の豊かな街・堺 堺には、5 世紀頃に築造されたとされる仁徳陵を始めとする百舌鳥古墳群(現存 47 基)や日本最大の須恵器生産 地である泉北陶邑(すえむら)があります。中世の堺は、南蛮貿易で栄え、会合衆が活躍しました。「自由都市・堺」 といわれ、今も環濠が残っています。茶道を確立した千利休もこの時代の堺で生まれ、活躍しました。 堺は、豊かな歴史、文化を肌で感じられる街です。 (2)優れたものづくり産業、「匠」の集積地・堺 古代の陶邑や中世の鉄砲鍛冶の時代から、堺は優れた技能、技術が集積された街でした。今も、刃物、線香、昆 布、自転車など伝統地場産業が息づき、優れた技術力をもった多くの中小ものづくり産業が集積しています。 堺は、「匠」の技が伝承され、「匠」が育てられる街です。 (3)地域コミュニティの継承される街・堺 堺は、大阪市に隣接する街ですが、ふとん太鼓やだんじりに象徴されるように、昔ながらの地域コミュニティが多く 継承されています。その意味では泉州や南河内と共通した文化をもつ、大阪南部地域の拠点です。 堺は、毎年秋には、平穏と豊穣を祈る伝統的な祭りで溢れる街です。 (4)進取の街・堺 「ものの始まり何でも堺」といわれています。線香、三味線、金魚等々。そして陸海空の交通でも、堺から始まった ものが多いのです。日本で初めての民間出資の灯台(1877 年)、日本で初めての私鉄(1885 年)、民間飛行場 (1922 年)などです。 堺の先人たちの特性は、リスクを恐れず、時代の流れに先駆ける「進取の気性」と、これを実行する「民の力」でし た。 堺は、単なる大阪のベッドタウンではありません。大和川を渡ると、大都市・大阪とは異なる風土を感じます。堺の 街を、豊かな歴史と文化に根差しながらも、先進的な魅力ある街並と景観、人の賑わいと安心がある街にしてゆき たいものです。 2.環境にやさしい「潤い」の街・堺 (1)都市農業の盛んな街・堺 堺は、大阪府でもっとも都市農業が盛んな地域です。堺市は、大阪府で耕作地がもっとも広く、水稲や野菜などの 主要生産地です。大消費地・大阪市に隣接していることもあり、地産地消に優れた地域です。 堺の街中を走るトラムの駅に隣接して「道の駅」を設けたらどうでしょうか。地場の新鮮な農産品や刃物、線香な どの物産品を求めて、地元の消費者や観光客で賑わうことでしょう。 6 (2)緑地、水辺空間の豊かな街・堺 堺には大きな都市公園も多く、農地、御陵、山林など、大阪市内に比べ、多くの緑地空間があります。また、西側 は大阪湾ベイエリアに面し、大和川、石津川、内川・土居川などの河川、ため池など、多くの水辺空間に恵まれてい ます。 人口減少社会、高齢社会にあっては、こうした貴重な緑地、水辺空間をできる限り守らなければいけません。 大和川、石津川では保全活動が盛んです。近い将来、多くのアユが遡上し、川面をいろんな水鳥が遊ぶ風景も、 決して夢ではないでしょう。 旧環濠の運河(内川・土居川)では今も NPO による観光船が運航していますが、都市化の中で埋められた運河も できる限り復元したいものです。 堺の臨海には、J グリーン堺などとともに、人口砂浜や海釣り公園も整備されていますが、トラムの終着駅とする ことにより、一層の賑わいがもたらされます。 豊かな緑地と水辺空間の傍を走るトラム、市街地の芝生の上を走るトラムは、とても魅力的な景観となるでしょう。 (3)環境モデル都市・堺 2009 年 1 月、堺市は環境モデル都市に政府から指定されました。大阪府で唯一の環境モデル都市です。既存の 緑地と水辺の保全を図るのはもとより、産業、交通、生活などのあらゆる部門で、CO2 排出の削減に努めてゆかね ばなりません。産業や生活部門における省エネの促進、自然エネの活用とともに、交通部門においても、過度な自 動車利用の依存から脱却しなければなりません。 堺市は、仕事や生活の中で、自動車利用の依存率が大阪府の他市に比べ非常に高くなっています。その理由は、 堺市域内での東西公共交通の脆弱さにあると考えられます。 過度な車社会からの脱却のためには、環境負荷が小さく、かつ利便性の高い、トラムによる東西公共交通の整備 が不可欠です。 3.人と人とが行き交う「賑わい」の街・堺 (1)交通の結節点・堺 堺は、古代から海陸の十字路となっていました。日本最古の国道といわれる竹内街道を始め、東西南北に五つ の旧街道(竹内、長尾、紀州、熊野、東高野の五街道)が交差し、堺旧港にも連絡していました。 そして現代でも、堺は、他市からの交通は、きわめて利便性の高い恵まれた地域となっています。例えば、航空 は、関西国際空港、伊丹空港に近く、海上交通も、大阪湾の基幹港湾に近接しています。鉄道は、南海本線、南海 高野線、JR 線、地下鉄御堂筋線、そして阪堺電鉄と、南北に 5 本の鉄道が走っています。 また高規格道路も、湾岸線、堺線、近畿道と南北に走るとともに、2018 年には三宝と松原を結ぶ東西自動車道の 大和川線が供用開始となります。これは、湾岸線、近畿道と結ばれるだけでなく、西名阪道とも直結することになり、 物流の効率化や都心での渋滞解消、環境負荷の軽減に画期的な整備になります。 このように堺は、交通のターミナルとして域外との交通はきわめて利便性の高い立地となっていますが、これが必 ずしも堺市内の活性化につながっていません。その理由は、域内の公共交通とのシームレスな連結に欠けるから です。堺を単に通過点とするのでなく、堺市内に多くの人を呼び寄せるためにも、域内での利便性ある公共交通の 整備が必要です。 7 (2)観光、スポーツで賑わう街・堺 堺には、世界文化遺産を目指す百舌鳥古墳群を始め、歴史ある神社仏閣など数多くの歴史文化財産があります。 また、刃物や線香などの優れた地場産業や最先端の環境産業も立地しています。堺域外から多くの観光客を呼び 寄せる魅力は充分にあります。 また、2010 年に開設された J グリーン堺は、2012 年度には年間利用者数が 64 万人にのぼり、わが国のサッカー の一大拠点となりつつあります。サッカーだけでなく、野球やグランドゴルフなど、子どもから高齢者まで、身近にス ポーツを楽しめる街にしたいものです。 こうした観光やスポーツによる交流をより盛んにするため、堺市内における公共交通の利便性を高めてゆく必要 があります。大阪に向かう南北の鉄道には事欠きませんが、堺域内を東西に結ぶ公共交通はきわめて脆弱です。 観光やスポーツ交流を拡大するためにも、利便性の高いトラムによる東西公共交通の整備が望まれます。百舌鳥 古墳群の間を走るトラムなんて、素敵だと思いませんか。 (3)コンパクトシティ・堺 堺市は、明治 22 年 4 月 1 日市制施行後、明治 27 年の第 1 次合併に始まり、14 次にわたり隣接の 22 町村を編 入することで、現在の市域が形成されてきました。そのため、堺市内には、多くの大小の市街地がありますが、市 全体のまちづくりの一体性、計画性には欠けるところがあります。 人口減少社会でのまちづくりの原則は、郊外での新たな開発は行わず、既存の社会資本ストックを有効に活用す ることです。既存の都市基盤をできるだけ活用しながら、中心市街地をリニューアルすることが、堺市全体の一体 性を確保するために不可欠です。 とくに、堺駅と堺東駅とを結ぶ大小路周辺の中心市街地は、政令指定都市・堺市の玄関口であり、活性化に向け た取り組みが急務です。 例えば、阪堺電鉄は天王寺と浜寺公園を結ぶ大阪で唯一の路面電車で、堺のシンボルの一つです。現在、堺の 中心市街地でもある大道筋を南北に走っていますが、この路線の大和川以南は恒常的な赤字となっており、廃線 の危機に迫られています。中心市街地に人を呼び込むとともに、大和川以南の阪堺線を自立させるためにも、堺駅 と堺東駅を結んで東西を走るトラムとの連結が望まれます。 4.人にやさしい「クールシティ SAKAI」を (1)人にやさしい交通システムを 堺市にとっても、少子高齢化は避けて通れない課題です。 まちづくりにあたっても、子ども、高齢者、障がい者の人が、安心して生活できる街を作ってゆかねばなりません。 バリアフリーのまちづくりはこれまで以上に進めてゆく必要がありますが、それは、駅、道路や公共施設などのバリ アフリー化だけでなく、そこに至るまでの移動の交通システムの容易性、利便性が重要です。 高齢社会では自動車での移動が困難な交通弱者が増えてきます。車を利用しなくても、街中の病院、文化施設、 商店、飲食店などに容易に移動できる「歩いて暮らせるまちづくり」を目指してゆかねばなりません。妊婦さんや子 育て中のお母さんにもやさしい交通システムでありたいですね。 トラムによる公共交通の整備は、子ども、高齢者、障がい者などに優しい、暮らしを支える移動手段となります。そ れは、観光などでの来堺者にもきっとやさしいまちづくりです。 8 (2)「クールシティ SAKAI」を目指して 堺市は、大和川を挟んで大都市・大阪市に隣接しています。その意味では、他の県庁所在地の政令指定都市と は異なります。大阪市という大きな経済市場に隣接する条件を最大限に活用しながら、堺市独自のまちづくりを進 めてゆかねばなりません。 堺の先人たちが築いてきた歴史、文化、伝統を大切にしながら、大阪市など他の都市には見られない、徹底した 「人」と「環境」にやさしいまちづくりを推進することだと考えます。そこには、必ず「賑わい」と「活力」も伴ってきます。 今こそ、人と環境にやさしい東西公共交通システムである LRT の整備を本格的に推進すべきと私たちは考えま す。 9
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